11.解決編③
しかしそこにあったのは・・・。
木彫りの鳥の置物だった。ちょうどカラスくらいの大きさの置物だ。
「な・・・・。これはなに?」
あっけらかんとする川村さん、対してイリスはさっきまでの硬い表情が崩れ、口角が上がっている。
「おい、イリス。俺にはわけが分からん。説明しろ。」
状況が呑み込めず、イリスに聴いた。
「能力の偽装を証明する物的証拠がなかったので、言質をとるしかないと考えてカマをかけてみたんです。本当に能力が嘘でないのなら、ここにあるのがカラスの死体ではないことはわかるはずですからね。ちなみにこの鳥の置物はこの部屋の寝室に置いてあった山下さんのものです。」
川村さんは膝から崩れ落ち、何も言わなくなった。
「川村さんは何らかの方法で山下さんを川村さんの自室である506号室に誘い、睡眠薬入りの飲み物を飲ました。山下さんが寝てしまった隙に、山下さんが持っていた鍵を使って505号室に入り、自殺に見せかける細工をした。山下さんはたまたま睡眠薬を持っており、それを使用したと思わせるために薬の一部を取り除き、コップも使用したように見せた。もし山下さんが睡眠薬を持っていなかったら、山下さんを眠らせるために使った睡眠薬を置いていったのでしょう。自殺の細工がし終わったら部屋を出て山下さんの鍵を使って施錠し、能力を偽って管理人さんを呼んだ。そして遺体を発見させた。こんなところでしょう。」
川村さんはゆっくりとイリスの方を向いて小さな声を漏らした.
「あの時、ドラッグストアに行くんじゃなかった・・・。」
川村さんの唯一の失敗はあの時廊下で鉢合わせたことだ。そう思っていたが、イリスが返した言葉は意外だった。
「私は最初からあなたが能力を偽っているんじゃないかと思っていましたよ。」
「え・・・。」
「私と先輩が一番最初に話を聞きにいったとき、あなたは自分の部屋にいましたよね?まだ山下さんの遺体は505号室から運ばれていなかった、つまり川村さんから近い位置にあったのにも関わらず、あなたは私たちの質問に答えていた。その時点で能力を偽装しきれていないんですよ。」
川村さんは肩を落とした。
捜査一課の板倉が川村さんに近づいた。
「署までご同行願えますか?」
川村さんは黙ってうなずくと一課の野口と松山が川村さんを連れて行った。
「今回は犯人逮捕に免じて許してやるが、これからは勝手な行動はするなよ。すぐ上に報告してやるからな。」
そう言って板倉は部屋を出た。
「さて、帰りますかー!といってもまだ11時なので出社ですけど。」
「あ、ああ。」
「あ、上野さん、西山さん、篠原さん、ご協力ありがとうございましたー。さよーなら!」
俺も一礼をしてイリスと部屋を出た。
これは後から聞いた話だが、山下さんを殺した川村さんの動機は嫉妬だそうだ。山下さんが篠原さんと別れたあと、いい感じになっていた男性はホストであり、川村さんも狙っていたそうだ。たまたま山下さんとその男性が仲良く歩いている姿を目撃して今回の犯行を計画したそうだ。
部屋を出て、署に向かうために車を発進させた。
「なあイリス。お前は確かに厄介で面倒な後輩だが、自殺で片付けられていた事件を暴き、犯人まで特定した。その推理力はすごいと思った。そんな推理力を持っているのにどうして俺がいるような窓際にとばされてきたんだ?多少面倒でも事件を解決するために必要とされなかったのか?」
イリスは慎重な面持ちで言った。
「私、えん罪事件を起こしちゃったんですよ。事件を推理して犯人を見つけたんですけど、後からその人が犯人じゃない決定的な証拠が出ちゃって・・・。それでこっちに来ました。」
「そうか・・・。」
入って一、二年の新人刑事がえん罪を起こしてしまったのなら警察の中で話題になってそうだが、そんな話は聞いたことがない。それとも俺のいる窓際までは届いていないのだろうか。
「ま、過ぎちゃったことは仕方ないですよー。早く署に行きましょう!仕事仕事♪」
イリスはいつものように間の抜けた口調に戻っている。事件に向き合い、推理を披露しているときは冷静で、真面目な口調だった。
どっちのイリスが本当なんだろうか・・・。
後部座席に座るイリスをミラー越しに見ながら後輩刑事の二面性を考えた。
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