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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Study! Big Kray

「B.K.Bを潰してしまうのが目的なのか、それともこの街の連中が安心して暮らせるのが目的なのか、それがハッキリと分かれば自ずと答えは出ると思うよ」


 ハッとした。その二つが絶対にイコールだと思っていたと気付かされたのだ。それが違うとしたら……


「後者だ」


「だったら話は終わりみたいだね。誰にも出る幕はないよ。警察にも、俺にも、クレイにもね。個人的にやることと言えば、普通に高校を卒業して、バイトして、大学にもいきたいなら行って、就職をして、仕事をして、家庭を持つ。それで万事解決さ」


「サーガたちが、本当にこの街を守ってくれるならな」


「くどいなぁ。既に色々と見てきてるはずだけど、どうすればB.K.Bに任せときゃ大丈夫だって思えるのかねぇ」


 その質問の答えは俺にだって分からない。ただ、ジミーの家族を見た時、残りのE.T.の話を聞くことでそれが少しずつ晴れる気がしていた。それだけだ。


「……」


「どこかのセットと戦争がおっぱじまれば理解できるか? んー、そりゃダメだよなぁ。わざとB.K.Bを余所の街に放り出して、この街が食われるのを見てみるか? これも難しいよなぁ。何かいい手でもあるかい?」


「B.K.Bが目に見えて活躍しないのが、街にいる連中にとっては一番だってのは分かってるって。それよりメイソンの兄ちゃんの目から見た、かつての仲間たちの話。もっと聞かせてくれよ」


 まともに回答していても意味がなさそうなので、元の話題に戻そうと俺は努力する。


「それだけ分かってればもう十分だと思うんだけどねぇ」


「……親父の、話って何かあるか?」


「へぇ? ジャックの話、ねぇ?」


 はぐらかされそうだったのを、親父の話ならばと口に出してみた。やはり、メイソンさんもそこには反応せざるを得ない。


「ジャックの事、全く記憶にない?」


「あぁ。写真で見たくらいだ」


「ジャックは喧嘩っ早くて口も悪くて、力も強かった。ギャングスタっていう生き物を体現したような男だったよ。バキバキの筋肉で見た目も怖くて乱暴者ときたら、普通に考えれば最悪だろうね。でも、最高の男だったよ」


 いや、どこにも良い要素が含まれていないんだが。


「いざというときは仲間を本気で守ってくれたし、本気で叱ってくれる。そんな奴だった。正直な話、リーダーのサムは少しだけ仲間には甘い部分もあったんだ。優しい男だったからね。でも、ジャックは厳しかった。ダメなとこはダメだって言うのは、仲が深まれば深まるだけ案外難しいもんだよね」


「俺に対しては、どんな感じだったんだ? 俺の扱いって言うと癪だけどよ」


「そりゃぁ、きちんと父親をやってたよ。自分には何もないけど、コイツだけは宝物だって言ってね。それにね、クレイが生まれてからのジャックは少し丸くなったんだ。怒りっぽいのは変わらなかったけど、無茶な喧嘩や揉め事は出来る限り避けてたみたいだよ。守るものが出来ると誰だってそうなるよね。鬼の目にも涙って奴さ」


 それでも、結局はギャングスタとしてその命を落としている。

 避けなれない何か大きな出来事があったのだろう。それをメイソンさんは詳しく知らないので聞けず仕舞いだが。


「そうか……親父の人生の邪魔にならなかったなら、何でもいいさ」


「邪魔だなんてとんでもない。ていうか、嫌いな親父だったんだろ? ちょっとくらい過去に邪魔してたとしてもいいじゃないか。当時は物も言えないガキなんだし」


 意地の悪いおっさんだぜ。


「もちろんジャックだけじゃないよ。俺らだってオムツを……」


「わかったわかった! それ以上、余計な情報まで出してくんじゃねぇっての!」


 赤ん坊の時のおもらしの話なんか聞かされても、今さらどうしようもないだろうが。話してやってる風を装っておちょくってやがるな。


「そうかい?」


「あーっと、ビッグ・クレイの話も聞かせてもらえるか?」


「ビッグ・クレイか。正直、付き合い自体はそう長くないんだ。すぐに大変な事があって、意識不明の身体になってしまったからね。それ以前の話を少しだけならしてあげるよ」


 俺は無言で頷く。


「彼は話した通り、サムの実の兄にあたる男だ。歳はいくつ上だったっけな。忘れちゃったけど、三つか四つくらい上だったと思う」


「二人兄弟か?」


「うん、確かそうだよ。サムとの付き合いは小学校からだから、もしそれより前に他の兄弟がいて、病気や事故で死んじゃった、とかあったんなら分からないけど。でもそんな話は出なかったから、二人兄弟で間違いないと思う」


 貧困地区では幼子が栄養失調や怪我が原因で亡くなることも少なくない。バカ高い治療費や保険が払えないからだ。この街では、命は金よりも安い。


「彼らはとても仲が良くてね。サムはビッグ・クレイにべったりだったし、ビッグ・クレイもサムを可愛がってたよ。その延長線上なのかな。俺達もビッグ・クレイには良くしてもらってたよ。馬鹿話をしたり、遊んだりさ」


「遊びって……」


「あぁ、その心配はいらない。かけっこしたり、絵を描いたり。本当の『遊び』だよ。彼が妙な悪知恵を俺達に吹き込んだわけじゃ無い。そこは勘違いしないでくれ。ビッグ・クレイは、こんな貧しい街に生まれながらも、至極真っ当な人間だった」


 じゃあ誰の影響で、と訊こうとするもやめた。結局のところ、周りの貧しい環境が盗みなどの非行に少年たちを走らせたのは明らかだ。


「B.K.Bは最初十一人だったんだよな? それが今、E.T.って呼ばれてる連中だろ」


「そうだよ。サムにジャックに、ガイやジミー。スノウマンに俺に、ライダーとクリック。それからシャドウ、マーク、ウィザード……この十一人がイレブントップだ」


 聞き覚えのない名前も何人か出てきた。まだまだ俺はB.K.Bの事には疎い。馬鹿なシザースあたりもこの十一人の名前くらい、そらで言えるのだろうか。


「最初からギャングだったわけではなくて、十一人の頃はガキの喧嘩と、ちょっとした盗みばかりだったよ」


「ちょっとしてようが盗みは充分、犯罪だけどな」


「手厳しいねぇ。その後、実際にギャングとして活動し始めてからの悪行の数々に比べれば可愛いもんさ。ワンクスタみたいなものだと思ってくれていい」


 確かに車や金庫を盗んで、クスリを売り、人を殺すような所業と比べればマシだが。


「そこから徐々に人数が増えていったのか?」


「そうだね。当然、悪さをしてれば目立つ。ちょっかいを出してくる他所の連中と揉めたりしている間に、地元の奴らの支持を得る結果となった。そしてどんどん仲間入りを希望するガキどもが増えて、B.K.Bはその力を増していったんだよ」


「それが未だに続いてるわけか」


「紆余曲折あったけどね。全部話すとキリがないから、端的にまとめるとそうなる。ガイが戻って来てくれてよかったよ」


 サーガは一度B.K.Bを離れていたのか。結局は元鞘に戻っているようだが、イレブントップ同士でも若い頃にはいざこざがあったのだろう。


「ビッグ・クレイが生きていたら、どうなったと思う?」


 ビッグ・クレイは若くして死んでいる。彼が人格者であり、ギャングのような存在を認めなかったとしたら、B.K.Bは存在しなかったのではないだろうか。


「難しい質問だね。少なくともB.K.Bは無かったかもしれない。でも、ギャング自体は遅かれ早かれこの街に出来ていたと思うよ」


「それはなぜだ?」


「そうしないと、この街が余所に荒らされるからさ。ビッグ・クレイがサムや俺達を諭したとしても、別の連中が立ち上がったんじゃないかな。それに、こう言っちゃなんだけど……ビッグ・クレイが別の機会で、俺達を守るために身を挺する結果は変わらず訪れたんじゃないかなって思う」


 馬鹿な。結局ビッグ・クレイの死も避けられないとは。どれだけ地獄のような時代だったんだ。


「結局のところ、何も世間を知らない俺達は何にでも突っかかって行ったと思うんだよね。実際にビッグ・クレイが死んだのは白人の学生連中のせいだったけど、それが警察になったかもしれないし、どこか別のギャングだったかもしれない。とにかく最終的には俺達が誰かとぶつかって、そのせいでビッグ・クレイが俺達をかばう。そうなっていたと思うんだ」


「ちょっと待て。警察だって? 警察は敵だったのか? 今やテリトリーは不可侵条約みたいな事になってるし、利用し合ってるじゃないか」


「そうだね。今となっては平和なもんだけど、B.K.Bと警察は何度もやりあっていて、お互いにかなりの犠牲者を出してる。これはB.K.Bだけじゃなく、どこのギャングでも同じさ。それでも撲滅できないとなれば、ある程度の線引きをして許容するって方針になったわけ。いつまでもドンパチやってるわけにはいかないからね」


 何もかもがとんでもない時代だったわけだ。もちろん世間一般から見れば、警察を懐柔してテリトリー内であれば何をやっても目を瞑らせている今の状況が正しいとは言えない。

 しかし、殺し合いをしていたころに比べれば、メイソンさんが言う通り平和なのは間違いない。


 そこに俺が切り込んでいって、警察は信用ならないからと連邦政府に訴えたとする。メンバー全員の逮捕と更生だなんて甘く考えていたが、話を聞く限り、そんな過去があるのならB.K.Bはもちろん徹底抗戦するだろう。

 それで再度、戦いの火ぶたが切って落とされたとしたら? B.K.Bや地域住民、政府関係者や協力を断れない地元警察。最終的には多くの屍がさらされることになる。


 それは……正義か?


 それとも現状を容認してしまうことこそが、正義なのか?


「そういった状態になるのは、珍しい事でもないのか?」


「ある程度の力を持ってるギャングとの間には、協定みたいな感じで警察は介入して来ないね。例えば、コンプトンなんかは既に俺達が現役だった頃からそんな風潮があったよ。それがゆっくりと全米に広がっていった。実際、細かいことには目を瞑ってしまった方が上手くいってる。そりゃ、よっぽどな事件が起きちゃったら警察も出て来る他ないんだけど」


 コンプトンか……カリフォルニア発祥の黒人カラーギャングのメッカとも言うべきその街には、たとえ頼まれても行きたくはないな。目の仇にされているはずの警察官ならば尚更だろう。


「でもそのお陰もあってか、コンプトンのギャングスタ達ですら最近は大人しいよね。昔は毎日のようにあった警察官との大立ち回りなんて、ここ数年は聞かないから」


「確かにそうだな。それでも、街の中では犯罪が溢れているんだろう?」


「そうだね。警察との戦争は減っても、殺しや盗みは街の中では日常茶飯事さ。ギャング同士のいざこざだってゼロじゃない。警察側や全く関係のない地区の住民に被害さえ出なければ大抵は知らんぷりだよ」


 それは実際に見たので間違いない。


「他に危険なエリアはいくつもあるのか?」


「一応、ここら一帯。イーストLAには力のあるチカーノギャングが集中してるね。あとはクリップスやブラッズが多いサウスセントラルなんかも危ないんじゃない? でも、そうやってギャングが密集してる地域ってのはそう多くなくて、ほとんどはバラバラに点在してる。だから、コンプトンみたいに街全体がヤバイって場所は少なくて、ある街の限られた狭いエリアだけが危険、っていうパターンが多いんだよ」


 やはり、ロサンゼルスだけでもそれほどの危険な場所が残っているわけか。事件が表に出ないだけで、人知れず恐怖に怯えている人たちもかなりの数いるのではないか。


「そこの周りの人たちは、かつての俺みたいな気持ちを抱いてるんじゃないのか?」


「我関せずってのが多いと思うよ。近づかなければどうってことは無いし、ギャング連中もテリトリー内に引きこもってる。仕事もプライベートもテリトリー内で完結してる事が多いしさ」


「敵対だったり同盟だったり、別の場所との繋がりはないのか?」


「あるよ。B.K.Bを含め、勢力図の現状は知らないけどね」


 B.K.Bと敵対しているクリップスはこの目で見たが、同盟しているセットもあるのだろうか。メイソンさんは知らないと言っているので、サーガと話してみるのもいいかもしれないな。心に留めておこう。

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