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金色救世主 1

 彼は、思い出深い、森の山小屋にいる。

 彼自身が、ゼロから造り上げた住処だった。

 山小屋というには、かなり広く「屋敷」に近い。

 

「父上! 1人で見物なんてズルいぜ」

「きみは鼻が利くねえ」

 

 彼の息子であるところのジークが、烏姿で居間に飛び込んでくる。

 暖炉の前のソファに腰かけていた彼の前で、ひょいっと人型に戻った。

 彼は、穏やかな笑みを浮かべてみせる。

 

「母上に心配かけたくねーから、こっちに来たんだろ?」

「そうだよ」

 

 彼の妻は、ルーナの大叔母と仲がいい。

 勤め人ではあるが、身内として扱っていた。

 もちろんルーナも、彼女にとっては身内なのだ。

 ルーナの身に、なにかあれば、悲しむに決まっている。

 

「お! ルーナだ」

 

 ジークが、彼の隣に、すとんと腰をおろしてきた。

 彼の右腕であった「ジーク」では、あり得なかったことことだ。

 烏姿で肩にとまるのが「ジーク」の定位置。

 人型の時には、いつも彼の近くに立っていた。

 

(この子は、私の息子だからね)

 

 命を懸けて「ジーク」が与えてくれた命でもある。

 彼が最優先に考えるのは、妻だが、それでも2人の子を大事に思っていた。

 ジークに対しても息子として接している。

 

 彼には、血脈が見えるのだ。

 

 ジークと彼は、確かな糸で繋がっている。

 最愛の妻との間にもうけた子を見るにつけ、微笑ましい気持ちになれた。

 

 彼にしか使えない「遠眼鏡(とおめがね)」に映し出されている光景を、ジークは食い入るように見つめている。

 15歳になり、女性経験もあるようだが、まだ表情には幼さが漂っていた。

 年相応の好奇心や正義感を持っているのは、妻の影響だろう。

 

「ルーナの奴……」

 

 むつ…と、ジークが不機嫌につぶやく。

 理由は、映された「()」にあった。

 

 遠眼鏡は、空間に画面を出し、特定の場所を見聞きできる。

 相手に、こちらの声は聞こえない。

 魔術師といえど、()られていると気づくことすらできないのだ。

 さりとて、覗きの趣味などないので、滅多に使わない魔術ではある。

 

「あれは、キャラックの跡取りと、取り巻きのラスキンの息子だろう?」

「そーだよ。あいつらが、ルーナをイジメてたんだぞ」

「だそうだね」

「なんか、ヤバい気がする」

 

 ルーナは、2人との会話を、そつなくこなしていた。

 楽しんでいるといったふうではないが彼らの言葉自体には喜んでいる節がある。

 

「あーんな奴らに褒められて嬉しいか?」

「誰でもかまわなかったのだと思うよ」

 

 ジークが、きょとんとした顔で、彼のほうを見た。

 女性経験はあっても、まだまだ「女心」は理解できていないらしい。

 

「ルーナは、彼に、“女性として見ていない”と言われた。そこで、考えたわけさ。自分は女性としての魅力に欠けているのだろうか、とね」

「オレもトマスも、ルーナを可愛いって思ってるぜ?」

「きみたちの評価は、弟が姉に言うのと変わらない。より客観的な意見をルーナは求めているのだよ」

「でも、父上……あいつらじゃ客観的にはならねーんじゃねーの?」

 

 ジークの言うことは正しい。

 彼も、目を細め、その光景を見つめる。

 ルーナと話している2人は、明らかに「別の目的」を持っていた。

 単に、ルーナが魅力的だからダンスに誘おうとしているのではない。

 

「なぁ……」

「それは、駄目だ」

「けどさぁ……」

「心配なのは、わかるがね。手出しは無用だ、ジーク」

 

 ジークは、ちょっぴり不満そうに顔をしかめている。

 幼馴染みのルーナが危険だとわかっているのだ。

 変転したジークなら、あっという間に、ルーナの元に駆けつけられる。

 

「……ジーン、間に合うのかよ」

「間に合うよ。絶対に、だ」

 

 ユージーンは、はなはだ面倒で厄介な男だが、できないことは口にしないのだ。

 そして、口にした以上は、とことんまでやり抜く。

 

 あげく、諦めない。

 それが、ユージーン・ガルベリーという男なのだ。

 

 大公の称号を持つ彼は、王族や貴族に(おもね)ることなく生きてきた。

 ただ、ユージーンについては、認めている。

 王族だから、ではない。

 彼に、わずかながらであれ、嫉妬と羨望をいだかせる相手だからだ。

 

「父上! ルーナが……っ……」

「ああ、視えている。それに、彼も到着したようだね」

 

 ルーナも、ようやく彼らの「悪意」に気づいたらしい。

 飲み物を取りに行くと言い残し、その場を離れている。

 逃げるつもりになったのだろう。

 裏庭に続くガラス戸のほうに、ゆっくりと歩いていた。

 

(さすが、彼に教育されただけのことはある)

 

 いきなり駆け出したりすれば怪しまれる。

 だから、あえて歩調をゆるやかなものにしているのだ。

 実際、男2人は、まだ気づいていない。

 

「それにしても……」

 

 彼は、小さく笑った。

 ダンスホールに入ったユージーンは、女性たちに取り囲まれている。

 取り合おうとはしていなかったが、足止めされる状況に陥っていた。

 

「なぜ、服を着替えれば大丈夫だと思えるのか、不思議でならないよ」

「笑ってる場合じゃねーよ、父上! ルーナが逃げたのに気づかれた!」

 

 ジークは、一刻も早く幼馴染みを助けに行きたいのだ。

 わかっていたが、彼は、それを制止する。

 

「ジーク、ここにいなさい。わかったね」

「本当に……大丈夫なんだよな?」

「ああ、問題ないよ。きみの後見人を信じたまえ」

 

 ユージーンは、ジークの出産にも立ち会っていた。

 血の流れの上では、彼の妻の「縁者」でもある。

 彼も、妻が、ユージーンをジークの後見人とすることに反対していない。

 ユージーンは、ある意味で、ジークの良い見本となるだろうから。

 

(間に合うさ。今の彼にとって、なによりも大事なものを守るためなのだから)

 

 ユージーンが女性たちを振り切るのが見える。

 ルーナを視界に捉えていたらしく、間違いなく裏庭に向かって駆けて行った。


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