Interact! C.O.C
この場はガゼルとマイルズと俺の三人という、かなり奇妙な取り合わせとなった。
その三人で、近くに待機しているであろうガーディアンの仲間を探す。
「クレイ! こっちだ!」
物陰から手を振るホーミーの一人は一瞬で見つかった。
「ちょっと待っててくれるか? お前らがどういった人間なのか説明をして、警戒を解いておく」
「あぁ」
意外にもガゼルが返事をしてくれた。
厳密に言えば、ガーディアンのホーミーに対してマイルズの説明は不要だが、そんなことはどうだっていい。重要なのはガゼルに対してついた嘘の口裏を合わせておくことだ。
「ホーミー、手短に話すから聞いてくれ」
「お疲れさん、リーダー。あれか?」
「あぁ。ガゼルって通り名のドラッグディーラーだ。それもC.O.Cのな」
ホーミーはマジか、と短く返したが、時間がないのを理解してくれているのですぐ黙る。
「それで、B.K.Bと名乗るわけにはいかねぇからな。セット名は秘密にしてイングルウッドのブラッズって事にしてる。それを他のホーミーたちにもメールなり何なりで連絡しておいてくれないか。今から合流する」
「分かった、任せておけ。先に車に戻って伝えておく。出来るだけゆっくり歩いて来い」
「あぁ」
ホーミーは走っていった。これでひとまず問題はないだろう。
マイルズとガゼルの元へ戻り、車が停めてあるマイルズの家へと向かい始めた。
「マイルズ、お前の仲間も二人いただろう。アイツらも連れていくか?」
「あー、まだ家にいたらな。出発は少し待ってくれよ。部屋にクスリを入れてくる。こんなに持ち歩いてたらヒヤヒヤしちまうぜ」
「それ以上の量を俺は毎日持ち歩いて捌いてるんだがな」
売人であるガゼルの皮肉は痛烈だ。
「仕事にしてんのと、使うために持ってんのとではわけが違うっつぅの! あんまり舐めたこと言ってると友達無くすぜ?」
「な、俺と友達のつもりだったのか……?」
皮肉ったはずなのに、マイルズの能天気さに何故かガゼルの方が精神的なダメージを負っている。
いや、嬉しくて震えてるだけか? きっとそうに違いない。金の事ばっかりで嫌味な奴だから本当にダチがいないんだろう。
「ガゼル、心配しなくても俺とマイルズはお前のダチだ」
「誰も心配などしてない。マイルズの方ならともかく、お前がそんなことを言うなんて、何のつもりだ?」
まぁそうなるよな。適当なおべっかを使ったってこんなもんだ。
「別に何でも。メシを一緒に食おうってんだから、仲が悪いよりはダチの方が自然だろ」
「知らねぇよ」
マイルズの家の前に到着すると、口頭で直接の連絡を回していたホーミーの働きのおかげで、すべてのガーディアンたちが車の外で待機していた。
「クレイ、無事だったか」
「何も問題はねぇ。こっちはマイルズ。俺の兄弟分らしい」
「よう! お前らも兄弟分にしてやるぜ! ははっ! ちょっと待っててくれな」
グッ、と親指を立ててニカッと笑うと、マイルズ自慢のグリルズがキラリと輝く。そのまま家に入ったので、クスリを部屋のどこかへしまいにいったのだろう。
明るくて嫌いになれないそのキャラクターに、ガーディアンたちは苦笑いだ。さっき俺と初めて会った時は感じの悪い奴かと思ったんだがな。
「それでこっちがガゼル。コンプトン・オリジナル・クリップっていうクリップスのメンバーだが、ブラッズ相手だろうと気にせず交流してくれるドラッグディーラーだ」
「知らねぇセットだ。新しいのか?」
事情など分かり切っているが、話を合わせて知らない事にしてくれている。
「そうらしい。だが、その割には大したタマでな。ブラッズのシマの中でクスリを売ってやがった。だから、俺としては仲良くなっておきたいと思ったんだよ。金さえ払えばこっちに情報も売ってくれるらしいぜ」
「そりゃ心強い。ガゼルだったか? よろしくな」
「……ふん」
「あーっと……まぁ、コイツはマイルズとは真逆と言ってもいいくらい、愛想が悪くてな。気にしないでくれ、ホーミー。今の返事はきっと、よろしくって意味だ」
ここで、クスリを部屋に隠し終えたマイルズが戻ってきた。出てくる前に一発キメてくるかとでも思ったが、気を遣って急いでくれたらしい。
「行こうぜ、兄弟!」
「もちろんだ。じゃあみんな、乗ってくれ。道案内は……マイルズ、頼めるか」
「任せとけ! とびっきりの肉を出す店に案内してやるぜ! 俺の従姉妹がやってる店でよ!」
やはり地元民であればレストランくらいは知っているようだ。マイルズの従姉妹とあれば、かなり気合の入った姉ちゃんなんだろうな。
俺がバンの運転席、マイルズが助手席、広い後部座席にはホーミーたちとガゼルがわらわらと乗り込んだ。
無遠慮にマイルズがジョイントへと火を灯す。
何で今なんだよ。外を歩いてるときにでも吸えるチャンスはあっただろうが。
ただ、この程度でいちいち目くじらなんか立てていられないので、俺は無言で助手席側のパワーウインドウを下ろして煙を逃がした。
……
「いらっしゃい! ……ってなんだ、マイルズかい。冷やかしなら帰んな」
予想通りというか、恰幅の良いドレッドヘアの女が俺たちを出迎えてくれた。既婚かは知らないが、一言で言えば肝っ玉母さんという言葉がピッタリの強そうな女だ。
ただし、マイルズに関してはあまり歓迎はされていないようだが。
「そう言うなよ、シェリル! ダチがこんなにたくさん食いに来てんだぜ!」
店は個人経営のレストランらしく、昔のダイナーのような、バスを店に改造した形だった。
貼ってあるメニュー表にはステーキやポテト、コーラなど、お馴染みのものの名前が並んでいる。
「はぁん? 金を払うなら良いんだけどねぇ」
マイルズは金払いが悪いのか?
成金チックなライフスタイルからは想像もできないが、身内に甘えて無銭飲食をしているのだろうか。
「ご主人の許可が下りたところで、席に座ろうぜ」
「従姉妹なんだろ? 仲が良いようには見えねぇな」
「馬鹿言えよ、兄弟! 俺とシェリルは仲良しだぜ!」
キッチンの奥に引っ込んでいたシェリルから「そんなことはないよ!」などという返答が飛んできている。
マイルズの言う通り、なんだかんだで仲が良いのかもしれない。本当に嫌いなら完全に無視されるだろうからな。
「肉を食いに来たんだから、みんなハーフパウンダーくらいのステーキだよな?」
「勝手に決めるなと言いたいところだが、俺はそれで構わないぜ」
ガゼルがそう返し、俺たちもほとんどが頷いた。
ホーミーの中の二人だけがそれを拒否し、ハンバーグやシーフードの注文をしている。もちろん自由だ。
店内に他の客は見当たらない。ラッシュの時間帯では無いにしても、ガラガラすぎやしないだろうか。
「あいよっ、ちょっと待ってな!」
顔だけを出し、俺たちの注文を受けたシェリルがキッチンの奥にまた消えた。
「一人でやってる店なのか? 大したもんだな」
「彼女に誰かを雇う金なんてねぇだろうさ」
「美味い肉を出すという割に、客がいないな。これじゃ儲かりそうにねぇが。まさか不味いんじゃねぇだろうな」
俺とマイルズの会話に、横からガゼルがはっきりと言った。
「あぁー? 味は俺が保証するっての。不味いなんて言ったら俺がぶっ飛ばす! というより、その前にシェリルに殺されるぞ!」
「それより、儲かってないならマイルズが融資してやれよ」
「それは嫌だな! 商売は自己責任でやるから楽しいんだろうが!」
親族だったら助け合う、という気持ちはないらしい。
まぁ、たとえ親子でも訴訟にまで進むような国、個人主義のアメリカ人らしい考え方ではあるがな。
俺たちB.K.Bはそうありたくないものだ。
「ほーれ、お待ちどおさま!」
「来た来た!」
人数が多いので俺たちはテーブルを2つ使っており、シェリルは全員分を運んでくるのに八回もキッチンとホールを往復した。料理が大きいので一人分ずつしか運んで来れないのだ。
ハーフパウンダーステーキは、熱々の鉄板に香ばしいバーベキューソースがかかっているだけのシンプルなものだ。
これを不味くするという方が難しいので、ひとまず味は安心して良いだろう。
ホーミーが注文したハンバーグとシーフードフライにも、特におかしな点は見当たらない。
ナイフで分厚い牛肉をカットし、フォークを突き刺した。肉汁などは出ない、強めに焼いてあるウェルダンだ。噛みつくと、なかなかに弾力があって柔らかい肉とは言えない。
だが、まずいかと言われれば別に普通だ。ソースも市販のバーベキューソースだろう。だからといって客足が遠のくというほどではない。
「ん、堅いが……悪くねぇな」
ガゼルも俺と似たような感想を述べている。ホーミーも同じ意見のようだ。
別のメニューを頼んだホーミーも、特に何も言わない。
「うんめぇ! このガチガチに焼いた肉がたまんねぇのよ!」
マイルズはギリギリと前歯を左右にすり合わせて肉を切る。グリルズがいちいち眩しく輝いた。
「ほら、サービスだよ!」
どん、とフレンチフライの大皿を置くシェリル。文字通り大盤振る舞いだ。
「ひゃっほう! ありがとよ!」
「シェリル、俺はますます不思議だな。ちゃんとした料理に、肝っ玉の据わった感じの良い女店主、そしてこんな気の利いたサービス。なんで、ここまで店がガラガラなんだ? 人気店になってもおかしくないが、まさか料金がとんでもなく高いとか?」
「それは、そこに座ってる馬鹿のせいだよ!」
馬鹿、というのは従兄弟のマイルズで間違いないだろう。
本人はホクホクのフレンチフライを幸せそうに食べて、その言葉を無視しているが。
「以前、店の中でドンパチやりやがって、怖がった客のほとんどが寄り付かなくなっちまったのさ! あたしの従兄弟だから安心しなって言ったんだけど、後の祭りだよ!」
「ありゃ、ウチのシマを汚したネズミだったから殺しただけだぜ」
「なんだ、やるときはやるんだな」
「ガゼル! 俺を何だと思ってんだよ!? ここいらを仕切る、ノース・コンプトン・パイルのボスとは俺様の事だぜ!」
そういえば、マイルズのセット名は聞いていなかったな。ギャングタグは壁などに書いてあったが、あまり目にとめていなかった。
「何? お前、トップなのか。驚きだぜ」
「どういう意味だよ、てめぇ!」
「別に何も?」
チャンスだ。コンプトン・オリジナル・クリップのボス……たしかサーガとメイソンさんが殺した男女の話ではリッキーだったか。その話を聞けるかもしれない。
「よう、ガゼル。お前のところのプレジデントはどんな人間なんだ?」
「どんな、ってのはどういう意味だ? マイルズみたいにおちゃらけていないってのは言えるぜ」
「俺はいたって真面目だっての!」
マイルズの非難も物ともせず、ガゼルは続ける。
「名前はリッキーだ。どちらかと言えば小柄なんだが、喧嘩も強いし頭も切れる。あとは、そうだな……恐ろしいな」
「恐ろしい?」
「敵には容赦しないし、キレたら手が付けられねぇ。俺が怖いと感じる人間はアイツくらいなもんだ」
なるほどな。ボスの器なのかはさておき、危険人物なのは間違いないようだ。
こりゃ、今回のガーディアンの仕事の内、リッキーの顔写真を撮ってこい、という指示はかなり骨が折れそうだな。
しかし最悪、テリトリーとアジトの場所だけでも割り出して帰らないと、サーガにどやされちまうぜ。
「ほう! 面白そうじゃねぇか! 俺らはソイツに会えないのか?」
「マイルズ、正気か?」
マイルズのイカれた発言も、コイツの性格やプレジデントという立場からすると不思議なものではないか。




