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9.解決編①

 現在時刻:午前10時30分。505号室に川村さん、上野さん、西山さん、篠原さん、そして捜査一課の板倉、野口、松山が集まった。俺とイリスもいる。


 「今更こんなに人をあつめてどうする?」


捜査一課の板倉が明らかに機嫌悪そうな態度で聞く。


 「ここに集まってもらったのは他でもありません。今朝遺体が発見されたこの部屋の住人、山下あおいさんは自殺ではなく、殺されました。そして私はその犯人がわかりました。」


 イリスがそう言うと、一課の3人を除く4人の容疑者候補が「えっ!」っと感嘆の声を漏らした。そんな中、捜査一課の松山が俺たちを馬鹿にしたような口調でこう言った。


 「まだそんなこと言っているのか?どこからどうみても自殺だ。」


 「まあまあ、頭ごなしに否定するのもよくない。あれだけ豪語するんだ。俺たちが納得する決定的な証拠でもあるんだろ。聞こうじゃないか、その推理とやらを。」


 板倉が松山をなだめるように言ったが、その口調は殺人であることを全く信じていないようだ。


 「はい!これからそれをお話ししていきますよ。犯人はこの中にいるので、話が終わったら逮捕してくださいね。」


イリスは板倉の挑発をもろともせずに話す。こういう時はイリスの性格がうらやましくなるな。


 集まっている容疑者候補はイリスが「犯人はこの中にいる」といっても驚いていなかった。大体察しはついていたのだろう。


 イリスが話し始めた。


「はじめに、私がこの事件を殺人と決めた理由を最初からお話ししましょう。」


 イリスは今朝一課の3人に話した自殺の不審な点―睡眠薬の反応が身体から出ているが、飲んだ後に出るはずの薬を個装していたゴミもなく、部屋が散らかっているにも関わらず睡眠薬を飲んだと思われるコップが洗われて、キッチンの水切り場に置かれていたこと。足場にした台に残っている足跡の不自然さ―を4人にも話した。


 「山下さんの着用している衣類の乱れが激しかったです。これは犯人が首つりに見せかけるために運んだ時に衣類にしわが寄ったりしたのだと考えらます。」


「首吊りに見せかけるための細工をしたんだとしたらその時に指紋は手袋で何とかなるが、犯人の皮膚片、毛髪、何等かの痕跡が残るはずだ。だが、鑑識の話だとそんなものは見つかっていないぞ。」


 板倉がそういうと、イリスはニヤッと笑って返した。


「はい、なので私は犯人は『自分の痕跡を残さない、あるいは消すことができる能力』を持っているという仮説を立てました。これなら指紋や毛髪などが部屋に落ちてもそれを消すことができます。」


 「もしそうなら、能力を持っていない私は犯人ではありませんよね?」


管理人の上野さんが言った。


 「俺だって能力は持ってないぞ。」


続けて篠原さんが言った。


 「私は能力はあるけど、そんな能力じゃないわ。」


死体の気配を知ることができる川村さんが言った。


 「私だって能力は持っていません。」


西山さんも口を開いた。


 「と言っているが、どうするんだ?」


板倉がイリスに向けて言った。


「今ここで犯人がわざわざ自供しないでしょう。もちろん犯人は嘘をついているんですよ。」

 「本当にそんな能力があるのか?まだ殺人事件の決定打にはなっていないぞ。すべて憶測だ。」


「そうですね。でも私はこのマンションのゴミ捨て場でこんなものを見つけました。」

そう言って例の睡眠薬をみんなに見せた。


「これは睡眠薬です。2錠ほどですが、使用されてはいません。このパッケージを見るとわかりますが、亡くなった山下さんが服用していたものと同じです。そして山下さんは睡眠薬を飲んだと思われていましたが、飲んだあとに出る薬を個装していたゴミが見当たりませんでした。あるはずのゴミが部屋になく、睡眠薬は使われていない状態でゴミ捨て場に置かれていました。これが意味することはひとつ、山下さんは他の人が用意した睡眠薬を飲まされ、眠ったところで首を吊るされてしまったということです。」


 イリスは息を整えて続けた。


「これで自殺という可能性は限りなく0ですね。」


 板倉を含めた捜査一課3人は無言だ。納得したということだろうか。


 「そしてこの睡眠薬が捨ててあったゴミ袋の中身を鑑識の人に見てもらったんですけど、睡眠薬だけでなく、中のゴミにも指紋や皮脂、鼻水など個人を特定できるDNAが採取できるものは一切ありませんでした。普通に過ごしていて、ゴミにまで何もつかないことがあるでしょうか?これで『自分の痕跡を残さない、あるいは消すことができる能力』の仮説は間違ってないと考えられます。」


 自慢げにイリスが言うと、篠原さんがホッとしたように言った。


「そのゴミはこのマンションの敷地内で見つかったんですよね?それなら俺は犯人じゃないですよね?」


 この問いに答えたのは意外にも板倉だった。


「いや、犯行現場がこのマンションの敷地内ならば、犯行後に捨てたと考えることも可能ですね。」


「そんな・・・。」


「しかも殺人の場合は密室殺人となってしまうが、あなた、合鍵をもっているそうですね?しかも元交際相手、別れた理由は知りませんが、動機としても十分可能性はありますよ?」


 捜査一課の板倉が篠原さんを追い詰めていく。そう、俺もここまでは同じ推理をしている。だが問題はベランダで死んでいたカラスが。まだそのことはここにいる人たちに話していないが、事件を解くポイントになっていることは間違いない。それは篠原さんを犯人と特定するものなのか。それとも他の人を犯人と決定づけるものなのか、俺にはわからなかった。


 「板倉さん、篠原さんは犯人ではありませんよ。」


イリスが篠原さんと板倉の間を割って入った。


「どうしてそう言える?状況的には一番怪しいだろ。」


「よく考えてみてください。もし板倉さんが犯人であるなら、現場を自殺に見せかけ、密室にした後、その鍵をそのまま持っておくと思いますか?いくら自殺に見せかけても、私なら鍵をすぐにでも破棄しますね。しかも篠原さんの場合、合鍵のことを聞いても特に動揺していませんでした。ゴミに関して言えばこのマンションの敷地内に捨てて内部の犯行に見せかけているとも考えられますが、合鍵の存在を考えると篠原さんは犯人ではないといえるでしょう。」


 篠原さんは胸をなでおろした。


 「じゃあ犯人は管理人の上野さんか?管理人なら合鍵を持っているだろう、大家ということもあって住人である山下さんと何かトラブルがありましたか?」


板倉が次に矛先を向けたのは管理人の上野さんだ。


「ちょっと待ってください!」


上野さんが大声を上げたとき


 「それも違いますね。」


再びイリスが反論した。


「犯人は自殺に見せかけるために一切の痕跡を残さず、捨てたゴミ袋の中身ごと痕跡を消しているんですよ。万が一殺人という説が出てきても犯人が自分に辿り着かないように細工をしている人が、『合鍵』で疑われるような密室殺人を企てるでしょうか?ここまで用意周到な犯人であるならば、何人かが合鍵をもっていることも予想し、自分は疑われないようにするはずです。私の中では上野さんも犯人ではありません。」


 残るは隣人である川村さんと会社の同僚であり後輩の西山さんだ。


 「じゃあこの二人のうちのどっちかが犯人なのか?」


「はい。」


「上野さん、もう一度確認するが、警察に通報したときに鍵は玄関の靴箱の上に置かれていたんですよね?」


 板倉は犯人から外されてホッとしている上野さんにもう一度確認を取った。


「はい、間違いありません。」


「遺体発見時に鍵は部屋の中、合鍵をもつ二人は犯人ではない。じゃあどうやって密室を作り上げた?」


「ええ、密室の謎も今から説明します。そして犯人の嘘も暴きますよ。」


 川村さんと西山さんは黙ったままだ。


 「では、密室の謎について話していきましょう。」


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