表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/80

ぷんすかしてるので 2

 どうやったら、ユージーンの意識を変えられるのか。

 ルーナは、部屋にこもって、もとい、ベッドに寝転がって考えている。

 

(女として見てないって、ジーンは言ってた……私って、そんなに“イケて”ないのかなぁ……誰かに聞くのも……)

 

 ほかの男性に、自分は女性として魅力があるのかどうかを訊いてみたい。

 が、ルーナの周りには訊ける相手がいないのだ。

 父は「可愛い」と言うに決まっているし、ジークはアテにならないし。

 

「大公様は、レティ様しか見てないもんね」

 

 おそらく悪い評価はせずにいてくれる、とは思う。

 とはいえ、本音かどうかは不明。

 大公は、掴みどころのない人なのだ。

 それに、評価の方法が、父と似たり寄ったりという気もする。

 大公の娘とは、たいして歳も違わないので。

 

「うーん……」

 

 気は進まないが、ひとつだけ考えがあった。

 身近な男性をアテにできないのなら、身近でない男性に訊くしかない。

 それも、歳が近いことが条件となる。

 年上過ぎると、儀礼的な返答しかもらえない可能性が高いからだ。

 

「夜会には、お父さまの知り合いも、大勢いらっしゃるから駄目だわ」

 

 だいたい、夜会は貴族の公の社交場。

 子息たちも来ていることは多いが、本音を口にはしない。

 言葉を飾り、なんでも遠回しにして、意味さえぼやかせる。

 それが「礼儀」らしいが、ルーナの目的は果たせそうになかった。

 ルーナは自分がどう見えるのか、本音が訊きたいのだから。

 

「すっごく嫌だけど……ジーンとの婚姻のためだと思えば……」

 

 ルーナは立ち上がり、書き物机の上に置いていた封筒を手にする。

 封蝋(ふうろう)に押されている印璽(いんじ)を見て、顔をしかめた。

 この手の封書は、7日に1度の割合で届く。

 いつもは、破り捨てていた。

 

 舞踏会の招待状。

 

 舞踏会といっても、正式なものではない。

 若い貴族たちで集まる、言うなれば「娯楽」のパーティ。

 舞踏会という名を借りた「サロン」だと知っている。

 男性は女性が目当てだし、女性も誘われることが目当てなのだ。

 

 公の夜会でも、知り合ったその場で体の関係を結ぶことはあるらしい。

 とはいえ、人目を忍び、ひっそりとホールから消えるのが定番とされている。

 対して、招待状に記載の舞踏会は、礼節を重んじたりはしないのだそうだ。

 大っぴらに誘ったり誘われたり、人目もおかまいなしに、明らかにベッドのある部屋に向かう者も少なくないと聞く。

 

 ルーナは、そうした舞踏会には、まったく興味がなかった。

 ユージーン以外に、心を惹かれる相手もいなかったので、わざわざ「誘われ」に行く必要を感じずにいたからだ。

 むしろ、親たちの目を盗み、馬鹿騒ぎをしている者たちを、嫌っている。

 

 ユージーンに育てられたと言っても過言ではないルーナにも、似た真面目さと、細かさが身についていた。

 勉強に関しても、貴族学校に行くより、ずっと知識を得ている。

 試験をすれば、オールAで卒業できることは間違いない。

 

 ただ、ルーナは、それがあたり前だと思っていて、自分が、特別に頭がいいとか真面目だとか、思ったことはない。

 ユージーンには、どうしたって勝てないのだから、自身に対する評価を低くしてしまうのもしかたがないことだった。

 

「トリシーやウィンも来てるんだろうなぁ……」

 

 考えると、いよいよ憂鬱にはなってくる。

 ベアトリクスには、貴族学校のことでも、社交界デビューの時も意地悪をされている。

 なにかと目の(かたき)にしてくる理由が、ルーナにはわからない。

 それが家柄によるものだなんて、想像もせずにいる。

 

「でも、そうも言ってられないよね」

 

 ひとまず、招待状を机の上に戻した。

 それから、パッと転移する。

 ユージーンの執務室だ。

 

(一応……ジーンの気が変わってるかもしれないし……)

 

 舞踏会に乗り気ではなかったため、なにか「口実」がほしかったのだ。

 自分の気持ちを奮い立たせる必要もあった。

 

 ユージーンの考えが変わっていないかを確認する。

 そして、変わっていなければ舞踏会に出席してみる。

 

「どうした、ルーナ」

 

 ルーナの緊張感が、伝わったらしい。

 ユージーンは、いつもと違い、書き物をやめ、顔を上げた。

 

「私は、ジーンと婚姻したいの。ジーンがいい」

「お前のそれは、刷り込みだ」

「刷り込み?」

「鳥など1部の生き物は、生まれ落ちた際、最初に見たものを、親だと思い込む」

 

 ユージーンの言葉に、ルーナはムッとする。

 つまり、ユージーンは、ルーナが「勘違い」をしていると言いたいのだ。

 もしくは「親離れ」できない子供のように考えている。

 

「ジーン、カッコウという鳥を知ってる?」

「むろんだ」

「なら、カッコウが托卵をするのも知ってるわよね? 仮親は、自分よりもヒナが大きくなっていることに、いつまでも気づかないのよ?」

 

 自分は大人になったのだ。

 そのことに気づいてほしい、という意味をこめていた。

 

「それは、仮親にとって、どんなに大きくなろうが、子は子だと認識しているからであろう。成長に気づいていても、変わらぬ、ということだ」

 

 むかあっと、本気で腹が立つ。

 言葉でも、理屈でも、ユージーンには勝てない。

 そしてルーナが何を言おうが、大人だとも女性だとも、認めてもらえないのだ。

 腹が立って、頭にきて。

 

 悲しかった。

 

 だから、勢いに任せて言う。

 

「私は大人の女性よ! 舞踏会で、それを証明してみせるから!」

「舞踏会だと? やめておけ。あのような、くだらん馬鹿騒ぎに行ったとて、(ろく)なことにはならんぞ」

 

 ルーナだって、行きたくて行こうとしているのではない。

 自分の「魅力」について明確にしておきたいだけなのだ。

 

「碌なことにならないなんて、わかんないでしょっ?! それに、ジーンには関係ないじゃない! ジーンは、私を女性として見てないんだから!」

「ルーナ!」

 

 ユージーンの声を振り切って、転移で屋敷に戻る。

 ルーナは、肝心なことに気づいていなかった。

 

 ユージーン以外の男性に「魅力的」だと判断されても意味がないということに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ