それでも嫉妬はするのです 3
レオナルドは、非常に嫌な気分になっている。
が、同時に、ほんのわずか良い気分でもあった。
これを機に、生まれながらに定められている道を、変えられるかもしれない。
そんな期待があったからだ。
でなければ、顔を合わせたくもない奴らに、会いに来てはいなかった。
キャラックの屋敷に、レオナルドは足を運んでいる。
彼らは、最近、とみに屋敷に引きこもっていた。
「僕は、やめておけと言ったはずだ」
「レニー……きみの忠告を、聞いておくべきだったと悔やんでいる」
ウォーレンの縋るような目が鬱陶しく感じられる。
今さら悔やんだところで、してしまったことは取り消せない。
彼らは舞踏会で、やらかしてしまったのだ。
あの赤毛に思い知らせる。
その意気込みもどこへやら。
2人は、すっかりしょげかえっている。
思い知らせるどころか、思い知らされていた。
ルーナティアーナ・ウィリュアートンの後ろにはユージーン・ガルベリーがいる。
レオナルドは知っていて黙っていたのだけれど、それはともかく。
舞踏会で彼らは、あの型にはまることのない宰相に、こてんぱんにされている。
しかも、現場を押さえられたというのだから、始末に負えない。
2人は、言い逃れすらできない状況なのだ。
「コート、きみが、剣に自信があるのは知っていたけれど、まさか、宰相様に刃を向けるとはね」
「周りが暗くて……気づかなかったんだ……」
しょぼくれて言われても、同情する気にはなれなかった。
剣を抜くのなら、せめて正々堂々と勝負を挑めば良かったのだ。
おそらく、コンラッドは決闘を申し込んですらいない。
もし、申し込んでいさえすれば、相手が誰か、その時点で気づけている。
礼儀として、戦う前には、互いに名乗りを上げるのだから。
「それで、僕にどうしろって? 言っちゃあなんだけど、きみらは、かなりヤバいことになっているのだよ? 僕ごときが、どうにかできるとは思えないね」
「レニー、頼む。そう言わずに……なにかいい案を考えてくれないか」
「お前は頭がいい。なにか、あるだろう?」
ウォーレンもコンラッドも、宰相に殺されていてほしかった。
レオナルドは、常に2人の死を願っている。
彼の出自を卑下させるかのような、ウォーレンの存在、それに追随するコンラッド、ともに煩わしくて苛々するのだ。
「この先、きみらが咎められないようにしてほしいのか?」
正直、あの宰相が2人を罰するとは思えずにいる。
覚えてはいるだろうが、気にかけているはずがなかった。
すでに半月以上経っているのに、キャラックの屋敷に近衛騎士が乗り込んでくる気配はない。
そんなことにも気づかない、愚か者たちなのだ。
さりとて、レオナルドには目的がある。
ウォーレンの失態を、自らの好機と考えていた。
実のところ、宰相が彼らを追う、その後ろをレオナルドも追いかけている。
近づくのは危険と判断し、離れた場所から様子を窺っていたのだ。
2人が謝罪しながら逃げて行く姿は、とても滑稽で、だからこそ、なおさらに、嘲らずにはいられなかった。
宰相の呼び止める声が聞こえたあと、少し静かになって。
(彼女は、とても可愛かったな)
ルーナが泣き出した意味はわかる。
安心して、恐怖から脱し、気が緩んだに違いない。
そのあと、どういう理由かはわからないが宰相がルーナの体を持ち上げていた。
月明りに浮かび上がったルーナの姿。
にっこりした表情がうっすらと見え、レオナルドは胸を高鳴らせたのだ。
ルーナは、ものすごく好みの女性に成長している。
あれ以来、ルーナのことが頭から離れなかった。
「まぁ、長年つきあってきた仲だ。やるだけのことはやってみるよ」
「ありがとう、レニー!」
「感謝する!」
コンラッドは、いつだって誰にだって礼を言うし、ウォーレンは、困ったことになるたび「感謝」を口にする。
本心では、ちっとも感謝なんてしていないと、知っていた。
いつもなら、絞め殺したくなるのだが、今日は違う。
レオナルドの心は、いつになく清々しかった。
「だが、きみらにもやってもらわなけりゃならないことがある」
「なんでも言ってくれ!」
「私にできることなら、どのようなことでもする」
レオナルドは、できるだけ笑みを浮かべないよう注意をはらう。
目の前の馬鹿2人が気づくとは思えないが、用心に越したことはない。
だから、あえて、顔をしかめ、憂鬱そうな表情を作った。
「気は進まないが、しかたがない……きみらには、僕に絶縁状を書いてもらいたいのさ。金輪際、自分たちには関わるな、というね」
「どうしてだ、レニー。きみとはずっと……」
「ウォーレン、きみを助けるためだ。わかるだろう?」
わかるはずがない。
もちろん、わかるなんて、レオナルドだって思ってはいない。
「きみらの“仲間”が、信用してもらえると思うかい? 僕が、宰相様の信頼を得るためには、きみらの“仲間”であってはならないのだよ」
「ああ……そんな……レニー……」
「しかたがないじゃないか。宰相様に取り入って、きみらの助命を、嘆願するためだもの」
ウォーレンのことだ。
己の命より大事なものなどありはしないだろう。
ましてや、友情など口先だけのもので、そもそも存在していないのだし。
レオナルドにとっても。
案の定、ウォーレンがわざとらしげに、重々しくうなずいた。
コンラッドも、わざとらしく「沈痛な面持ち」でいる。
舞台道化師のほうが、よほどマシな演技をする、と思った。
「わかったよ、レニー。私のために、きみが、そこまでしてくれるとは……」
「口約束だけではなく、証拠を持参しなければね」
「書類にするってことか?」
「ああ、そうだ、コート。2人の署名入りで作ってくれ」
コンラッドは、そそくさと、書き物机に向かう。
レオナルドが添削してやらなければならなかったが、ともかく書類はできた。
2人の署名も入っている。
「僕が宰相様にとりなすまで、しばらく、きみらは身を隠しておいたほうがいい」
「どのくらいになる?」
ウォーレンの言葉に、レオナルドは首を傾けた。
具体的な期間を示したほうがいいだろうか、と考えたのだ。
しばしの間のあと、2人に「どのくらい」を告げる。




