どうしてこんなに 4
ユージーンが、剣を構えている。
ジークやトマスに稽古をつけているのは見たことがあるが、実際に戦っている姿を見るのは初めてだ。
動きも素早くて、恰好いいと、思う。
そんな場合でもないのに。
ルーナは、自分に防御魔術をかけていた。
ユージーンの言わんとしたことは、わかっている。
レオナルドがルーナを狙った場合、ユージーンは、こちらに意識を向けなければならない。
結果、ユージーンに隙ができてしまうのだ。
(せめて足手まといには、なりたくないもんね……)
レオナルドは、物理的な攻撃より、魔術での攻撃に重きを置いている。
そのほうが効果的だと考えているのだろう。
距離があっても、魔術なら攻撃ができる。
が、ユージーンは、剣先がとどくところまで、近接する必要があった。
確かに、不利には違いない。
さりとて、魔術は万能ではないのだ。
ルーナの使っている防御魔術も、魔術攻撃を防ぐことはできるが、物理での攻撃を防ぐことはできなかった。
つまり、防御魔術をかけていようが、手で殴られれば怪我をする、ということ。
物理攻撃を防ぐ防御魔術は、かなりの使い手でなければ扱えない。
しかも、その魔術を使用していると、今度は魔術防御ができなくなる。
両方を同時に可能にするのは、大公の「絶対防御」と呼ばれる魔術だけなのだ。
(レニーは物理攻撃を防ぐ魔術は使えないのね。だから、距離を取ってるんだわ)
そして、レオナルドは、戦いにくそうにしている。
ユージーンが来る前にはあった余裕が失われているのも、感じとれた。
(ジーンって……強いんだ……)
レオナルドが、魔術発動のため動作に入った瞬間、ユージーンは、素早く間合いを詰めている。
そのせいでレオナルドは、距離を取ろうとして、その動作を中断せざるを得なくなっていた。
ユージーンは、まだ1度もレオナルドに攻撃させていない。
「お前は、真面目に戦っているのか? 俺は、決闘を申し込んだのだぞ?」
ふ…と、ユージーンが足を止める。
剣も、やや下げ気味だ。
(な、なんで? 止まったら攻撃されちゃうじゃない!)
信じていても、焦るものは焦る。
心配もするし、不安でもあった。
ユージーンが怪我をするところなんて見たことがない。
執務室に座り、仕事をしている姿が、ルーナにとっての日常なのだ。
ユージーンは、ボタンつけだって上手だし。
針で手を刺し、血を流したりはしなかった。
すいすいと、ボタンを縫い付ける姿を、何度、見てきただろう。
だから、夜会でメレディスに引っ叩かれただけで、ルーナは心配したのだ。
「お前と、追いかけごっこを楽しむために来た、と思っているのではなかろうな。それほど暇はしておらんのだ。攻撃し易くしてやるから、とっとと魔術を使え」
その言葉に、ルーナは「やめて」と叫びたくなる。
が、気を散らせてはいけないと思い、我慢した。
「僕は、あなたが疲れるのを待っていただけですよ。ですが、そうですね。時間をかけても、結果は変わりませんから」
さっきの鏨武器が、今度は、何本もユージーンに向かって飛んで行く。
キンキンっと金属音がした。
「やはり、金属系の武器は弾かれますね」
「魔術で生成しようと、金属は金属だからな」
質量があるものは、剣などで弾くことができる。
ルーナも、魔術で、できることと、できないことくらいは知っていた。
ほとんどは、ジークやトマスの受け売りだけれど、それはともかく。
「では、趣向を変えましょうか」
ぶわっと、風が巻き起こる。
防御魔術をかけていなければ、それこそ「切り刻まれ」ていたに違いない。
(ジーンっ!)
ユージーンの姿を、必死で、目で追った。
ユージーンは、魔術をかけていないのだ。
風系統の魔術は、遠距離からでも対象を切り裂くことができる。
が、しかし。
「なるほどな。お前は、攻撃魔術の同時発動はできんのか」
つまらない、とでも言いたげな口調。
ユージーンは、かすり傷ひとつなく、立っていた。
逆に、レオナルドの顔は、醜く歪んでいる。
「1種類でも、致命傷になることはあるでしょう」
今度は、室内が、ぐっと熱くなった。
レオナルドが、炎系統の魔術を使ったのだ。
「ということは、だ。氷結系や雷系統は、不得手か。それに、光の矢を放つこともできんのだろ? 上級魔術師であれば、得手不得手のない者もいるそうだがな」
ユージーンは、呑気に講釈を垂れている。
すぐ近くで火柱が上がっているのに、気にした様子もない。
どうやって避けたのか、ルーナには見えなかったが、無事であるならば、それでよかった。
「では、そろそろ終わらせるとしよう」
「そう簡単だと思われると、さすがに腹立たしいね」
レイモンドの口調が崩れていた。
瞬間、ユージーンの手元で火が上がる。
「おい! 熱いではないか!」
ひゅんっと、ユージーンが、レイピアを放り出した。
右手の袖口に、小さな火がついている。
その熱に、レイピアを握っていられなかったのだろう。
「終わりにするのは、僕だよ」
レイモンドが、にいっと笑った。
その顔が、すぐに引き攣る。
あっという間に、ユージーンが間合いを詰めていたからだ。
「いいや、俺だ」
バッと、右手を頭上に掲げる。
その手に、レイピアが落ちてきた。
「な……っ……」
ルーナには、なにが起きたのか、わからない。
速かったし、ユージーンの体越しになっていたし。
ドンッ!!
大きな音を立て、レイモンドの体が吹っ飛んでいた。
壁にぶつかって、ずるりと滑り落ちる。
そのまま、レイモンドは動かなかった。
口からは、血があふれている。
「ジーンっ!!」
地下で、周囲は薄暗いのに、ユージーンの姿は、はっきり見える。
どうして、こんなにも。
思うくらい、ユージーンのことが大好きだった。
その大好きな人に、ルーナは駆け寄る。
早く、ぎゅっとして、ぎゅっとされたかったのだ。
くるりと、ユージーンが振り向く。
そして、言った。
「よいか、ルーナ。男の前で、軽々しく服を脱いではいかんぞ」
意味が、わからなかった。




