5.聞き込み②
203号室に着いた。表札には「西山」と書いてある。
イリスが出しゃばってインターホンを押そうとするのを阻止して俺がインターホンを押そうとしたその時―
ガチャッ!
「うわっ!ビックリした!!」
玄関のドアが開き、若いスーツ姿の女性が出てきて俺に気づき、目を丸くして驚いていた。女性の髪は黒くて長く、少し丸顔だ。身長は160cmくらいだろうか。
「ああ、すみません。うちの上司の顔怖いですよね。さぞビックリしたでしょう?」
「俺の顔じゃないだろ!」
イリスにそういうと
「あ、いや玄関前に人が立っていたので・・・。それで、どちら様でしょうか?」
ほら見ろ。俺の顔のせいじゃない。俺の顔は怖くない・・・はず。
「申し遅れました。警察の者ですが、ちょっとお話聞いてもよろしいでしょうか?亡くなった山下さんのことで。」
「さっきも刑事さんに話しましたけど・・・。それに私もう出社しなきゃ。」
「すみません。もう少しお話を聴きたくて、お時間は取らせません。」
「・・・。じゃあ歩きながらでもいいでしょうか?」
「わかりました。」
西山さんは下へ降りる階段に向かって歩き始めた。
「それで、私に何が聴きたいんですか?」
「亡くなった505号室の山下さんはあなたの会社の同僚ですよね?」
「ええ、先輩です。」
「どのような人でしたか?」
「先ほどの刑事さんにも話しましたが、上司には気に入られていましたよ。仕事ができるような感じの人でしたから。」
「仕事ができるような感じの人?」
「はい、大体の仕事は後輩に押し付けて、その成果をさも自分がやったかのように上司に報告する人でしたから。そのくせ、少しミスをしただけで裏で暴力を振るわれました。後輩からは嫌われていましたよ。正直、亡くなってホッとしています。」
「・・・そうですか。その山下さんですが、最近何か変わった様子はありませんでしたか?」
「そうですね・・・。ちょっと前に恋人に振られたと言って、私たちに当たり散らしていましたけど、つい1週間ほど前にいい感じになりそうな人と出会ったって浮かれていました。」
「別れた恋人というのは裏のアパートに住んでいる人ですか?」
「ええ、そうです。まだ住んでいるかはわかりません。二人が付き合っていた頃にそう言っていたので。」
「その人の名前はご存じですか?」
「確か篠原・・・だったような?」
ここまで話したところでマンション門を出た。
「では、私はこれで。会社に行きますので。」
まだ、聴きたいことがある。引き止めなければ。
「もう一つ聴きたいことがあるんですが、その、いい感じになりそうな人については何か言っていましたか?」
「うーん、かなりのイケメンと言っていたことぐらいしか・・・。でも。」
「でも、なんですか?」
「本当に自殺なのかなって、私たちにわざわざイケメンと付き合えそうって自慢してくるんですよ?別れた直後ならまだしも・・・。」
なるほど、傍からみれば浮かれているように見える山下さんの自殺に疑問を持っているのか。まだ他殺の線でも調べていることは言わない方がよさそうだな。
「そうですか。わかりました。ご協力・・・」
ご協力ありがとうございました。と言おうとしたその時―
「最後に一ついいですかー!?」
イリスが西山さんにグッと近づいて言った。今までおとなしくしていたのに、また何か怒らせることを聴くんじゃないだろうな・・・。
イリスを睨む俺を見向きもしないで西山さんに聴いた。
「西山さんは何か能力はありますか?」
「え・・・?」
「能力ですよ。古くからのこの町の住人が持っている能力。」
「いえ、私は持っていません。出身もここじゃありませんし。」
「そうですか・・・残念。」
能力の話でこれ以上ないくらいへこむイリスを西山さんは怪訝な目で見ていた。わかるぞ、その気持ち。
「もういいですか?出社しますので。」
面倒くさそうに俺たちに言った。
「ええ。すみません、お手間を取らせてしまって。ご協力ありがとうございました。」
そういうと、俺たちに軽く会釈をして駅の方に歩いて行った。
「どうして能力のこと聴いたんだ?」
「決まっているじゃないですかー。容疑者候補だからですよ!」
「彼女が容疑者候補なのか?」
「もちろん。山下さんの会社の部下で普段から嫌がらせを受けていたんですよ。」
「確かにな・・・。でもそれなら管理人の時は能力について聞かなかったじゃないか。お前が怒らせたのもあるが。」
「管理人さんは30代でこの町に来てって言っていたので能力は持ってないですね。」
「それは嘘かもしれないだろ?」
「役所に行けばあの人が越してきたのかどうかすぐ調べられますよ。そんな簡単に見破られる嘘はつかないと思いますよ。」
なるほど。一理あるな。
イリスがニンマリと笑ってこちらを見ながら
「能力について聞いたのはもう一つ理由があるんですけどね。」
と言った。
「なんだその理由は?」
「まあ、それは元彼のアパートに向かいながら話しますよ。次の容疑者候補ですからね。」
そう言ってイリスはマンションの裏のアパートに向かっていった。