表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/80

いつもいつも 4

 ユージーンは、2人が壁際へと移動して行くのを目で追っていた。

 雰囲気は良さそうに見える。

 ルーナも、まずは嫌がっていない様子。

 とはいえ、顔を合わせてすぐなのだ。

 まだ判断できる段階ではない。

 

(だが、不快感がない、というのは良い兆候だ)

 

 不快感や嫌悪感があれば、ルーナは合図を送ってきただろう。

 なにもなかったのは、悪くない印象だったと考えられる。

 また、ユージーンの胸の奥が、ちくりとした。

 大きく溜め息をつく。

 

(いかんな。これでは子離れできんザックのようではないか)

 

 ザックこと、アイザック・ローエルハイドは、ユージーンの前任の宰相だ。

 そして、レティシアの父でもある。

 いい大人だというのに、まるきり子離れできていない。

 ことあるごとに、レティシアを抱きしめて号泣している。

 そのたび、大公に冷たくあしらわれているのだけれど、それはともかく。

 

 ルーナが親離れをするのであれば、自分も子離れする必要があるのだ。

 アイザックのようにはなりたくない。

 絶対に。

 

「む。なんだ、あの娘は」

 

 ホールに入ってきた令嬢の1人が、辺りを見回していた。

 連れを探している様子なのは、見ればわかる。

 けれど、彼女は、たった今、ホールに姿を現したのだ。

 にもかかわらず、エスコート役がいない。

 

 令嬢が夜会に1人で来るなど、ほとんどあり得なかった。

 親しい男性がおらずとも、家族に頼み、その役を務めてもらうのが常識だ。

 1人での夜会出席は、みっともないし、はしたないこととされている。

 

(あの顔……ルーナの社交界デビューの夜会で見たことがある)

 

 2年も前のことだが、顔立ちは大きく変わっていない。

 ユージーンの中に、するするっと記憶が蘇ってきた。

 要不要を問わず、気になることがあると、即座に情報が脳から伝達される。

 

 『解説は、求められた際にすればいいことなのだよ。少しばかり考えてみたまえ。今、それを口にすべきかどうか』

 

 昔、大公に、そんなふうに言われたことがあった。

 脳に伝達された情報を、当時のユージーンは、まんま口に出していたからだ。

 取捨選択などしていなかった。

 さりとて、今も、たいして違わないのだけれども。

 

(今夜は2人で話をさせねばならんというのに、メレディス・アディソンめ、邪魔をしおって)

 

 3人で、というより、メレディスが、なにかジェラードに話しかけている。

 ユージーンからは背中越しになっているため、表情は見えなかった。

 頭の中で、魔術師に集めさせた情報を呼び出す。

 ジェラードとメレディスが懇意であるような内容は見当たらない。

 

 もとより、キースリーとアディソンは、別々の上位貴族に属している。

 こうした場合、互いの上位貴族に配慮して、下位貴族は動くのだ。

 アディソンはラウズワース公爵家に属し、キースリーの属するシャートレーとは折り合いが良くなかった。

 

 ローエルハイドの執事であり、サリーの夫のグレイは、リドレイ伯爵家の者で、リドレイもシャートレーの下位貴族だ。

 そのため、ラウズワースには、いい顔をしないところがある。

 家同士の関係というのは、思いの外、根深い。

 

(しかし、3人で話をするのなら、テラス席でも移れば良いものを)

 

 ルーナは、ずっと立ちっぱなし。

 しかも、なにやら所在なげにしている。

 俄然、イラッとしてきた。

 

(なにをやっているのだ、あの“ぼんくら”は! あれこそ、おたんこなすびではないか!)

 

 鈍間(のろま)、うすのろ、気の利かない出来損ない。

 そう怒鳴ってやりたくなる。

 心の中で、ひそかにユージーンは「ジェラード・キースリー」の項目に、×印をつけていた。

 

 あんなことでは、とてもルーナを幸せにできるとは思えない。

 それでも、選ぶのはルーナなので、ユージーンの勝手で、振り落とせないのだ。

 やめておけ、と言いたくなりはするけれども。

 

「む。いかん!」

 

 ユージーンは、人の波をかき分けながら、3人のほうへと走る。

 メレディスが、剣呑な表情を浮かべ、ルーナを見ていた。

 ルーナのほうは、きょとんとしている。

 理由はともあれ、メレディスはルーナを害すに違いない。

 

「あなたが、ジェリーを誘惑したのね!」

 

 声が聞こえた。

 瞬間、ユージーンは理解する。

 

(魔術師どもめ! 詳細に調べよと申しつけたであろうが!)

 

 ジェラードには、恋人がいたのだ。

 両家の関係から、表立った行動は避けていたのだろう。

 そのため、周囲にも知られてはいない。

 だから、魔術師も見落とした。

 

「ジェリーは私と婚姻を誓い合っているのよ! 私は、何年も待ち続けているのに、横から、かっ(さら)おうなんて……この性悪女ッ!!」

 

 メレディスは、今年で18歳ではなかったか。

 すでに婚姻していてもおかしくない歳だ。

 おそらく、ジェラードは引き伸ばしている。

 メレディスと別れたくはないが、親に申し出る勇気もないというところ。

 

 怒りに任せてだろう、メレディスが手を振り上げた。

 ルーナを、()(ぱた)くつもりだ。

 間に合わない、と判断する。

 

 パンッ!!

 

「きゃっ?!」

 

 悲鳴を上げたのは、ルーナだった。

 が、殴られたのは、ユージーンだ。

 

「ジーンっ!!」

 

 殴られ、横を向いていた顔を、ゆっくりと戻す。

 それから、ルーナを背中に庇った。

 2発目はないと思うが、念のためだ。

 

 ユージーンは、過保護なのである。

 

 殴ったメレディスは、真っ青になっていた。

 自分が誰を引っ叩いたか、わかっているのだ。

 唇も震わせており、言葉も出ないらしい。

 その隣で「おたんこなすび」が、おろおろしている。

 

 ユージーンは、メレディスよりも、むしろ、ジェラードに腹を立てていた。

 恋人がいることを隠し、ルーナを手に入れようと目論んだと、わかっている。

 アディソンとの婚姻より、ウィリュアートンのほうが「利」があるからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ