表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/80

もう大人なので 3

 唐突に、ルーナが、すくっと立ち上がった。

 ユージーンの前に回り込んで、立つ。

 ユージーンは、ルーナの姿を眺めた。

 

(本当に、大きくなったものだ。子の成長というのが、これほどに早いとは)

 

 自分を育ててくれた魔術師も、そんなふうに思っていただろうか。

 

 ちょうどルーナと同じ3歳だった。

 ユージーンは病となり、死にかけたことがある。

 その際、命を救ってくれた魔術師がいた。

 以来、ずっとユージーンは、彼に育てられたのだ。

 

 19年もの間。

 

 当時、ユージーンは両親に愛されていないと思っていた。

 ザカリーが、父の息子ではないとも知らされておらず、父が愛しているのは、弟だけなのだと、愛情を欲するのをやめた。

 ユージーンの(かたわら)には、魔術師の彼がいたし、不都合はなかったからだ。

 

 ユージーンは、今もって、そそがれていた愛情は本物だったと信じている。

 ルーナの世話をするようになり、よけいに強く感じていた。

 幼い子の世話は、なまなかなことではできない。

 辛抱強くなければならないし、常に注意を向けておく必要もある。

 

 ほんのわずか目を離した隙に、ルーナは、ペン先で目を突きかけたのだ。

 本当に、肝を冷やしたのを、はっきりと覚えている。

 

 おそらく、彼も似たような経験をしていたに違いない。

 じっとしていることのなかったユージーンは、ルーナより、もっと手がかかっただろう。

 己の目的を果たすため、ユージーンを利用したのだと、彼は言っていた。

 けれど、それだけで、あれほど手をかけられるはずはないと思える。

 

 ユージーンは、育ての親である彼に思慕を寄せていた。

 ユージーンの(そば)にいてくれたのは、彼だけだったからだ。

 今のルーナと、状況は似ている。

 

(慕われるのはよい。俺も、これ(ルーナ)のことは大事に思っている)

 

 だとしても、思慕は思慕だ。

 恋にはならない。

 その違いを、ルーナも、やがて気づく時が来る。

 

 ユージーンが、レティシアに恋をして気づいたように。

 

 本物の恋は、もっと感情を支配する。

 そして、残酷なものでもあるのだ。

 できれば、ルーナには傷ついてほしくない。

 彼女の心を受け入れてくれる者を選んでほしかった。

 

「ジーン、私、決めたの」

「なにをだ?」

 

 ルーナが、窮屈そうにしつつも、背中に腕を回している。

 ごそごそと動いたあと。

 

 ばさっ。

 

 ドレスが足元に、落ちた。

 体に、ぴったりしていても、少し締め付けを緩めれば、簡単に脱げる。

 子供用のドレスを着替えさせていたのはユージーンなのだから、知っていた。

 当然のことではあるが、ルーナは。

 

 全裸。

 

 首にネックレスはつけていても、体を覆うようなものは、なにもない。

 白い肌を、ユージーンの目の前に(さら)している。

 

(先ほど、ルーナは、決めたと言っていた。そうか……そういうことであったか)

 

 うむ、とユージーンは鷹揚にうなずいた。

 それから、ゆっくりと立ち上がる。

 もとより、剣をふるっている時以外、ユージーンの動きはゆったりとしていた。

 王族としての癖で、せかせかしていないのだ。

 

 ルーナに近づき、剥き出しの両肩に手を置く。

 ルーナの頬が赤く染まった。

 今さらに恥ずかしくなったのかもしれない。

 

「ルーナ」

「な、なに……?」

「お前は、大きくなった」

「そ、そう! 私、大人になったのよ!」

「体も立派な大人に成長している」

 

 まさに、今、目の前で、しっかりと見たのだ。

 ルーナが大人の体になっているのは、わかっている。

 そもそも、わかっていたのだけれど、それはともかく。

 

「ならば、わかるな?」

「わ、わか、わかる……」

「で、あろう」

 

 うむ、とまた鷹揚にうなずいた。

 そして、私室の端を指さした。

 

「あの湯船は小さ過ぎて、今のお前が入ることはできん」

「…………は……?」

 

 ルーナの頭の上に、大量のハテナが飛んでいると、ユージーンは気づかない。

 顎を手で支え、考えていたからだ。

 ものすごく真面目に。

 

「サハシーの宿のように、室内に、湯殿を作らせるとしよう。だが、そうなると、ここは、ちと手狭だな。隣の侍従控え室を別の場所に移し、その壁をぶち抜けば、なんとかなろう」

 

 隣にある侍従が控えている部屋は、それなりの広さがある。

 ユージーンにハンドベルで呼ばれた時、すぐに来られるよう、常に4,5人が、詰めているのだ。

 とはいえ、王宮は、かなりの大きさだ。

 侍従の控え室を、さらに隣に、その隣にある近衛の控え室をさらに、というようにずらせていけば、部屋の確保くらいできる。

 

「しかし、今夜は間に合わん。改装が終わるまでは、王宮の湯殿で、辛抱いたせ。なに、案ずることはない。さほど時間はかからぬさ」

 

 黙っているルーナに、ユージーンは、ハッとした。

 急いで、クローゼットからガウンを取ってくる。

 それを、いそいそとルーナに着せた。

 

「私室の外には近衛も魔術師もいるのでな。奴らの中には、(よこしま)な目でお前を見る者もいるのだ。湯殿まで、裸で行くのは危うい」

 

 きっと、襲ってきた2人の男にふれられた感触が、気持ち悪いのだ。

 ユージーンは、人にふれたり、ふれられたりするのを好まない。

 もちろん、その感触を気持ちが悪いと思うことも、しばしばある。

 だから、ルーナも似た感覚を持っていると推測していた。

 なにしろ、ユージーンは、自分を中心に物事を考えるので。

 

「俺もついて行ってやる。お前は髪を洗うのが下手だからな。すぐ目に泡を入れて痛いと騒ぐであろう」

 

 ばんっ!!

 

「あいたっ!! なにをするっ?! 素足でも、足を踏まれると痛いのだぞ!」

「湯殿くらい1人で行けるし、髪だって、自分で洗えるもんっ!!」

 

 なにを怒っているのか知らないが、ルーナは、ぷんすかしている。

 そして、足音も荒く、私室を出て行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ