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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Counter! B.K.B

 パァン! パァン!


 ハスラーのOGが出て行き、その直後からしばらく止んでいた銃声。それがまたアジトの近くから聞こえ始めた。追い払っていた敵がまた押し寄せてきたのだろうか。


「近くに敵がいたのか? お前がここに入ってくる直前の話でいい」


 手書きの地図に次々と書き込みを加えながら、俺はシザースに訊いた。


「あぁ、いたぜ」


 マガジンを取り出し、拳銃の残弾数を確認しながらシザースが答える。目の前の扉が開いたら全部撃ち込むつもりだろう。


「だがその時の奴は片付けたはずだぜ。てことは、また別の敵が来たんだろうな」


 なるほど、やはり一度は倒して凌いだのか。あのOGも、俺をぶん殴って無理やり出て行っただけのことはある。オリジナルギャングスタの喧嘩は伊達じゃねぇってか。


「アジト近辺の味方の配置は情報が入ってない。どのくらいいる?」


「見かけたのは三人だけだ。もう少しいたかもしれねぇが長居できなかった。俺はこの通り、さっさと動けなくなってたからな。それでここに行くように言われたんだよ、畜生め」


「……少ないな。だが、誰かを呼びつけるわけにもいかねぇ。最悪、場所を移すか」


 ここを落とされるというのは事実上の敗北を意味し、味方の士気も一気に落ちる。アジトが崩れたからと逃げ出すような間抜けはいないかもしれないが、ウォーリアーとの連携を図るのであれば、俺達は内側の中心であるここを死守し、帰ってきた味方に外側から囲ってもらう方が圧倒的に有利だ。

 しかし、その前に俺がやられるわけにはいかない。そうなるくらいならば、いっそのこと場所を移して態勢を立て直す算段も考えておかなければならない。


 だが、やはりと言うべきか。俺の漏らした言葉にシザースは反発した。


「ここを捨てる? 冗談だろ。今のB.K.Bの象徴だぜ」


「あぁ、その気持ちだって俺は分かってる。それでも、俺は死ぬわけにはいかねぇ。アジトかガーディアンとハスラーの全滅か。どっちかを取らなきゃいけない場合、お前ならどうする?」


 キャンキャンと俺に噛みついてきていた先ほどまでとは打って変わって、シザースはしばらく回答を考え込んでいた、そして、返す。


「……そりゃ、メンバーの命だろうよ。アジトは大事なものだが、物だ。命は持ってねぇ」


「上出来だ」


「だが、それは最後の手段だぜ。はなっから捨てて逃げだそうだなんて思わねぇこった」


「分かってる。それと、お前に構ってやる暇なんざねぇが、死ぬなよ。身体這いずってでも逃げろ」


 俺の言葉に鼻を鳴らし、シザースはマガジンを銃に差し込んだ。電話が鳴り、俺も仲間への指示の仕事に戻る。


 パァン! パァン!


 また一段と銃撃の音が激しくなる。近づいてくるという事は、おそらく味方が押されている。

 いよいよ俺も気が気ではなく、集中できなくなってきた。教会の出入り口は二つ。正面の扉と裏口。逃げるなら当然裏口だが、どちらも囲まれていた場合は一巻の終わりだ。さっさと移動しなかった時点で、それ以上の手はない。


「クレイ、B.K.Bを頼むな」


「遺言みたいな事を言うんじゃねぇよ」


「感動して泣くなら今の内だぜ? もうその面を見る事もないかもしれねぇしな」


「だから……」


 バンッ!


 俺の言葉を遮り、ついに正面の扉が勢いよく開かれた。


 パァン! パァン!


 馬鹿か、敵か味方かの確認くらいしろと俺が言う前にシザースの拳銃が火を噴いた。

 だが、そこに倒れていたのは紺色の服に身を包んだ二人のクリップス構成員。さらなる侵入者はいないので二人だけか。

 結果オーライだが、俺は口を出さずにはいられない。


「シザース! 味方だったらどうすんだよ!」


「あぁ!? ドアが開く瞬間に見えたから敵だって分かってたんだよ! それに味方ならドア越しでお前に声掛けくらいしてくるだろ!」


 悔しいが、後半は奴の言う通りだ。切れ者のサーガならまだしも、こんなカス野郎に正論を言われるとムカつくばかりだが。


 シザースが足を引きずり、倒した二人を教会の中に入れ込んだ。新手が来た際に警戒されないよう、死体を中に隠すわけか。いちいち手馴れていて腹が立つぜ。


「新手は来ねぇみたいだな? チッ、味方も来ねぇけどよ! ほら、コイツはいただきだ。お前も持っとけ」


 シザースは死体から拳銃を二つはぎ取り、一丁をこちらに投げて寄越した。投げるなよ、馬鹿野郎。暴発させる気か。


「おい、あぶねぇだろ」


「まずはありがとう、だろうが」


 銃を譲ってくれたことに対してか、命を守ってくれたことに対してか、シザースが礼を要求してきた。


「うるせぇ」


「別にうるさくねぇだろ、恩知らずめ! おい、そっちは弾入ってるか? クソ、コイツはたった二発かよ」


 弾丸の径は合うので、シザースは奪った一つの拳銃から弾だけを抜き取り、自前の銃に装填し直している。

 確認してみると、俺が受け取った方は五発の弾が残っていた。悪くない。


「五発入ってるが、必要なら分けてやろうか?」


「いや、お前が持っときな。俺はちょっとそこまで出てくる」


「はぁ? その足でか?」


「必要なことだ。今の奴らがここに来たって事は、味方がやられてるかもしれねぇだろ。というか、十中八九無傷で済んじゃいねぇ。息があればここまで連れてくるし、くたばっちまってたら……弾だけでも分けてもらう」


 味方の死体から物を奪うってのは残酷なようだが、確かに今のこの状況を生き延びるには必要なことかもしれないな。またまた手馴れててイラつくが。


「分かった。気をつけろよ」


「言われなくてもそうする。クレイ、俺が戻るよりも前に敵が来ちまったら撃てよ」


「五発だけはな。後はそそくさと逃げさせてもらうぞ」


 俺のその返事を聞かぬまま、シザースは扉からスッと出て行った。再び一人になると静寂が訪れる。だが。

 ピリリ、とそれを待っていたかのように俺の携帯電話は鳴り始めた。着信の相手は、なんとサーガだった。


「サーガ?」


「クレイ、持ちこたえれてるか」


「難しいところだ。どうしたんだよ、いいニュースだろうな」


「その通りだ。喜べ。すぐそこまで帰ってきてる」


 サーガの返答に、俺は飛び上がって喜びたくなる。ようやくウォーリアーが戻ってきたか!


「マジか! 助かったぜ! 戦果はどうだった?」


「全滅までは追い込めなかったが、敵のアジトをいくつかぶっ壊してきた。予想以上に手薄だと思ったが、俺達を奥へ奥へと誘い込んで、あっちに釘付けにしておきたかったんだろうな」


 その隙に俺たちの町を荒らす算段だったのだろう。どこの誰だか、黒幕は姑息な手を使いやがる。


「何か策はあるか?」


「あるわけねぇだろ。何も知らねぇんだからよ。今の状況を出来るだけ詳しく教えてくれ」


「分かった」


 敵味方問わず、俺はサーガに配置を事細かく教えていく。サーガはそれを黙って聞いていた。

 数十秒。完全な沈黙があって、サーガが返す。


「……突出してる奴らも含めて、徐々に退かせて出来る限り小さく固めろ」


「何? そんなことをしたら街のほとんどが敵であふれるぞ。それに、完全に包囲されちまう」


 出来る限り街が荒らされないように足止めをしているのだ。それを取りやめてしまおうというのか。一所に固まれば、逃げ道すらも失って潰されておしまいだ。


「お前らが小さくなるって事は、敵の包囲も狭まるってこった。それを俺達が囲う。内側と外側から挟み込む」


 言っていることは理解できるが、これは簡単には了承できない。サーガの作戦であれば勝機は十分にある。

 しかし、一時的にとは言え、見捨てられてしまったほとんどの範囲の家や店はどうなる? 押し入り強盗や強姦のいいカモではないか。


 勝利のために、俺のギャングスタとしての活動の原動力となっている「この街を守る」という大義名分は失われてしまうのではないか。


「待ってくれ。それだと街の人が……」


「理解してる。それでも短期で決着をつけるのが最善策だと思った。現時点でもいくらか侵入されてるんだろ? そこを開放する目的でも一気に戦線を縮めて、敵もこっちの思うように動かさなきゃならねぇ。もうすぐ終わるって錯覚させれば、奴らも街を荒らすのは後回しにする」


 背に腹は代えられねぇってか。一瞬たりとも奴らに街のほとんどを明け渡したくなんかないが……

 さっきまでの味方一人の命で多くのギャングメンバーを救う選択と、街全体を巻き込むのとでは大きく異なる。


「理性では納得できても、感情では納得できないな。やるしかねぇからそれに従うが」


「優しい気持ちだけで地元を守れるんなら、お前が敵さんにお願いして来い。ここにあなたたちと争いたい者などいません、どうかお許しをってな。それで終わればお前にB.K.Bのプレジデントを譲ってやるよ」


「いちいち皮肉言うなっての。やるからにはさっさと追い込みかけてくれよな。こっちの味方に集合の指示は出しておく」


「最初からそう言え。ではな。神のご加護を」


 通話が終了した。

 何が神のご加護だよ。今回ばかりは俺の方がよっぽど信心深い、自愛に満ちた提案してただろうが。


 それからすぐに俺は、サーガとの約束通りに味方を一斉に退かせるべく連絡を回し始めた。

 それが終わると、扉を軽くノックする音と「シザースだ。入るぞ」という声掛けがあり、落ち込んだ様子のシザースが戻ってきた。


「ダメだったか……?」


「あぁ、三人とも死んでたよ。弾も全部撃ち尽くしてた。最期の最期まで踏ん張ったんだな。大した奴らだぜ。R.I.P……」


 胸で十字を切るシザース。俺もそれに習った。


「ところで、ハスラーのOGがいたはずだが。最初にお前が来る少し前までここにいたんだ」


「いや? ハスラーの若い連中だけだった。他の場所に行ったんじゃねぇか」


 俺を殴りつけて出て行った彼はどこへ行ってしまったのか。シザースによれば、アジトの近くにはいないらしい。


 彼が無事なのは単純に嬉しいが、もっと危険な場所に行ったのだとしたらあまり喜ばしくはないな。とにかく今は、その身の無事を祈るばかりだ。


「悪いニュースと良いニュースがある」


「なんだよ、セリフじみた事を言いやがって。テレビの見過ぎじゃねぇのか」


「好きに言ってろ。それで、悪いニュースは味方を後退させたことだ。このアジト近辺に全員が集結する」


 シザースが片眉を上げる。劣勢ではあったが、退かせるほどではなかったはずだと言いたげだ。


「良いニュースは、ウォーリアーがもうすぐ到着する。味方を下げたのはサーガの指示だ。固めてウォーリアーが外側から囲い込む手筈になってる」


「おぉぉぉっ!! やっと戻ってきたか! 挟み撃ちってわけだな、さすがはサーガだぜ!」


 十分、二十分と経つ頃には、教会の中や周辺は生き残ったガーディアンとハスラーで溢れかえっていた。全員ではないが、じきにそれも集まる。

 早いうちから戻ってきていた者たちは、ケガ人の手当てや、車や廃材などを集めて即席のバリケードを設営している。

 全ての敵からは完全にここが最後の砦、アジトであることは間違いなくバレたはずだ。一気にたたみかけてくるに違いない。


 そんな中、待望の電話が鳴った。サーガだ。


「クレイ。待たせたな。敵を全方位からそっちに押し込むぞ。気合い入れろよ」


「そっちこそ、ヘマして敵を囲いから逃がすなよ。あと、死ぬなよな」


「誰に言ってやがる。ビッグ・クレイ・ブラッドを、イレブントップを、そしてこの俺を舐めすぎだ。どうして俺達が恐れられてるのか。久々に、それを小僧共へ教えてやるとしよう」


 反撃開始だ。

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