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金色救世主 4

 ルーナは、ユージーンに抱き着き、背中に顔を押しつける。

 どうして、ユージーンが、ここにいるのかは、知らないし、どうでもいい。

 自分を助けてくれた、という事実だけで、胸がいっぱいになっていた。

 

 とても反省している。

 とてもとても後悔している。

 

 ユージーンの言うことを聞くべきだったのだ。

 後先を考えず行動した、浅はかな自分が、情けない。

 ほかの男性にふれられるのが、あれほど嫌悪感をいだくものだと知らなかった。

 引き倒された時の恐怖と、押さえつけられる屈辱も、初めて経験している。

 2度としたくない経験だ。

 

「ご、ごめ……ごめん、な……さい……」

 

 声が震えた。

 今度ばかりは、叱責されるに違いない。

 もしかすると、叱責どころではすまないかもしれないと思う。

 助けには来てくれたが、見放されそうで怖かった。

 

「む」

 

 腰に回していた手が、ほどかれる。

 本気で怖くなった。

 

 こんな馬鹿な真似をしたのだ。

 呆れられて当然だろう。

 もう「面倒は見きれない」と言われるのではないか。

 そんな不安で、心が揺れる。

 

 ユージーンが振り返り、ルーナの腕を取った。

 しげしげと見つめている。

 そして、顔をしかめた。

 

「怪我をしているではないか。すぐに帰るぞ。王宮で、魔術師に治癒させるまで、痛むのは我慢いたせ。なに、しばしの間だ」

 

 ユージーンの口調は、いつもと変わらない。

 ルーナを本気で心配している。

 思ったら、胸が、きゅっとなった。

 

 反抗して、馬鹿をして、怪我をしたのは自業自得。

 なのに、ユージーンは叱らない。

 叱る代わりに、気遣いの言葉をかけてくれている。

 

「う……」

「待て、ルーナ」

「う、う……」

「待て待て待て! ルーナ! それは、いかん!」

「うう、うー……」

「ルーナ! 泣くでない!」

 

 ユージーンの焦った顔に、なおさら胸が痛くなる。

 やはり、自分は、この人が好きなのだ。

 どうやったって諦められない。

 

「ぅぁあああああああーーーんッ!!」

「ああ……ルーナ、これ、泣いてはいかん、泣くな」

「ぁあぁああぅうあぁーーん!!」

 

 ユージーンに声をかけられるほどに、涙があふれてくる。

 ユージーンの口調が、あんまり優しいので。

 

「よし、わかった。それなら、これで、どうだ?」

 

 ふわっと、体が持ち上げられた。

 びっくりして、(まばた)きを繰り返す。

 そのたびに、涙がこぼれた。

 

「そら、高い高いだ」

 

 体が上下に揺すられている。

 自分を見上げてくる緑の瞳を見つめた。

 

 きらきら。

 

 月明りにユージーンの髪が、金色に光っている。

 ルーナは、この「きらきら」が大好きなのだ。

 自然と、口元に笑みが広がる。

 

「そうだ、お前は、これが好きなのだろ? こうすると、いつも泣き止む」

 

 ほろほろっと、幾粒かの涙が転げ落ち、それから止まった。

 ユージーンは無表情に見えるが、わずかに微笑んでいると、ルーナにはわかる。

 怒ってもいないし、呆れてもいないのだ。

 安心感から、にっこりした。

 

 そのまま、抱きかかえられる。

 ルーナは、ユージーンの首にしがみついた。

 

「……ごめんなさい」

「もう、よい。あのような者どものことなど、忘れてしまえ」

 

 すでに半分は忘れかけている。

 ユージーンが助けに来てくれたからだ。

 どこの夜会に行くとは伝えていなかったのに、ちゃんと自分を見つけてくれた。

 ユージーンに守られていると思うと、安心する。

 

 なにがあっても大丈夫。

 

 そう感じられた。

 同時に、自分の気持ちを、改めて自覚する。

 自分は大人になったのだ。

 

 ユージーンという男性に、ルーナは恋をしている。

 

 世話をしてくれて、大事にしてくれて、守ってくれるからではない。

 わからず屋で頑固で、おたんこなすびでも、そういうユージーンがいいのだ。

 

 初めて「きらきら」を感じてから、ずっと、ユージーンはルーナに新しい感情をたくさんくれる。

 

 嬉しい、悲しい、楽しい、好き。

 そして、せつない。

 

 ユージーンにも、同じ気持ちを持ってほしかった。

 こんなに近くにいるのに、心が通じ合えないなんて、寂し過ぎる。

 女性として見てもらえない理由にも、ルーナは納得できずにいた。

 

 ユージーンは、人目も(はば)らず、スタスタとホールを突っ切って行く。

 ルーナの乗ってきた馬車のほうに向かっているらしい。

 屋敷から出たあと、ルーナは腕をほどき、顔を上げた。

 

 ユージーンの唇に、ちゅ…と軽く口づける。

 が、ユージーンは眉ひとつ動かさない。

 どうせ、いつもの「口くっつけ癖」だと思っているに違いない。

 

「あのね、ジーン」

「断る」

「まだ、なにも言ってないでしょ?」

「お前の言うことがわからぬ俺ではない」

 

 ユージーンのことは好きだ。

 大好きだ。

 けれど、憎たらしい、とも思う。

 

「あいたっ! これ! 頬を引っ張るでない! ルーナ!」

「ジーンの馬鹿! 偏屈! おたんこなすびッ!」

 

 ぴたっと、ユージーンが足を止めた。

 ちょうど馬車の前だったからというのもあったのだろうけれど。

 

「ルーナ。俺は、おたんこなすびではない。それは、鈍間(のろま)や出来損ないという意味だそうだ。俺は鈍間ではないし、出来損なってもおらん。ゆえに、俺は、おたんこなすびではないのだ」

 

 もう、いろんなことが、台無しである。


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