表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/80

それでも嫉妬はするのです 3

 レオナルドは、非常に嫌な気分になっている。

 が、同時に、ほんのわずか良い気分でもあった。

 

 これを機に、生まれながらに定められている道を、変えられるかもしれない。

 

 そんな期待があったからだ。

 でなければ、顔を合わせたくもない奴らに、会いに来てはいなかった。

 キャラックの屋敷に、レオナルドは足を運んでいる。

 彼らは、最近、とみに屋敷に引きこもっていた。

 

「僕は、やめておけと言ったはずだ」

「レニー……きみの忠告を、聞いておくべきだったと悔やんでいる」

 

 ウォーレンの(すが)るような目が鬱陶しく感じられる。

 今さら悔やんだところで、してしまったことは取り消せない。

 彼らは舞踏会で、やらかしてしまったのだ。

 

 あの赤毛に思い知らせる。

 

 その意気込みもどこへやら。

 2人は、すっかりしょげかえっている。

 思い知らせるどころか、思い知らされていた。

 

 ルーナティアーナ・ウィリュアートンの後ろにはユージーン・ガルベリーがいる。

 

 レオナルドは知っていて黙っていたのだけれど、それはともかく。

 舞踏会で彼らは、あの型にはまることのない宰相に、こてんぱんにされている。

 しかも、現場を押さえられたというのだから、始末に負えない。

 2人は、言い逃れすらできない状況なのだ。

 

「コート、きみが、剣に自信があるのは知っていたけれど、まさか、宰相様に刃を向けるとはね」

「周りが暗くて……気づかなかったんだ……」

 

 しょぼくれて言われても、同情する気にはなれなかった。

 剣を抜くのなら、せめて正々堂々と勝負を挑めば良かったのだ。

 おそらく、コンラッドは決闘を申し込んですらいない。

 もし、申し込んでいさえすれば、相手が誰か、その時点で気づけている。

 礼儀として、戦う前には、互いに名乗りを上げるのだから。

 

「それで、僕にどうしろって? 言っちゃあなんだけど、きみらは、かなりヤバいことになっているのだよ? 僕ごときが、どうにかできるとは思えないね」

「レニー、頼む。そう言わずに……なにかいい案を考えてくれないか」

「お前は頭がいい。なにか、あるだろう?」

 

 ウォーレンもコンラッドも、宰相に殺されていてほしかった。

 レオナルドは、常に2人の死を願っている。

 彼の出自を卑下させるかのような、ウォーレンの存在、それに追随するコンラッド、ともに煩わしくて苛々するのだ。

 

「この先、きみらが(とが)められないようにしてほしいのか?」

 

 正直、あの宰相が2人を罰するとは思えずにいる。

 覚えてはいるだろうが、気にかけているはずがなかった。

 すでに半月以上経っているのに、キャラックの屋敷に近衛騎士が乗り込んでくる気配はない。

 そんなことにも気づかない、愚か者たちなのだ。

 

 さりとて、レオナルドには目的がある。

 ウォーレンの失態を、自らの好機と考えていた。

 

 実のところ、宰相が彼らを追う、その後ろをレオナルドも追いかけている。

 近づくのは危険と判断し、離れた場所から様子を窺っていたのだ。

 2人が謝罪しながら逃げて行く姿は、とても滑稽で、だからこそ、なおさらに、嘲らずにはいられなかった。

 宰相の呼び止める声が聞こえたあと、少し静かになって。

 

(彼女は、とても可愛かったな)

 

 ルーナが泣き出した意味はわかる。

 安心して、恐怖から脱し、気が緩んだに違いない。

 そのあと、どういう理由かはわからないが宰相がルーナの体を持ち上げていた。

 

 月明りに浮かび上がったルーナの姿。

 

 にっこりした表情がうっすらと見え、レオナルドは胸を高鳴らせたのだ。

 ルーナは、ものすごく好みの女性に成長している。

 あれ以来、ルーナのことが頭から離れなかった。

 

「まぁ、長年つきあってきた仲だ。やるだけのことはやってみるよ」

「ありがとう、レニー!」

「感謝する!」

 

 コンラッドは、いつだって誰にだって礼を言うし、ウォーレンは、困ったことになるたび「感謝」を口にする。

 本心では、ちっとも感謝なんてしていないと、知っていた。

 いつもなら、絞め殺したくなるのだが、今日は違う。

 レオナルドの心は、いつになく清々しかった。

 

「だが、きみらにもやってもらわなけりゃならないことがある」

「なんでも言ってくれ!」

「私にできることなら、どのようなことでもする」

 

 レオナルドは、できるだけ笑みを浮かべないよう注意をはらう。

 目の前の馬鹿2人が気づくとは思えないが、用心に越したことはない。

 だから、あえて、顔をしかめ、憂鬱そうな表情を作った。

 

「気は進まないが、しかたがない……きみらには、僕に絶縁状を書いてもらいたいのさ。金輪際、自分たちには関わるな、というね」

「どうしてだ、レニー。きみとはずっと……」

「ウォーレン、きみを助けるためだ。わかるだろう?」

 

 わかるはずがない。

 もちろん、わかるなんて、レオナルドだって思ってはいない。

 

「きみらの“仲間”が、信用してもらえると思うかい? 僕が、宰相様の信頼を得るためには、きみらの“仲間”であってはならないのだよ」

「ああ……そんな……レニー……」

「しかたがないじゃないか。宰相様に取り入って、きみらの助命を、嘆願するためだもの」

 

 ウォーレンのことだ。

 己の命より大事なものなどありはしないだろう。

 ましてや、友情など口先だけのもので、そもそも存在していないのだし。

 

 レオナルドにとっても。

 

 案の定、ウォーレンがわざとらしげに、重々しくうなずいた。

 コンラッドも、わざとらしく「沈痛な面持ち」でいる。

 舞台道化師のほうが、よほどマシな演技をする、と思った。

 

「わかったよ、レニー。私のために、きみが、そこまでしてくれるとは……」

「口約束だけではなく、証拠を持参しなければね」

「書類にするってことか?」

「ああ、そうだ、コート。2人の署名入りで作ってくれ」

 

 コンラッドは、そそくさと、書き物机に向かう。

 レオナルドが添削してやらなければならなかったが、ともかく書類はできた。

 2人の署名も入っている。

 

「僕が宰相様にとりなすまで、しばらく、きみらは身を隠しておいたほうがいい」

「どのくらいになる?」

 

 ウォーレンの言葉に、レオナルドは首を傾けた。

 具体的な期間を示したほうがいいだろうか、と考えたのだ。

 しばしの間のあと、2人に「どのくらい」を告げる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ