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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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New Jack

 初日の収穫はたったの一人。だが、何もないよりはマシだ。


 車内には歓迎のせいでボロボロになった、期待の新人であるビッグ・Eも同乗していた。アジトに戻るがどうする、と訊いたら連れて行って欲しいと言われたからだ。

 怪我をしているので紹介は後日でも良かったのだが、タフな小僧だぜ。


「アンタらのボスはなんて言うんだ?」


「サーガだ。おっかねぇから覚悟しておけよ。それから、『アンタら』のボスじゃねぇ。『俺ら』のボスだ。もう、お前もビッグ・クレイ・ブラッドの一員だろう?」


「あ、え、そうか……本当に、あれでもう認められたのか? 今から会うボスが最終判断をするとか、そんなんじゃないのかよ」


 俺の回答にビッグ・Eがしどろもどろになっている。ギャングスタになったという実感がまだないのは仕方のないことだ。


「それはない。俺らの判断を奴は尊重する。ホーミーの誰かが認めたのなら、みんなが認めたのと同じ意味だ」


「そりゃいい。話は変わるが、アイツらはどうなるんだ? もう、ダメなのか?」


「アイツらってのは残りの二人か? 残念だがそうなるな。基本的にチャンスは一度しかない」


 当然、二度、三度と挑戦を受け付ける例外もある。ただ、彼らにそれを与える可能性は限りなく低い。


「どうにかならないだろうか。アイツらがギャングスタになりたいのかどうかまでは知らねぇが、今回は俺が急に呼びつけたせいであんな結果になった。きちんと準備をしてる状態で、アイツらの評価をして欲しい」


「そう思うくらいなら初めから呼ぶなよ……それに、仲が悪かったんじゃねぇのか? どうして二人の心配なんかするかね」


「仲の良さはどうだっていいだろ。今日は俺のタイミングだったんだ。アイツらのタイミングってのもきっとある。もし何か言ってきたら、もう一度だけ見てやって欲しい。ダメかな」


 人ってのは分からないものだ。コイツの口から一番出てこなそうなセリフがこうやって飛び出してくるんだからな。


「エリックはともかく、アレックスは酷かったからな。あれがどうにか変わらねぇと、こっちが手を差し伸べてやる義理はねぇぞ」


「クレイの言う通りだ。反撃なんて前代未聞だぜ。あれくらいで頭に血が上るようじゃ、使い物にならねぇ」


 ホーミーらも俺と同意見だった。


「こらえるように、よく言い聞かせておくからさ。頼むよ」


「ならこうしよう。まだチャンスを与えるかどうかの判断はしない。だがもし、その時が来て、同じことが起こったら……」


「起こったら?」


「その場で射殺する」


 車内がひんやりとしたのが分かった。もちろんそんなことになるのは絶対に避けたいので半分は脅しなのだが、アレックスの件は慎重に考える必要がある。


 しかし、万が一の際にはそのくらいしないと二度目は俺達の面目丸つぶれだ。誰の目から見ても舐められ過ぎだ、となる。


「クレイ。なかなか言うようになったな、お前」


「茶化すな。別にそんなことやりたいわけじゃねぇよ」


「わかってるって」


 凍りついた場を和ませようとしたのか、ホーミーがそう言ってくる。だが、ビッグ・Eは固まったままだ。


「敵対セットのギャングスタを殺るのと、一般のガキを弾くのじゃわけが違うからな。それでも、B.K.Bが俺達のせいで甘くみられるのはいただけないだろ。さっきの一撃だって、袋叩きに合って殺されても文句は言えなかったはずだ。一回見逃しただけでもありがたく思って欲しいものだな」


「まぁ、サーガなんかがあの場にいなくて良かったとは思うよ」


「お前らに言っておくが、アレックスの歓迎の話は内緒にしておこうと思う。他でもない、アイツ自身の命の為にな」


 全会一致で可決だ。ふたを開けてみれば、そんなことがあったのか、と笑い飛ばされるだけかもしれない。

 だが、少しでもホーミーたちの反感を買ってしまう可能性があればそれを潰しておくに越したことはない。


「そういうわけで、俺達は消極的だが、お前はそれでもまだアイツらの肩を持つか?」


「いいや、最初から肩なんて持つ気は……ただ、アイツらの意志は尊重してやってくれ、それだけさ」


「ま、言ってることは間違ってねぇがな。まずは意識調査でもしとけ。B.K.Bに入りたくないならそこまでだからな。その後でもう一回、話を持って来いよ。受けるとは限らねぇが、少しは考えてやるから」


「分かった。そうする」


 車がいよいよ、アジトである教会前へと到着した。


「降りろ」


「あ、あぁ……」


 俺達三人が先に車から降り、座ったままでいたビッグ・Eにも降車を促した。目に見えて緊張している。

 取って喰われるとでも思っているのか、始めの頃の俺もきっとこうだったんだな。サーガと対峙するくらいなら悪魔と契約する方が楽なんじゃないかと思ってたぐらいだ。


「よう、クレイ。サーガに何かの報告か?」


「ガーディアンご一行様じゃねぇか。サーガならいつもの通り、熱心に読書しながら籠ってるぜ」


 見張りに立っているウォーリアーの二人に声をかけられた。


「そうか、彼と話があるからちょっと入らせてもらうぜ。よう、お前ら三人は少しの間ここで待ってろ」


「了解、ボス」


「あんまり待たせんなよ、腹が減ってきた」


 ガーディアンのホーミー達と新入りの予定者を残し、教会へと入った。


「邪魔するぞ」


「……クレイか」


 もう、何十回見ただろうかという光景。質素な教会のベンチに、どっかりと座ったサーガが聖書を読んでいる光景だ。

 彼が滅多にここを動かないおかげで、話すのは大体この場所になってしまう。


 まぁ、大将の居所が常に決まっているってのはありがたいがな。毎度探し回るより何倍もマシだ。


「新入りを一人、隣町から連れてきた。ハスラーにするんだろ? 一旦、アンタに引き渡すから、後でハスラーに紹介してやってくれ」


 直接ハスラーのOGの誰かに話をつけても良かったが、俺にこの仕事の依頼をしてきたのはハスラーではなくサーガだ。それならこちらもサーガを通した方がきちんと顔を立てることになる。


「そうか。何人だ?」


「一人って言ったろ。本当は三人迎えたかったが、二人は手荒な歓迎で脱落だ」


「はっ。やり過ぎたんじゃねぇだろうな」


「まさか。普通だよ、普通」


 当然ながらアレックスの反撃は伝えない。特に内容は細かく突っ込まれないので、このまま話は終わりそうだ。


「外にいるのか?」


「あぁ、ホーミーに任せて外で待たせてある。ここに入れるか?」


「いや、俺が出よう。さてさて、どんなクソッたれだろうか。ウチに入ろうっていう阿呆な奴は」


 よっこらせと巨体を起こし、サーガが杖を突きながら教会から出た。

 入り口から出てすぐの場所に、ガーディアンのホーミー二人に挟まれる形でビッグ・Eが立っている。


「おう、ご苦労さん」


 ハンドサインでホーミーに挨拶し、ビッグ・Eへと視線を移すサーガ。対するビッグ・Eはさらに緊張が強まり、ごくりと生唾を呑んだ。


「どうだった、歓迎は。あぁ、あぁ、こんなに顔腫らしちまって。可哀想によう」


「い、いや。なんとか耐えた。それだけだ」


 急に他人事のような調子で話しかけられ、ビッグ・Eは戸惑っている。


「ウチはいま、ハスラーを増やそうとしててな。てめぇの仕事はそっち関連になるはずだ。せっかく手荒な歓迎に耐えたってのに、喧嘩屋じゃねぇのかと思うかもしれねぇがな。えーと……?」


「ビッグ・Eだ。ハスラーの仕事にも興味があるから問題ねぇよ……」


「それは重畳だ、ビッグ・E。しかしまあ、ハスラーって区切りにはなるが基本的には自由だ。腕っぷしで稼ぎたいならそうしたって誰も文句は言わねぇから好きにやんな。それでハスラーは明日、ここに何人か集まる。また顔を出せ」


 それだけ言って引っ込もうとしたサーガを、ビッグ・Eが呼び止める。


「あっ、サーガ、待ってくれ!」


「あん? なんだよ?」


「二人、知り合いがダメだったんだが。もう一回チャンスをくれねぇか? もし、本人らがもう一度やりたいって言った場合だが」


 まだ言うか。それもサーガに直接とは。もうエリックやアレックスがどうなっても知らねぇぞ。


 当然、サーガの視線はこっちに向く。


「クレイ。落ちたっていう奴らだが、もう一回やっても良いと考えてるのか?」


「いいや、今のところは。本人らの意志もまだ聞いてねぇ。昨日の今日じゃ答えも出ねぇだろ。やるにしても今じゃねぇ」


「だそうだ。じゃあまた明日な、若いの」


 ヒヤリとさせられたが、サーガは俺の答えを尊重して奥に引っ込んでいった。

 ゴチン、とホーミーの拳骨が新入りの頭上に落ちる。


「てめぇ! サーガに余計な口を出すなんて百年早いんだよ! やれと言われたら速攻で終わってたぞ、アイツらは!」


「す、すまねぇ」


「ふー、危なかったぜ。お前は後先考えずに物申すのはマズいってのを覚えるのが最初の仕事になりそうだな。冗談でした、じゃあ済まねぇことだってある。命が掛かってる場面も次々と出てくる。勉強になったじゃねぇか」


 俺はビッグ・Eの肩をポンと叩きながらそう言った。拳骨はホーミーの方から食らわせたのでもういいだろう。

 飴と鞭って奴だ。叱ってばかりだと、気合が入ってない若いのはすぐに逃げ出そうとする。別にコイツがそうだとは言わないが、フォローも大事だって話だ。


「明日またここに来いって話だったが、えーと、チャリでいいのか?」


「別に構わねぇぞ。それとも車での迎えを寄越せってか?」


「いや、そうじゃない。俺一人でここに来て、まだ何も知らないメンバーに絡まれないかと思ってな」


 なるほど、確かにその可能性はある。俺達三人とサーガ、見張りのウォーリアーしかコイツの面は知らない。

 かといって赤い服やバンダナを身に着けて来いと言えば、さらに絡まれる確率は上がるだろう。


「ま、たとえ絡まれてもいきなり殺されやしねぇさ。ヤバそうだったらサーガに呼ばれてるって言え。どんな馬鹿でも、メンバーならサーガに確認の連絡をとるくらいはするはずだ」


「分かった、そうする」


「で、サーガに会ってみての感想は?」


「凄いんだろうな、とは思うが……よく分からねぇ。そんなことを考えてる余裕なんか無かったよ」


 二人の事を伝えるので精一杯だった様子だ。もちろん、あれは余計な一言にしか過ぎなかったわけだが。


「そうか。B.K.Bに入ってみての感想を訊いても同じだろうな」


「まだ何の実感もないしな。でも、そうか……そうだよな。俺はもうギャングスタなんだ」


 ビッグ・Eは腫れ上がった自分の顔を触りながら、力なく笑った。


「一応はな。今日は送ってやるが、俺らの子守はそこまでだ。あとは明日から、ハスラーの連中と仲良くできるのを願ってるぜ」


「ありがとよ。クレイ、だったよな」


 痛い思いをさせておいて、最後に礼を言われるなんて妙な気分だぜ。


……


 明くる日。約束通りビッグ・Eはハスラーと会うためにアジトにやってきていた。どうやら約束は守れる質らしい。悪ガキのくせに妙に義理堅い奴だ。

 ちなみに俺は心配でこっそりとその様子を見に来ていたというのは内緒だ。


 そして、そのビッグ・Eの義理堅さは当然、残る二人への配慮にも関係していた。

 妙に晴れやかな顔をしていると思ったら、どうやら早くも二人からの回答を聞いてきたらしい。当然、「もう一度やる」とのことだった。

 しかも、サーガは「だったらやれ」と返したのだ。もう俺には止められない。


 そして、さらなる問題はその方法だ。二回目の挑戦を認める代わりに、相手は十人程度のウォーリアーということになってしまった。厳しい戦いになる。


 そして、その決行は三日後の夜半となった。


 正直、合否はそこまで問題じゃない。つまり、言い方は悪いがエリックは問題じゃない。アレックスが馬鹿をしないかが問題なのだ。


 相手として十人のウォーリアーに囲まれ、他にも大勢のB.K.Bメンバーが観客として集まって見ている事だろう。そんな中でやらかしたら、もう言い逃れは出来ない。


 そんな俺の心配をよそに決まってしまった今回の歓迎。

 もう俺の手に負えることではないので、あとはビッグ・Eに念押しをしておくだけだ。


「アレックスに伝えておけ。もしまた反撃をしたら、確実に殺されるってな。冗談抜きで命が掛かってる。必ず守らせてくれよ。死ぬくらいなら審査に落ちた方がマシだろ」


 帰り際にそう言っておいたので、後は信じて当日の結果を待つばかりだ。

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