Kray n Saga
予想通りと言うべきか、K.B.Kのメンバー達にサーガの言葉を伝えると「おぉっ」というどよめきが起きた。驚きもあるが、自分達の得た情報がB.K.Bに伝わるのかという興奮がほとんどだ。
「とはいえ、わざわざ敵キャラを探して遊ぶなよというサーガからのお達しだ。俺も同感だな。ゲームとは違って、普通に死ぬぞ」
「さすがにそれはやらないさ」
グレッグが返す。確かに彼自身は信用できるが、他の奴らが調子に乗ってしまわないかが心配だ。
見回りをする仲間がいないかを監視する見回り、だなんて馬鹿げたことをする結果とならなければ良いが。
「みんなもな。もしよそのギャングを見かけても、俺への連絡よりも先に身を隠してくれ。仕事はその後だ。安全第一で頼む」
「わかったわかった。撃たれるのはご免だ」
「心配性だな、クレイは。俺達だってそんなアホじゃないっての」
そんな返事が返ってくるが、心配なものは心配だ。見境なく撃ってくるのであれば、たとえ逃げを最優先したところで運が悪ければ死ぬ。
そんな気が狂った奴にあえて近寄ろうとするのは愚の骨頂だ。
「さて、それはそれとして、ワンクスタ共も震え上がってるは俺達と同じだ。なにせ奴らはギャングみたいな恰好を真似してることも多いからな」
「何か他にボランティア活動でもやりはじめようってんじゃねぇだろうな、クレイ?」
リカルドが茶々を入れてくる。
「いいや。むしろ何かお前たちにやりたいことが無いか聞きたいくらいだ。せっかくのK.B.Kが手持ち無沙汰だからな。ただし、危ない真似は却下するぞ」
俺がみんなを見回すと、いくつか意見が出てきた。
「K.B.Kをデカくするってのはどうだ? 今のうちに学内で仲間集めをするのさ。俺たちがデカくなれば、もっと影響力が強くなる」
「俺達のトレードマークを作ろうぜ! Bの字にバツをつけた旗なんてどうだ? いや、あんまり挑発するとB.K.Bに敵視されちまうか?」
「仲間と言えば、ワンクスタの中にも、実は悪さなんかするより、こっちにつきたい奴がいるって話もあったよな。悪さしてるのは、ただエネルギーが有り余ってるだけで、本当は正義の味方を気取ってる方が楽しいって分かってんのさ」
二つ目の意見はともかく、一つ目と三つ目の意見はよく考えてもいいかもしれない。
「ワンクスタだった奴を仲間に、か……普通なら一蹴するところだが」
今まで何度かこの意見は出ていた。しかし、俺も含めた多くの仲間たちは反対していた。その意識を変えてもいいかもしれないと思ったのはやはり、K.B.K解散後の街のことを思ってだ。
ワンクスタの中にはのらりくらりとしているものも多く、現在のK.B.Kメンバーのように学校を出た後という概念に縛られない者もいる。
そのまま本当のギャング組織に所属してしまうものもいるにはいるが、大抵は暇を持て余している。そいつらがK.B.Kとして長らく活動できるかもしれないと思ったわけだ。
ただし、それは諸刃の剣でもある。K.B.Kが巨大化しすぎて俺では制御しきれず、ギャングのような組織になってしまうかもしれないし、メンバーの暴走により、すぐ近くにいるB.K.Bとの衝突が起こるかもしれない。
だが何かの行動を起こすにも、まだ同志と呼べる仲間が存在している残り短い期間だけだ。仲間集めを本格化するなら決断は早めにしなければならない。
「聞いておくだけでもしておくか……」
俺は、カバンに入っていたノートとペンを取り出す。その、俺達の仲間に入りたいというワンクスタ連中の情報をまとめておくためだ。
「ワンクスタの話をしたらいいか、クレイ?」
「あぁ、聞かせてくれるか? 学内の奴でもワンクスタでもいい。名前だけじゃなく、できるだけ特徴を頼む。ここにそいつらをリストアップしていこう」
それから仲間たちにいろんな奴の話を教えてもらった。よくもまぁそんなことまで知っているものだと感心させられる。俺がB.K.Bに入り浸ってる間に、こいつらも学内の連中や寝返りそうなワンクスタに接触していたという事だ。
特にワンクスタは個人ではなく、チーム内の数人が一緒にこちらへ来たいという連中もいて、もし俺たちが受け入れれば、一気に大所帯になりそうな勢いだ。
結果として、百人近い人間の情報が集まった。学内の人間は二十人ほど、残りはすべてワンクスタだ。驚くべき結果だと言える。
「これは……全部仲間に引き入れたら、今いるメンバーと数が逆転しちまうぞ」
「K.B.KどころかB.K.Bの人数だって超えてるんじゃねぇの?」
リカルドの言う通りだ。忍者部隊を隠し持っていない限りはB.K.Bもここまでの数はいないはず。かといって、数で勝っていようと今さらB.K.Bと争うつもりもないのだが。
「まずは学内の連中だ。ワンクスタよりは簡単な仕事だろ」
今やK.B.Kの学内での知名度は高い。徒党を組んでいるようなものなので良い顔をしない奴は未だにいるが、軽犯罪から街を守るという、地道で真面目な活動のおかげで今のところは迫害を受けることなどはない。
「学内の連中なら放課後にでもすぐに集められるぜ。連絡、回しといてやろうか?」
「頼むよ」
一人のメンバーがそういったので、今日一日で学内の仲間は増やせそうだ。ただし、卒業という未来がある以上は悪く言ってしまえばこちらは本命ではない。
ワンクスタの中に、俺たちの志を理解し、力になってくれる奴が本当にいるのだろうか。どちらにせよ、ワンクスタの方は明日以降だ。ただし個別の対応になるだろうから何日もかかるのを覚悟しなければならない。
夕刻。約束通りに学内の連中がK.B.Kの集まっている学生用の駐車場にやってきた。顔を知っている奴も多数いる。以前は俺のことを色眼鏡で見ていた連中だ。
気に食わないから要らないと言ってやっても良いんだが、それだとワンクスタはさらに受け入れられない状態になってしまう。
「……よく来てくれたな。K.B.Kはお前たちの仲間入りを歓迎する」
これで、K.B.Kは数十人の集団になった。
……
サーガと顔を合わせたのは、数日後のメイソンさんの整備工場だった。別にたまたま休憩していた俺との待ち合わせなんかじゃない。彼の用事は俺相手ではなくメイソンさんだ。
「言いつけ通り、アルバイトに精を出してるじゃねぇか。汗水たらして働け、若人よ」
「その言い方は気に食わねぇが、まぁ、その通りだよ。車の修理か?」
メイソンさんが工場に入れて見ているのは、これまた古いシボレー・インパラのローライダーだ。サーガは決まった車を持っていないと思っていたが、あれが愛車なのだろうかと尋ねる。
「そうだ。いつもは借り物ばっかりだが、あのインパラは正真正銘、俺の所有だ」
「ギャングのボスまで顧客とは驚いた」
「当たり前だ。ブラックホール以外の奴に俺の車を触らせるわけねぇだろう」
「それもそうだな。しかし、神様以外には興味がないんだと思ってたぞ。ちゃんとギャングやってるじゃないか」
「まったく、生意気な小僧だぜ。お前は知らないかもしれないが、俺はB.K.Bっていうギャングのまとめ役でな。ローライダーくらい持ってて当然だ。物欲の無い俺には唯一の贅沢品だがな」
「B.K.B? 聞いたことのないギャングだ。さぞ大きなセットなんだろうな」
ふん、と鼻を鳴らしながら、サーガはプレハブの事務所内の冷蔵庫を漁り始めた。勝手にビールを拝借している。
古くからの友人であるサーガがビールを飲んだくらいで、何か言うメイソンさんではないだろう。
「泥棒だなんていうなよ。ビール一本くらいで奴は目くじら立てたりしねぇ」
「何も言ってないだろ。それより飲みすぎて捕まるなよ」
「あぁ、酒を飲みに来たわけじゃねぇからな。水代わりの一本だけだ」
大きな体をソファに預け、テーブルの角にビール瓶をぶつけてポンッとその蓋を飛ばす。栓抜きもなしに器用な男だ。そして泡が吹きこぼれようとする瓶に口をつけ、うまそうに一口目を飲んだ。
ストリートでの飲酒は禁止されているが、紙袋に酒瓶を隠して飲んでいるギャングスタたちも同じように何でも栓抜きとして使う。ポケットの中の25セントコインだったり、猛者ならば小さく硬く折り曲げた5ドルの札一枚でも開栓は可能だ。
この後の飲酒運転は褒められたものではないが、ここは私有地内なので飲酒自体は問題ない。しかし、サーガの見事な手際は間違いなくストリートで培われたものだろう。
「おーい、ガイ」
事務所内にメイソンさんが入ってくる。サーガのインパラの整備作業が終わったのだろう。
「よう、ドッグ。終わったか?」
「あらかたはね。ちょいと取り寄せないとウチに在庫がない部品があってさ。致命的な不調じゃないから今日は乗って帰って構わないけど、また後日持って来てもらわないといけない」
そう言いながら、メイソンさんも冷蔵庫からビール瓶を取り出し、鍵でその蓋を空けた。首にかけていたタオルで顔を拭い、喉を鳴らしてビールを流し込む。
あまりにも自然すぎる動きだったので見逃しそうになるが、アンタ、今はまだ仕事中だろうが。
「分かった。もう仕事上がりか?」
「いや、今日までに仕上げなきゃいけない箱トラックが一台だけある。明日からはしばらくのんびり働けるんだけどね」
「なんだよ、ドライブがてら何か食いに行こうかと思ったのに。クレイは暇だろ?」
「勝手に決めつけるなって。俺もまだ仕事が残ってるっての」
だが、意外にもそれをメイソンさんが否定する。
「クレイ、確かに今やってる作業はあるかもしれないが、あれは急ぎの注文じゃないはずだよね? 行ってきてもいいよ」
「おいおい、急ぎの修理じゃなくたって、お客さんはなるだけ待たせない方がいいんじゃないのか?」
「それは正しいね。でも、今日はこの後グレッグがシフトに入る予定だよ」
最近は俺達高校生組も仕事をある程度覚えたので、バラバラな時間で勤務することも増えている。
まったく、グレッグに引き継がせろって事かよ。まぁ、そこまで言うならサーガに付き合ってやるか……この寂しがりなおっさんに。
「分かったよ。サーガ、手ぇ洗って着替えるから待っててくれ」
「ほら、暇なんじゃねぇか」
「どう解釈したら今の会話内容で俺が暇だと思ったんだっての」
ビールを飲む二人を残し、俺は仕事を終える支度にかかった。
……
バルン! バルン!
サーガのインパラのエンジンが心地よく響く。ウチのオルズモービルよりも古い型の車だが、やはり整備が行き届いていると、こうも違うものか。
カーステレオからはラップかと思いきや、意外にもニュースが流れていた。
「横にいるのがお前だと、ジャックとのドライブを思い出すよ」
「……何て返せばいいのか分からねぇよ」
サーガもメイソンさんと同じくらいに親父とは古い仲なのだから、二人きりで遊んだことくらい何度でもあっただろう。
「そうそう、そんな減らず口を叩くところとかな。意味もなく、常にイライラしてる奴だった」
「メイソンさんはどんなガキだった?」
「コリーか? 所かまわず車を盗むガキだったな」
「ろくでなしばっかりだな。E.T.ってのは」
「その通りだ。まともな奴がギャングを作ろうなんて思うかよ」
怒るかと思ったが、どちらかと言うとサーガは楽しそうな表情だ。親父の姿を俺に重ねてるんだろう。なんだか面白くねぇな。
「で、どこの高級料理店をご馳走してくれるんだっけ?」
「馬鹿言え。この町の……伏せろ!」
サーガの太い右腕が俺の頭を強引に抑えつけた。有無を言わさず、俺がどれほど力を入れていたとしても逆らえないほどの剛力だ。
その直後、パンパン、と銃声が響く。まさか、B.K.Bのテリトリーにちょっかいをかけてる連中か……! 彼がサーガだと分かって狙ったのか!?
ガァンッ! と車が金網か何かに突っ込む衝撃。石の塀や川にダイブじゃなくて良かったが、それでも俺とサーガの身体は車のダッシュボードへと激しく打ち付けられる。
「クソが! おい、サーガ! 大丈夫か!」
サーガの息が荒い。奴は口からあふれる大量の出血を手で抑えていた。傷口自体は見えないが、どうやら頬のあたりを撃ち抜かれたようだった。




