目隠し目線 1
正直、悔しいし、腹も立っているし。
なにより、悲しくてたまらない。
「ジーンの馬鹿……もう5日も会ってないのに……なんで平気なのっ?!」
ルーナは、ちっとも平気ではないのだ。
ユージーンに会いたくてたまらなかった。
毎日、顔を見て過ごしていたからだ。
人が聞けば「たかが」でしかないことでも、ルーナにとっては違う。
もう5日。
どうせユージーンのことだから、黙々と仕事をしているのだろう。
とはいえ、気にかかるし、さみしくなる。
夜は眠れず、食欲も落ちた。
「なんでジーンは、平気なのっ?!」
1人の自室で、同じ言葉を吐き続ける。
ベッドに座り込み、枕を両腕で抱きしめていた。
そうでもしていないと、うっかり転移してしまいそうになる。
自分は、こんなにも平気ではないのに、ユージーンは平気そうだ。
5日も経っているが、会いにも来てくれないのだから。
そして、それはルーナにとって想定外。
こんなはずではなかった、と思っている。
たかをくくっていた。
ユージーンは、世話焼きで過保護なところがある。
それを、あたり前に受け止めてきたので、長期間、放っておくことなど、絶対にできない、と考えていたのだ。
ルーナの予想では、3日と保たないはずだった。
なのに、すでに5日が経っている。
ユージーンは、屋敷を訪ねて来ない。
連絡すらなかった。
じわ…と、不安が胸に広がる。
もしかすると、本当に見切りをつけられてしまったのではなかろうか。
子供だと思われていたから、世話をしてくれていただけで、それ以上の意味などなかったのかもしれない。
そもそも、ユージーンがルーナの世話をする理由がない。
偶然、ルーナの大叔母がローエルハイドの勤め人で。
たまたま、ユージーンもローエルハイドに勤めに来ていて。
成り行きで、ルーナをあやすことになって。
結局のところ、偶然の出来事に、流された結果に過ぎないのだ。
ユージーンは、ルーナの手を放そうと思えば、いつでも放せた。
「でも、ジーンは、ずっと傍にいてくれて……私を放り出さなかったのよね……」
やはり、そこには意味がある気がする。
世話をする理由もないのに、世話を焼き続けてくれたことにも、今なお傍にいてくれることにも。
「……私に、覚悟がないから……? ていうか、ジーンは、そう判断してる?」
うーん…と、ルーナは頭を悩ませる。
大公に言われた「覚悟」の意味が、わからない。
いろいろと考えてはみたものの、自分起因のものではない気がするのだ。
おそらく、飛び越えるのに、大変な思いをするような「覚悟」には違いないのだけれども。
考えて、ハッとする。
ぽて…と、腕から枕が転がり落ちた。
「私に覚悟がないから、じゃない……私に、そんな大変な覚悟させたくないって、ジーンは思ってるんだ」
ユージーンは、過保護。
ルーナの、ちょっとした怪我ですら大騒ぎするほどだ。
侍女か侍従に頼めばいいのに、ボタン付けも人任せにはせずにいた。
湯殿だって、壁をぶち抜いてまで作ってくれようとしている。
それほど庇護欲の強いユージーンが、ルーナに大変な思いをさせるだろうか。
否、それこそ絶対にしない。
できないというより、しないのだ。
はなから、そんな選択肢は切り捨てているに違いない。
バッと、ルーナは立ち上がる。
どんな覚悟かは知らないけれど。
どんな覚悟でもする。
ユージーンが、それを理由に、自分を「子供」のままにしているなら、飛び越えられることを証すればいい。
認めさせて、ちゃんと「大人の女性」として扱ってもらう。
そうすれば、ユージーンとの関係を変えられるかもしれない。
大人の女性だと認識した上で「ふられる」のならば、まだマシに思えた。
子供として庇護されるだけの存在でいるよりは。
それに、ふられたからといって、諦めるかどうかは別話だし。
よし、と、ルーナは深呼吸をする。
目を伏せて、ユージーンの執務室を思い浮かべた。
本当は、膝に転移したいところだが、やめておくことにする。
この間、怒って帰ったので、ちょっぴり気まずい。
ともかく、ユージーンとは恋人ではないので。
「あれ……?」
執務室への転移は成功。
が、ユージーンの姿はなかった。
てっきり仕事中だと思ったのだが、姿がないことに、がっかりする。
「私室に戻ってるのかも……」
確認するだけして、いないようであれば、執務室で待つことにした。
ユージーンの私室に転移するも、やはり、その姿はない。
議会に出ているのだろうか。
ルーナは、あまりユージーンの予定を気にしたことがなかった。
今までは、翌日の予定を、ユージーンから聞かされていたからだ。
明日のこの時間は議会に出ているからいない、とか。
さりとて、5日も間が空いてしまったので、予定が不明になっている。
「執務室で待つしかないよね」
転移しかけて、ふと、気になった。
扉の向こうに、ユージーンがいるかもしれないと思ったのだ。
すぐそこまで帰ってきていたら、入れ違いになる。
ルーナは転移で、パッと移動するが、ユージーンは歩き。
執務室から私室に帰っている途中という可能性もあった。
扉の向こうを、少し確認してみることにする。
私室や執務室以外の場所に1人で行ったことはないが、ユージーンに連れられ、王宮を歩いたことはあるのだ。
多分、咎められはしないだろう。
扉を開き、ルーナは、そっと外に出る。
外には、護衛の近衛騎士が立っていた。
ユージーンとルーナの関係を知っていたらしい。
その1人が、親切にもユージーンの居場所を教えてくれる。




