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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Trouble! Mafioso

 数日後、飛び込んできた情報に、サーガは片眉をひそめた。


 俺達が送り届けたチカーノだったが、あの場の中華料理店で大暴れし、店を大破させたらしい。そこまではいい。その後、裏から入って来た中国系のマフィア連中とドンパチがあり、チカーノの連中はやられたらしい。マフィアの方も数人の犠牲が出ている。そこまでも別にいい。


 そして、今まさにこの瞬間、複数のアジア人を乗せた高級車が近くをうろついているという情報が入ってきたのだ。

 チカーノの誰かが実は生きていて喋ったか、他の手段でB.K.Bまでどうにか辿り着いたのかは不明だ。


「それで、報復に来た割には黒塗りの中華セダンが一台だと?」


 これがサーガが訝しんだ理由だ。彼らがここへ来ることはあっても、別にケンカだったら迎え撃ってやるつもりだったらしい。しかし何やらそんな様子ではないという。


 しばらく黙考した後、サーガがそばにいたOGの一人に指示を出す。


「ウォーリアーにその車両を止めさせて用件を聞かせろ」


「あいよ。ドンパチになったらどうする?」


「殺せ」


……


 場所を移し、俺やサーガを含む面々は高架下の空き地でそのセダンの到着を待った。ウォーリアーと話したマフィアから、上の人間と話がしたいから来たらしいとの連絡があったからだ。

 時折、上を貨物列車が通過してガタンゴトンとやかましい。


 信頼もしていない相手に対してアジトの場所を教えるのは危険だと判断したサーガは、ほとんどのメンバーをこの場に集結させて待ち構えているわけだ。

 コンクリートの壁にはB.K.Bのテリトリー内である事を示すタグがびっしりと書き込まれている。


 遠くから近づいてくる一台分のヘッドライト、ここへ来るようにと伝えたマフィアたちに違いない。


「お初にお目にかかるな。私はハンという」


「サーガだ。茶でも淹れてやろうか、中国人」


「結構だ」


 黒塗りの高級セダンから降りた中国人は二人。サーガと遠巻きに言葉を交わしているのは、ラフなスポーツジャージに身を包んだ壮年の人物だ。スーツなどの正装のイメージが強いマフィアだが、最近は普段着の様な格好をしていて身分を欺く連中も多い。

 周りはB.K.Bのメンバーだらけなのだが、二人には特におびえた様子がない。大した胆力だ。


「で、たったの二人で飛び込んでくるとは見上げた根性だ。用件くらいなら聞いてやるぜ?」


「それを聞きたいのはこちらのほうだよ、ギャングさん。ウチの店が見知らぬ連中に荒らされてね。何かご存知ないかな?」


 さすがの情報網というべきか。やはりここまで嗅ぎつけてきやがったみたいだな。


「あぁ? 店? 何の話だ?」


 予定通り、サーガはしらばっくれている。お互いに関与は分かり切っているのだろうが、腹の探り合いというわけだ。


「冗談はそこまでだ。こちらには実害が出ているんだぞ。あのメキシカン共、あれはアンタらが送り込んだんだろう?」


「チカーノか。それだったら、ちょうど数日前にウチのテリトリーを荒らしに来やがったのを追い払ったぞ。まさかとは思うがお前、それが変にウチへ罪を擦り付けようとしてんのを鵜呑みにしてる、とかじゃねぇよな? 負け続きで悔しいんだろうが、俺らを巻き込もうってんなら失策だな」


「その話を信用できるとでも? 奴らはお前たちにそそのかされたの一点張りだ。もう死んだがな」


「知らねぇよ。あんまり俺をイラつかせるなよ、中国人。殺すぞ」


「大きく出たな。肝に銘じておこう。それで……もう一つ、別のギャングに襲われたと聞いたが?」


 サーガに脅されているというのに、相手はすまし顔で煙草に火をつけている。それなりに火事場を潜り抜けてきた強者の態度だ。使いに出されているくらいなので、ボスというわけではないだろうが、コイツは若頭などの地位がある構成員かもしれない。


「ふん。それがどうした」


「派手な連中だったと聞いている。そこに肩入れしてる奴らに、心当たりがあってな」


「あぁ? お前のところと敵対してる組がスポンサーって意味か? マジでマフィア絡みの装備だったってのかよ。だったら、遠慮はいらねぇな。自分で蒔いた種だ」


「あぁ。そこが潰れるなら我々としても万々歳というわけさ。特に、ビッグ・クレイ・ブラッドは昔から名も通っている大ギャングだ。勝ち馬に乗るなら揉めたくないと思ってな。ウチが安値で支援してやるから、奴らの情報と武器供給はいかがかなという提案だ」


 本来であれば、サーガはマフィアとつるむのは嫌いだ。ただし、情報提供や武器の購入など、あくまでもビジネスパートナーとして利用するだけであれば、仕方なく話を呑むかもしれない。


「騙そうって気ならどうなるかわかってんだろうな」


「まさか。何のメリットがある」


「店を潰されたってのを俺達のせいだと勝手に押し付けて、その報復だってんなら大有りだろうが」


「……最後まで認めないつもりらしいな。もうそれでいい。奴らはロシア系の組でな。拠点はロサンゼルス市内だ。バンカーヒル辺りにビルを持ってるが、流石にあんな都心部を襲うってのは無茶だろう。いくらか、組員の住所を突き止めてる。使うかどうかはお前たち次第だ」


 周りが固唾をのむ中、相手が先に折れた。マフィア側からギャングに媚びを売ってくるとは驚きだな。これも時代の変化って奴かね。


「そいつらにそそのかされてウチに来たギャングの方は? むしろそっちの方が重要でよ」


「おっと。知ってはいるが、今すぐ全部喋ろうとは思えないな。武器がご入用ではございませんか、お客様?」


「はっ。笑わせてくれるぜ。まずは全ての情報がデマじゃねぇかどうか、それを認められねぇとお前らの口車に乗るわけがねぇだろ」


 サーガの厳しい回答に、相手は肩をすくめる。

 この場合、サーガ言うデマとはまずその組員らの住所。そして、攻めてきたギャングの拠点。それから、そもそも本当にそのロシア系のマフィアが絡んでアイツらが武装していたのかどうかの三点だ。


「それは俺達の誠意を信じてもらうしかないな。見てみろ。たったの二人で獰猛な怪物がいるこの場に飛び込んできたんだぞ? 少しでも下手を打てば瞬殺だ。それが分かっててお前らを騙そうなんて気にはならないな」


 命を懸けて交渉に臨んでいる。それを買ってくれ、というわけだ。


「誠意? そんなわけわかんねぇ理屈で初対面の奴を信頼するには値しねぇが、確かにお前らが気合入ってるって事は認めてやるよ。だから……とっとと教えろ。それを仲間に確認させて、真実であれば取引してやる」


「その言葉、決して違えないでくれよ」


 相手は携帯電話を取り出して画面を見た。そこに色々と書いてあるらしい。拳銃を出すのではとメンバーの何人かが身構えたが、出てきたのが電話だったので惨事は抑えられる。

 会話の流れ的にここで銃なんか出てくるとは考えづらいので当然だ。


「サウスセントラルのワッツ地区だ。そこのギャングが関わってるってのが分かってる」


「セット名は?」


「セット? あぁ、組織名の事か。ウエスト・ワッツ・クリップと思われる、との事だ」


 敵のセット名が判明した途端、B.K.Bの仲間たちから複数の怒号が上がる。


「どうやらゾッコンらしいな」


「いいや。初めて聞いたセットだ。すぐに調べさせる。それまで、てめぇらはウチで軟禁だな」


 俺も、ウエスト・ワッツ・クリップってのは以前から因縁があるギャングなのかもしれないと思ったが、別にそういうわけでもないらしい。


「待て、なぜそうなる。我々を信頼できるまで、時間がかかるのは理解したが、それで身柄を拘束するのはやりすぎじゃないか」


 さすがにそんな暴挙には納得できないらしい。俺も同感だ。


「なぁに、ほんの一、二時間だ。茶でも飲みながら話してればすぐだろうよ。それとも、この情報に自信が無くて、確実に嘘がめくれて消されると思ってるのか?」


「それはないが。分かったよ、さっさと手下をワッツに向かわせて調べてくれ。我々も忙しい身なのでね」


 またしても相手側が折れる。顧客と武器商人という立場を鑑みても、交渉における力関係がはっきりとした瞬間だ。


……


 二時間の間、移動先のファミリーレストランで中華マフィアたちはB.K.Bに囲まれていた。さすがに店内にはすべてのB.K.Bメンバーが入るわけにもいかないので、サーガや俺と、他におよそ五名の仲間が彼らの周りに座っている。

 店内は賑わっていたが、店員や一般客は物々しい雰囲気のこの集団の動向が気になって仕方がないといった様子だ。


「喜べ。ワッツに向かった仲間からの連絡だ」


 電話ではなく、Eメールで詳細が送られてきたのは、写真を添付するよう頼んだからだ。

 そこには例のギャングメンバー達や、手にしている自動小銃などが写されていた。ひとかどのギャングスタが手にするには過分な銃火器だ。


「ビンゴだったか?」


「あぁ。どうした、この情報は自信満々だったはずだろうよ」


「我々の組員の誰かがそこまで直接出向いたわけではなかったからな。小間使いみたいな連中からの情報だった。多少の不安が無かったと言えばウソになる。しかし、結果オーライだ」


 相手の中国人が右手を差し出した。サーガは一拍も置かずにそれを握り返す。心からの信頼ではないだろうが、仕事としてなら付き合ってやれるという事だ。


「どのくらいの量、どんなものが、どれくらいの期間で流せる?」


「それをここで話すには不注意すぎやしないか」


「……お前らの車の中で話そう。クレイ、来い」


 どうして俺が呼ばれるのかね。サーガと二人のマフィオーソたちと一緒に店から出て、俺は奴らの車の中に乗り込んだ。


「奴らを追い払うか、壊滅するか、どちらをご所望だ?」


「笑わせるな。皆殺しに決まってる」


「威勢のいい事だ。我々としてもそちらの方が稼がせてもらえるがな。手始めに、アサルトライフルを50、流してやろう。もちろん高品質の中国製の奴だ。密輸品だが新品だ。それでどうだ?」


 手始め、ということはまだまだ流してくれるという事か。本当に一度限りではなく、しばらくの付き合いになるかもしれないな。

 しかし、中国製の銃か。その実力や耐久力は正直なところ未知数だな。


「中華銃だと? どのくらいの金額で流せる?」


「三万ドル」


 三つの指が立てられる。破格だ。

 一丁辺り600ドルとすると、アメリカ製の一丁辺り1500ドル前後のライフルとはまるで比べられない。

 だが、サーガもそれにすぐ飛びつくほど愚かじゃない。


「実物を見たことがねぇ。サンプルは? 故障に欠陥だらけじゃお話にならねぇぞ」


「もちろん持って来ている。おい」


 もう一人の組員に指示し、運転席の足元から一丁のアサルトライフルが出てきた。コイツはサーガと話をしている男の舎弟の様な者か。


「見せろ」


 後部座席に俺と座っているサーガが、前からライフルをむんずとつかみ取る。

 窓には濃いフィルムが貼られているので外から誰かに見られる心配はないだろう。見られたところでここはB.K.Bのお膝元だ。大きな問題にはなるまい。


「弾は? 中華製は確か、変なサイズの弾丸が主流じゃなかったか」


「ご名答。通常の5.56ミリ弾も7.62ミリ弾もコイツでは撃てない。当然、弾薬もご用命いただければいくらでも準備しよう。多少は安値でな」


「それが狙いか、とんだ悪徳商法だぜ」


 中華製の弾薬をアメリカ国内で手に入れるのは手間だ。つまり、B.K.Bがこの銃を運用し続ける限り、このマフィアとの取引は終わらないというわけだ。確かに意地汚い商売だな。

 それに万が一、仲違いしてこちらを無力化したくなれば、相手は弾薬の供給を止めればいいというおまけつきだ。


「だが、悪いことだらけでもないさ。信頼のおける銃が安値で手に入る。弾薬だってな」


「試し撃ちがしたい。ちょっと面貸せ」


「無論、そのくらいは構わないが、こんな住宅街でぶっ放す気か?」


「さっきの高架下にトンボ帰りだ。車を出せ」


 サーガと俺を乗せたマフィアの車に連なり、B.K.Bのメンバーが乗った車列が郊外へと移動する。


 移動中、俺もそのライフルを中国人の説明付きで色々と触らせてもらったが、見慣れない漢字でスイッチ類の表記が成されている以外、特に問題は見当たらない。

 やはり、サーガの言う通り撃ってみるしかなさそうだが、高架下に着いたところで俺がこの場に呼ばれた理由が理解できた。


「クレイ、使い方は覚えたな? 撃ってみろ」


 経験を積ませようとしてくれていると言えば聞こえはいいが、つまり、体のいい人柱ってわけだ。

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