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6.聞き込み③

 軽快なステップで歩くイリスを後ろから見ながら聴いた。


「それで、能力のことについて聞いたもう一つの理由はなんだ?」


 イリスはこっちを向かずに答えた。


「それはですね、この事件に能力が使われているからですよ。」


「・・・どうしてそんなことが言える?」


「現場の状況を見て何となくです。」


「何となく?憶測で推理をするなよ。・・・その能力は密室を作るためのものか?」


イリスはこちらに身体をクルッと向け、ニヤッと笑ってこう言った。


「密室を作るためのものではありません。」


「じゃあ一体何なんだ?」


「亡くなった山下さんの髪は乱れていませんでした。これは首を吊ったときに暴れていないと推測できます。しかし、衣服は乱れていました。」


「乱れていたといっても、しわが寄っていた程度だぞ?誰かに襲われたような形跡ではない。」


「ええ。そうです。だから皆さん自殺だと思ってしまったんですよ。でも私がさっき一課の人たちの前で話した自殺の違和感、これを鑑みて殺人を前提に考えてみたんです。」


 もういつものヘラヘラした口調ではない。


 「犯人は山下さんに睡眠薬を飲ませて眠らせ、首にロープをかけて吊るしたんです。身体を持ち上げたりしたときに衣服に多少乱れが生じたんでしょう。」


「・・・それなら、犯人は力持ちってことか?」


「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。」


「どういうことだ?」


「あれだけ衣服に乱れがありましたからね。犯人は頑張って山下さんをおんぶしたりしたかもしれませんよ?」


「それなら犯人の毛髪とか、手掛かりが残っていそうだが、鑑識は見つかっていないと言っていたぞ。」


「そこで能力なんですよ。」


「どういうことだ?」


「犯人はきっと、自分の痕跡を消す、もしくは残さない能力を持っているんですよ。」


「そんな能力があるのか?」


「わかりません。ただ、それ以外になんの痕跡も残さずにあの現場を作れる方法が思いつきません。日本の警察は優秀です。現場を保存して、他人の指紋や毛髪、皮膚片などが残っていないか調べたと思います。残っていなかったので、自殺と判断したんだと思います。」


 じゃあなおさら自殺だと思うが・・・。


「でもやっぱりあの台に残っていた足跡は不自然です。かかとの足跡が残っていないのはどう考えてもおかしいと思います。」


 「でも密室はどう説明する?痕跡を残さない能力持ちがいたとして、現場は密室だったんだぞ。どうやって犯人は部屋から出たんだ?」


「密室?そんなのは密室に見えるだけで意外と簡単に解けたりするんですよぉ。」


 ニヤニヤと笑ってこっちを見ている。さっきまで真面目なトーンだったのに。こいつの情緒はどうなっているんだ。


 「じゃあお前はあの密室が解けたんだな?教えろよ。」


「まだ70%です。残りの30%が埋まるまでは話さないでーす。」


「何だと?」


 めったに怒らない俺が久々にキレそうになった時。


 「着きましたね~」


 俺とイリスは山下さんの元彼が住んでいると思われる2階建てのアパートに着いた。


 「山下さんの元彼の名前を聞いていないがどうする?」


「一部屋ずつ当たっていきましょう。」


 とても効率の悪い作業に思えたが、6部屋ずつの2階建てアパートで空き部屋が半分くらいあったため、そこまで手間ではなさそうだ。


 インターホンを鳴らし、住人に山下さんのことを知っているかを聞いて回った。今朝の事件で警察が来ていたこともあり、山下さんが亡くなったことは知っていたが、直接の知り合いは少なそうだ。 


 202号室に住む篠原という人を訪問すると、若い青年が出てきた。イリスが出しゃばらないようにガードしながら俺は聞いた。


 「突然すみません。私たち、警察のものですが、手前のマンションに住んでいる山下さんはご存じですか?」


 「え、ええ。知っています。」


「もしかして、山下さんと交際されていた方ですか?」


「・・・そうです。」


「山下さんが今朝自室で亡くなったのはご存じですか?」


「・・・はい、朝から警察の人が前のマンションにたくさんいて、小耳に挟みました。」


「そうですか。少しお話をお聞きしたいのですがよろしいですか?」


そう聞くと、男は震えた声で言った。


「な、なんでしょうか・・・?」


「交際していた山下さんとはなぜ分かれたのですか?」


「正直、鬱陶しくなったんですよ。向こうが結婚しようって言い寄ってきて・・・俺はまだ結婚

するつもりはないって言ったら喧嘩しちゃって。向こうは結婚する気はないなら別れるって言っ

て、そこから会うことはなくなりました。」


 俺が篠原さんの話のメモを取っていると、イリスはドアの隙間から玄関を除き、靴箱の上に置かれているものを指さして言った。


「それはなんの鍵ですかー?」


 イリスが指さした方向には2つの鍵がまとまったリングが一つと、ストラップも何もついていない鍵が一つ置かれていた。


 「・・・家の鍵ですよ。あと、こっちはあおい・・・山下さんの家の合鍵です。」


 二つの鍵がまとまったリングの方はこの家の鍵と、自転車の鍵のようだ。それより、もう一つの鍵は、亡くなった山下さんの家の鍵だと言った。


 「別れたのはいつですか?」


イリスが無神経に聞いた。そういうデリケートな話はもう少しオブラートに包んで聞いてほしいものだ。


「2週間くらい前です。」


「まだ合鍵をお持ちなんですね?」


「単純に返す機会がなかっただけですよ。」


「ふーん。」


棒読みを超えた無関心トーンで返事をし、それ以降は何も聞かなかった。


 「あの、失礼ですが、篠原さんは何か能力はお持ちですか?」


「能力?俺は持っていないですよ。両親ともに田舎育ちで、俺自身も社会人になってからこっちに来たので。」


「そうですか。一つ確認したいのですが、篠原さんは昨夜の2~3時ごろは何をしていましたか?」


 この質問をした途端、篠原さんの顔は警戒の表情を浮かべた。殺人事件かもしれないことすら言っていないが、今の質問である程度悟ってしまったようだ。


 「あいつ、殺されたんですか?」


「いや、まだそう決まったわけではありません。ただ、色んな人に聴いていることなので。」


 刑事ドラマでよく聞くアリバイ質問の常套句をまさか自分が言うとは思わなかった。


 「・・・夜2時は寝ていましたよ。一人暮らしなので証人はいません。」


 篠原さんがそう言うと、イリスは俺の袖を無理やり引っ張りながら


「さあ、先輩もう行きましょう。お騒がせしましたー。」


と言って篠原から遠ざかった。


 「え?いや、まだ聞きたいことが・・・」


俺の抵抗も虚しく、イリスはグイグイ俺を引っ張って篠原さんがいたアパートをあとにした。篠原さんも徐々に離れていく俺たちにポカンとしながら眺めていた。


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