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いつもいつも 3

 ルーナは、ずいぶんと落ち着かない気分でいる。

 大叔母の着せてくれたドレスが、ものすごく大人びていたからだ。

 淡いピンクが、少しも子供っぽく見えない。

 

 肩紐は、それなりに幅があるが、右肩のみ。

 左肩に肩紐はないため、肌が露出している。

 胸は、谷間どころか、半分しか隠されていない。

 最も高い位置を、ようよう覆っている程度。

 

 そして、その胸の下から腰にかけて、三角形がある。

 総レースで、うっすら肌が透けていた。

 ルーナは、(へそ)が見えていないことを、しっかりと鏡で確認している。

 背中の大きな切れ込み、こちらは腰までの逆三角形。

 編み上げ式ではなく、横に3本の、ごく細いリボンで結ばれていた。

 

 腰までぴったりしているドレスは、そこからゆるやかに足元に流れている。

 太腿から足首までは締め付けられることもなく、歩き易くはある。

 さりとて、全体的に、とにかく大人っぽ過ぎるのだ。

 

 『ほかのご令嬢がたに遅れを取るなんてあり得ないのよ、ルーナ』

 

 大叔母は、そう言っていた。

 夜会では、この程度は「普通」だとも言っていた。

 が、レティシアは苦笑いを浮かべていた。

 

 おそらく大叔母は、夜会となると「力が入る」のだろう。

 レティシアも、それを知っているに違いない。

 

 『でも、すっごく似合ってるし、まだ未婚なんだから、このくらい、いいんじゃないかな』

 

 言いながら、レティシアは、いくつかのアクセサリーをつけてくれた。

 手首に銀色のブレスレット、耳には、小さな白い薔薇の形のイヤリング。

 胸元には、同じデザインのネックレスが輝いている。

 

「ルーナ、あらかじめキースリーの次男には、俺が話をしておいた。このあと、奴から声をかけてくるはずだ」

「う、うん……ジーンは……?」

「俺がおっては話にならんではないか」

「だよね……」

 

 すでに会場は満員状態。

 5日しか猶予がなかったとは思えないほどの盛況ぶりだ。

 王宮で開かれる夜会に招待されて断る貴族などいないということだろう。

 滅多に王宮に入れない爵位が下の貴族は、なおさら、その気持ちが強いらしい。

 今夜は、公爵家だけではなく、侯爵、子爵、伯爵までが出席している。

 

 それに令嬢も大勢。

 大半が、ユージーンに注目していた。

 なにしろ、今夜は、一段とユージーンはきらびやか。

 女性たちが目を奪われるのも当然だ。

 

 正装姿のユージーンは、何度も見たことがある。

 なのに、ルーナでさえも見惚(みと)れそうになっていた。

 いや、自制していなければ、うっとり見惚れていたに違いない。

 

 男性の正装は、女性に比べると、どれも大差ないように見える。

 が、ユージーンのホワイト・タイは、格調高く、嫌味がなかった。

 

 黒い長めのコートは、裾に刺繍があしらわれている。

 ただ、くすんだ銀糸を使っているため、ギラギラしておらず品がいい。

 ウィングカラーのシャツも、同じ白糸で、ところどころに刺繍が入っていた。

 ボウタイは正装用のもので、綺麗な蝶々の形をしている。

 カマーバンドに、きゅっと締められた腰、すらりと伸びた足。

 

 加えて濃い金髪に、翡翠色の綺麗な瞳。

 

 これでは、どんな女性もまいってしまうだろう、と思うのだけれども。

 ふと、ルーナは思った。

 

(レティ様は、ジーンのなにが気に入らなかったのかなぁ……大公様が素敵だっていうのはわかるけど……ジーンも、かなり“イケてる”よね)

 

 まさか、ルーナの好きな「きらきら」が気に入らなかったとは、知る由もない。

 ユージーンが「ふられた」こと自体、ルーナには信じられないのだから。

 

「ルーナ、奴が来るぞ。俺は、少し離れているが、何か少しでも嫌なことを言われたり、されたりしたら合図をしろ。よいな? 我慢する必要はない」

「わかった」

 

 ユージーンが近くにいると思うと安心する。

 この前の舞踏会のようなことにはならないはずだ。

 それでも、胸がちくちくした。

 自分が、ほかの男性と一緒にいても、ユージーンは、なんとも思わない。

 ルーナは、ユージーンが、女性の注目を浴びているだけで、ちょっぴりイライラしてしまう。

 

「今晩は、ルーナティアーナ姫」

 

 ジェラード・キースリーが、軽く会釈をしてくる。

 なるほど、確かに見た目は悪くなかった。

 ユージーンと比較しなければ、かなり「イケて」いるほうだ。

 女性からの人気も高いのではなかろうか。

 薄茶色の瞳が、少し気弱そうに見えなくもないが、書類にあったように、温厚で優しい人なのだろう。

 

「今晩は、ジェラード様。私のことは、ルーナとお呼びください」

「よろしいのですか?」

「ええ。私の名って、長くて呼びにくいのですもの」

 

 ジェラードが、ぷっと笑った。

 笑顔も悪くない。

 人の好さそうな印象がある。

 そこで、ルーナは気づいた。

 

(私、金髪が好きってわけじゃないのね)

 

 ジェラードの金髪は、ユージーンほど濃くはない。

 とはいえ、貴族好みの色だとは言える。

 なのに、ルーナの心は「きらきら」しないのだ。

 いい人そうだな、とは思うのに、胸は高鳴らなかった。

 

「いかがでしょう、あちらで、お話をしませんか?」

「ええ、そうしましょう」

 

 ルーナは、ちらっとユージーンを気にしつつ、壁側に移動する。

 テラス席もあるので、そちらのほうが落ち着けるのだが、よけいな口は挟まないことにした。

 貴族の令嬢は、おおむね男性に意見したりはしないものなのだ。

 

(でも、まだ初対面だもん。これから知り合っていけば……)

 

 ルーナが前向きに捉えようと、気持ちを切り替え、ジェラードに微笑みかける。

 ジェラードが、嬉しそうな表情を浮かべた。

 のだけれども。

 

「ジェリー、あなた、いったい、どういうつもり?」

「め、メリー……なぜ、ここに……」

 

 1人の女性が、ジェラードを睨みつけて立っている。

 ルーナより豊満な体つきに、さらに露出度の高いドレスを着ていた。

 派手な化粧もしていて、目立つ美人ではある。

 何歳かはわからないが、年上のように見えた。

 

(ジェリーとメリーって……喜劇役者の2人組みたいな呼び名ね)

 

 思って、少し笑いそうになっているルーナに「メリー」が顔を向ける。

 キッと睨まれ、びっくりした。

 内心が見透かされたのかと思ったのだ。

 

「あなたが、ジェリーを誘惑したのね!」

「え……?」

 

 ルーナは、きょとんとする。

 ジェラードとは初対面だし、誘惑するほどの会話はしていない。

 そして、ジェラードは「メリー」に説明しようとせずにいる。

 

 ルーナの、ぽかんとした表情が「メリー」の怒りを誘ったのだろう。

 彼女の手が、大きく振り上げられるのが、見えた。


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