Invasion! Watts
手に入れた銃については早速、実戦で運用される事となる。
二日後にワッツ地区へと向かったウォーリアーの内、十人にそれを持たせて攻撃に向かったのだ。
俺もついて行くように指示されるのではないかとも思ったが、さすがにサーガもそこまでは言わなかった。敵地に攻め込むのは基本的にウォーリアーの仕事だ。
だが、敵はあれだけの重武装だったというのに、アサルトライフルの追加注文をする前に攻め込む決断をしたのは驚きだ。とはいえ、多少の試し撃ち以外で使う場面が無いので、実際に戦ってしまうのが手っ取り早いというジレンマもある。
もっと同じ武器が多く欲しい。だがそれ自体が使えるかどうか見極めるには手持ちのもので戦う以外にない。
そのせいもあって、今回は敵の全滅ではなく、半壊を目標としている。本格的な喧嘩の前哨戦のようなものだ。
「クレイ、暇なら売に付き合えよ」
「ヤクか? いいや、遠慮しとく」
手持ち無沙汰に見えたのだろう、ハスラーのメンバーにそう言われたが断る。ガーディアンやハスラーは、今頃はドンパチで気張っているであろうウォーリアーとは対照的に意外にも平常運転だ。
それもこれも、現場がそこまで本腰の全面戦争ではないと知っていることから、残った連中にはあまり緊張感が持てないせいだ。
俺もさっきまでパトロールには出ていたのだが、なんとなく戦況が気になってアジトの近くでぶらぶらしていた。
まさかウォーリアーの誰かに直接連絡しようとも思えないので、ここで彼ら自身の帰りを待つか、教会の中で逐一状況を把握しているであろうサーガがひょっこり顔を出すのを待つ。
ちなみに、シザースも今回はワッツまで出張っているが、残念ながらくたばったりはしないはずだ。
「なんだ。こんなところに座り込んで」
予想的中。サーガが杖を突きながら姿を現した。空いている右手で縁に座る俺の肩を掴む。馬鹿力のせいで若干痛い。
「さすがに気になるだろ? あの銃は俺と無関係ってわけじゃねぇんだし」
「暴発しないかってか? 何せ素人の突貫工事の量産品だ。弾詰まりくらいはあるだろうな」
「は? そう思っててあれを持たせたのかよ。そんなんで追加の取引の事まで中華マフィアに約束したのか」
バシンと頭を叩かれる。
「いてっ!?」
「約束なんてしてねぇ。問題なければ注文すると言ったんだ。問題があれば頼まねぇし、頼むにしてもさらに安くさせる。そんな不良品は使い捨てライフルみたいな運用で十分だ。一度ワッツの奴らを壊滅させられたら、そこの装備を奪えるんだからよ」
なるほどな。一戦交える間だけ耐えられる銃であればいいって魂胆か。
そうだとしても、説明の前にいちいち俺の頭を殴るなよな。
「長い付き合いを期待してたお相手さんが聞いたらどう思うだろうな」
「数十丁も買ってやれば別に文句も出ねぇだろ。また急ぎ間に合わせで武器が必要な時に頼らせてもらっても良いしな」
B.K.Bのメンバーが増加した時や、同盟関係にあるセットへの武器提供に利用しても良いといったところか。安価で、尚且つ大量の銃が必要となったらあのハンとかいうマフィアを使える。
ただし、量はあっても見掛け倒しになる可能性が高いので、サーガの言う通りあくまでも間に合わせといった形だ。
「あのマフィア自体はどうするんだ?」
「別に何もする気はない。かといって仲睦まじくなるつもりもねぇから安心しろ」
「そんな心配してねぇよ。弾詰まりくらいならって言ったが、実際にあのコピー品が暴発してこっちに怪我人が出るようならどうすんだ」
「それは責任を取ってアイツらに死んでもらうしかないだろう」
また余計な仕事が増え、場合によっちゃ双方に死人が出るわけだ。そうならないよう、たまには俺も神様にでも祈っておくか。
……
……
それから三時間ほど経っただろうか。深夜になり、俺はもう帰って寝てしまおうかとバイクに跨ったところだったが、そばにいたハスラーのOGに声をかけられた。
「クレイ、ウォーリアーの凱旋だが帰るのか? 今、すぐそこまで戻ってきてるみたいだ」
「チッ、タイミング最悪だな。待つよ。待つに決まってる」
眠い目をこすり、戦ってきた男たちを迎えるために俺は帰宅を延期した。
蜂の巣という表現がぴったりの、弾痕だらけのバンが二台戻ってくる。前哨戦でこれとは……こっちの武器調達は急ピッチで絶対に必要だと再認識させられるな。
神の奇跡か、B.K.Bのウォーリアーに死者やケガ人は出ていない。街の外側からちびちびとちょっかいを仕掛けただけでこんなに手痛い反撃にあったのだ。深追いや正面衝突は避けたらしい。
「こりゃ、報告を聞くまでもねぇな」
サーガがため息混じりにそう言った。悲惨ともいえる車の状態。誰の目から見ても一筋縄ではいかない相手だと分かる。
「すげぇ出迎えだったぜ。ただ、奴らも俺達を殺そうとまではしてこなかった。お互いに力の探り合いって感じだったな」
敵からも、今回現れたB.K.Bのウォーリアーが先陣に過ぎず、本隊ではないと理解できたようだ。
「こないだ奴らを退散させた時みたいに、余所のセットから火炎瓶を融通してもらうか、味方を大勢連れていくしかねぇぞ」
「銃も足りねぇな。この銃で構わねぇからもっと欲しい」
ウォーリアー達からは次々と要望が出てきた。その口ぶりから中華製のアサルトライフル自体に大きな問題は無かったことも見て取れる。
「どのくらい撃った? 詰まりは無かったか」
「全員分を合わせりゃ二百発以上は撃ってるぜ。詰まりは起こってねぇな」
「それは朗報だ。追加の注文をハンに出しといてやろう。爆発系のものも欲しいな。そっちは味方に頼んでみる。増援もな」
手榴弾などをマフィアに追加注文してもいいだろうが、火炎瓶で事足りるならそれでいい。爆発物となれば本格的にサツもFBIも見過ごせないだろうが、火炎瓶ならばアシもつきにくく、何より準備が手軽だ。
「で、それを待って再攻撃か。しかし車はこの通りズタボロだ。防御面も何かねぇと死人が出るぞ。ボディに鉄板でも張るか」
「確かにそれもあるな。だが、防弾チョッキなんて気合いが抜けるダセェもんは準備しねぇぞ。傭兵や戦争屋じゃねぇんだ」
防弾チョッキはギャングには不人気なのか。確かにそんな代物を使うとは聞いたことが無いが、ダサいの一言で終わらせるとは、妙なこだわりがあるんだな。
「サーガ。防弾チョッキはダサいのに、車に防御を施すのはダサくねぇのか?」
「確かに言われてみればそうだな。さすがはクレイだ。ダンプかトラックでも準備するか。それなら様になる」
泥臭く勝つよりも、華々しく勝つのがいいのは分かる。だが、命以上に大事な物なんてないと思うんだがな。
「ダンプだったら、ウチの叔父貴に頼んで借りられるぜ。建設会社で働いてるからな」
「かち込みに行くって分かっててもかよ?」
早速、ウォーリアー達から車両確保の案が出ている。
「当然だ。出所後からほとんど退いてはいるが、まだまだ彼の心はギャングスタだぜ」
現役のギャングスタをしながら、あるいはギャングスタとして生きてきた後に普通の仕事をしている者は少ない。生涯現役が基本だ。しかし、メイソンさんも含めてB.K.Bには少なからずそういった者もいる。
「よし、それならお前の叔父に頼んでみてくれ。ダンプなら三台は欲しいが、どうだ?」
サーガのこの返答で車両確保の方針は決定する。別にこれに関しちゃ俺も異論はない。普通に行くよりは工事車両の方が頑丈で安全だ。
「一台は確実だが、二台、三台ってなると約束は出来ねぇな」
「そうか。一台だった場合はダンプの後ろにトラックやバンを隠して突っ込む形にしよう。多少の被害は抑えられる」
「武器はあの中国人だろ。そんで、味方はどのくらい連れて行くんだ」
また別のウォーリアーから質問が飛んだ。
「同盟や協力関係にあるセットは全部に声をかける。武器も銃に関しては俺達が出来る限り準備してやるつもりだ」
かなりの出費となるが、大量のインスタント運用のライフルで加勢の人員と火炎瓶が手に入るならイーブンだ。
「ハスラーやガーディアンはどうする? そこまでの大攻勢なら手を貸す必要があるんじゃねのか?」
続いて俺がサーガに質問する。参加しろと言われた場合は、ガーディアンの希望者を募って俺も参戦するつもりだ。
まさかウォーリアー同様、最前線に突っ込ませるって事にはならないだろうからな。それよりはいくらか危険度が低い。
「いや、ハスラーとガーディアンは後方支援って感じだな。サツの出番を妨害し、仲間の離脱の必要がある場合はアシを準備して駆けつけてくれ。最優先はB.K.Bのウォーリアーだが、同盟セットの連中の手助けもしてやって欲しい」
「了解した。決行はいつくらいになる?」
「武器手配と味方への連絡の返答で数日は空くから安心しろ。明日明後日なんてことは言わねぇ」
「分かった」
……
B.K.Bのアジトから少しだけ離れた、スクラップ置き場。その広大な空き地の中に様々なセットからやってきたギャングスタ達が溢れかえっていた。
「絶景絶景」
「なーにが絶景だよ。絶望的な景色にしか見えねぇぞ」
ふざけた言葉を吐くサーガと、それに反発する俺の声は完全に喧騒にかき消されてしまっている。
集まったのはおよそ10からなるギャングセットだ。そのほとんどが俺達と同じブラッズである。たまたま赤以外の服をチームカラーにしているセットは一つもなかったので、真っ赤な集団がごった返している。
車両は予定通りダンプだが、意外にも三台準備できていた。それに乗るのはB.K.Bのメンバーで、後ろからそれぞれの味方が自前の車で追従する。
武器も味方に配るために中国人から合計で百三十丁仕入れている。奴らもホクホクだろう。
人数で言えばB.K.Bのウォーリアーを含めて全部で百五十人くらいか。十人以上の増援を出してくれたセットが有れば、二、三人だけのところもある。これは彼らの規模や状況にもよるので、少ないからと特に不満を言うべき点ではない。
もちろん、この場にはハスラーやガーディアンのメンバーもいるので百五十人以上の人数がいる。それがすべて戦闘に参加するわけではないものの、それでも圧巻の大規模だ。
こんなものが猛獣の群れのように押し寄せてくると思うと、ウエスト・ワッツ・クリップの連中がほんの少しだけ気の毒だ。心底、味方で良かった。
「クレイ。ガーディアンの方でアシはどのくらいになる」
「セダンが三台。ハスラーも三台のはずだよ。ワッツのそばで待機して、サツの動きを監視する。それと、ケガ人が出たって連絡を受けたら駆けつける。死人は悪いが後回しだ」
「それでいい。頼んだ」
その三十分後、先行して出発したウォーリアー達のダンプを含む車列を見送る。
今回の大喧嘩、ガーディアンとハスラーは同じ仕事を担当するわけだが内部的には分かれている。ガーディアンのメインはサツの動きの監視とブロックで、ハスラーの方が搬送メインになる。
そのため、ウォーリアー達の出発からほどなくして俺達も出発となった。
三台に分乗しているのは俺を入れて十人のガーディアン。選抜メンバーはいつもはパトロールを担当している元ワンクスタだった奴ら、それもB.K.Bメンバーとして正式に加入しているものがほとんどだ。
ただし、そのすべてを連れていってここを空けるわけにはいかない。万が一攻撃を受ければ街に危険が及ぶので、ガーディアンやハスラーはここに残る連中も多い。
「クレイ、サツを見張るのは分かるが、具体的にどうやって妨害するんだ? 奴らが現場に駆け付けようとしたらよ」
ハンドルを握るガーディアンのメンバーが俺に訊いた。ちょうどそれを考えていたところだ。
「典型的なのは車ごと体当たりだろうが、あまり気乗りしないな。ワッツの連中が俺たちの街と変わらないくらいの不可侵条約を結んでくれてれば、ほとんどお役御免で済むんだけどな」
「お役御免とまでは言えねぇだろ。ハスラーの仕事を手伝うだけだ」
「んな事分かってんだよ」
「おい、二人とも、サツだ」
「「……」」
また別の仲間にそう言われ、ポリスカーを目にした俺達の緊張が高まる。まだ地元を出たばかりでワッツにも着いてねぇってのに、先が思いやられるぜ。




