第一話 伝承の始まり
初投稿です。よろしくお願いします。
白犬神伝承。そんな物が俺、伏島優が住む町、白水市にはあった。その内容は、伝承の名前にもなっている白犬様が200年に一度この街に住む人に心力という力が宿るというものだ。
今年はその心力が白犬様から授けられる年のようで、市が町おこしの一環として様々な活動をしている。
もっとも……200年前からの伝承を信じてる人なんていないし、俺も信じていなかった。信じていなかったのだが……。
(それで? いつになったらお前は出ていってくれるんだ?)
学校に着くと、俺の魂の中に住み着いたという男、ナナシに心の中で問いかける。
(言っただろ? お前には協力してもらうって。 出ていくつもりは無い)
(なんでだよ……。俺はこんなこと関わりたくないってのに)
思わずため息をつき、なんとかならないかと考える。そう、このナナシこそが俺が全く信じていなかった白犬神伝承を信じるハメになったその原因であり、今の俺の一番の悩みの種だった。
「んん……?」
まだ日が出ておらず、真っ暗な部屋の中。俺はぼんやりとした目を擦りながら起き上がる。
普段はこんなに早くに起きることはないんだけどな……。俺はそんなことを考えながら二度寝をしようと目を閉じると、頭の中に声が響く。
(おい、お前、寝ようとするんじゃない)
「んあ?」
その聞き覚えの無い声に思わず間抜けな声を上げる。俺は一人暮らしだ。他人の声が聞こえるはずが無い。俺は思わず飛び上がり、周りを見回す。
「……ん〜?」
しかしやはり周りには誰も居ない。勘違いだったか? と首をかしげていると……。
(周りを見ても何も無いぞ。俺はお前の魂の中にいるからな)
再び俺の頭の中で声が響く。
「魂? っていうか誰?」
(ん? そういえば自己紹介がまだだったな。俺はナナシ。200年前の白犬神伝承その生き残りだ)
「……」
(どうした? 返事が無いとこちらとしても何を話せば良いのかわからないぞ)
「はぁ〜!?」
ナナシと名乗る声の話を聞いて俺は思わず声を上げてしまう。200年前? 白犬神伝承の生き残り? っていうかなんで俺なんかに?
(驚くのも無理はないがこっちにも事情があるんだ。要件はたった一つ。お前には俺の協力をしてほしい)
俺が驚いている間にもナナシと名乗る声は話を続ける。
「は? 協力?」
(そうだ。お前も知ってるだろ? これから、この町に住んでる人間には心力が授けられる。そいつらの暴走を止める。それが俺の目的だ。そして、お前にもそれを協力してもらう)
「なんで俺が協力しなきゃいけないんだよ。俺はそんな面倒くさそうなことに関わりたくない。他をあたってくれ」
(悪いが俺はお前を諦めるつもりは無い。こっちにも事情があるからな)
ナナシは俺食い下がってくる。なんでだよ……。諦めろよ……。
(とにかく、俺は何がなんでもお前に協力してもらうからな。よろしく頼む)
「おい! 何勝手に決めてるんだ! 俺は協力しないからな!」
(フン。どうだかな。お前の魂を見ればお人好しなのが分かる。きっとお前は俺に協力するぞ)
ナナシは余裕そうに言う。その態度にイラッとした俺は
「よーし分かった! そんなこと言うなら絶対に協力しねぇ!」
と気持ちを決めたのだった。
「あ、もう時間だね。それじゃあ委員長さん号令よろしく〜」
「起立、気を付け、礼」
「「「ありがとうございました」」」
最後の授業が終わり、帰りの支度を始める。ナナシは授業を受けたことが無いらしく
(授業というのがどんなものなのか興味がある)
と言って一時間目が始まってからは静かになってしまった。
(おい、ナナシ。もう授業は終わっただろ。質問があるんだ。いい加減色々教えてくれ)
ちなみに俺は今の所ナナシから何も教えてもらっていない。というか何も教えてくれない。協力させるというなら、それ相応の態度と言うものがあると思うんだけどな……。
(なんだ? 協力する気になったのか?)
(いや、けどちょっとくらい教えてくれても良いじゃないか)
(ダメだ。協力する気が無いなら教えん。協力すると決めた時また話しかけろ)
取り付く島もなくそう言うと、ナナシは黙ってしまう。……ったく、頼み事をするならもう少ししおらしくできないのかね……。
しばらくして、帰りの支度が終わった時――
「優くーん、帰りましょうー」
とクラスの外からおっとりとした声と共に幼なじみの悠香がひょっこりと顔を見せる。
「ああ、今行くよ」
(誰だ? その女)
俺が返事をすると頭の中でそんなナナシの声が聞こえてくる。
(幼なじみだよ。一ノ瀬悠香。昔っから親が出張とかで家にいなかったときは悠果の家によく預けられてたんだ)
答え終わると同時に悠果に近づく。
「悪い、少し遅れた」
「大丈夫ですよ。今日は予定もないですし」
といつものように肩を並べて帰る。
(なんだ。付き合ってるのか?)
と、ナナシがなにやら興味深そうに聞いてくる。
(幼なじみって言っただろ。昔はよく助けてもらったし、大事な奴ではあるけどな)
(何だ、つまらん)
そう端的に返して、ナナシは静かになる。……つまらんってなんだ。つまらんって。
「どうかしたんですか? 優くん?」
そんなことを考えていると、悠香が聞いてくる。その顔はどこか心配そうだ。
「どうかしたって何が?」
「なんだか、上の空だったので」
多分、ナナシと話してたことだろう。長年の付き合いなだけあって、悠香はこういうことにすぐ気がついてくる。
「いつも通りだよ。心配されるようなことは特にない」
「そうですか? ならいいんですけど。でも、なにか困ったことがあったらいつでも家を頼ってくださいね? お母さんたちも歓迎してくれるでしょうから」
「あいあい」
悠香とは、俗に言う家族ぐるみの関係だ。両親が俺の面倒を見れない時は、大抵悠香の家にお世話になった。だが……
「結構気ぃ使うんだよな……。お前ん家に行くの」
「ん? そうなんですか?」
「そりゃなぁ……。昔はそうでもなかったけど、今ご飯とかご馳走になると申し訳ない」
「そういうもんなんですかねぇ」
悠香はしみじみと呟いた。
そんな風にいつもどおりの会話をしながら歩いていると、俺の家につく。
「で? 今日はうちに来るのか?」
「はい!」
悠香は時々、学校が終わってからこのように直接俺の家に遊びに来る。本人曰く、家よりもこっちの方がとやかく言われなくて楽らしい。
「おじゃましま〜す!」
ドアを開けると、悠香が先に俺の部屋に入っていく。そして、荷物を俺の部屋に置くと
「ふぃ〜疲れた〜。スグ兄もさぁ〜私のカバン持ってくれても良いんじゃない?」
と、いつのもの悠香に切り替わった。