表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/80

それでも嫉妬はするのです 2

 

「しかしな、ルーナ」

「嫌」

「ルーナ」

「嫌」

 

 ルーナが、首を横に振る。

 ユージーンにしがみついたままで、顔を上げようとしない。

 

「お前は、大きくなったのだろ? 大人になったのではないのか?」

「嫌」

 

 どうあっても、降りる気はないようだ。

 ルーナを抱きかかえたまま、ユージーンは歩いている。

 王宮内で夜会は開かれていたが、ユージーンの私室まで、少し距離があった。

 

「俺は、かまわんがな」

 

 そう、ルーナを降ろそうとしたのは、なにもユージーンが疲れるからではない。

 剣や武術の鍛錬を怠っていないので、体もなまっていないのだ。

 それに、ルーナ本人にも言ったが、彼女は軽い。

 かかえて歩いたからといって、なにほどのこともなかった。

 とはいえ。

 

 目立つ。

 

 夜会服姿で、抱きかかえられているルーナは目立つのだ。

 もちろんユージーンは「自分も」目立っているなんて思っていない。

 ルーナだけが注目されていると思っている。

 おおむねユージーンの意識は、自分を中心に物事を判断していた。

 そのため、自分自身については、(うと)いところがある。

 

(足が痛いと言っているのだ。無理に歩かせることもあるまい)

 

 目立つのをルーナが嫌がるだろうと思い、声をかけただけだ。

 気にしていないのなら、このままでもかまわない。

 そういえば、と思う。

 

(夜会には、良い記憶がなかろうな)

 

 ラシュビー主催の夜会では、キャラックに襲われ、今夜も嫌な思いをしている。

 そもそも、6歳になる少し前、キャラックに髪を引っ張られたパーティーだって夜会と言えば夜会だ。

 ルーナと夜会は、相性が悪い。

 夜会に出たがらないのは、そのせいかもしれないと思えた。

 

 ユージーンは、ルーナを「抱っこ」で、スタスタと歩く。

 廊下に立ち並んだ近衛騎士たちの視線も気にしない。

 姿の見えない魔術師たちも注目しているのだが、見えていないので、当然、気にもならない。

 あとのことを頼むため、夜会に出席していたトラヴィスとサンジェリナのところにも、この状態で行ったのだ。

 

(トラヴィスは、なぜあのように詫びていたのか……わからん)

 

 サンジェリナも、なにやら申し訳なさそうな顔をしていた。

 が、ユージーンにとっては「いつものこと」だ。

 彼らが、申し訳ながる気持ちがわからずにいる。

 世話を焼いていてもユージーンは他人であり、恋人でもない。

 両親が娘の「我儘」を詫びたくなるのは「普通のこと」だが、それはともかく。

 

「部屋に戻ったら、足を()てやる」

 

 ちらっと、ルーナの足先に視線を向けた。

 小さな足だ。

 ヒールの高い真新しい靴は、まだルーナの、その足に馴染んでいない。

 それほど長くいたわけではないが、ずっと痛みを我慢していたのだろう。

 

 私室に着くと、立っていた近衛騎士の1人が扉を開く。

 ユージーンには自然なことなので、礼は言わない。

 室内に入ると、扉が閉められた。

 

「着いたぞ?」

 

 声をかけても、ルーナは無言。

 まだ降りる気にならないらしい。

 

「だが、こうしていては、足を看てやれん」

 

 無言。

 

 しかたなく、そのままソファに座った。

 ルーナは、まだユージーンの首にしがみついている。

 よほど、キースリーの件が(こた)えたに違いない。

 

(ようやく婚姻に前向きになっていたところを、台無しにされたのだ。気が滅入るのもしかたがない)

 

 ルーナは、ちっとも落ち込んでいないのだが、ユージーンは気づかずにいる。

 ただ甘えているだけ、とは思わなかったのだ。

 なにしろルーナは「大人になった」ので。

 

「ともかく、靴は脱いだほうがよい」

 

 抱きかかえたままなので、ルーナの膝の裏に、ユージーンは腕を回していた。

 その腕で、膝を立てさせ、足先を引き寄せる。

 膝裏から腕を抜き、手を伸ばした。

 片手で、ゆっくりと丁寧に靴を脱がせる。

 もう片方の腕は、ルーナの背中を支えているため、使えなかったのだ。

 

「少し、赤くなっているようだ。魔術師を呼んで、治癒を……」

「嫌」

 

 ルーナが、嫌々と首を横に振る。

 ユージーンは(なだ)めるように、ルーナの頭を撫でた。

 

「だが、このままでは痛かろう」

 

 ルーナは、また無言。

 やはり、かなり衝撃を受けているようだ。

 少し落ち着くまで待つことにした。

 

 あんな事態になったのだから、無理もない。

 と、ユージーンは思っている。

 

「俺の調べが甘かったのだ。もっと“念入り”に調査すべきであった」

 

 これだから、人任せにはできない。

 誰もかれも、どこかしら適当なところがあって困る。

 ユージーンの思う「調査」と一般的な「調査」では、詳細さに大きな開きがあるため、納得できないだけなのだけれども。

 

「あのような者を、お前に近づけてしまったのを悔やんでいる」

 

 ルーナが、パッと顔を上げた。

 それから、手を伸ばしてくる。

 注意深くといった様子で、静かにユージーンの頬にふれてきた。

 

「痛い?」

 

 ルーナは、まるで自分が殴られたみたいな顔をしている。

 本当なら、メレディスの手を、颯爽と掴み、止めたかった。

 けれど、間に合わないと判断し、ルーナとの間に、体を割り込ませたのだ。

 結果、殴られた。

 

「いや、俺には痛みの耐性があるのでな。あれしきのことで痛いなどとは思わん」

 

 薪割りや芋の皮剥きや縫い物で負った怪我に比べれば。

 

 ユージーンは、ローエルハイドの屋敷で勤め人をしていた頃、しょっちゅう流血沙汰を起こしていた。

 流血そのものもだが、それよりもユージーンの平然とした態度に、周囲は「ドン引き」だった。

 それくらい、ユージーンは、体の痛みには耐性が、ある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ