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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Search! Mafioso

 いつも通りに地元の街を警邏する現場組だったが、この日ばかりは度々足を止めぜるを得なかった。

 何度も鳴り響く俺の携帯電話のせいだ。


「すまん、まただ」


 新たな着信音に、一緒に行動していたメンバー達は肩をすくめる。


「よう、俺だ」


「クレイ。少し遠いが、ダウンタウンの情報でもいいか」


「あぁ」


 一斉に情報操作を開始した学生組から、こうして次から次へとマフィア絡みの電話がかかってくるのだ。思いのほか簡単に調べられるらしく、次の電話が鳴るまでに数歩歩くだけの余裕しかない。俺の携帯電話のメモ帳内には土地と建物の名前がどんどん書きこまれていく。

 こんなことになるのであればメールで受け付けると伝えておけばよかった。


「今日はお前だけ教会内にでもいたん方が良いんじゃねぇか、クレイ?」


「俺もそう思うぜ? 全然パトロールできねぇよ」


 電話を切ると、周りのメンバーからごもっともな意見が飛んできた。


「あぁ、みんなに迷惑かけちまってるな。そうするか」


「仕事の連絡だから迷惑とは言わねぇさ。だが、今日くらいならこっちは俺達に任せてくれて構わねぇぜ」


「すまん。教会に行くとするよ。あらかたパトロールが終わったら、好きに解散してくれ」


 そう言って仲間たちから離れ、俺はアジトへと向かう。その道中すらもやはり学生組からの電話は鳴り続け、その度にメモ帳へと情報を書き込んでいく。


 教会の前についた。しかし電話は鳴り止まない。中に入ってもこの調子でずっと通話を繰り返していたら、サーガから「うるせぇ」と小言を言われるだろう。

 かといって扉の前でも見張りのメンバーたちから何かと言われてしまいそうだ。事実、近くにいたウォーリアーの二人がジロジロと俺を見ている。


「なんだぁ? 噂通り、忙しそうにしやがってよ」


 そんな俺を見つけたシザースがどこからともなくやってきた。

 こんなことでも絡もうとしてきやがって、暇でぶらぶらしてるだけの事はある。


「忙しいって分かってるならどっか行ってろ」


「あぁ? 手伝ってやろうかと思ったんだぜ? 俺様の優しさに感謝しろよ」


「もしもし、俺だ。あぁ。いいぞ、頼む」


「……って、おい! 無視すんなよ!」


 シザースに肩を揺らされながらも新たな着信を受け、俺は新しいメモを取る。既に二十件以上の情報が集まってきている。


「うるせぇな。構ってる暇なんてねぇんだよ」


「構ってやろうとしてんのは俺の方だ! 勘違いすんなよな!」


「もしもし。俺だ。そうだな、助かる」


「……」


 次の着信。シザースがいじけるまで、数秒とかからなかった。


……


「久々のお客さんだ。数は……二十ってところだとよ」


 数日経ち、マフィアの拠点をあらかた割り出すことを終えた頃、余所者による攻撃が発生した。規模としては大したことはないが、今回はいつも以上に脅威だ。


「二十? 少ねぇな」


 教会内で報告を行う俺の目の前には、聖書に目線を落としているサーガがいた。


「だが、ガーディアンの報告だと武装が一級品らしい。マシンガンにライフル、ショットガンだとよ」


 これが脅威である理由だ、豆鉄砲やバットを持って来ているのとはわけが違う。文字通り戦争をやるつもりらしい。


「ほう? 他にはランチャーや戦車でも隠してるか?」


「冗談じゃないっての。車両はSUVが数台だ。ガーディアンは潜んで奴らの動きを監視してるが、手出しなんかできっこない。ウォーリアーも穴だらけにされたくなきゃ、うかうかと近づかせるわけにはいかないぜ」


「それは大したものだな。どうやって撃退するか。それも、今回はマフィア拠点にぶつける餌にしちまおうって話だったな。これは骨が折れそうだな、クレイ」


「何を他人事みたいに言ってんだよ。そこは俺の仕事じゃねぇはずだぜ」


 サーガはこんな調子で余裕ぶってるが、頭をフル回転させていると思う。さすがに重火器を持ち出されちゃ死者がゼロとはいかない。どこのセットだか知らねぇが、御大層な物を持ち出してくれやがって。


 どこからか連射する銃声が聞こえる。とうとうウォーリアーとぶつかってしまったのだろうか。いいや、ガーディアンからはそんな報告は入っていない。

 まさか、ガーディアンの方が先に撃たれた……?


「サーガ、これは」


「心配ない。おそらく、俺が呼んでおいたお客さんのご到着だ。まさか、ブッキングとは敵さんもついてなかったな」


「……は?」


 一体なんの話だ。俺は何も聞いてねぇぞ。


「お前の仕事の為の餌だよ。使う奴らがいねぇとお前が可哀想だと思って用意しておいた」


「まさか、わざとここを襲うようにどこかのセットをけしかけたってのか? それが別の連中とたまたま鉢合わせになったと?」


 そんなうまい話があってたまるか。それに、俺達の地元を襲わせるようにしたのだとしたら、それはいくらサーガであろうと許される事ではない。


「んなことするかよ。既にここを襲う計画してた阿呆がいるって話を聞いたから、今日はウォーリアーが出払って、街は空っぽだって偽の情報を流しただけだ。もう一方の軍隊ごっこしてる連中はマジで知らん。運が味方したな」


 なるほど。そこを待ち受けて首根っこを掴み、俺が調べたマフィア拠点にぶつける算段だったのか。妙な御膳立てしやがって。

 だが、マフィアにぶつけるまでもなく、そいつら二つの敵対セットがつぶし合ってくれるのは僥倖だ。舞台がこの街じゃなければ最高だったんだがな。


「これが神のご加護って奴かよ。大したもんだな」


「はっ、これで俺が宗教に傾倒している理由が理解できたか? おぉ、神よ。我らに敵対ギャングを潰すためのお力をお貸しください。対戦車ミサイルとキャデラックのエスカレードをお与えください」


「随分と熱心で現金な信者だな」


 ネックレスについた小さな十字架を掲げてふざけるサーガを尻目に、俺は敵を現場で監視しているガーディアンの仲間に連絡した。


「クレイ、今こっちからも通話かけようとしてたところだ。何だかおかしなことになってやがる」


「敵同士がよろしくやってんだろ? 片方はサーガが嵌めておびき寄せた連中だ。戦力差はどうだ? 上手く潰し合ってくれそうか?」


「いいや、さすがに装備が違い過ぎる。まるでガキと大人の喧嘩だ。後から来た連中のほうは多分すぐに敗走するぞ」


「ちょっと代わってくれ、クレイ」


 ぬっ、とサーガの太い腕が伸びてきて、俺が返事をする前に携帯電話を取り上げられた。アンタにも聞こえるようにハンズフリーでスピーカー出力にしてるんだから、別にそこから喋ればいいだけなんだがな。


「俺だ」


「あぁ? 誰だ? サーガか?」


「おう。今の状況を聞かせてもらった。そっちの、俺が嵌めた連中が敗走しようとしたら捕まえろ。出来るか?」


 マフィアにぶつける為の手だろうが、中々に難しい要求だ。それに、撃たれまくって疲弊した奴らをまた別の敵にけしかけるなんて可能なのだろうか。


「出来るが……もう一方の危ない連中はどうする?」


「それはウォーリアーの仕事だ。キツそうなら味方のセットも呼び込む。で、そっちで他の連中は手一杯になるから、逃げる奴らの捕縛をガーディアンに依頼してるんだろうが」


……


 完全武装の敵を追い返し、敗走した連中のいくらかを捕らえるまでには三時間ほどの時間を要した。

 特に強敵の方はかなりの大仕事で、味方のセットの連中に急ごしらえの火炎瓶を準備してもらい、それで敵車両を燃やすことでようやく引き上げていった。


 次回の襲撃もそう遠くない日に訪れるかもしれない。サーガは手榴弾などの準備を検討し始めている。


「クソッたれ……! 殺すならさっさとしろ!」


「俺達をどうするつもりだ!? 呪ってやるからな!」


 結束バンドで縛られ、地面に転がされているのは敗走した方のギャングの連中だ。人数は四人。人種はチカーノで、俺達と同じ、イーストロサンゼルス内で生活しているセットらしい。言ってしまえば、ご近所さんだ。


「呪うとはまた面白いことを言うな、小僧」


 杖を手にしたサーガが彼らを見下ろしている。


「分かっているとは思うが、お前たちとやり合ったのはお客さんだ。俺達B.K.Bじゃない」


「だとしても、お前らが差し向けたんだろう! 用心棒代わりにな! この腰抜けどもめ!」


「こっちにもケガ人が出てるのに、か? もう少し考えてものを言え」


 ズン、と杖を鳩尾に突き立てられ、罵倒したその男は激しく咳き込んだ。


「それでだ。あいつらにあんな頭のおかしな武器供給をしやがったマフィアを突き止めた」


 なるほど、そういう理屈でこいつらを差し向けようって腹か。実際にマフィアが武器供給をしていたかどうかはこの際は問題ではない。


「もちろんアイツら自身の拠点を教えても良い。どうだ、知りたくは無いか? 俺達だってお前たちよりはアイツらを恨んでる。力になれると思うんだが。それでここを襲いに来たお前たちの罪は水に流そう」


 マフィアの拠点か、先ほどの重火器で武装したギャングの拠点か。どちらでも構わないというわけだ。


 転がされているチカーノたちは互いを見合い、どうする、といった表情で困惑し始めた。

 当たり前だ。襲いに来たはずのセットでまた別のギャングに攻撃を受け、それへの仕返しを元はターゲットだったはずのB.K.Bから申し入れられているという、何とも奇妙な状況なのだから。


「おい、黙ってないで答えろよ。別に仕返ししたくないって言うならこのまま解放してやるが、てめぇらの評判はがた落ちだぜ? 目標達成も出来ず、仕返しすらも出来ない腰抜けだってな」


 これは効いた。迫害されてきた歴史から、ただでさえプライドが高いメキシコ移民であり、尚且つ彼らはギャングスタだ。

 紅蓮の炎のように憤慨する。


「ふざけるな! そこまで言うなら何もしないわけねぇだろ!」


「おうよ! アイツら絶対に叩き潰してやる! ただし、その後はてめぇらだからな!」


「阿呆。後からウチに矛先向けるのは恩知らずってんだよ。そんな裏切りが知れ渡ったら、四面楚歌になって自分たちの首を絞めるだけだろうが」


 威勢がつきすぎて、いずれB.K.Bにも攻撃するとほざいた男の横腹をサーガの杖が小突く。


「待てよ。その後、お前らと仲良くやれって言ってんのか? それこそ筋違いだろうが」


「筋違いなもんか。共通の敵が見つかったら、元は敵だった奴でも協力するのが人情ってもんだぜ。で、どうすんだ。組むのか、組まねぇのか」


 しばらくの間、地面に転がされている四人の話し合いがあった。もう捕縛は解いてやってもいいと思うのだがそのままだ。


 そして、組むという答えにまとまったようだ。


「そうか。次の質問はその標的だ。奴ら自体に報復するか、その後ろ盾でコソコソと武器を回してるマフィアの拠点を襲うか。選べ」


「そんなもんは最初から決まってるぜ。両方だよ」


……


「んで、俺が案内役ってわけかよ」


「ぼそぼそ言ってねぇでさっさと案内しろよ」


 その一時間後、俺はチカーノの連中とガーディアン数人、そして当たり前のようについてきたシザースなどを引き連れて遠足ごっこに勤しんでいた。


 目指す場所はロサンゼルスのリトルトーキョー付近。多く集まっている日系人に紛れて、中国人が営業しているという酒場だ。

 別にそれ自体は大したことではないのだが、どうやらその場所で麻薬の売買が行われる事が多いらしい。おそらくマフィア絡みのネタだろう。


 厳密に言うと何処の組織だとか、そういった部分までは突き止められなかった。だが、そこを襲撃することでチカーノ連中がマフィアと揉めてくれればそれでいい。当然ながら、B.K.Bはそこまでのエスコートだけで、喧嘩には一切参加しない。


 チカーノ連中が捕らえられてゲロったりすればまたこっちにも問題が飛び火するが、その時はその時でサーガが対策を打つらしい。

 ちなみに、武装してきていたお客さんの情報は絶賛捜索中だ。


 酒場の前に俺達が乗る車がついた。外観は酒場というか中華料理屋だ。中国の城門にも似た瓦屋根の門構えに漢字で店名が記された看板が上がっている。


 おそらく関わっているのは中国系のマフィアだろう。表のシノギは中華料理屋を装い、裏でマフィアとして暗躍している中国人は驚くほど多い。

 ここ、ロサンゼルスだけではなく、ニューヨーク、ロンドン、パリ、モスクワ、東京など、世界各国に独立した勢力を持っているのが奴らの特徴だ。

 大きな上部組織があって管轄しているロシアンやイタリアンマフィアとは形態が少しばかり違う。ただ、独立しているおかげで横の組との繋がり程度しかないので、小競り合い程度で済ませるには悪くない相手だ。

 もっとも、B.K.Bはサーガの悪知恵を使って、知らぬ存ぜぬ、あずかり知らぬ話になるんだろうがな。


「着いたぞ」


「よし、あんがとな! ぶっ潰してくるからそれまでここで待っててくれ!」


「礼なんて言われる筋合いはねぇよ」


 チカーノたちが店内へと消えるや否や、乗員がB.K.Bだけとなった車はそそくさと退散したのだった。

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