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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Plan! B.K.B

「は? じゃねぇよ。今言ったとおりだ。俺がシザースに俺を撃つように言い、その後は身柄を隠すように指示してある」


「い、いや、それは分かったが。なんでそんなわけのわかんねぇ事になってんだっての!」


 俺がサーガに詰め寄ろうとすると、メイソンさんに服を引っ張られた。


「落ち着けって、クレイ」


「アイツはここ最近、馬鹿な行動を繰り返してただろう。特にガーディアンに対してだが」


「……あぁ」


 馬鹿なのはいつものことだが、確かに最近の悪戯は目を瞑れないくらいには目立ってたな。


「それを利用した。奴を俺に弓引く裏切り者に仕立て上げたってことだな」


「なぜ?」


「アイツなら、俺をいきなり撃っても自然だったからだ。B.K.B内部と味方のセット内に、俺への不満があるやつがいないかを調べてる」


「じゃあ、撃たれたのは?」


 サーガがシャツをめくって腹を見せる。無傷だった。しかし、腕にはちゃんと当たっているようなので、腹の大怪我だけがフェイクだ。


「俺が弱ってるって話を広めれば、裏切り者にとってまたとないチャンスだ。大手を振ってここに乗り込んで来るだろう」


「……それを炙り出すために、こんな大がかりな芝居を打ったってのか」


「偽情報の流布は、先代のサムの時代から続く十八番だ。特に今は味方のセットも合わせるとデカい集団になっちまってるからな。一度、状況を確認しておきたかった」


 メイソンさんもうんうんと頷いている。まさか、何となく感づいていたのか。確かに、隠したいはずの重大な情報が不自然なほどに素早く広まっていた。


「それでシザースを殺すかどうか迷っているってことか。いや、命令しておいて殺すなんておかしな話じゃないか」


「まぁな。しかし、誰かに犯人の身代わりをさせるか、そのままシザースを殺すか、どちらかを選ばないとB.K.Bは返しをしなかった事になる。どちらの手が上策か。そこを考えてるところだ」


 自身の秘策の成就のために、罪のない味方を消そうっていうのかよ。悪魔め。


 その時、病室の外が騒がしくなった。見張りについていたホーミーが誰かに叫んでいるようだ。


「おい、ダメだって! ちょっと待ってろって言ったろ、ニガー!」


「今は先客がいる! 中に勝手に入るんじゃねぇ!」


 バンッ!


 それを無視し、扉が勢いよく開かれる。


 真っ赤なバンダナで口元を隠した坊主頭の男。上下はアディダスの黒いジャージ。足元は白いスタンスミスだ。ロサンゼルスではなく、どことなくニューヨークの雰囲気を感じる。

 奴はサーガの存在を確認すると、腕を後ろに回して拳銃を腰から引き抜いた。


 マジかよ。ヒットマンじゃねぇか。なんてタイミングで来やがる。


「サーガ!」


「撃て!」


 幸か不幸か、俺もメイソンさんも、そしてサーガも武装済みだ。


 パァン! パァン! パァン!


 三人からの一斉放火が男を襲う。


 逆に、男からの攻撃もサーガの顔を横をかすめた。だが、それ以上は何もできないままその場に倒れる。


「馬鹿だねぇ。俺たちの退室を待てば、大将のタマ取れたかも知れないのに」


 メイソンさんが駆け寄り、男の顔を覆っているバンダナをずらした。知らない奴だ。誰かに雇われたか。


「見張り! 何やってやがるんだ、てめぇら!」


 サーガの怒号。二人のホーミーが顔色を真っ青にして入室してきた。


「悪い、サーガ。ウチのホーミーだと思って」


「最初は普通に話してたんだが、いきなりソイツが扉を開けたんだ」


「まだ息はあるよ。何か聞き出すなら連れていきな」


 いくら拳銃とはいえ、あれだけ撃たれて生きてるとは頑丈な奴だ。


「いや、俺がこの場で尋問する。お前らは病院と警察に連絡を。面倒ごとはさっさと揉み消すに限るからよ」


 サーガがてきぱきとホーミーに指示を出した。


「さて、どこのどいつだ、お前?」


「チィ……」


 ヒットマンの男は苦しそうに舌打ちをした。急所には弾が当たっていない。しかし、だからといって大怪我を負っているのは事実なので、楽な状態ではあるまい。


「どこぞのセットの人間か?」


「……さぁな」


「クレイ、こいつの上着を脱がしてくれ」


 サーガに言われ、俺はそいつのシャツを脱がす。露わになった上半身には、胸のあたりにウエスト・ワッツ・クリップのセット名が彫り込まれていた。

 このように、ギャングメンバーはタトゥーによる割り出しが容易だ。


「ほう。壊滅してたと思ってたが、生き残りってわけか。まぁ、それなら頷ける」


「むしろ、内輪じゃなくてよかったって考えるべきかもな」


「その通りだ。とりあえずコイツは用済みだが……どうしたもんか」


 ヒットマンの男がぶるりと震える。ここでサーガが「殺す」と一言いえばそこまでだ。

 失敗したのであればそうなる覚悟はあったはずだが、いざそうなると恐怖心は簡単に拭えるものではない。


「とりあえず、雇い主だな。WWCはもうないはずだ。誰がてめぇに入れ知恵しやがった? マフィアか? それとも他のギャングセットか?」


「……知らねぇ」


「なら思い出せ」


 ベッドから降り、近寄ってきたサーガがそいつを見下ろす。

 耳をそぐか、指を折るか、サーガが何をしようというのかは知らないが、俺でさえこの場を逃げ出したいくらいだ。この男に慈悲は不要だとは思うが、痛い場面を見るだけでも耐えがたい。


「お前、ウチへの恨みは残ってるのか? それとも金でも積まれて頼まれたか?」


「……後者だ」


「金か。つまらねぇといえばそれまでだが、わかりやすくて助かるぜ」


 案外と、この男はセットを潰されたこと自体はどうでもいいと感じているのか。どこのギャングにもB.K.Bほどの忠誠心があるとは考えない方がよさそうだ。


「なら逆に、俺がいくらか積んでやろう。それで雇い主を割る気はあるか?」


「……チッ」


「サーガ、それでいいのかよ」


 なんというか、意外な判断だ。使えないのなら殺すくらいしかないと思っていたが、寝返らせようとは。


「雇い主を殺せば俺を取ろうとした奴を殺したことになるからな。それに、ソイツはいつまでもたどり着けない黒幕に近しいかもしれん」


「そういえばいたな、そんな奴。鳴りを潜めてると思ってたが、今回は無関係なんじゃないのか」


「それを調べるんだよ。大局を簡単に忘れんじゃねぇ、小僧」


 俺に対して軽い叱責を加えた後、サーガは満身創痍のヒットマンの襟を引きずるようにして立ち上がらせる。


「さて、奴さんは俺の首にいくらかけたんだ?」


「……前金で1000、成功報酬で残り1000だ」


 バキッ!


 サーガの頭突きがヒットマンの鼻っ面をへし折る。


「ぶはっ! なにしやがる! 正直に答えただろうが!」


 ヒットマンは鼻血をだらだらと流しながら涙目だ。


「悪いな。安すぎて頭にきちまった。なんだ? 俺の首が2000ドルだと? ガキの小遣い稼ぎじゃねぇんだぞ」


 B.K.Bのドンの首が2000ドルは確かに安すぎる。この辺りのブラッズやチカーノギャングの一部も味方とする大勢力のトップだぞ。100万ドルだって言われても誰も驚かないくらいの価値はあるだろうに。


「それは俺に言われても困るんだが……」


「ちぃっとは吊り上げろってんだよ。そんで? お相手側の大将首はてめぇに取れるのか? 面とか名前を知ってんのか、って意味だが」


「いや、俺が知ってるのは話を持ち掛けてきた男だけだ。そいつが仕切ってるのかどうかまではわからねぇ……」


 そこから辿っていくのはコイツに任せられないだろう。結局、その男の所在だけを聞いて、その先はこっちの仕事になるだけだ。


「ギャングか?」


「おそらく」


「なら聞く価値はあるな。二日やるからまずは傷を治せ。てめぇの仕事はその場所への案内だ」


「仕事の失敗報告をするのか? 出てこないかもしれないぞ」


「そのくらいは嘘ついて呼び出せよ。さすがに俺が死んだ、なんて話はバラまけないから、『確かにサーガを殺したが、B.K.Bは事実を隠してんだろう』とか何とか言ってよ」


 トップであるサーガが簡単に撃たれたというだけでもB.K.Bにとってはマイナスな噂が広がっているのだ。死んだという話まで広められないのは彼の言う通りだろう。


 そこまでの話になると、B.K.Bから離反するセットが急増する恐れがある。

 今の巨大な同盟は、サーガの力によるものが大きい。彼一人の肩に責任がのしかかっているという危うい状態だ。


 どうにか負担を減らしたくもあるが、他の人間にそれが任せられないのも事実。唯一、俺が他のセットとの交渉の懸け橋になってはいるが、サーガほどの影響力があるとは過信できるはずもない。


「……わかった、やってみよう。それで、金だが」


「いくら払えるかってか? そうだな、案内だけなら1000。相手が来て、俺たちと接触出来たら5000。さらに上の奴と話が出来そうなら10000だ」


「本当か……! であれば、喜んで協力しよう」


 現金な奴だ。まぁ、セットも無くなって仕事にも難儀しているんだろう。


……


 約束通り、二日の時間を与えた。サーガの根回しが効いたのか、ヒットマンの男は逮捕されず、何食わぬ顔でサーガの隣の病室に入院している。


 万全の状態までの回復は見込めなかったが、よろよろと歩くくらいは出来るほどの回復が適ったようだ。


 奴が逃げる可能性もゼロではなかった。サーガの話を信じられず、男の仕事が済んだ時点で金など受け取れずに始末されるかもしれないという葛藤もあったはずだ。


 だが、サーガはそれをさせないために自分の胸襟を開き、隣の病室をあてがった。入院治療費もB.K.B持ちにして、だ。


 俺としてはそこまでやってやる理由はないと思ったが、そのおかげもあってヒットマンの男の信用を得ることができたのであれば、やはりサーガの手腕は見事といわざるを得ない。


 ヒットマンの男が義理堅い、と見ることもできるだろう。だが俺は、金で動く人間であれば金以外を信用しないと思っている。

 サーガの行動が真摯に感じられ、金払いも良さそうだと踏んだだけに違いない。そして、それはサーガも同意見だった。


「ブラックホール。お前も行くって言いだしたのは珍しいな」


 病室。二日前と同じように、俺とサーガ、そしてメイソンさんというメンツがそろっていた。

 ただし、病室前の見張りのホーミーは手練れのウォーリアーの二人に変更されている。ヒットマンをみすみす侵入させた新入りでは役不足だとの判断だ。


「あぁ。今回は俺も弾いちゃったしね。なんとなく事の顛末が気になってさ。たまには首突っ込ませてくれよ」


「構わないが、お前はもう現役じゃねぇんだ。張り切りすぎるなよ」


「大丈夫大丈夫」


 俺としては不安なんだが。メイソンさんが傷つくことがというよりは、暴れることが。


「ところで、シザースはどうなるんだ? 無罪放免か?」


 事実、奴は無罪だ。サーガの策のために殺されてたまるか。


「今のところは保留だ。今日、鉄砲玉の案内でそれを決める。つまり、俺を狙うように指示した奴を仕留めたらシザースは放免だな。もちろん、それから先の大元の黒幕探しは別の仕事だがな」


 数日で回復したサーガが直接仇敵を討つ。周りのセットに対して、これ以上の宣伝になることはない。

 むしろプレジデントが有能すぎるせいで、B.K.Bのほかの面子が無能だと思われなければいいが。


「もしそこまでたどり着けるようなら、シザースにも頑張ってもらった甲斐があったねぇ」


 メイソンさんがお気楽なことを言っている。命を取るかどうかの話だってのに、さすがE.T.は頭のねじが外れてるぜ。


「いや、シザースを殺るってんなら、俺は永久に納得できないぞ……」


「別にてめぇの納得なんてどうでもいいんだよ。納得させるのは周りのセットと、B.K.Bの他の大多数のホーミーたちだ。仇を討つのに意味がある。仇が誰かはどうだっていいのさ」


「まぁまぁ。まずはあのヒットマンの案内に従おうよ。それで誰かに会えればもう目標は達成だからさ。会えなかったときになって初めて、替え玉とかシザースのことを話し合えばいいじゃないか」


 メイソンさんが話をまとめる。

 その通りだ。これからヒットマンを連れて向かう先で、すべてが決まる。


「おい、ちょっといいか!」


 サーガが見張りのウォーリアーを呼びつけた。一人が扉から顔を覗かせる。


「あん? どうした、サーガ」


「隣の病室にいる輩を連れてきてくれ。仕事だって伝えろ」

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