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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Advance! Gangsta

「ようやく電話を取ったと思ったら、クリップスが加わってきただぁ? 何を寝ぼけてるんだ、お前」


 サーガの怒気を含んだ声が聞こえる。想定外の問題を引き起こしてしまったのだ。無理もない。


「わりぃ。完全に予想外の展開だった。待機中に知らないセットのギャングスタに絡まれて、ソイツと話してたら攻撃に参加するとか騒ぎ出してよ」


「で、目の前にそいつらがいるってか」


「その通りだ。目立って仕方ねぇ」


 リーチ・ザ・リッパーが呼び寄せたのは二十人近いウォーリアーだった。彼がいるので俺達に対して何かしてくるわけではないが、にらみを利かせて互いに牽制し合っている。

 これを使うとなっても絶対に俺の思惑通りには動いてくれないのは火を見るよりも明らかだ。


「本当に面倒だな。ウォーリアーは既にぶつかってる。クリップスが来たら、まさか味方とは思わずに同士討ちになる」


「俺もそう言ったんだが聞かなくてよ。今この瞬間、こうして横にいるだけでも奇跡だ。集合次第、直ちに突撃しちまいそうなくらいの勢いだったからな」


 リーチにはB.K.Bのプレジデント、つまりサーガに連絡を取って、良い手が無いか訊くので少し待てと言ってある。

 その間もうずうずしているのは見て取れたし、何なら待たせすぎるとウェスト・ワッツ・クリップよりも先に、この場にいる俺達と喧嘩にでもなりそうだ。そうなれば丸腰のガーディアンは全滅だろう。


「そいつらのセット名は何て言ったか」


「ワッツ・ネイバーフッド・クリップだ」


「聞かん名だな。新しいセットかもしれん。さて……仕方ねぇ。使うのは使う。ただ、B.K.Bの後ろじゃねぇ。現場では大きく回り込んで敵さんの後ろから合流させろ。そっちの方がまだマシだ」


……


……


 堂々と突っ込むべきだという、リーチが率いるワッツ・ネイバーフッド・クリップ達を何とか説得し、俺達は敵の背後へと回り込むことに成功した。


 説得に使った殺し文句は「正面から行った場合、B.K.Bとぶつかるだけでウエスト・ワッツ・クリップには届かない」だ。少し考えればわかるはずだが、何度もそれを諭してようやく理解してもらえた。


 ここを引率している以上、本来のガーディアンの仕事であるサツへの警戒は皆無となってしまっている。そこはやむを得ないとサーガも了承済みだ。


 さらに、ガーディアンはこいつらから武器提供があったわけでもなく、拾った角材やゴルフクラブくらいしか持っていない。重武装のウエスト・ワッツ・クリップに対抗できるわけもないので、リーチ達をぶつけた後は遠目に見ているだけになる。

 後でこいつらに腰抜けと笑われてもいい。銃撃戦に角材で突っ込むなんて馬鹿でしかない。


「おい、もう突っ込んでいいだろ?」


「もう少し近づく。今飛び出しても意味がねぇ」


「畜生が。焦らしやがって」


 車を隠し、徒歩でそろりと移動する中、愛用のナイフを手にしたリーチが小声で俺に訊いてきた。大声で怒鳴るほどの阿呆では無くて安心だ。

 他のワッツ・ネイバーフッド・クリップの面々は拳銃を手にしている。


 背後に回り込んでいるのは確実だが、まだ敵の背中は見えていない。こんな場所から駆け出したところで、先に見つかれば貧相な拳銃では銃火器の弾幕の餌食だ。


 タタタン! タタタン! ダダダダダダッ!


 と、ライフルやマシンガンの発砲音が近くから聞こえる。それに対抗してか、遠くからもライフルの音が聞こえる。そっちはB.K.Bや味方のセットの連中の攻撃だろう。中華製のライフルも活躍しているようだ。


「あれか」


 ようやく、複数人のクリップスの姿が見えた。

 車を盾にし、そこからマシンガンを突き出して乱射している。ただ、彼らは五人程度であり、他の奴らは街中の別地点に散らばっていそうだ。よくよく考えてみれば当たり前のことだが、一か所にすべての人員がいるはずもない。


「すくねぇな。叩き潰す!」


「あ、おい! リーチ!」


「いくぞぉぉぉぉっ!」


 さすがに敵影まで見えると、どんな言葉も通じないか。ワッツ・ネイバーフッド・クリップの連中は我先にと飛び出し、貧相な拳銃でウエスト・ワッツ・クリップのメンバーの背後から襲い掛かった。

 いくら装備で劣るとはいえ、奇襲であることと、数倍の人数差だ。一瞬とも言うべき速度で敵を倒してしまう。


 ワッツ・ネイバーフッド・クリップの連中が敵の落とした武器を取ろうとしたので「それなら丸腰の俺達に寄越せ。このままだと何もできない」と言うと、案外すんなりとB.K.Bにマシンガンを譲ってくれた。ガーディアン全員分とまではいかないが、かなりマシになった。


 彼らとしては少なからず、ウエスト・ワッツ・クリップを叩き潰すきっかけを与えた俺達に対して感謝の意を持っているのかもしれない。


「んで? 次はどう動くんだ、大将?」


 上手くいったおかげで、リーチは俺に次の指示を求めてきた。まぁ、今のはサーガの策なんだがな。


「今の音で他の敵さんも後ろに何かいるってのは気づいたはずだ。さらにぐるっと迂回して別方向から進むぞ」


 このまま進んでも、もはや奇襲とはならないし、もしかしたらここへ向かい始めた敵もいるかもしれない。

 俺達は一度わずかに後退して、別の地点から敵のテリトリーへと再度侵入する。


 サーガに再度連絡をして指示を仰いでもよかったが、今は時間が惜しい。それに、彼も俺の作戦と似たような考えに辿り着くはずだ。


 俺達が既に移動を終えた背後、つまり、先ほどまで敵とぶつかっていた地点だが、なにやらそこでちょっとした騒ぎが起こっているのを感じた。

 もう視界の外だが、音というか気配というか、とにかくそこに敵さんがいくらか集まってきているのを肌で感じる。正面衝突は避けたいので、あのままあそこにいなくて良かった。


「いいぞ……かく乱出来てる。手薄になってるところをウォーリアー達がこじ開けやすい」


「ちょこまかとしてて俺はあんまり好きじゃねぇけどな、大将」


「リーチ。こっちは一人の怪我人も出てねぇんだから良しとしろよ」


「好きじゃねぇが悪いとは言ってねぇさ。次は……いやがったぜ。あれだろ」


 俺達の前に、ウエスト・ワッツ・クリップの小グループのがら空きの背中が見えた。


「もう少しだ。もう少し距離を詰めて……いくぞ、やれ!」


 パァン! パァン!

 タタタン! タタタン!


 拳銃とライフルの音が炸裂する。またもや不意を突かれた敵は大慌てだ。


 リーチら、ネイバーフッド・クリップの連中もいよいよ俺の指示に完全に従うようになってきた。本人たちに自覚などないのかもしれないが、上手く手綱を握れれば頼もしい仲間だと言える。

 クリップスだし、今後も付き合うかと訊かれると微妙なラインなのが玉に瑕だが、一時的な味方としては申し分ない。


「よし、攻撃は終わりだ! 退くぞ! こっちだ!」


「おう! みんな、大将に続け!」


 数人の敵からまた銃器を奪い、素早くエリア外へと退避する。

 しかし、この手もそろそろ警戒が最大限になって成功しづらくなってくるはず、敵の注意力が散漫になっている隙を突き、正面から主力の連中が押し切ってくれるのを願う。


 ちょうど、俺がそんなことを考えていた時だった。


 離れた地点、具体的な位置や距離は定かではないが、自らを奮い立たせる様な「おぉぉぉっ!」という雄叫びがいくつも聞こえてきた。敵が発したものか、あるいは味方が発したものか。もしかしたら両陣営からかもしれない。

 銃声もそれに伴って一層、激しいものになる。


「おい、何かあっちが騒がしいぜ」


「あっちもだ! そこら中で喧嘩が起きてるぞ!」


「クレイ、次はどこに向かうんだ?」


 側にいるガーディアンやネイバーフッド・クリップの連中からもいろんな意見が飛び交い、俺を悩ませる。


「ちぃっ……! 乱戦みたいになってるみたいだ。今、ネイバーフッド・クリップを引き連れて出て行ったら確実に同士討ちが始まっちまうぞ」


 俺達と一緒にいるワッツ・ネイバーフッド・クリップからは敵が分かりやすいが、逆にB.K.Bの仲間にとってはワッツ・ネイバーフッド・クリップとウエスト・ワッツ・クリップを見分ける手段など存在しない。


 話自体は伝わっていても、ちょっとしたミスで同士討ちになる。それに、こいつらだってB.K.Bから撃たれたとしたら、そのまま怒って応戦してしまうだろう。泥沼と化すのは必至だ。


「もう一度、最初の地点に戻るぞ! ウォーリアー達の背後だ!」


「チッ! あんまりウロチョロさせんなっつぅの」


 この判断は後ろ側からB.K.Bを支援しようと思っての事ではない。結局、後ろからでも前からでも俺達が味方の近くに現れたらダメなのだ。

 この俺達の移動の間に、ウォーリアーと同盟セットが喧嘩を終わらせてくれないかと目論んでの事だった。


 さらに進もうとするネイバーフッド・クリップの連中を手で制し、しばらくの間その場で待機した。多少の反発はあったが、これまでの俺の判断の実績がものを言う。


「少し、状況の確認がしたい。プレジデントに連絡をするから待ってろ」


「さっさと終わらせろよな」


「味方の位置が分からねぇとあぶねえんだよ。仲間と撃ち合いたくねぇ」


 コールが二回でサーガは電話に出た。


「上手くいったみたいだな、クレイ」


「あぁ。もうウォーリアーから聞いてたか? アンタの策は的中だ。後ろから何回かつついて混乱させてやった」


「あとは力押しだ。味方に任せておけ。ワッツ・ネイバーフッド・クリップはどうしてる?」


「まだ横にいるよ。野に放つわけにはいかねぇんでな」


 くぐもった笑いとも取れる、唸るような声が返ってきた。

 使うには使ったが、あとの事はどうしようかという考えから出たものに違いない。俺だって同じ気持ちだ。


 奴らが明らかに不完全燃焼な様子なのと、ウォーリアー達の戦況も気になる。

 万が一、味方が押されてしまった場合は四の五の言わずにリーチ達を投入するしかないのだが、どうにも気が進まない。


「任せておけとは言うが、勝てそうなのか?」


「五分五分だとは聞いてたが、お前らの仕事のおかげで有利に働いてるのは間違いないはずだ。そこからは何か見えたり聞こえたりしねぇのか」


「銃声が散発的に起きてるくらいだな。状況までは分からねぇし、何より味方が見える場所まで行けねぇんだよ。分かるだろ」


 その時だった。ヒュゥッと風を切る音がして、俺達がいる場所の近く、アスファルト上で跳弾した。流れ弾ではない、明らかにこちらを狙った弾だ。


「おい! どこからだ!」


「撃たれてるぞ! 撃ち返せ!」


「やめろ! 敵か味方か分からねぇ! 退こう、クレイ!」


 一斉に浮足出すガーディアンとワッツ・ネイバーフッド・クリップ。

 俺達を狙った攻撃なのは明らかだが、ガーディアンを狙ったウエスト・ワッツ・クリップの攻撃なのか、ワッツ・ネイバーフッド・クリップを狙ったB.K.Bや友好セットの攻撃なのか分からない。


 前者なら反撃しても良いが、後者で反撃してしまうと大変なことになる。リーチ達も同士討ちを分かった後でさえ引き下がらなくなるだろう。

 現時点では一度この場を退くのが上策だ。後になれば味方からの攻撃だったかどうかなど分からなくなる。


「退くぞ!」


 俺は反撃ではなく、当然撤退の指示を飛ばす。ぐずぐずと見えない標的を探そうとしているネイバーフッド・クリップのメンバーもいたが、ガーディアンや俺に従うつもりのネイバーフッド・クリップのメンバーらが無理やりそれを引っ張ってその場を移動した。


 数分後、サーガからほとんど終結しているとの連絡があった。


「リーチ、じきにこの喧嘩も終わりそうだ。このままエリアに帰ってもいが、送って行こうか」


「なんだよ、ここまで来てトドメはお預け食らうとはな。だが、てめぇらの味方は本当にやってくれたか」


「決着は間違いなさそうだ」


 B.K.Bと友好セットの連合チームの勝利だ。プラスアルファでワッツ・ネイバーフッド・クリップもだな。


「なら、奴らのテリトリーのお目付け役は俺らに任せろよ。わざわざお前らの兵隊が出張って常駐するわけにもいかねぇだろ?」


「……俺では決めかねる話だ」


 結局、特例中の特例として、リーチと仲間数人だけ、サーガや他の仲間とも顔合わせをする運びとなったのだった。

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