10.解決編②
「犯行の手順としては、犯人は自分が持っている睡眠薬で山下さんを眠らせてから自殺に見えるようにロープで首を吊った、ここまではいいですね?その後、犯人は”山下さんが持っていた505号室の鍵をもって部屋の外にでて、鍵を閉めた”んです。」
これに俺は反論した。
「それじゃあ上野さんが鍵を見つけたというのはどうなる?山下さんの部屋の鍵をもって外に出た場合、部屋の中に鍵はなくなる。上野さんは発見できないじゃないか?」
「そんなことはないですよ。上野さんが鍵を発見したのは警察に通報した後、遺体を発見してから通報し終わるまで505号室の玄関は空いていました。そのすきに犯人は靴箱の上に鍵をおいたんです。」
「そんな・・・。」
「犯人は山下さんを殺害後、その部屋の鍵で密室を作り上げ、山下さんが死んでいるかもしれないと騒ぎ、管理人さんに505号室を開けさせたんです。」
「じゃあ犯人は・・・」
「犯人はもう一人の第一発見者、川村さん、あなたです!」
イリスは川村さんを指さして力強く言った。
川村さんはしばらく無言だったが、口を開いた。
「どうして私が犯人なんですか?私には能力があって、それで今回の事件がわかったんですよ?」
「犯人がついていた嘘というのは、能力の偽装です。川村さん、あなたは『死体の気配を感じることができる』という能力をでっちあげて、管理人さんに遺体を発見させたのでしょう?」
「違います!私には本当にその能力があるんです!現に、5日前に公園の草陰で野良猫が死んでいるのを能力で見つけたんですよ。警察の人にも承認してもらっています。そうですよね?刑事さん。」
川村さんは捜査一課の3人の方を見た。
「そうですね。かなり見つかりにくいところで野良猫が惨殺されていて、能力で見つけたと言っていた。」
そう板倉が言うと、川村さんはイリスの方を見て
「ほら、私の能力は『痕跡を消す』なんかじゃないわ。そして、その能力じゃないことには犯人ではありえない。犯人はそこの西山さんなんじゃないんですか?」
筋の通った弁明だ。しかしそれに対しイリスは淡々とした口調で言った。
「その野良猫事件、自作自演ですよね?あなたが猫を殺して発見したフリをすればいい。それにその事件は今から5日前、これが数年前のことなら能力は嘘だと思わないですよ。でもたった5日前、都合が良すぎますよ。」
川村さんは眉をひそめて少し息が上がっている。明らかに動揺している。
「それでも、私の能力が嘘だっていう証拠はないですよね?私を犯人にするなら能力偽装の証拠がないと私は納得できないわ。」
痛いところを突かれたな。能力の証明を本人以外がすることはほぼ不可能だ。
しかし、イリスは待っていましたと言わんばかりに口角をあげて言った。
「あなたは一つ、失敗をしています。あなたが先ほどドラッグストアに行くといって、私たちとこの廊下で会いましたよね?あなたは506号室、つまりあなたの部屋から出てきました。その時私と先輩は505号室を調べていました。その時、この部屋にはまだ『死体』があったんですよ。あなたは近くに死体があると、激しい頭痛に襲われると言っていましたね。しかし廊下で会った時のあなたは辛そうではなかった。」
そうか、そういうことだったのか、イリスのいう『死体』というのはカラスの死体だろう。確かにそうだ。あれだけ遺体や死体が近くにありながら、川村さんが頭痛に襲われているところを見ていない。最初に上野さんが通報した時に苦しんでいたと言っていたが、俺たちは実際目にしていない。
川村さんは驚いた顔をしながらも反論した。
「そ、それは。ちょっとずつ慣れてきたのよ。少しずつ収まっていたのよ。それに、さっき言っていた『死体』も知っていたわよ!」
苦しい言い訳だが、こちらは確かな証拠はない。どうするんだ?
「あなたが出かける時まで505号室にあった『死体』についてなぜ言わなかったんですか?さらに言うと、私今、その『死体』を鑑識から借りてきてここにあるんですが、どうしてそれを言わないんですか?この『死体』についてもっと早く言及していれば、能力の信ぴょう性が増していましたよ。」
イリスは机の上の袋を指さしながら言った。
この中にカラスの死体が入っているらしい。
「・・・。」
川村さんはしばらく沈黙し、笑みを浮かべて言った。
「そこに『死体』があることは知っていたわ。ただ、犯人探しの空気で言い出せなかったのよ。それに、さっき『死体』のことを言い出さなかったのはこのマンションでたまにあることだからよ。あなたたちに言ったところで意味がないと思って言い出さなかったのよ。」
そうか、立地からかわからないが、カラスが近くで死んでいることはこのマンションではたまにあると言っていた。
さらに川村さんは続けた。
「『死体』ってカラスの死体でしょ?そこにあるのもわかるわよ。私の能力は本物だからね。」
やはり川村さんはカラスの死体だと感づいていたのか。これではまずい。このままでは『死体の気配を感じる』能力の偽装を証明できない。どうする?イリス・・・。
イリスは険しい表情を浮かべている。
すると川村さんがこちらに近づき、『死体』を包んでいた袋を持った。
「さっきからこれのせいで気分が悪いの。ここから感じる『カラスの死体』の気配のせいでね!」
そう言って袋を取った。