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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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New Game

「チッ、気持ちよく吹っ切れたようなツラしやがって。どこかで女に抜いてもらってきたのか?」


「おい、卒業後初の顔合わせで開口一番言われるセリフがそれかよ……」


 教会の中、ベンチに座っていたサーガは振り返り、俺を見てそう言った。

 そして、俺がその横まで行くと、彼は立ち上がって力強いハグをしてくれる。


「冗談に決まってるだろ。卒業おめでとう、クレイ」


「ありがとよ、ボス」


「早速だが、これを渡しておく。みんなからのカンパを一ドルずつ集めて買った。盗んだもんじゃないから安心しな。まぁ、こっちでフルオートにはしたが」


 ハグを解き、サーガがごそごそとベンチの下から紙袋を取り出した。俺に対するB.K.Bからのプレゼントのようだ。

 ずっしりと重い。銃だな、とすぐに察知する。


「サブマシンガンか」


「マック10だ。骨董品だが拳銃より頼りになる」


 マック10……正式名称はイングラム・モデル・10。


 その名の通りゴードン・イングラムが開発した短機関銃だ。サブマシンガンにカテゴライズされるが、通常のそれよりもかなり小型であるためマシンピストルと言われることもある。


 拳銃に毛が生えた程度の大きさしかないことから携行性に優れ、片手でも射撃が出来る。ギャングスタが拳銃の代わりにベルトに挿していることも多い。


 サブマシンガンなので連射が可能だが、小さくて射撃の反動での跳ね上がりがきついので注意が必要だ。


 サーガがフルオートにした、と言ったがこれは法規制が理由だ。連射式なので当然、サブマシンガンであるのだが、先に述べたようにあまりにも小さすぎて連射時の制御は難しく、セミオートのみでしか販売は行われていない。

 そこを本来の設計通りに連射できるように改造した、と言う意味だ。


「ありがとよ。とはいえフルオートでぶっ放すなんて真似は出来ないけどな」


 せっかくのイカシタ改造だが、俺には到底使いこなせないだろう。照準が逸れて味方や地域住民にでも当たったら一大事だ。

 逆にそういったことがどうでもいい連中はドライブバイの際にコイツを好んで使うらしいが。


「好きにしろ。フルオートはお守りみたいなもんだ。普段はセミオートで使えばいい」


「そうさせてもらうよ」


 俺は少し前に拳銃も支給されたのでそれを所持しているが、そっちは車のトランクに押し込んでお役御免にし、携帯するのはマック10と交代させるとしよう。さすがにどちらも持ち歩こうとは思わない。二丁分の重みでズボンがベルトごとずり落ちそうだ。


「ところで、サーガ。ガーディアンなんだが、知っての通り縮小した。スカウトをして回ろうと思うんだが」


「それも好きにしな。ただし、手荒な歓迎くらいは耐えられる人間を準備しろよ」


 特に断られる理由もないので、あっさりと承諾される。ただ、引き抜こうにもそう多くは集まらないだろう。

 ワンクスタはK.B.Kが正してしまった連中も多く、何よりこの小さな町では若い奴らの人口も大したことが無い。


「その場合、別の街の人間や女も可能か?」


「馬鹿言え。女はやめておけ。取り合いにでもなったらトラブルにしかならねぇ。別の街の男は許可するが、せいぜい隣接してるエリアまでだな。もちろん、その地区にギャングがいないこと、あるいはB.K.Bの友好セットがいる場合は彼らへの相談を前提としてだ」


 B.K.Bの勢力が拡大したことにより、敵対セットは近接地帯にはいない。

 だが、味方がいる街から黙ってB.K.Bに入れてしまっては問題となるので、その辺りは配慮しろというわけだ。


「了解だ。焦る仕事でもないから、ぼちぼちやるよ」


 それと女が面倒ごとを起こす、というのはいささか古い考えのように感じるが、サーガの言う通りになる可能性が高いのは俺も十二分に理解できる。


 B.K.Bに限らず、ギャングは野郎だらけでむさくるしい集団だ。誰と誰が付き合うだの何だのという話はすぐに持ち上がるだろうし、貞操観念の低い阿呆だらけなので浮気なんかも頻発するだろう。


 たかだか恋人の事であろうと、本人たちにとっては重大なので仲間割れのきっかけになる可能性は十分にある。

 実際、女をメンバーとして迎え入れるか否かに関係なく、誰それのガールフレンドを他の誰かが寝取っただの、他の誰と付き合い始めただの、そういった話もよく聞くし、それが原因でいなくなった奴もいるからだ。


 そして、その仲裁はサーガや他のOG達、俺のような人間にお鉢が回ってくる。

 それが悪化するのが目に見えているのであれば、いくら人員を増やしたいからと言って女を入れるわけにはいかない、と言われたわけだ。


「女と言えば、サーガは嫁さんを娶らないのか? もういい歳だろうに」


「決まった嫁はいねぇが、ガキなら何人かいる」


「そ、そうか……さすがだな、ボス様は」


 初耳だ。まぁ、ギャングのプレジデントを張ってるんだ。モテるには違いないだろう。その何人かの子供ってのも、それぞれ違う相手との間に設けたんだろうな。


「俺の心配よりも、お前はどうなんだ。ハイスクールも出て、童貞だなんて笑わせるんじゃねぇぞ。さっさと尻のデカいのを捕まえておけ」


 サーガとこういった話をするのは珍しい。女に関しては堅物だと思っていたが、やはり彼も男なんだなと思わされる。


「そうだな。アンタらと絡む前には何人かの女の子と付き合ったりもしたさ」


「ははは、B.K.Bのせいにしやがるか」


「そういうこと」


「ふん。さっき言ってたスカウトの件だが、ついでに一つ頼まれてくれるか」


 だいぶ脱線したが、サーガが話を戻す。


「頼み事? 無茶な話じゃなきゃいいが」


「何てこたねぇよ。ガーディアンと同時にハスラーの人員も増やしたいと思ってる」


「は? それはハスラーにやらせてくれよ。俺はあくまでガーディアンの増強に時間を費やしたいんだからな」


 ハスラーが人手不足なのはなんとなく理解していたが、それを俺にやらせるのはお門違いだろう。


「それすらできないくらい大忙しなんだとよ。ここのところ、いろんな味方のセットが増えただろ? そことの取引もどんどんと開始されて、てんてこ舞いだって話だ」


「嬉しい悲鳴じゃねぇか。とにかくお断りだ。新たな人間はハスラーに入れるよりもガーディアンに入れる事を優先する。よっぽど金勘定と商売が得意な奴が現れたら、アンタに報告くらいはしてやるけどな」


「クレイ。俺はお前とは違ってB.K.B全体の事を考えなきゃならねぇんだ。ガーディアンだけ上手くいこうと、ハスラーが立ち行かなくなったら緩やかにB.K.Bの力は衰えていく。こう言っちゃ悪いが、ガーディアンは今の数でも俺達全体の大きな衰退にはつながらねぇ」


 ガーディアンはB.K.Bにはもともといなかった新設の部隊だ。だが、その恩恵は誰もが知ってるはず。

 俺らがいるおかげでウォーリアーは喧嘩に専念出来るし、ハスラーも安心して売りが出来る。それを忘れてもらっちゃ困るんだがな。


 だが、B.K.B全体の勢力を支える存在としては一番地味な役どころであるのは否めない。活躍が目に見えづらい分、ありがたみも薄れるってもんだ。


「そりゃ心外だな。へそを曲げちまいそうだ」


「だからお前たちの増強も好きにやってくれと言ってるだろ。ハスラーにも回してやれ。そうだな……五人だ。五人だけでいい。そのくらいは協力してやってくれよ」


「チッ……分かったよ。五人だけこっちで見つけたら、それ以上のハスラーのスカウト要因はそっちから出せって言っといてくれよな」


 五人だけなら……と一瞬でも思ってしまった俺は既にサーガの術中にはまっているんだろうな。よくよく考えたら五人探すだけでもかなりの大仕事だってのに。

 すぐにそれに気がついたものの、前言撤回だなんて真似は俺にはできない。仲間との約束は守るためにあるもんだ。そして、俺がそう考えて行動することですらも見透かされていそうで、恐ろしい男だぜ、まったく。


「奴らに変わって礼を言う」


「いや、本人たちにも言わせろよな。仕事が終わってからで構わねぇからさ」


「それじゃ、行くか」


「あぁ」


 俺とサーガが教会から出ると、一堂に会していたメンバー達から大歓声が上がった。

 俺の、つまりガーディアンの取りまとめ役であるクレイの、ハイスクール卒業記念パーティーだそうだ。気持ちは嬉しいが、大々的にやり過ぎだっての。


 俺はあっという間に周りの連中から囲まれ、肩を組まれ、脇腹をつつかれ、頭をぐしゃぐしゃとかき乱され、コロナビールの瓶を手渡された。

 酔っ払う前からこの乱れようだ。こりゃぁ前途多難だな。


「おい、あんまりベタベタ触ってくんじゃねぇ! あと、俺は下戸だっての!」


「いいからいいから! ちょっとくらい飲めって!」


「クレイ、お前下戸なのか! ならこっちをやるぞ! 飲め!」


 無理やり飲ませようとしてくる奴もいたが、近くにいたウォーリアーのOGの一人がペプシの缶を手渡してくれたので、それとコロナを交換する。


 屋外用のバーベキューグリルも当然のように準備され、美味そうな匂いの煙を立ち昇らせている。

 サーガは揉みくちゃになる俺を完全に無視して早くもそっちに向かっている。身体が太いだけあって、食いしん坊だ。


「俺らからのプレゼントはどうだった! 気に入ったか!」


「あぁ、マック10だったか! 間違えて自分のイチモツにぶっ放さねぇようにな!」


 次々と別の人間が近寄ってきてそんなことを喚いている。

 確かに、ベルトに挿してるときにコイツが暴発でもしたら、俺のムスコはすぐに使い物にならなくなるだろうな。


「平気平気! コイツは女に興味ねぇからよ!」


「そうなのか!? 男か!? みんな、ケツには注意しとけよ!」


 話の流れ的にも、さっきのサーガ以上に下世話な話も飛び出すだろうなと予想していたら案の定だ。


「おい! 妙な噂をまき散らすんじゃねぇよ。誰がゲイだ」


「冗談だよ、冗談! そんなに怒るなって、主役はお前なんだからよ」


「はぁ……だったらもっと主役を丁重に扱うんだな……!」


 その場にいたほとんどの連中と言葉を交わすと、ようやく俺は解放されて、バーベキューグリルの近くに置いてあった折りたたみ椅子に腰かけた。

 あとはあの場でまだ話していなかったので、さらっと声をかけてきて、ビール瓶を俺のコーラ缶にぶつけて乾杯していくやつがまばらにいる程度だ。


 そのうちの一人にシザースがいたのは問題だが。


「おい、ゲイだって聞いたぜ」


「さっそく妙な噂を信じてしまった、哀れな犠牲者様の御登場だぜ」


 差し出されたビール瓶を自分の缶にはぶつけないよう引っ込めた。


「おい! 避けんなよ! かんぱーい!」


 さらにその瓶を躱す。こんな奴と乾杯などしてたまるか。


「ふざけんなよ、このゲイめ……!」


「馬鹿がうつる。あっち行けよ」


「ぶっ飛ばす!」


 いつものおふざけのつもりだったのだが、やはりシザースはいつでも本気だ。

 殴り掛かってきたので、俺はひょいと身を躱す。


 こっちだって短くない期間、ギャングの中で揉まれてきたんだ。酔っ払ったガキの相手なんて大したことはない。


「あぁっ!」


 躱されるとは思っていなかったのか、そのままシザースは千鳥足を躓かせて地面に派手に頭から突っ込んだ。

 いったいどんな転び方だよ。しかも、ディッキーズのワークパンツを腰履きにしているせいで半ケツになってるしよ。


「見ろよ、シザースが何かやってるぜ!」


「ははは! さすが、お笑い担当は違うねぇ」


 当然ながら仲間たちからも大笑いが沸いている。


「あん? おい、きたねぇケツをさっさとしまえよ」


 串にささった肉をがつがつと食いながら、サーガが杖でシザースのケツをつついている。踏んだり蹴ったりとはこのことだな。


「クレイ。言うまでもねぇが、今日からお前は学生の身分じゃねぇ」


 シザースは放っていて、サーガが俺に語り始めた。周りの連中にも聞こえるようにか、少し声を張っているように感じる。


「要は、本当の意味でのギャングスタとしてデビューを果たしたってわけだ。職場体験の特別扱いは終いだってことだな」


 どっ、と笑いが起きる。


「ふん、最初からそんな扱い受けてるつもりはなかったがな。今までも散々こき使いやがったくせによ」


「言いやがる。だが、気ぃ引き締めろよ。もっと強くなれ。男になれ。成長しろ。ガーディアンを叩き上げろ。そして誰もが一目置く存在になってこそ、クレイは、ガーディアンは、本当の意味でB.K.Bには無くてはならないものになれる。お前からもみんなに一言あるか?」


「望むところだ。ウォーリアーもハスラーも、そしてアンタもだ、サーガ。いつの間にか俺達の尻に敷かれないように気を付けるんだな」


 歓声と罵声、賞賛と怒号が入り混じった様々な声が投げかけられ、俺は本職のギャングスタとしての初仕事となったスピーチを終えたのだった。

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