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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Dash! B.K.B

 いくつかの弾痕を受けた車たちがぞろぞろとアジトに戻ってくる。


 銃撃戦は激しいものだったことに違いはないが、正直、俺の予想よりはずっと軽傷だった。

 B.K.Bメンバーに負傷者はおらず、相手のアジア系ギャングの連中に一泡吹かせる事が出来たようだ。


「奴らの車をハチの巣にしてやったぜ!」


「これで当分はビビッてこの辺りには近づけねぇだろうさ」


 車から降りたメンバー達は、上機嫌でそんなことを話している。


「サーガ」


「いたか、クレイ。奴らが車を停めているところを見つけて一気に畳みかけた。その車が爆発するほど撃ち込んでおいたぞ」


「……ご苦労さん。そいつら、殺したのか?」


「いや、車が吹き飛んだところで奴らは走って逃げだした。どこのよそ者か知らんが、俺たちの力を思い知ったはずだ」


 停車中に襲い掛かったのならば、完全な不意打ちだったわけか。別に正々堂々やってくれとも思わないので別にいいのだが、逃がしたのは意外だな。


「報復は?」


「あるかもな。もしまた来たとしても、何度でも叩くだけだ」


 そう思っていたのならば尚更不自然だ。


「どうして追撃しなかったんだ? 後々の報復を考えれば、こっちの被害が増えるかもしれないのに」


「単純な話だ。ウチの奴は誰一人殺されてねぇどころか、ケガもしてねぇ。だから車一台で勘弁してやったのさ。逃げた奴らが勝手に吹聴して回ればB.K.Bの名前も売れる」


「目には目をってことか」


 なるほどな。B.K.Bメンバーに弾が当たらなかったのは、アジアンの奴らにとっても不幸中の幸いとなったわけだ。


「ついでに言っとくと、俺の機嫌がそこまで悪くなかったってのもあるがな」


「気分次第で人を殺すなっての」


「シャーク、お前もご苦労だったな。リル・クレイの子守りを引き受けてくれて助かった」


「おう。いいってことよ、ニガー! いろいろ話せて楽しかったんだぜ! 俺はコメディアンになるべきだって言われてさ!」


「それは俺もクレイに同感だな。お前ほど明るいやつも珍しい」


 何が「子守り」だ。ふざけんなっての。いろいろ話せたってのも、延々とシャークが一人で喋り続けてただけだしな。


「よーし、お前ら! 今日はもう解散だ!」


 サーガの一声で、ばらばらとギャングスタたちが解散していく。戦勝祝いにもう一度酒を飲みなおしたりでもするのかと思ったが、そうしたい連中は個別にでもやるのだろう。


「クレイ、もう安全だ。さっさとバイクで帰れ。俺もそっち方面に用事があるし、途中まではついていくからよ。シャーク、運転頼めるか」


「おうよ!」


「ふん、用事だって? 下手な嘘つくなよな」


 急にサーガに俺の家方面の用事だなんて出てくるはずがない。俺を無事に送り届けようっていう心遣いだろう。ガラでもないことしやがる。


「嘘なもんがあるか。ほら、さっさとヘルメットかぶってエンジンかけろ。こちとら急ぎの用事なんだよ。ついでにガキを見送ってやる優しさに感涙してる場合じゃねぇぞ」


「ったく……回りくどいっての」


 小さく悪態をつきながらバイクに跨る。サイドミラーには、車に乗車するサーガとシャークの姿が映った。


……


 途中、狭い路地にでも入って後ろの車を出し抜いてやろうかとも思ったがやめた。意味のない悪戯をしたところで、次に会ったときにぶつくさ言われるだけだ。


 寄り道もせずにまっすぐ家に向かい、最後の曲がり角を曲がると、すでに二人の姿は見えなくなっていた。


……


……


 学内の駐車場でK.B.Kメンバーが集まっている。

 久しぶりの会合は、ワンクスタの話題ではなく、数日前のB.K.Bの大立ち回りの話題で持ちきりだった。


 俺が言わずともアジア系ギャングと彼らの戦いはメンバーの知り合いなどが複数目撃していたようで、仲間内ではちょっとしたニュースとなっている。

 激しい銃撃の最後に車が一台派手に爆発したのだ。映画さながらのそのシーンにみんなは興奮していた。


「やっぱ本物のギャングスタは俺たちやワンクスタなんかとはスケールが違うな……その場にいたら小便ちびっちまうよ」


 リカルドが引きつった顔で震えて見せる。恐ろしいと思ってるのは本当なのだろうが、内心の興奮を隠しきれてはいない。


「クレイ……お前はこの件、知ってたのか?」


 長身のグレッグが身をかがめて、片膝立ちで座っている俺に耳打ちしてきた。俺がB.K.Bと直接接触があるのを知っているのだから気になって当然だ。


「まあな。でもその場に居合わせたわけじゃない。近くにはいたが、見てないのは本当だ」


「そりゃ賢明だが、意外だな。いつものジャーナリスト魂が騒がなかったか」


「相手は問答無用でドライブバイをブチかますような、かなり危険な連中だったんだよ。それに、最近はスクープよりも命が惜しくてな」


「ははは、少しは安心したよ」


 サーガからも来るなと言われたのは事実だが、その言葉がなくとも俺は動かなかったはずだ。グレッグの心配も今後はすべて杞憂に終わるに違いないさ。


「しかし、クリップスの件にしろ、アジア系ギャングの件にしろ、近頃はこのシマが外敵に狙われることが増えて、物騒になってきたよな」


 リカルドがそう言ったので、グレッグとの会話を中断してそちらに意識を戻す。


 外敵の襲来。確かにその通りだ。少なくとも俺の記憶では数年以上、そんな事件はない。

 B.K.Bは他のギャングに比べてテリトリーの範囲が広い。通常、多くのギャングは家が数十件程度集まった一つのブロックだけを縄張りとするが、B.K.Bの場合は町全体だ。はみ出して、二つか三つの町に跨っているかもしれない。

 そのおかげで狙われやすいという考え方もあるが、普通は逆じゃないだろうか。巨大なギャングセットに、わざわざ弱小セットが噛みついてくるメリットがない。

 事実、どちらの敵も即座に叩きのめされている。


「この町を取り囲む状況が大きく変わってきてるのかもしれないな」


「なんだ、クレイ? 何か心当たりでもあんのかよ?」


 俺のつぶやきをグレッグが拾う。いや、グレッグどころかリカルドやほかの面々も俺を見ているので、つぶやいたつもりが丸聞こえだったようだ。


「いや、いまリカルドが言ったとおりの意味だ。B.K.Bのシマってのは長らく攻撃を受けてなかった。それが最近じゃ連続で事件が起きてる。妙だとは思わねぇか?」


「妙?」


 グレッグが訊く。


「同時にいろんなセットが突然ここを狙うとは考えづらい。誰かの差し金なんじゃねぇかってな」


「クリップスやアジアンに後ろから指示してる黒幕みたいな奴がいるってことか?」


「ま、ただの妄想さ。偶然そうなっただけかもしれねぇし」


 グレッグの言葉が事実だったとしたら、B.K.Bは出張ってソイツを潰すしかないだろうな。めんどくせぇこった。


「さらにB.K.Bのテリトリーが狙われ続けたとしてよ。それって俺たちにとってもマズくねぇか?」


「どうしてだ? 俺たちにも関係あるのか?」

 

 リカルドがそう言い、メンバーの一人が聞き返す。


「ドライブバイした奴らは一般人も見境なしに弾いたって話だぜ? 安心なんて出来ないだろうよ」


「ワンクスタ共が大人しくなるから、悪いことだらけじゃねぇんじゃないか?」


「いやいや、よそのギャングが闊歩するくらいなら、ワンクスタが悪戯して回るくらいのほうが何倍も可愛いもんだろ! 俺たちにはギャングとやりあう力はねぇんだからよ!」


 リカルドの言うとおりだ。B.K.Bが全面的に敗北して町を乗っ取られるとまでは思わないが、ここらを戦場にされるのは大いに困る。


「クレイ、なんか俺らの方針を決めといたほうがいいんじゃねぇの?」


「方針か。確かにな」


 ワンクスタ狩りは数が減ったとはいえ、絶賛活動中だ。よそのギャングが目立ってきたら、それ自体はさらに減る可能性がある。


 だが、俺たちがソイツらに狙われる危険性もあるわけだ。K.B.Kのメンバーに負傷者や死者なんて、絶対に出すわけにはいかない。

 俺たちはただの高校生だ。個人的にB.K.Bとつるんでいると感覚が麻痺しそうになるが、地元のギャングはおろか、よそのギャングとなんか普通は接点など持つはずがない。


 しかし、ワンクスタ狩りという活動がある以上、外を出歩いている時間も長く、外敵に不意の遭遇をしてしまう可能性は十分に考えられる。


 K.B.Kは見たところ普通の高校生と見た目は変わらない。それでも関係なく襲われるのならばギャングスタやワンクスタみたいな格好をするか? いや、逆効果だ。むしろ目立って標的とされてしまう。


 では一時的に活動を停止するか? ワンクスタの活動も減る一方なので、仲間の安全を第一に考えるならそれがよさそうだ。


「……K.B.Kの活動はしばらく自重した方がいいんじゃねぇか? 悔しいが、誰かが撃たれたりしたら元も子もない」


「賛成だ。クレイはB.K.Bのメンバーとの連絡もつくよな。時々、彼らに町の状況を訊くってのはどうだ」


 即答で賛成してくれたグレッグが提案する。


「そうだな。みんなも登下校時は警戒を緩めるなよ。こないだの事件は大学の近くだったらしいからな。どこだって危険だ」


 俺がそう返すと、B.K.Bとのつながりを知らなかった連中がガヤガヤと騒ぎ始める。


「えっ! クレイ、お前どうしてB.K.Bと連絡なんて取ってるんだよ!」


「相手は本物のギャングスタだろ! ワンクスタを狩っておいてギャングスタとはお手てつないでんのか? そりゃないぜ!」


「あー……説明するか。面倒だけど仕方ねぇ」


 まず、俺がE.T.のジャックのせがれだということ。もともとそのせいでギャング嫌いになったということ。しかし付き合いのあった車屋の兄ちゃんが親父の親友で、これまたE.T.だったこと。

 サーガという現在のプレジデントやメンバー達に直接会い、B.K.Bはワンクスタのようにふざけているだけではなく、外敵を倒すために体を張っているのを目撃したこと。ベンに命を救ってもらったこと……


 しんと静まるその場の空気。

 次の瞬間、罵声や怒号が飛んでくることを覚悟していた俺だったが、返って来たのは深い理解を示す言葉の数々だった。


「クレイ! なんでそんな大事なことを早く言わねぇんだよ!」


「俺はてっきり、ワンクスタとギャングスタが根っこは同じ生き物だと思ってた! 知ってたんなら勘違いはさっさと正してくれよな!」


「ギャングがただの悪者じゃねぇんなら、お前の葛藤してた姿がようやく理解できた気がするぞ!」


 そうか。みんな、戸惑っていたのか。他でもない、俺のせいで。


「そうだよな。俺がはっきりしなきゃ、みんなそうなっちまうか」


「心配するなよ。クレイ。俺はB.K.Bと事を構える気なんて、最初からないっつーの」


 そう言うリカルドに「てめぇは最初からビビッてるだけだろ!」という野次が飛ぶ。


「なんというか、理解してくれて助かったよ。さっき誰か言ったが、ワンクスタを狩っておきながら、ギャングスタとは連絡を取ってるってのは意味不明だからな。だが、言ったとおりだ。ギャングを肯定するまではいかない。でも、奴らが外敵を倒し、地元警察はそれには目を瞑ってるってことが分かってきた」


「警察?」


 また別のメンバーの一人が言う。


「そうだ。確かにB.K.Bは犯罪者集団だ。でも、皮肉なことにそれが地元の治安維持に役立ってるのも事実だ。だから警察はテリトリー内の出来事であれば、ギャング同士の抗争は知らんぷりなのさ。どうぞご勝手にってところだろう。外であれば話は変わってくるがな」


「もしかしたら、K.B.KとB.K.B……つないだ方がいいんじゃないか?」


 突拍子もない発言。それが出たのがグレッグの口からという事実に、俺たちは驚かされた。

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