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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Work! B.K.B

「また来たのかよ、お前。何回来たって、サーガには会わせねぇぞ」


 俺の家の近くにある、空き地のベンチに寝転がっていたギャングスタ、シザースが顔を上げた。


「別にそんなんじゃねぇよ」


「あっそ」


 奴は普段から俺の家の辺りをぶらぶらしていることが多い。B.K.Bメンバーではあるものの、家がここから近いのでここらのパトロールを受け持っているらしい。

 サーガに会わせろだなんて言ったことは無いが、俺がB.K.Bの核心に迫ろうとしている事は割れている。そのせいでサーガから俺を近づけないようにお触れでも出ているんだろう。


 俺が改めてシザースに近づいた理由は、サーガ言っていた信念のようなものをガキであるコイツも持っているのか、それを確かめておきたいからだ。


 今日でコイツとここで対面するのは三回目だ。よくこのベンチでゴロゴロしているのに気付いた俺は、暇なときは顔を出すようにしている。

 シザースの心情を知った結果、サーガやベンのような男だと分かれば、俺はB.K.Bに対する認識を少しばかり変えなければならない。


「お前、いつもゴロゴロしてるけど、何か仕事はないのかよ」


「俺様はウォーリアーだぞ。これでいいの」


 ウォーリアーは戦闘要員だ。資金繰りや取引をやるハスラーとは違う。しかし、昔に比べれば抗争も減った今、ウォーリアーでも小遣い稼ぎしている連中は少なくない。


「ウォーリアーだったら普段は遊んでていいのかよ。仕事してる奴だっているだろうが」


「いるけど俺はやらねーの! 俺の勝手だろ!」


「そりゃそうだが、シノギをやらないウォーリアーってのはどうやって小遣いを調達してんだ……?」


 まさか月給制でもあるまい。月末、サーガの前に並んで給与袋を受けとるギャングスタの列を想像したら笑えてくるな。


「あー? ダイスでもカードでも稼げるだろ」


「博打じゃねぇか。仕事しろっての」


 仕事とは言っても、コイツらにとってのそれはクスリの販売なんかになっちまう。勧めたところで結局ダメだな。


「勝てば仕事だろうが。負けたら誰かから借りればいいし」


「見上げたもんだぜ。完全にクズの考えだ」


「ほっとけ」


 ガキの身分で借金生活とは、お先真っ暗だな。


「そういえば、シザース。お前、車はどうした? ここにいる時は、いつも徒歩じゃねぇか」


「わざわざすぐそこまで行くのに車なんか出さねぇよ。それに、盗られたからな」


「はぁ? 盗られたって、誰に?」


 盗難にあっていたとは初耳だ。


「知らねぇ。道に停めてたら消えた。多分、元の持ち主のとこに戻ったんじゃねぇの?」


「それは盗られたんじゃなくて、盗ってたものを取り返されただけじゃねぇか。馬鹿野郎が」


 やはりあのクラウンヴィクトリアは盗難車だったか……無免許のガキが車なんて買えるわけがないしな。


「そういえば、バイク貸してくれよ。約束だったろ?」


「ダメだっての! あの時はお前が見つけたわけじゃ無かっただろ!」


「んだよ、逃がすためにデカブツを引き付けてやったのによー」


「ダメだダメだ! どうせ倒してキズものになっちまう!」


 こんな図々しくて、コソ泥みたいな奴にサーガやベンのような信念が備わってるとは到底思えないな。やっぱり、いくらB.K.Bメンバーでも、俺より若いような連中は全く違うか。


「ケチケチしやがって。お前の方こそ、こんなとこで俺の相手してる暇あるのか? ヒーローごっこはどうしたよ?」


「ワンクスタ狩りならちゃんとやってるさ。俺達の粛清にビビって、奴らの活動が減ってるだけだ」


「そりゃ大したもんだな。それが終わったらこっちを潰す気か?」


「さぁな。B.K.Bは俺達K.B.Kをどう見てる?」


「毛ほども気にしてねぇだろうな。やり合う気で向かってきても、デコピンで泣かして終いだ」


 そりゃ今のところはそうだろう。今はどう足掻いても、大人とガキの喧嘩みたいなものだ。


「ワンクスタ共はどうだ?」


「同じだろ。むしろ古い付き合いの連中とは一緒に遊んだりしてるくらいだぜ?」


 そうだった。コイツに出会った頃、ワンクスタ共とつるんでいたな。今もそうなのだろう。本当に何とも思っていない証拠だ。


「クリップスの事はどう思ってる?」


「敵」


 シザースは興味なさそうに鼻をほじっている。


「おい、もっと何かあんだろ。一言で済ますなよ」


「あー? それ以上は何もねぇよ。仲間を襲う奴は敵だ。テリトリーに踏み込んでくる奴も敵だ」


「踏み込むだけで敵と見なすんだったら、通りすがりの旅行客も敵かよ」


「道を通るだけの一般人なんか知るかよ。お前、何言ってんの?」


 クソが……正論だが、いちいちムカつく野郎だな……


「もし、今この瞬間。俺がクリップスに殺されそうになってたらどうする?」


 いよいよ核心に迫る質問だ。コイツに大した期待はしていないがな。


「なんだそりゃ。意味わかんねぇよ。クリップスなんてどこにもいねぇじゃん」


「たとえ話だろうが。もし俺がクリップスにやられるって瞬間をお前が目撃したらどうするんだ」


「知らねぇよ。その時の状況次第だろうし。何でそんな事知りたがってんのかね? 気色悪い奴だな」


 ガンッ! とベンチを蹴ってやると寝転んでいたシザースは飛び起きた。


「何しやがる! やんのかコラ!」


「足が滑ったんだよ。それと、お前の回答は期待外れだったぜ」


「はぁ!? さっきからべらべらと何をほざいてんだよ、お前! 早くどっか行けよ!」


「言われなくてもそうするところだ。じゃあな、クソガキ」


 今にも掴みかかってきそうなシザースに向けて中指を立て、そそくさと退散することにした。まだ何か叫んでいるが、聞こえないふりをしてしまえばいい。

 ファイブガイズでベンと初めて出会った時の恐怖心、そしてシザースにさえもビビっていた最初のころから考えると、我ながら成長したものだと褒めてやりたい気分だぜ。本物のギャングスタ相手にこんな態度が取れるんだからな。

 とはいえ、サーガみたいな大物は別だ。あれは正真正銘の化け物だ。


 しかし、シザースからの回答は中途半端でどちらとも言えないものだったな。あんな奴が命を張ってまで住民を助けるのだろうか。確かにバイクを取り返す時は囮になってはくれたが……


 やがてギャアギャアと騒ぎ立て続けていたシザースの声も届かなくなった。


……


 鍵を開け、リビングにあるソファに転がる。防犯のため、大抵は室内に停めてあるバイクを眺めながら、俺は目を閉じた。


 お袋がいない我が家にも、すっかり慣れてしまった。まだ高校生だってのに、すっかり一人暮らしの新社会人の気分だ。都会ならまだしも、こんな片田舎ではそうそうある事じゃない。大抵は実家暮らしのまま地元の企業に勤め、家庭を持って初めて独立する。

 もっとも、俺の場合はまだ独立したわけでも何でもないし、いくら一人暮らしでもここ自体は実家だったな。


 携帯が鳴る。画面の表示はグレッグ。


「よう、ニガー」


「やぁ、クレイ。驚いたぞ。なんだ、そのギャングスタみたいな言い草は」


「別にこれぐらい誰でも使うっての。で、何の用だ?」


 汚い言葉遣いは生まれつきだ。忌々しい親父の血だろうさ。口の悪さは天下一品だったみたいだしな。確かに多少はギャング連中の影響を受けてるのかもしれないが、そんなものは微々たるものだ。


「この間はビビったよ。サーガと普段からあんなに親しいのか?」


 学内でも何度か話したが、最近のグレッグからは口を開けばサーガの話ばかり出てくる。それだけ衝撃的だったんだろう。気持ちは分かるので、俺が答えられるものには全て答えるようにしている。


「俺は親しくなんかねぇさ。親しいのはメイソンの兄ちゃんに決まってるだろ。昔からのダチなんだから」


「そう考えると、メイソンさんも大物なんだよな……そんな素振を全く見せないせいで忘れがちだが」


「大物なもんかよ。過去はどうあれ、今じゃただの車屋さ。悪人じゃないと思うしな。馬鹿だけど」


「おいおい、雇ってもらってるのに酷い言い草だな……」


 メイソンを馬鹿にしたのは半分は本気、半分は軽い冗談のつもりだったんだが、真面目なグレッグは当然のように本気の部分を真に受けて反応しやがった。


「本人だって自覚してるだろうさ。それよりも、何だかサーガに首ったけみたいだな、グレッグ? まさか、また会いたいだなんて思ってねぇだろうな」


「それこそ、まさかだよ。自分が相対するだけで委縮するような人物が存在するなんて思いもしなかった。大統領を目の前にする方がいくらかマシかもしれないな。ただ、会いたいとは言わずとも素性は気になってしまうんだよな。怖いもの見たさって奴さ。クレイだって分かってくれるんじゃないかな」


「あぁ、もちろんだ。奴に関して、面白い話があったら話してやるから安心しろよ」


 それから話題は切り替わり、しばらく鳴りを潜めているワンクスタの話や学内での事を少しだけ話した。

 グレッグもK.B.Kの活動自体には参加できないが、情報だけは握っておきたいらしい。逆に本人も学校とバイト以外で家から外に出れないときには、色々な奴らと連絡を取り合ってワンクスタの活動状況を探っている。

 お互いに知らない情報を交換することもままあるので、間接的にではあるが、グレッグは十分に俺達の仲間として貢献してくれていた。グレッグの話を元に下校時の見回りのルートを考えることもあるからだ。


「ママが呼んでる。多分、夕飯の時間だから切るぞ。お前も一人だからって変なもんばっかり食うなよ」


「変なもんとは失礼な奴だな。冷凍食品の栄養価をなめるなよ」


「冷凍食品だって十分ジャンキーだけどな。それじゃな、『ニガー』」


 へっ、品のない言葉を気に入ってんじゃねぇよ。


……


「あー? また来たのかよ、クレイ」


「勘違いすんな。ここにワンクスタがいるって情報があったから見回りだ」


 いつもの空き地に行くと、この日もシザースがベンチでゴロゴロしながら人生をサボっていた。

 ちなみにワンクスタの目撃情報を聞いたのは本当だ。ただ、その情報自体はシザースがワンクスタにでも見えたのか、あるいはコイツとその古いダチがここでたむろしていたってオチだろう。


「ワンクスタだぁ? 俺は見てねぇが」


「お前の話なんて信じられっかよ」


 狭いベンチに腰を下ろす。


「別に、んなことで嘘なんかつかねーっつぅの。おい、なんだよ、勝手に座んなよ!」


「こういった空き地はみんなのもんだろ。お前こそ好き勝手に寝転がってんじゃねぇぞ」


「だからって人が寝てる横に座んじゃねぇよ!」


 べらべらと文句は垂れているが、シザースは起き上がろうともしない。どんだけ体たらくなんだよ、このクソガキは。こないだみたいにベンチを蹴ってやればよかったな。


「あ、そうだ。メイソンの兄ちゃんが、シザースに会ったら店に来るように伝えといてくれって言ってたぞ。理由は知らねぇけど」


「マジか。見つかったんなら行ってみるかな」


「車もねぇ奴が何の用だよ?」


 シザースの車は盗られた……じゃなくて、取り返されたはずだ。


「んなもん、新しい車を探してもらってるに決まってんだろ。出せる金は500ドルしかねぇけどな」


「格安すぎる。まさか、盗難車じゃねぇだろうな」


 しかし、俺のバイクだって安く売ってくれたんだったな。商売っ気のない、酔狂な男だ。


「仕入れ先なんて俺が知るわけねぇだろ。本人に聞けよ。ていうかケツに乗せてってくんねぇか? 歩くと遠いしダリい」


「チッ」


 たしかに仕入れ先は少し気になる。それに、コイツの新しい車も。気に食わねぇが、バイクを出してやるか……

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