さなぎの君
僕は、彼女に恋をした。彼女の魅力に、みんなは気づかないけれど。
図書室の窓際で、彼女は光り輝いて見えた。
それが、高校で会った彼女の印象。私は、内気で自信がなく、告白等出来るはずがなかった。出来る勇気があれば、今現在独り身はない。後ろに束ねた髪、少々度が強い眼鏡、首筋。
私は、彼女が好きだった。初恋であり、私が忘れられない存在。男というのは、初恋が忘れられない生き物なのだ。彼女の面影をどこかで追い、誰かに重ね合わせている。
初恋は、明日の同級会で終わらせる。私は、彼女に好きだったと告白し、この甘美な呪縛から抜けなくてはならない。手に入らない幻想を、追うのはもうご免なのだ。
同窓会当日、私は困惑していた。
変わっていたのだ。
私が知る彼女では無かった。
髪は茶髪になり、あの綺麗な黒髪では無かった。
掛けていた眼鏡は、もうそこには無かった。
メイクを覚え、服装は垢抜け、そこにある日の彼女の姿はない。
綺麗だった。
いや、綺麗だと思ってしまったのだ。
本を読むのが好きで、少し内気で、でも芯を持っている強い彼女。私は、そんな彼女が好きだった。それは、不変であるというのが、心の常識だった。
私は、彼女を思わず二度見をしてしまった。
雰囲気が違った。彼女の内から出る自信が、表面に浮き出していた。
垢抜けた彼女。
私が知っている彼女ではない。
私は、彼女に話しかける事が中々出来なかった。同級会では、酒も出る。勢いづけていこうとは、思ったが、心理的影響か全く酔いが回らない。恐ろしく意識がはっきりして、弾みをつける所まではない。
足が根を張っている。
「お前、愛ちゃんに話しかけねぇのか? 」
そんな私を心配したのか、星野が話しかけてきた、曰く、ジッと彼女を見る私を心配したらしい。彼によると、私が彼女が好きだったというのは皆が知ることで、筒抜けだった……らしい。
「腹決めて行けよ。あの子も、気づいているよ」
「いや、そんなこと言われても」
「いい加減、向き合えよ」
そう言って、豊は私の背中を叩き、彼女の元に向かわせた。
その後は、正直言うとはっきりとは覚えていない。急に動き出して、酒が回ったのかも知れない。発音する言葉は、言語の意味を持たず、口の中に何度もとどまった。
だが、この日。私は、変態を遂げたのだ。
ただのクラスメイトから、恋人に。