表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/80

目隠し目線 3

 

「ですが、殿下、そう仰ってはおられないのではないでしょうか?」

 

 艶を含んだ声に、ルーナは足を止めた。

 謁見室に入り込むのが良くないことだとは、わかっている。

 執務室で待っているべきだったのだろう。

 が、1度、会いたいと思うと、どうしても会いたくなったのだ。

 

 ちょっぴり顔を見て、それから転移で執務室に戻ればいい。

 

 そうした軽い気持ちで、室内に、こっそりと入り込んでいる。

 それから、ユージーンがいる側とは仕切られている場所に移動した。

 茶器などが置いてあったので、おそらく侍女が控えるための場所だろう。

 とはいえ、そこには誰もおらず、人ばらいがされていることを察した。

 

 気づいた時に、引き返せば良かったのだ。

 人ばらいまでしているということは、聞かれたくない話をしている、ということになる。

 盗み聞きをしたことがユージーンに露見すれば、気まずい、ではすまない。

 ただでさえ、ユージーンとの関係にヒビが入りかけているのに。

 

「即位されなかったとはいえ、殿下は王族のかたにございます」

 

 声に、ルーナは、引き返せなくなる。

 仕切りがあるので、2人の姿は見えない。

 けれど、その声は、明らかに女性のものだ。

 しかも、しなだれかかるような、なまめかしさを感じる。

 

(ジーンの知り合い……? でも、こんな声、私は知らないわ……誰……?)

 

 小さい頃から、ユージーンは行く先々にルーナを連れて行った。

 なので、ユージーンの知り合いで、ルーナの知らない者はいないはずなのだ。

 議会に転移してしまった時は、ユージーンがうまく隠してくれたので、重臣たちはルーナの存在に気づかなかった。

 さりとて、ルーナは、彼らの顔を知っている。

 重臣は、貴族で構成されているからだ。

 

 ウィリュアートンは大派閥であり、父トラヴィスも重臣の1人。

 トラヴィスが夜会を開けば、必ず重臣たちが顔を揃えていた。

 夫婦で挨拶に来るのだから、声だって知っている。

 

「国王陛下には、御子が、お1人しかおられません。そのことを殿下は苦慮されておられるのでは?」

 

 ルーナが気安く「ザカリーおじさん」と呼ぶ現国王の子供は1人。

 トマスだけだ。

 

 ルーナも、国王が正妃以外を迎えるつもりがないのを知っている。

 正妃ジョゼットのほうが、側室を娶れ、と言っているところに居合わせたことがあったのだ。

 国王は号泣しながら「絶対に嫌です!」と正妃の進言を拒絶していた。

 

 あの様子では、この先も「ザカリーおじさん」が側室を娶ることはないだろう。

 となると、王太子は、トマスのみとなる。

 貴族教育の中で、国王が「与える者」の力で、魔術師に魔力を与えていると学んでいた。

 その「与える者」の力を宿すのが、ガルベリーの直系男子だという話だ。

 よって、即位できるのは、ガルベリーの直系男子との条件を覆せはしない。

 

(トマスがいればいいんじゃないの? なにが問題なのか、わかんない)

 

 誰かは知らない女性の言葉に、ルーナは首をかしげている。

 ユージーンが苦慮する必要などない気がした。

 少なくとも次期国王は、トマスで決定しているのだし。

 

(トマスだって婚姻するでしょ? そうすれば、トマスの子が、次の国王になるんだよね? それで、その子がまた婚姻して……って、続いてくわけだから)

 

 ガルベリーの血筋が途絶えることはない。

 単純に、ルーナは、そう考えてしまう。

 トラヴィスが、当主にこだわりがないため、後継ぎ問題を、ルーナは差し迫った問題として考えたことがなかったのだ。

 

「万が一、王太子殿下に、なにかあればガルベリーの血が途絶えかねませんもの。ご心配にもなられますわね」

 

 その言葉に、ようやくルーナは、ハッとなる。

 病や不慮の事故で、トマスが他界したら、たちまちガルベリーの血筋は途絶えてしまうのだと、気づいた。

 

「そうなってから側室を娶っても、間に合わないかもしれませんでしょう?」

「いいかげん、遠回しな言いかたはよせ。俺は、用件を話せと言ったはずだ」

 

 ルーナが聞いたこともないような、冷たい声だ。

 ユージーンは、横柄で傲慢な話しかたをするところはある。

 とはいえ、表情よりもずっと声に抑揚はあった。

 どちらかと言えば、顔よりも口調に感情が出るのだ。

 なのに、今は声にも感情が含まれていない。

 

「ですから、先ほども申し上げました通り、ヴェナを正妻に迎えてほしいとお願いをしております」

 

 どきっと、心臓が跳ねる。

 その女性が、誰であるかもわかった。

 ヴァネッサ・ラシュビー伯爵令嬢の母、アンジェラだ。

 ラシュビーは、リディッシュ公爵家の下位貴族で、ヴァネッサはベアトリクスの取り巻きの1人だった。

 

「あの()なら、殿下のなさることに不満をいだくことはございません」

「俺の不満だと?」

「ええ。ヴェナは、殿下が側室を娶ってもかまわないと申しております」

 

 それは、ルーナにとって、大きな衝撃となる。

 本当に、考えたことがなかった。

 

 ユージーンに側室。

 

 婚姻を望んでいたが、それはユージーンとの2人だけのものとして、ルーナの中では認識されている。

 側室の存在など想像したこともない。

 

「お血筋を遺すのは、殿下にとって重要な責務でございましょう? 正妻に男子が産まれなければ、側室を娶るのは当然ですけれど、遅きに失するのは、殿下の望むところではないと存じます」

「それは、そうだ」

「であれば、正妻に男子が産まれるか否かに関わらず、側室は娶るべきですわ」

「で、あろうな」

 

 ずきり、ずきり、と胸が痛んでくる。

 ユージーンが、アンジェラの言葉を否定しなかったからだ。

 むしろ、肯定的な態度を取っていることが信じられなかった。

 

「だが、お前の娘である必要はない」

「そうでしょうか? 国王陛下の愛情深さに感化され、側室を娶るのを嫌う女性も増えてきております。ご存知かとは存じますが、側室の存在が、厄介な事態を引き起こすことも多々ございますわ」

「つまり、お前の娘は、厄介事を起こさない、と申すか」

「さようにございます、殿下」

 

 ルーナの頭が、混乱で、くらくらしてくる。

 確かに、ルーナは、ユージーンが側室を迎えることに賛成はできない。

 絶対に嫌だ、と思ってしまう。

 アンジェラの言うように「厄介」であるに違いないのだ。

 

「それはそうと、殿下は、ウィリュアートンのご令嬢と懇意になさっているとか」

 

 びくっと、体が震える。

 見つかったわけではなさそうだが、自分の名が出たことに嫌な予感がした。

 この話の流れから、いい話ではないと、無意識に判断しているのだ。

 

「ですが、ウィリュアートンでは、殿下の正妻にはなれませんわね」

 

 え?と、今度は驚く。

 アンジェラは、きっぱりと断定した。

 当然といった口調には、やや嘲りさえも漂っていたのだ。

 

「なにしろ、あの家は、男子が産まれにくい上に、男子を出産後は、子ができなくなるのですもの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ