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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Breakthrough! Gangsta

 四人の男が車に揺られている。


 運転はメイソンさん。助手席にヒットマンの男。後部座席に俺とサーガがいた。車両はメイソンさんの整備工場が所有するフォード製のピックアップトラックだ。


 俺が運転を申し出たが、運転といえば俺だろう、とよく意味が分からない理由で断られた。現役時代はメイソンさんが運転を引き受けることが多かったのだろうか。

 助手席のヒットマンは時折道順の指示を出し、時折傷が痛むのか車の揺れと同時に小さく呻いている。

 俺の横にいるサーガは聖書に目を落としつつタバコをふかし、俺は目の前にいるヒットマンから目を離さないように警戒していた。


 何かやらかすという可能性は低いが、彼はあくまでも協力者という立場であり、味方ではない。

 信頼しているかと言われれば答えはノーだ。サーガのように余裕綽々で、警戒心の欠片もないような態度は、小心者の俺には取れなかった。


「クレイ、いつまで緊張してるんだい。リラックスリラックス」


 そんな俺の心の内を見透かしたのか、メイソンさんがバックミラー越しに笑顔を見せながらそんなことを言ってきた。


「そりゃ緊張もするさ。一応、今から会うのは敵なんだからな。それに、この男も本当のことを言って、しかるべき場所に案内してくれるのか分かったもんじゃない」


「もし彼が俺たちを全く違う場所におびき出して、多くの仲間で取り囲んで袋叩きにしたらお終いだね」


「そういうことだ」


 つっと俺の背筋に嫌な汗が流れる。


「待て……俺は、そんなことをするつもりはない。信用しろと言っても無理な話だろうが、大きい金をくれるならB.K.Bにつく。それだけだ……」


「コイツが騙してるなら、その場所についた時の空気感で一発でわかる。その時は真っ先にコイツを殺すだけだ。俺の持論では、金に目が眩む奴に命を失う覚悟なんかねぇよ」


 サーガは鼻で笑いながらそう言った。


「悔しいが、返す言葉もないな。命は惜しい。だが、金も大事だ」


「そんなに金が要るのか? どうして?」


「しのぎがなくなったんだから当然だろう?」


 俺の質問に、ヒットマンの男は怪訝そうな顔をした。


「再就職ってわけか。だが奴さんに提示されてた額じゃ、ギャングの頃の稼ぎに追いつかねぇだろ。明日の飯も食えなかったってことかよ」


「待て、十分な額だぞ。B.K.Bはそんなに好待遇なのか? 素直に驚きなんだが。ギャングスタはどこの連中も、その日暮らしをしているものだと思っていた」


「ふん。そういう奴も中にはいるが、うちはシマを拡大して、取引先も多いからな。ギャングセットとしては盤石だと思うぞ」


 これは俺ではなく、サーガだ。

 意外にも、コイツにそんな話までしてやるんだな。まぁ、聞かせたところでどうということはないが。


「成金ギャングセットか。まるでマフィアだな」


「誉め言葉として受け取っておいてやる。ウチだって昔は相当に苦労してきたからな。シマさえも失ったりよ」


「あー。そんなこともあったね。みんな這う這うの体で逃げ出して、ロングビーチに身を寄せたりね」


 E.T.同士で昔話に花咲きそうだが、これは俺が無理やり制止した。


「ちょっと待て。これはもう、敵地内じゃないのか?」


 既にワッツ地区には入っていたが、車の左右を見渡すとクリップスのギャングタグが散見し始めたからだ。

 こんな場所で昔話なんて聞いていられるほど俺の肝は据わってないぞ。


「あぁ、ここはもうウチのシマだ。元、ウエスト・ワッツ・クリップのテリトリーということだな」


「とはいえもう壊滅してんだぞ、クレイ。ビビってんじゃねぇ」


「アンタらみたいに緩みまくってるよりはマシだろ……」


 そこから裏通りに入り、また表通りに抜け、また裏通りに入り、と複雑な道のりをヒットマンが指示し、メイソンさんがそれに従って車を走らせた。

 わざわざ妙なルートを通らせているようにしか感じられず、俺の不安は膨らむばかりだ。


「そこだな。そのリカーショップ」


「潰れてるじゃん。ここがアジトってわけかい?」


 最終的に到着したのは、狭い路地の角に建っている酒屋だった。看板は消え、コンクリートの壁には穴が開き、窓ガラスは割れている。


「いや、アジトとしては利用してない。単なる待ち合わせ場所だ。ほら」


 ヒットマンが頭上を指さした。道を横断するように張られた電線に、靴ひもでつなげられた二足のコンバースオールスターが引っ掛かっている。

 ギャングやヤクの売人などがよく用いる目印だ。


「ガイ、降りるの?」


「もちろんだ。お前も好きにしろ、コリー」


 メイソンさんとサーガのやりとりがあり、俺以外の三人はさっさと車を降りて行ってしまった。

 俺も腰にある銃を確かめると、慌ててそれに続く。


「お、おい、車は見張らなくていいのかよ」


「いいよいいよ。車なんかより仲間の方が大事だろ」


 メイソンさんが俺にそう答える。

 敵地だというのに、こんなところで車を奪われたら逃げ場を失う。もっと緊張感を持ってほしいものだ。


「まだ到着していないようだ。俺は予定通りここで待つが、お前たちはどうするつもりだ?」


 埃っぽい酒屋の中。家具などは一切置かれておらず、ヒットマンの男は崩れかけのコンクリートの壁にもたれかかりながらそう言った。


「俺たちもここでいい。俺の首を取った時の協力者って話でいいだろ」


 サーガが返す。

 俺たちはひと目でブラッズとは分からないよう、黒っぽい服装で合わせていた。

 口元にも黒いペイズリー柄のバンダナ。いつもは真っ赤だから妙な気分だ。


「ガイ、なんか作戦はあるの?」


「最初だけこの鉄砲玉と雇い主に話してもらうが、その後は基本的に俺が話すつもりでいる。能天気に金を現ナマで用意してたらソイツもいただいてしまえ。ボーナスだ、鉄砲玉」


「ありがたく頂戴しよう」


「俺からお前への予定報酬はまだ銀行の中だ。裏切ったりしたら渡せねぇから注意しろよ? そんで、コリーとクレイには万が一の時の護衛を。相手方が四人も五人も揃えて来なけりゃいいんだが」


 そうなると五分五分の勝負になり、全員が危険だ。

 ただ、金の受け渡しは目立たないよう、一人か二人で来るんじゃないかとサーガは踏んでいる。

 もし多ければ、この男を始末しに来たとみても間違いではないだろう。


「サーガ、俺とメイソンさんは銃を出しておいていいのか?」


「構わねぇ。ただし、やり合うまでは銃口は下に向けておけ」


「手筈は?」


 さらに俺は質問を重ねる。今聞いたばかりだが、もう一度話してもらい、この場の全員が作戦を完全に理解しておくことが重要だ。


「まずは鉄砲玉と俺が話す。話の後、もしくは金の受け取りがあればその後、相手が背を向けて退室しようとしたら不意打ちで仕留めろ。ただし、最低でも一人は生かしておく必要がある。それはメインで話してきた人間にする。ソイツだけは俺が腕や脚を撃つ」


「いきなり攻撃された場合は?」


「即座に撃ち返せ。何か遮蔽物になるものが欲しいが、何もねぇな。総力戦だ」


 元が酒屋なので木箱や棚くらいあっても良さそうだが、室内は完全に更地だ。ただし、俺たち四人は室内の四隅に一人ずつ立っているので、入り口に向けて四方から銃弾が殺到する分、相手のほうが不利だろう。


 そして、いよいよその時がやってきた。

 酒屋の表で止まるエンジン音。車のドアが開閉される音が二回。つまり、最低でも二人組ということだ。


「来たな。油断するなよ」


「よく言うぜ」


 サーガの号令に俺は悪態をついた。これまで一番、緊張感の欠片も持っていなかった男の言う台詞ではないだろう。


 入ってきたのは予想通り二人組。レイダースのフットボールシャツを着た男と、ドジャースのベースボールシャツを着た女だった。どこのギャングかは不明だ。

 しかし、女が来るとは意外だな。


「……なんだ? 仲間が増えたのか?」


「あぁ、さすがに一人じゃこなせない仕事だったから、こいつらに手を貸してもらった。相手はあのB.K.Bだからな」


 男の方が怪訝そうに言い、ヒットマンが返答する。


「ふん、金は変わらねぇぞ。取り分が減ったとか言って喚くなよ。四分の一になるのを承知でやったんだろ。で、確かにプレジデントは殺したんだな?」


 おそらくサーガの顔はこの男に割れていない。俺たちは口元にバンダナをしてはいるが、もしなくても関係なかったのかもしれないな。


 サーガがヒットマンに目配せをした。その意味は「代われ」だ。


「証拠を出せと言われても何もないが、近日中にB.K.B内が混乱してるのは伝わってくるはずだぜ。奴の死体の写真でも持って来いって言うつもりか?」


「何を勝手にしゃべってんだ、てめぇ」


「あぁ? てめぇ、英語がわからねぇのか?」


 サーガにバトンタッチすると、相手の男は急に機嫌を損ねた。

 知らない人間と関わるのをかなり警戒している。


「なめた口利いてるとぶっ殺すぞ」


「この状況でか? 先に吹き飛ぶのはてめぇとそっちの女の身体だと思うが。無駄な虚勢張ってないで、さっさと金を出せ。俺らはそれ目当てでわざわざワッツ地区くんだりまで出張ってんだぞ」


 一瞬、本当に一瞬だが、男に焦りの色が見えた。


 これは金を用意しておらず、サーガの死の言質が取れたらヒットマンを始末するためにここへやってきたのではないだろうか。

 そのつもりだったがヒットマン側に知らない仲間がいた、という状況に見える。


「……金は、この場にはない」


「そうか。コリー」


「ん? 女の方でいい?」


 サーガが頷くと同時に、メイソンさんのピストルは火を噴いていた。

 驚く二人組。だが、女は即座に撃ち倒され、男の方が腰の銃を手にかけようとする。


 パンッ!


 だが、それはサーガが阻止した。

 男は右腕を撃たれ、持とうとしていた拳銃を取り落とす。


「くそっ! てめぇら、よくもジェシカを!」


「死んでないよ。早くしないと死ぬけどね」


 メイソンさんはそう言いながら、女と男の両方の銃を回収した。


「ジェシカ! おい、返事しろ! ジェシカ!」


「心配してる暇があったら、さっさと吐け。お前はこの男を殺しに来たんだろう? 後金は払う気なんてなかった。そうだな?」


「そ、そうだよ! でもそれは別に俺の意思じゃねぇ! それより早くジェシカを病院に連れて行ってやらねぇと!」


 女に駆け寄ろうとする男に対し、四つの銃口が向けられてそれを強制停止させる。

 逃げ出したり、銃を取り戻そうとしないだけの頭はあるようだ。


 かなり取り乱しているので、女はこの男の恋人か、あるいは姉や妹、従姉妹などの家族に当たる大事な人間なのだろう。そんな奴を仕事に同行させている方が悪いのだが。


「正直に話せばすぐに開放してやる。さっさと病院に行きたけりゃ全部吐いてしまうんだな。てめぇの所属するセット名と、上の人間、つまりこの仕事を与えた奴の名前と居場所を差し出せ」


「くそっ! 騙し討ちしたくせに、その言葉は信用しろってのか……!」


「どの口が言ってやがるんだ? 騙してたのはお前らも同じなはずだぞ。金も持ってきてねぇしよ。お前が話さねぇってんなら、今すぐその足りねぇ脳みそをコイツで撃ち抜いて、あっちの虫の息の女から聞くまでだ。聞き出した後はこのまま置いていってやるから、仲良く死ねるぞ」


 サーガの銃口が宣言通りに男の顔面に向けられる。殺傷能力が高いとは言えない拳銃であろうと、頭に何発も入れられれば即死だ。


「ま、待て! 奴らのセット名は知らねぇ! これはマジだ!」


「あぁ? 奴ら? てめぇのセットとはまた別枠ってことかよ。お前はどこの人間だ?」


「畜生……! 俺はコンプトンのセットだよ! コンプトン・オリジナル・クリップだ!」


「聞かねぇ名だな。新しいとこか?」


 ワッツの人間ではないらしい。サーガも知らないのであれば新興のギャング組織だろう。


「よそのセットがてめぇにこの仕事をやらせてる、でいいんだな?」


「そうだが……ここからの話は俺がチンコロしたっていうのは無しだぞ! 殺されちまう!」


「話さなきゃ今すぐ死ぬだけだ。それでそのセットがわからねぇなら、てめぇのところのプレジデントの名を教えろ。大方、そいつもそのセットとつながってんだろ?」


「それは知らねぇが……ウチのリーダーはリッキーって奴だ」


 口が軽いな。女を身柄を抑えられてるのがデカいのだろうが。正直、味方にこんな奴は要らない。


「だったら、お前は個人的によそとつるんでるってことになる。俺にはお前がそこまで仕事が出来るようには見えねぇな」


 俺も同感だ。仕事を振ったのが別のセットだとしても、組織の上の人間から振られた仕事ではないだろうか。

 コンプトン・オリジナル・クリップというギャングが、しつこくB.K.Bを狙い続ける黒幕とつながりがある可能性は十分ある。調べてみる価値はありそうだ。

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