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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Gangsta Politics

「わかったわ。ボスのギャングセット……B.K.Bだったかしら。それについて嗅ぎまわってる人間がいたら知らせればいいのね。それじゃあ、付き合いのある警官にも何人か口利きしといてあげる」


 サーガの要求へのケリー議員の返答は、遊びの約束にOKを出すかのような軽いものだった。サーガが彼女の事を気楽な人物だと言っていたのも納得だ。こんな簡単にギャングと協力していいものなのか。


「助かる。あわよくば黒幕本人を特定したいが、警察や役所に訊いてくる奴がいても、それは雇われた人間だろうからな。大して期待はしちゃいねぇ」


「そうね。こちらもその者を短時間、拘束するくらいしかできないわ。あまり意味はないかもしれない。あなたに引き渡せ、は無理な話よ。口を割らせようとして殺しちゃうでしょうから」


「尋問は警察に任せる。どうせ雇い主の事なんて知らねぇ三下だ。俺が欲しいのは、そういう輩が今後出て来るかどうかだけだ」


 なるほど。そういう奴が出てきたら、まだ黒幕は活動中だと分かる。さすがにサーガほどの男は、そこから元締めを辿れるだろうだなんて甘い考えは持っちゃいないか。


「お支払いは先日教えた口座にお願いね」


「仕事が先だ。なにも引っかからなかった、なんて結果に報酬が出ると思うなよ」


「あら。誰もそんな人間は出てこなかった、という結果だって大事な情報でしょう? 先にお代を頂かないとやる気は出ないわ」


 とんだ女狐だなと罵声を浴びせたいところだが、厚意で同席しているだけの俺にそんな権利はない。

 彼女の言い分も間違っているとは思わない。ただ、俺はB.K.B側の人間だ。こちらに利益がある取引しか飲めない。


「あまりこちらをなめるなよ。横着な真似してると消すぞ。仕事が先だ。何度も言わせるな」


「それはお互い様ね。お巡りさんたちとの不可侵条約は大事でしょう?」


「俺を脅そうってか。まぁいい。少し待ってろ」


 サーガ携帯電話を取り出した。画面をタップしているので、振り込みだろうか。


「ボス、御呼びみたいだな?」


 しばらく経って、キャデラックの運転席で待機していたホーミーが入室してきた。シャツに隠れてはいるが、ベルトの辺りが膨らんでいる。おそらく拳銃だ。

 今しがたの携帯電話の操作は口座振り込みではなく、彼を呼んだらしい。


「あら、これは何の真似かしら?」


 ただ仲間を呼び出したわけではなさそうだと、ケリー議員も空気を読み取る。


「言っただろう。あまりこちらをなめるなってな。警告を無視したのはそっちだ。もう少し世間のルールを学んでおくんだったな、小娘」


「ちょっと! そんなことが許されると思ってるの、チンピラ!」


 サーガはそれを無視して立ち上がった。


「クレイ、来い。ガキには刺激が強いぞ」


「……あぁ」


 店外へ出ると同時に、二発の銃声が響いた。


……


「大丈夫なのか、あのホーミーは」


 サーガが自らハンドルを握り、俺は助手席へと乗り込んだ。


「殺すなとは言ってあるから、撃ったのはおそらく腕や脚だろう。だが、何年かは食らうだろうな。それもアイツの仕事の内だ」


 運転手兼、鉄砲玉ってやつだ。大変だな、汚れ仕事は。


「生かしてしまっては、あの女議員がアンタの事をサツに話すんじゃねぇのか?」


「俺は撃ってねぇ。ホーミーを呼んだのは俺だが、何を指示したかの確証はねぇ。それにこの後、俺は警察署長と電話会議の予定がある。つまり、何を言おうとあの女の虚言って事で処理されて終いだ」


 それがあったからあの手が使えたってわけか。


「だが、事実がもみ消されても議員が大怪我を負った話は広まる。ニュースになってもおかしくねぇ話だからな。他の表の人間には警戒されちまうが、なめられて面子が潰れるよりはマシだ」


「珍しいな。利益より面子か」


「クレイよ、ギャングは誇りを失っちゃ終いだ。金より仲間、富より面子、お前も覚えとけ」


「……蛇足だが、レストランの従業員らもアンタの手の内か?」


「言うまでもねぇ。場所を指定した時点で店側は買収済みだ。俺を誰だと思ってやがる」


 さすがの手回しだな。必要な出費って奴か。


 ピリリ、とサーガの携帯電話が鳴った。画面を見て、鼻で笑う。


「噂をすれば警察署長さんだ。予定より早いな。このまま通話するから、お前は少し黙ってろよ。コイツはさっきの女よりも面倒な手合いだからな」


「分かった」


 車を路肩に寄せながら、サーガは電話をとった。


「あぁ、俺だ。署長さん、わざわざ連絡ありがとうよ。あん? 本当か? そりゃお手柄じゃねぇか」


 サーガが珍しく上機嫌だ。話の内容から推察するに、警察に頼んでいた何かしらの仕事が上手くいった報告のようだ。


「それとは別件で調べて欲しい話があるんだけどよ。今、メモとれるか。あぁ、あぁ。その、ダウンタウンの話の続きみたいなもんだ。そうそう」


 ダウンタウンはマフィア絡みの話が多い。そこへのアプローチと見てほぼ間違いないだろう。


「おう、話が早くて助かるぜ。……そうだな、それはこっちでやっておく。あぁ、それとちょうどよかった。ケリーお嬢さんは知ってるか。市議会議員だ。あぁ、数分以内には通報が入って、病院に運ばれていくはずだ。殺しちゃいねぇ。弾いたのはウチの奴だが、よしなに頼むぜ」


 これには俺も苦笑せずにはいられない。事件の裏ではこうやって直接警察署長と話がついてるなんて、現場の警官が知ったらがっかりだろうな。

 あのホーミーの刑も知らない内に軽くなるわけだ。


「あぁ? いや、その分はアンタも美味い思いしてんだろ。少しは気張れ。ダウンタウンの方も頼むぜ。あぁ、あぁ、それじゃあな」


 意外にも話はさっさと終わってしまい、サーガは通話を切った。電話会議と聞いたものだから一時間くらいは覚悟していたが、ものの数分だ。


「終わりか? 短かったな」


「あぁ。ダウンタウンの裏の情報を調べる仕事を与えてる。だが、ホーミーの議員銃撃の件ではちぃと渋ってやがったな。まぁ、何とかしてはくれるとは思うが、過大な期待は禁物だ」


「署長を買収とは恐れ入ったぜ」


「いや、コイツは金では買収してねぇ。その代わりに警察への安全保障と、ウチの敵に成り得るギャングなんかの情報を流してやってる感じだな。珍しく、お堅い警官なんだよ」


 金で転ぶ警官は珍しくないが、署長は違うらしい。


「お堅いのに、こっちと連絡は取るんだな」


「当然だ。多くの部下と市民の命を握ってる責任者だからな。俺以外でも、こっち側の人間とは出来る限り多く接触したいはずだぜ。実際、ギャングやマフィアのトップと顔見知りってのは警察にとってプラスなことも多いんだ。直接的な金品の受け渡しさえなけりゃそれでいいって考えてんだろうよ。昔みたいにバチバチやり合ってた頃とは違って、スマートな時代になったもんだ」


「署長以外の警官は知らないのか?」


「残念ながら知り合いだらけだ。ただ、大抵の奴は金か薬でも融通してやりゃ良いだけだから何の問題もねぇよ」


 大きなギャングのプレジデントともなると、大金が集まってくるのは馬鹿でも知っている。

 それ目当てで接触してくる警官ばっかりでサーガも慣れてしまったんだろうな。反吐が出るぜ。


「議員や弁護士先生の方も同じようなもんか」


「まぁな。ただ、あっちは薬より金だな。ヤクを要求されるパターンは少ない」


「まさか、警官の方が薬物中毒者の数が多いのかよ。驚いたな」


「警官らは直接、他の犯罪者と接触する機会も多い。金に換えたい場合はソイツら相手に捌いてるのかもしれねぇし、自分で使ってるんならそこで薬の味を覚えちまったのかもな」


 マジでこの街は終わってやがる。こんな話、知りたくもなかったぜ。


「ヤクを流すのは感心しねぇよ。金の方がいくらかマシだ」


「そうか? 別に俺は相手の要求に応えてやってるだけだが。しかし、お前ら親子のクスリ嫌いはいったい何なんだろうな。こんな街にいて、それもギャングスタのくせによ」


「ふん、知るかよ」


 クスリどころか酒も煙草も嫌いだからな。何か、そういうDNAが流れてんだろうさ。

 だが、それを疎ましいと思ったことはない。周りが酒を飲んで盛り上がろうと、うらやましいとも思わねぇからな。むしろ、酔っ払って寝ちまったり、ゲロってるのを見て哀れだと思っちまうくらいだ。


「今日は他にも仕事があるのか?」


「いいや、特にねぇ。せっかく市街地まで出てきてんだ。どこかで遊んでいくか?」


「構わねぇが、今の時間帯じゃあ、遊び場を何も思いつかねぇな」


 普通であればクラブなどになるだろうが、さすがにまだ時間が早い。


「なら買い物だな。服でも見に行くぞ。その後はカーディーラでコイツの洗車だ」


「セレブだねぇ」


 キャデラックがタイヤを鳴かせてUターンする。


 どんな高級ブティックに連れて行かれるのかと思ったが、サーガはナイキやアディダス、プーマなど、スポーツブランドのショップばかりを回った。


 奴はシャツやジャージ、スタジャン、スウェットパンツ、スニーカーなどをいくつか購入し、俺も気に入ったアシックスのスニーカーが一足あったので、店員にお願いした。


 ギャングスタに人気なのはコンバースやナイキだが、最近の俺のマイブームはアシックスやアディダスだ。


「あん? ソイツを買うのか? なら俺が出す。おい、ねぇちゃん。そのアシックスは俺の支払いに一緒につけとけ」


「マジか、ありがとよ。ボスを金づるにしてやったぜ」


「調子に乗るな」


 軽口を叩いてやったが、当然のように拳骨が降ってくる。


「もう入らねぇな。カーディーラーに向かうか」


 車のトランクは服や靴の箱でいっぱい。それが買い物終了の合図とは、何とも豪快だ。


……


「いらっしゃいませ。本日もお立ち寄り頂きありがとうございます」


 小綺麗なキャデラックのディーラーで、スーツ姿のセールスマンが俺達に向かって一礼した。

 店舗の中にはピカピカのセダンやSUVが展示されており、何組かの紳士淑女が店の人間と商談をしている。


「洗っといてくれ」


「かしこまりました」


 サーガが鍵を手渡すと、セールスマンが外にある車へと走る。


「ここで買ったのか。ギャングスタが正規店で」


「まぁな。それも仕事の内だ」


 普通であれば、たとえ今乗ってきたものと同じ車であっても馴染のメイソンさんの店で注文するだろう。それをしなかったという事は、議員か誰かの紹介で、ソイツの顔を立てるためにこの店を利用した、とかそんなところだろうか。


「見栄を張るにもいろいろと必要なんだよ。どこで買った、誰から買ったってな。同じ型でも中古や盗難車じゃカッコがつかねぇみたいなもんだ。俺はそんなこだわりは好きじゃないがな」


 俺が質問する前に、サーガがそう答えた。自分の好き嫌いを押し退けてもそうしているということは、付き合っている表の連中はそんな部分をこれでもかと見てくるのだろう。血筋で食ってる上流階級の連中は顕著なはずだ。


 むしろ、貧困育ちのギャングスタ達が形式を気にしすぎないのかもしれない。車だって人だって、見た目と中身が全てで、出自の貴賤など不要だ。


「でも、そこを見てくる連中が、ギャングのボスと会ってくれるとはね」


「こっちだって譲歩して見栄を張ってやってんだ。そこはあっちが折れる番だろうよ。今さら大統領の息子として生まれ変わって来いってのは無理な話だ」


「そりゃ、まぁそうだわな」


 自由奔放に生きているように見えていたサーガだったが、やっぱり仲間の為に裏では色々と耐え忍んで動いてたんだな。

 奴の姿を見て、マフィアの真似事かと小馬鹿にしてた少し前の自分を呪ってやりたい気分だ。


「サーガ。アンタがやってるこの仕事。少しくらいなら俺が身代わりになってやろうか? スーツは無いから一張羅が必要だが」


「馬鹿言え。お前じゃお偉方の相手が務まらねぇ。たとえ十年後でも無理だな」


「年齢がそんなに大事かよ」


 イライラと返す俺を見やり、サーガは煙草に火をつけた。


「いいや。ギャングはマフィアと違ってアンダーボスはいねぇ。トップを除けば横一列だ。たとえガーディアンのボスだろうが、世間様から見ればその辺のギャングスタの小僧と同じなんだよ。重要なのは大ギャングのプレジデントであることだ。じゃねぇと表の奴らは見向きもしねぇ」


 マフィアなら若頭相当の人間でも話が出来てたってか。つくづくギャングの地位の低さが身に染みるぜ。

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