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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Rid! B.K.B

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 しわがれた叫び声がして、俺の頭は瞬時に覚醒した。叫び声の出どころは隣にある寝室。この声の主はお袋だ。

 この前は俺がうなされてお袋に心配をかけたが、大抵は逆のパターンが多い。今でもこうして時折うなされては、数分の間、ヒステリックな叫び声を上げ続ける。初めのころは隣人や警官が駆けつけることもあったが、最近は良くあることだと知れ渡ったらしくそれもない。当然の如く精神科に入ることも勧められたようだが、俺を一人にするわけにはいかないと断ったようだった。


 俺はお袋の声が止んだのを確認すると隣の寝室に向かい、そっと扉を開けた。いびきをかいているので眠っているようだ。

 お袋の顔を覗き込む。白髪交じりで乱れた髪。小皺が刻まれた肌。とてもではないが、四十手前の若い母親には見えない。ここまでお袋が老け込んでしまっているのは、両親の立て続けの死で支えを失い、たった一人で俺を守らなければならなくなったプレッシャーが少なくないと思う。

 そして、夫であるジャックが早世したことも関係していないはずがない。あのバカな親父がギャングスタなんかをやっていたせいだ。幼い子供と嫁を残して、撃たれて死ぬなんて無責任にも程がある。守るべき家庭を持ったのであれば、危険と隣り合わせの世界からはさっさと身を退くべきだったのだ。

 俺は眠るお袋の痛んだ髪を撫で、頬にキスをすると自室に戻った。


……


 宣言通りに松葉杖をついて登校した俺は、クラスルームに入るなりアッという間にクラスメート達から囲まれてしまった。皆一様に好奇心を瞳に宿らせているのが分かる。期待していたわけではないが、俺の身体の心配よりも事件への興味が勝ってしまうのだろう。


「クレイ! 大怪我負ったんだって!」


「やっぱり、こないだの発表のギャング絡みか!?」


「まさか撃たれたのか!」


 まったく、押し合いへし合いになっては落ち着いて席にもつけやしない。リカルドは助けてくれないかと奴を探したが、目が合うと苦笑いをして肩をすくめただけだった。割って入れば目立つから止めはしない、という意味だろう。

 このクラスにだって俺に手を出した容疑者がいないとは限らないのだ。大勢に揉まれながらも、俺は冷たい視線をこちらに向けている奴がいないかを鋭く観察した。だが、パッと見ただけではそれらしい奴はいないように思える。

 とにかくクラスメート達を落ち着かせるため、俺は一人一人の質問に答えてやった。


「見ての通りの大怪我さ。相手はこの学校のワンクスタ……だと思う。数人で俺を拉致ってフルボッコだ」


 うおぉ、と数人から歓声が上がる。やられたこっちはたまったもんじゃないってのに、呆れた奴らだ。しかし関心を持っていることは悪くない。こんな事をする連中をそのままにはしておけないと思ってくれればそれでいい。


「そういうわけで撃たれちゃいない。身体の節々が痛くて仕方ねぇがな」


「誰がやったのかわからないのかよ! さすがにこれはやりすぎだぜ!」


 一人の大柄な生徒が憤った。名前はジェイク。俺と同じ黒人だが、いかにもガキ大将といった性格の持ち主で、粗暴な言動や行動も多い。正直なところあまり関わりたくないクラスメートだったが、彼が怒ったのは意外だった。どちらかと言うとワンクスタ側に立つ者の筆頭だと思っていたからだ。


「犯人はわかってねぇ。だが絶対に突き止めようと思ってる。きちんと謝ってもらわねぇとな」


「甘いぜ、クレイ! 俺も一緒に探してやるから、見つけてぶっ飛ばしてやろう!」


 俺の怪我を理由にして暴れたいだけじゃないのか? という言葉はすんでのところで飲み込んだ。


「待ってくれ。それじゃ、ただの喧嘩じゃねぇか。俺はギャングみたいな連中にいなくなって欲しいと思ってるんだぜ? 同じことをやりかえしたら、それこそワンクスタと何も変わらねぇ」


「だからそれが甘いってんだよ! お前の気持ちは別に悪いもんだとは思わねぇが、二度とこんな馬鹿な真似はやりたくねぇと思わせることが一番大事なんじゃねぇのか」


 ジェイクの意見に俺は気圧された。根本的な解決のために、あえて奴らと同じ土俵に立つというわけか。しかしその手を取るという事は、B.K.Bを武力で叩き潰すことが最終的な目標に様変わりしてしまう。


「俺はギャング相手に喧嘩なんかしたくないってんだよ! ビビってるんじゃねぇ、奴らと同じになりたくないからだ!」


「おい、誰もそんな事言ってねぇだろ! 今はお前をこんな目に合わせた連中の話をしてるんだぜ。相手するのはギャングスタじゃねぇ、ワンクスタだ! その後のことはその後で考えろよ!」


 つまり、ワンクスタみたいな半グレ連中は力で抑えつけて悪事を働かせないようにするということか。本命であるギャングスタはいずれ俺なりのやり方で消す、という考えはそのままにしておく。果たしてこれは正しいのだろうか。


「ちょっと考えさせてくれ。それが正解なのかわからねぇ……だが、何でお前が協力してくれるんだ?」


「そんなの当たり前だろ。同じクラスの仲間だからじゃねぇか。放っておいたらお前が報われねぇ」


「別に俺の意見に賛同してくれるって意味じゃないんだな」


「まぁな。正直、ギャングがどうのってのは俺も良くわからねぇ。付き合いがあるわけじゃねぇからな。でも、ハイスクールの事ならわかるぜ。こんな真似しやがった奴が近くにいるのは我慢ならねぇってな!」


 ジェイクもギャングに対しては中立派という事か。確かに彼の言う通り、本当のギャングスタと接点がないとピンとこないのかもしれない。リカルドの兄貴みたいに、身近に現れた子悪党を退治してやるという心持ちなのだろう。


「おや、クレイ。登校してきたのか」


 黒縁メガネの先生がクラスルームに入ってきて、他のクラスメートらは散っていった。


……


 放課後に、保健室で湿布や包帯の張替えをしてもらった。

 ベッドに座っている俺の正面には黒縁メガネの先生の顔がある。


「君には、学内で守ってやれなかったことを謝罪しなければなるまい。本当にすまなかった」


「……別にいいっての」


「しかしこれではっきりしただろう。君の考えは確かに素晴らしいものだが、こうやって危険を伴うという事が」


 お決まりの説教か。何度諭されようと、俺は正しいと思うことを正しいと言う。先生に恨みはないが、こればっかりは逆らわざるを得ない。


「危険は承知の上だと言ったはずだろ。これくらいの事、何てことないさ」


「命を落とすようなことになってからでは遅いんだ。とにかく、これ以上は学内で君の考えを広めないようにした方が良い。仲の良い友達だって同じ目に合うかもしれないんだよ?」


 真っ先にリカルドの顔が浮かんだ。いや、きっと大丈夫だ。奴は俺への協力がバレないように最大限の注意を払っている。今も人知れず犯人のリスト作成のために暗躍してくれているはずだ。


「先生。学校側では、責任を持って俺をこんな目に合わせた連中を探してくれるんだよな?」


「あぁ、もちろんだ。厳しく追及していく。場合によっては退学などの重い処罰も検討するつもりだよ」


「そうか、少しは安心したよ」


 ただ、どこまでやってくれるかは怪しいところだ。複数の退学者を一斉に出すという事は学校の名に瑕がつくことになる。別にここは名門校ではないが、入学希望者が減るような事を大っぴらにするだろうか。

 厳重注意、数日間の自宅謹慎、そんなところではなかろうかと睨んでいる。もちろん俺はそれに不満があるわけではない。暴力による復讐を望んでいるわけではないので、学校の判断に任せるまでだ。

 しかし、ジェイクの「二度とこんな馬鹿な真似はやりたくねぇと思わせることが一番大事なんじゃねぇのか」という言葉が引っかかっていた。


 その夜は眠れなかった。学校の判断に任せるべきだという考えと、それでは何も解決しないというジェイクの意見。どちらを選ぶべきか。もちろん本心では前者だ。

 そしてそれであいつらも観念して……いや、それはないだろう。きっとまた同じことを繰り返す。B.K.Bの陰に隠れてのうのうと悪事を働き続ける。でもどうしろいうんだ? どうにもできない。俺がいつかギャングを消し去るまでは野放しだ。でもそんなのは最初から分かっていたことじゃないか。それまでは我慢だ、我慢。ここで志を違えるわけにはいかない。


 次の日の朝。俺は松葉杖を部屋に置いて出た。歩き方はぎこちないが何とかなる。それよりもハイスクールに向かう前にリカルドの家に寄って早くリスト作りの成果を聞きたかった。杖なんかついてゆっくり歩いていられない。

 リカルドの家のチャイムを鳴らすと、彼の兄貴が玄関先に現れた。顔も背格好もリカルドとよく似ている。双子ではないかと疑うほどだ。


「あ、おはよう。リカルドはいるか? 今日は一緒に登校しようと思ってさ」


「クレイか。お前も怪我してるんだな」


 杖は無くとも、顔の傷や腫れは隠せない。


「アンタもこないだワンクスタと揉めたんだってな」


「俺じゃない。弟が……リカルドが昨夜やられた」


「何っ!? 家、上がるぞ!」


 馬鹿な! 何でリカルドが! いったい誰にやられた!

 リカルドの兄貴の横をすり抜け、俺はリカルドの自室に向かった。


「あぁ……よう、クレイ……」


「リカルド……」


 痛々しい姿で横たわっているリカルド。顔や四肢は傷だらけだ。服で見えないが、腹や背中も俺と大して変わらない状態だろう。沸々と俺の怒りが強まっていくのが分かった。


「同じ、奴らだな」


「確信はねぇが……多分な。俺様としたことが……下手うっちまったか」


「学内でやられたのか?」


 リカルドが辛そうに首を縦に振る。


「顔は?」


「見てねぇ。なんか目隠しされて……」


「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 同じだ! 手順も全く同じ! 俺は……俺はなにをやってるんだ! 先生の言う通りかよ! 仲間にこんな傷を負わせて! 俺がコイツに、手伝ってくれだなんて頼んだばっかりに……!

 悔しくて涙が流れてくる。俺は叫びながら己の行動を後悔した。

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