Activity! Guardian
「最近のお前はどっぷりとギャングスタだな」
「何だよ、皮肉か? ギャングスタであることは認めるが、俺は争いを避ける活動に奔走してるつもりなんだけどな」
久しぶりの完全な休日、つまり学校もガーディアンの仕事もアルバイトも全くない日に、俺はリカルドと二人でファイブガイズを訪れていた。
今は亡きベンと初めて会った場所でもある。
「その通り。皮肉も皮肉、大皮肉だよ。K.B.Kのワンクスタ出身の連中にもB.K.Bの仲間入りしてる奴らが増えてきたし、調子に乗って非行がエスカレートしないか心配さ」
「それは不思議と今のところは全く無いんだよな。ガーディアンの発足で、B.K.Bは普通のギャングとはかなり毛色が違う形にできたと思う」
B.K.Bは恐れられてはいたものの、実は元から地元を守る愚連隊的な活動も行っていて、ガーディアンはそれをさらに後押しした。俺がK.B.Kを作った時にはそんなことはB.K.B憎し、ワンクスタ憎し、で知る由もなかったが。
ただ、元からのB.K.BとK.B.Kでは少し違う部分もあった。
B.K.Bは寛容にワンクスタの活動も含めて地元全体を守ろうとしていたのに対し、K.B.Kはワンクスタの活動をやめさせ、地元の治安を守ろうとしていたことだ。
住民の命や街がこのままの状態を保って守られれば良いというB.K.Bと、より良い街にしたいというK.B.Kの願い。ここが若干違った。
その気持ちで以前の俺はB.K.Bごと、この街から消し去る予定だったのだが、結局は今の形に落ち着いている。
B.K.Bを必要悪だと思ったのは皮肉にも、攻めてきた外敵のおかげだったが。
「顔役みたいな交渉ごとに従事してるって聞いたぞ」
「成り行きでな。勘違いしないで欲しいんだが、そのおかげでいくつもの喧嘩を回避できてるんだ。あんまりネチネチ言うなって」
「本当にそのままギャングスタとして生きていくつもりなのか? 俺達は学校を出たらそのほとんどが普通の生活に戻って、働くんだと思うけど」
リカルドの言う事は、最初から分かり切っている事だ。ワンクスタだった奴らはともかく、学生組はほぼいなくなる。
しかし、それが俺をB.K.Bから引き離す理由にはなりはしない。俺は、自分のやるべき事を全うするつもりだ。
「そうだな。寂しくなる。だが、これも勘違いしないでくれ。俺は、ギャングスタでありたいわけじゃない。ただ、この街を守りたい。そのための方法として一番だと思う方法を選んだだけだ」
警察なんかはこの街には不可侵だという事も学んだ。B.K.Bを潰したとしたら、結局よそのギャングに食いつぶされるだけだという事も学んだ。
俺はもう、俺の選択を後悔したりはしない。
「ほんと、言い出したら聞かねぇよなぁ」
「そうか? 人の意見は聞く方だと思ってるけどな」
「言う事を聞いて従うのと、ただ聞き流すだけとじゃ違うっての」
だから普段からみんなに色々聞いて参考にしてるじゃねぇか、と返してやろうかと思ったがそれはやめた。
俺がどう思っていようと、リカルドにとって俺には頑固で猪突猛進な一面があるというイメージを抱かせているという事だ。
もしそういう部分があれば見直していかなければならない。無意識を気付かせてくれる友人は宝でしかないのだから。
「曲げれないものがあるってのは分かってくれるよな?」
「この街の平和だろ? 俺が心配してるのは、お前や引き抜いた他のK.B.Kのメンバーが、本当にその辺のギャングスタみたいな乱暴者の犯罪者に成り下がらないかって話だよ。別にB.K.Bにいようがいまいが関係ない。心は常に正しくあってくれよな」
……
それから数日後。リカルドから言われたばかりだというのに、ガーディアンのメンバーが問題を起こすという事件が発生した。
いつものように街を見回っていたが、敵対するギャングと間違えて、地元の少年数人に暴行を働いてしまったのだ。
わざとやったわけではないとはいえ、守るべき対象に対して逆に危害を加えるとは何事かと古株の面々はお冠だ。
「クレイ、そいつらはどうしてる」
「家に待機をかけてる。アンタらに殺されるんじゃないかって戦々恐々としてたよ」
サーガから教会もどきのアジトに呼び出された俺は、他のウォーリアーやハスラーのOG達に囲まれ、尋問を受けている最中だ。
「何か言い訳はあんのか?」
「ボコられたガキどもの側にも責任があるってさ。どこの誰だという問いかけに『うるせぇ、言うもんか』だとよ。B.K.Bのガーディアンだと名乗っても、なんだそれはと突っぱねたらしい。それで口を割らせるために痛めつけたって話だ」
うぅむ、と集まっている大物連中が一斉に唸った。確かに失敗は失敗だが、ガーディアンに全ての非があるかというと難しいところだ。
「俺の意見を言ってもいいか?」
「話せ」
サーガの了承を取って進言する。
「とりあえずそいつらの謹慎はしばらく続けるが、街のみんなにもガーディアンの仕事を理解してもらう必要がある。他のメンバー伝手にでも、警邏してるB.K.Bメンバーには協力するように話を広められないか?」
ガーディアンは誕生からの日が浅く、街の住民からの認知度も低い。ここ最近は実際によそのギャングにも攻め立てられたので、住民も敵味方の区別が良く分かっていないはずだ。
「ガーディアンだけが着用する印みたいなものを作ってもいい。キャップでもバンダナでも靴でも、何かガーディアンの専用品をだ」
「別に構わねぇが、それならガーディアンだけでなく、B.K.Bだと分かるものの方が良いんじゃないか」
「それを全員が身に着けることを厭わないなら俺も賛成だがな?」
そう言いながら、俺は全員を見渡した。微かな頷きだけが返ってくる。ガーディアンだけであれば俺の采配でこれらを身に着けておくようにと指示ができるが、メンバー全体となれば俺の権限では無理だ。
「では承諾と取るぞ。物は何にする?」
「簡単なものならバンダナだろう。知り合いに加工を頼める」
「いいや、キャップにするべきだ。バンダナだと小さくて柄や文字までは見えねぇ」
「ワークシャツとTシャツはどうだ? バックにどデカくB.K.B。フロントには左胸にWarrior、Hustler、Guardianのいずれかをプリントする。もちろん、そのフロントの三種類のサインがソイツの所属だ」
様々な意見が飛び交う中、最後に出たサーガの鶴の一声で全てが決定する。
おっさんのくせに、イケてる提案じゃねぇか。
ギャングというよりはカークラブの連中が好みそうなユニフォームだが、デザインは悪くなさそうなのでメンバー達にもウケるだろう。ただし、この着用はあくまでも地元だけでのものに留めておいた方が良い。
たとえば余所を攻める際にウォーリアーがこれを着たまま出ていくメリットはない。身元が敵にも警察にもバレバレだ。
周りにその名を轟かせるのげ目的ではなく、地元の一般の人間からB.K.Bだと認識してもらうことが重要だ。
それから、ディッキーズのワークシャツやプロクラブのTシャツに指定、あるいはこっちで勝手に発注すべきかどうかが話し合われたが、これは自由判断となった。
つまり、この服にプリントをしたい、というものをメンバーそれぞれから二、三枚ずつ預かり、作業完了後に返却するという事だ。お揃いで嫌だと言う者も絶対に出てくるので、個性を出したい奴には好きにさせた方が良いというサーガの意見だった。
数日の間に早速、メンバーから衣服の回収が行われ、一週間もするとプリントが仕上がって皆の手元に戻ってきた。
俺は定番のデッキーズ製のネズミ色のワークシャツが二枚だ。そのバックには大きなB.K.Bの文字。フロントの胸ポケットの上には小さくGuardianと書かれている。俺の場合はその文字色が白だが、淡い色のシャツを使った者には黒字で印刷が行われている。
サーガの予想通りというべきか、ワークシャツなど無地の服以外にも、赤白のチェックシャツを使った者、中には迷彩柄のパーカーを使った者など、俺の予想の斜め上を行くチョイスをした傾奇者もいたようだ。
とにかく、これでよそのギャングとB.K.Bの区別は住民の目から見ても容易になった。わざわざこれを真似してまでこの街に来るようなプライドのかけらもないセットが無ければの話だが。
そして、意外にもこのルールをもっとも激しく破ったのはサーガだった。
彼は初めから服を作りもしなかったのだ。必要ないと言われればその通りだが、道を示す側の人間だという自覚が足りないのではないかと思わされる。
本人に理由を聞いたら「俺はウォーリアーでもハスラーでもガーディアンでもないからな。プレジデントとでもプリントするか? あほらしい」と答えた。
なるほど、流石にそれは危険だ。着用は地元だけに限定されるとはいえ、わざわざ大将首をあちこちで宣伝して回ることになる。
意外にも、住民の中にはサーガがどんな顔をしているのか知らない者も少なくない。引きこもって聖書ばかり読んでいるのも、必要以上に顔を売らないという目論見があってのことなのかもしれない。
ここで一つ、小さな問題があった。K.B.Kのガーディアンメンバーだ。
彼らはB.K.Bにこそ加入はしていないものの、B.K.Bに所属しているガーディアンである俺達と行動を共にしている。言うなれば準構成員、といったところか。もちろん、B.K.Bと常に一緒にいるわけではなく、時にはK.B.Kだけでパトロールをしていることだってある。
だが、彼らにはB.K.Bのプリントを施したユニフォームは着せられないのでどうしようかという話だ。
だが、そっちについては完全に俺の判断でどうにかできる。そこで、K.B.Kには独自でB.K.Bのものと似たものを作ってはどうかという話を仲間たちに相談した。
しかし、これは意外にも反対意見が多数を占めて却下されることとなった。
理由としてはグレッグやリカルド、学生組の主力メンバー達の言葉を借りると「K.B.Kの名が広がり過ぎてB.K.Bと同じように狙われたら元も子もない」というものだった。
しかし、それだとガーディアンだと分かってもらえないという問題は残る。どうしてもK.B.Kだけで対処できそうもない時に限り、近場にいるB.K.Bメンバーのガーディアンに連絡を回すという事で落ち着いた。
根本的な解決にはならないが、K.B.KがB.K.Bと差別化を図りたがっているのであれば俺はそれを飲むしかない。
あくまでもK.B.Kはギャングの使いっ走りとしてではなく、余所のギャングに目を付けられないよう、出来る限り目立たないように活動を続ける方針だ。
B.K.Bの方が実施したユニフォーム着用の方は評判も上々で、地元の悪ガキたちにとっては憧れの象徴になっているらしい。
もちろんそれは別に構わないのだが、デザインを真似た偽物が流行りでもしないだろうか、という妙な心配をしなくてはならない。
B.K.Bを真似た服を着た子供が誰かに撃たれた、なんて事件に繋がりかねないからだ。
そのチェックもパトロールを行うガーディアンの仕事になってしまうという本末転倒な事となったが、真似をして粋がっている子供はまだいないので、B.K.Bにもある程度の威厳はあるようだ。
実際、彼らと知り合う前の元ワンクスタであっても、恐ろしくてそんな真似はしなかったに違いない。K.B.Kの活動のおかげでワンクスタもほとんど見なくなったこの街ではなおさらだ。
……
「よう、クレイ」
「あぁ? 何しに来やがった」
メイソンさんの店でのアルバイト中。シザースが顔を見せた。
例に漏れず奴もB.K.Bのプリントが入ったワークシャツを着ているが、意外にも胸のサインはウォーリアーだった。遊撃手的な立ち位置のコイツであればハスラーでもおかしくはなかったが、ガーディアンと入れようとしていたらしいので俺が拒否したら何故かこうなった。
「邪険にすんな、クソ野郎。暇だからガーディアンの大将は何やってんのか見に来たんだよ。呑気にアルバイトとは結構なことだぜ」
「そう言うお前は、いよいよハスラーからもウォーリアーからもお払い箱か?」
「んなわけねぇだろ! 売れっ子過ぎて引っ張りダコだってんだよ!」
今まさに自ら暇だと言ったので絶対に違うが、まぁどうでもいい。さっさとお帰りいただくだけだ。
「暇ならガーディアンのパトロールの仕事でも手伝ってろよ」
「そんなガーディアンの大将に、ハスラーの連中から仕事の依頼の言伝を預かってきてるぜ」
「……先に言え。内容は?」
「ウチの傘下についたり、同盟状態にあるセットと、ヤクや武器を売り買いするルートを構築するんだと。その辺りに一番顔が利くのがお前だろ」
やれやれ。俺の仕事はどこまで膨らんでいくのやら。ヤク絡みなのは感心しないが、B.K.Bの資金力強化につながるなら嫌とは言えないので困ったものだ。




