Quarrel! B.K.B
この日、B.K.B内で珍しく諍いが起こった。揉めているのはウォーリアーのOG達とハスラーのOG達だ。
そして、ガーディアンの長である俺もそれに巻き込まれてしまっている。
「いいや、ありゃどう見てもウォーリアーだ。俺達は誰よりもセットの為に身体張ってんだ、譲歩しやがれ!」
「馬鹿言うな! ハスラーと言ったらハスラーだ! もう仕事だって覚えさせたんだからな! 横からしゃしゃり出て来るんじゃねぇよ、脳筋共がよ!」
内容は、俺が危惧していたものだった。新入りの中では飛びぬけて頑丈な身体を持つ問題児、アレックスの所属についてだ。
ハスラーとして仲間入りを果たしたはずだが、ウォーリアーが彼を欲しいと言ってきた。それが事の発端だ。
ちなみに本人が、彼らに対して「所属はどっちでもいい。好きに決めろ」と返してしまった事にも多少の原因はある。
「クレイ! お前はどう思う!」
「……知らねぇよ」
まったく、めんどくせぇ。
ちなみに先日問題にしていたガーディアンの人員補充の仕事だが、無事、サーガからは駄賃の徴収を許可されている。
ただし、あくまでもウォーリアーとハスラーの人間を増やした時だけの話であり、ガーディアンを増やしたところで金はもらえない。
話を戻すと、アレックスの場合は既にハスラーから報酬は受け取っているので、彼がどちらに所属しようともはや俺にとってはどうでもいい話だというわけだ。
ではなぜ、俺がこの場に呼ばれているのか。当事者だけでは永久に決められないから、中立なご意見番を頼まれたからだ。
「知らねぇなんて言うなよ! な、アレックスはウォーリアー向きだよな!」
「向き不向きで言えばそうだろうな。だが先に入ったのはハスラーだから、もうそれでいいじゃねぇか。たまにウォーリアーの仕事を手伝わせるとかで手打ちにしろよ」
「おぉ、そりゃいいな! どうだよ、銭ゲバ共!」
穏便に済ませたいなら、脳筋だの銭ゲバだのお互いにいちいち煽るなっての。
「いいや、もし俺達が必要としてるときにメンバーが出張中だなんてのは困る! 人間の貸し借りなんてお断りだな!」
「んだと! がめついのは金だけじゃねぇのか!」
また平行線か。いい加減帰して欲しいぜ。
「クレイ、ウォーリアーにも一人融通してやれよ! おい、それなら文句ねぇだろ?」
「あぁ? あんだけの上玉を引っ張ってこれるのか、クレイ?」
「さぁな。探してやるのはいいが、どんな奴が見つかるか約束は出来ねぇぞ。ガーディアンだって人が足りてねぇんだ。俺達の仲間も増やしたい」
ハスラーやウォーリアーばかりに構ってはいられない。三つ巴でにっちもさっちもいかない議論に、サーガがふらりとお気に入りの車で顔を出す。今日もどこかをぶらついてたのか。
「教会前でぎゃあぎゃあうるせぇって聞いて戻った。何の揉め事だ」
奴は車から降り、ボンネットにドカリと座った。
……
一通りの事情を説明すると、サーガは鼻で笑う。
「はっ、んなこた本人に決めさせろ。こっちがこんだけ揉めてんだ。好きにしてくれじゃ済まなくなったから、てめぇが決めろってな」
普通、所属は仲間たちが振り分けるが、それが出来ない場合は本人の意思が最優先というわけだ。確かにそれは妙案だな。
「一発で解決だ。アンタらも、あとは俺やサーガじゃなくてアレックスに直接聞いてくれよな。さすがはプレジデント様様だぜ」
「茶化すな、クレイ。というか、お前ならこのくらい解決できただろうが。わざわざ俺を出張らせんじゃねぇよ」
「いいや、そんな案は思い浮かばなかったよ。それより、最近はどうしたんだ。珍しく出ずっぱりじゃないか。そんなにキャデラックが気に入ってんのか?」
「……そうだな、良い車だ」
なんだ? 歯切れが悪いな。奴は何を隠してやがる。
「遊び回ってるんなら俺も連れて行ってくれよ。それだけカッコつけてんだったら、ロサンゼルス市内の高いラウンジやらレストランにでも出入りしてるんだろ?」
「そうか、俺が高級店を飲み歩いてるとでも思ってんのか。だが今日はダメだ。時期が来たらお前も連れて行ってやるよ、クレイ」
「何をもったいぶってるんだか」
「連れまわすにはてめぇじゃまだケツが青いって言ってんだよ。じゃあ、俺はリッツカールトンかマリオットにでも向かうとしよう」
何ともわざとらしく高級ホテルを指名し、サーガは車で去っていった。
もちろんそこに向かったというわけではないだろうから、何をやってるのか気になって仕方ねぇな。
今度、尾行でもして鼻を明かしてやろうか。バレたらぶっ飛ばされるだろうが。
……
結局、アレックスの所属についてはハスラーであるという事で落着した。
一度は「どっちでもいい」とまた返されたらしいが、そのせいで揉めているという事を本人に理解させて、無理やり宣言させたようだ。
ビッグ・Eやエリックも問題なくハスラーとして頑張っているらしい。嬉しい誤算と言ってのか、彼らの知り合いの中からもB.K.B入りを望む悪ガキ共が集まってきているらしく、少しずつメンバーは増えていっていた。
それらは俺達ガーディアンは関わっていないので金にはならないが、こちらの増員に専念できるという点においては万々歳だ。
ただし、ビッグ・E達の紹介という形なのでほとんどがそのままハスラーとなってしまう。
ウォーリアー側からガーディアンに、仕事の依頼の声がかかるのも時間の問題かもしれないな。
当然と言えば当然だが、ガーディアンのメンバーも多少は増えてきた。学生組がいたころほどの規模とは言えないがその半分くらいにはなったと思う。
数よりも大きいのは、現在のガーディアンは全員兼業ではないという事だ。突発的に別の仕事をやっているタイミングでもない限り、常に動ける状態というのはありがたい。
欲を言えばこの三倍の人間が欲しい。そうなったらウォーリアーやハスラーと変わらないくらいの影響力や発言力を持つだろう。
しかし、俺はあえてここでガーディアンのメンバー増強を一時停止した。
理由は、新参と古参の数を逆転させないためだ。この状態で一年程度は維持して様子を見、その後また再開しようと思っている。
ガーディアンはまだ若い組織だ。その中でも最古参が俺なので、みんながみんな新入りでは、まとまるものもまとまらないと考えた。
初めはイケイケどんどんで増やしてしまうつもりだったが、今はこの直感を信じてみようと思う。
もう一つ、理由としては外敵からの攻撃が一気に緩まったこともある。
ウォーリアーの攻めはここのところ連戦連勝で、イーストL.A.近辺の敵対セットはことごとく叩きのめしている。
あるセットは同盟関係となり、あるセットはB.K.Bの下につき、あるセットは手を出さないと誓って中立となり、あるセットはそのすべてを拒否して壊滅状態となっていた。
外に味方が増えたことで、この陣取りゲームの本丸であるB.K.Bのテリトリーにはそう簡単に近づけなくなったわけだ。
B.K.Bに協力すれば、潰した敵セットのシマや金が分配されるという話が広がっているのも大きい。
ただ、いまだ黒幕の情報は俺のもとには届いていない。なぜ執拗にB.K.Bを狙ってくるのか。
そして、攻撃が落ち着いたら落ち着いたで、それもまた不気味だ。
……
「クレイ、明日は一日予定を空けておけ」
一週間ほど経ったある日、サーガからそう言われた。
特に幹部招集などではなく、個人的な用事があるらしい。数時間単位で呼び出されることはあるが、一日というのはかなり珍しい。
サーガと丸一日か。正直かなり精神が擦り減らされそうだが、プレジデント相手に理由もなくノーという選択肢はない。
朝方にサーガからの電話が鳴り、起こされる。自前のバイクか車でアジトに向かって合流するつもりだったが、なんと自宅前まで迎えに来てくれているらしい。
「なんだ、まだ寝てたのか。さっさと顔を洗って支度しろ。車を家の前につけてる」
「年寄りとは違って若者は早起きしないんだよ。支度してすぐに家を出るから待っててくれ」
ものの一分で着替えや洗顔を終え、家から出る。
「乗れ」
相も変わらず、運転手付きの黒塗りのキャデラックだ。サーガが乗る後部座席の隣に俺も乗り込み、運転手を担当しているホーミーが車を出した。
「どうしてこんなことやってんだ、最近は?」
「俺がリッチだと鼻につくか」
「気にはなるな。こんな仰々しいのは嫌いだろ、アンタ」
「んなこと言った覚えはねぇがな。まぁ、仕事の為だ。どこもかしこもローライダーでは行けねぇのさ」
言っている意味が良く分からないが、運転手付きの高級車が必要だって言いたいらしい。
「なんだよ、その仕事ってのは」
「お偉方との会合だよ。弁護士に議員先生に警察署長に、色々と手回しが必要でな。この手の車の方が乗り付けても目立たなくていいんだとさ」
「待ってくれ。お偉方? なんでそんな連中とアンタが接点を持つんだよ。警察署長は百歩譲って理解できるが、地方議員にまで何の用事がある?」
車が高級車であるのは理解できた。確かに派手なローライダーやボロボロのGライド(盗難車)で乗り付けては相手方も周りの目が気になって仕方がないだろう。
「一向に見つからねぇクソッたれを探すのに、マフィアやチンピラだけの力じゃ不足してるって話だ。なんだかんだ、表の人間の方が知ってることは多い」
「B.K.Bにちょっかいかけてる黒幕探しの為って事か? 話が一気に大きくなったな」
「あまり事をでかくはしたくねぇんだがな。ただ、先制攻撃って意味もある。たとえば、敵が表の人間を先に丸め込んで、サツとの不可侵条約を無理やり破棄して間接的にウチに攻撃してきたりとか、そんなことされたら迷惑だからよ」
「……言葉もねぇよ」
この男はやっぱり化け物だ。なぜ、そこに手を回そうなんて話を思いつく。
「今日も、とある議員先生と二度目のメシだ。いろんな奴がいる中でも、お堅くない人間でな。お前を連れて行っても問題ない」
「何で俺を? というか、こんな服で大丈夫かよ。アンタみたいにスーツ着てきた方が良いんじゃねぇか」
「俺が何をやってるのかお前が知りたがってたから、いずれ連れて行くって約束しただろうが。それが今日になったって事だ。あと、服は問題ねぇ。今言ったが、今日の相手はフランクだからな。ケツが青いクソガキが同伴してるくらいの事は気にしねぇはずだ」
そういえばそんなことを言ってたな。わざわざ尾行しようなんて真似は必要なかったわけだ。
ただ、今日の相手のような人間が存在しなかったら、それを決行していたかもしれないが。
「……分かった。何かする必要はあるか?」
「ねぇ。隣で黙ってメシでも食ってろ」
「いや、少しくらいなんかあるだろ。話をしっかり聞いとけ、とかよ」
「ねぇ。勝手に口を挟んで邪魔するなよ。容赦なくつまみ出すぞ」
本当に「ただ呼んだだけ」ってわけか。議員なんて中々話せる存在じゃないし、面白い話の一つや二つは期待してしまうが……
「ボス、着いたぜ」
運転をしていたホーミーが振り返ってそういった。キャデラックはロサンゼルス中心部の、フレンチレストランのテナントが一階に入ったビルの目の前に停車している。
久しぶりに街中に出てきたが、やっぱり朝方であろうと煌びやかで眩しく感じるな。店としては昼と夜しか開いてなさそうではあるが、お偉いさんの会食だから営業時間外に特別に開けてくれているんだろう。
ゲットーとは世界が違い過ぎる。
……
俺とサーガを吐き出したキャデラックはその場で待機。ガラス扉を開けると、一礼した店員が俺達を出迎えた。さすがは高級店か。俺の貧相な格好を見ても、張り付いた笑顔は崩れない。
宮殿風の内装で見繕われた料理店の店内は広々としていたが、最も奥まった個室へと案内された。
個室の中にはスーツ姿の若いブロンド髪の女が一人。カウチのような柔らかいソファに腰掛けて煙草をふかしていた。
「よう、ケリー。待ちくたびれて寂しかっただろう」
「あら、ボス。今日はお付きがいるのね」
俺に対しても愛想よく、にこりと笑ったケリーは灰皿で煙草をもみ消す。見た感じ二十代後半と言ったところ。かなり若い議員先生だな。しかも女だったのは意外だ。おそらくロサンゼルス市議会議員か。
「それで、今日は私に何をやってほしいという話かしら? あぁ、いやらしいお願いはお断りだから」
「それは残念だな。だがまずは注文だ。好きに頼め。払いはこっちで出す」
なんだかほのぼのとしてて拍子抜けだな。とりあえず、出てくる料理でも楽しみにしておくか。




