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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Protect! B.K.B

 パァンッ! パァンッ! と、連続する幾つかの軽い銃声が聞こえた。拳銃だ。すでにクリップスとブラッズは街のどこかで衝突している。クソッたれ


 俺は後ろに乗るベンのナビゲートに従って、バイクをB.K.Bのアジトへと走らせた。いくらなんでも銃撃戦のど真ん中にこのまま放り込まれるのは御免だ。

 アジト付近は最も守りが固く、容易に敵の接近を許しているとは思えない。この言い方だと、まるでB.K.Bが俺の味方みたいに聞こえて癪だがな。


 見えてきたのは、以前サーガと話した教会だった。

 ここをアジトにしているのか? だが、人が詰めれるような場所ではないので、近くの別の建物がメンバーの溜まり場だと思われる。

 とりあえず今はいい。ベンを下ろした後は、奴らの暴れっぷりを晒してやるまでだ。


「到着だ。ありがとよ、クソガキ」


「ふん。礼を言う相手に対する呼びかけじゃねぇな、そりゃ」


 ヘルメットを取った。辺りにはいくらかのB.K.Bメンバー達がおり、せわしなく走り回っている。ベンもその中に紛れて消えていった。奴らはおそらく仲間や武器をかき集めているのだろう。

 そんな中、教会の扉が内側から開いた。


「クレイ……?」


 B.K.Bのドン。驚いた表情を浮かべたサーガが立っている。不自由な脚を支える杖の代わりにアサルトライフルを地につけている。なんて物騒な杖だ。

 ただ、そんな驚いた腑抜け面を晒してくれたおかげで、前回よりはいくらか漏れ出す威圧的なオーラが緩い気がする。


「サーガか……何しに来たって言われても困るぜ」


「じゃあ困らせてやる。何しに来た。今ここはガキの遊び場じゃねぇぞ」


 前言撤回。一気に膨れ上がった威圧感が俺の身体を容赦なく震え上がらせる。サーガの気分が良くないのは地面に生えてる草だって感じ取れたはずだ。


「くっ……メンバーのデリバリーだよ。クリップスの姿を最初に見つけたのは俺達でな。持ってきてやったのさ」


「ベンか」


「……あぁ」


 俺達、という表現には若干の嘘が混じっている。俺も確かにその場にいたが、クリップスに気付いていたのはベンだけだ。

 サーガが辛そうに脚を曲げ、近くに横倒しで転がっていた鉄製のドラム缶に腰掛ける。中には土が詰められているようなので、サーガの太った身体を乗せても凹んだりはしなかった。


「馬鹿が」


 俺に言ったわけではなさそうだ。おそらくベンに対する言葉だろう。俺を巻き込んだのだ。奴は後でぶん殴られるか、サーガの気分次第じゃ半殺しにでもされちまうんじゃなかろうか。気の毒だなんて全く思わないがな。


 パァンッ!


 クソッ。また銃声だ。何度聞いても好きになれない、耳障りな音だ。しかし、次はいつ訪れるかも分からないこのチャンスから離れるわけにはいかない。


「さっきより近いな。クレイ、もう離脱は厳しい。教会にでも入ってろ」


「ふざけんな。ギャング共の悪事を暴くのが俺の仕事だぞ。こんなところでビビってられるか」


 ゆらりとサーガが立ち上がった。


 直後、視界にあった景色がものすごいスピードで後退していく。腹の辺りに今まで体験したこともない強い衝撃がある。口からは消化液と血が混じった、気色悪い何かがこぼれた。目線の先には片足を上げたサーガの姿が見える。そうか……これが、ギャングスタから放たれるキックなんだな。

 今までに喰らってきたすべての攻撃がまるで子供のお遊戯だ。


「おい、誰かあのガキを教会の中に入れとけ。出すなよ」


 アサルトライフルを手に、去っていくサーガ。俺の意識があったのはそこまでだ。


……


……


「くっ! うぐぅ……! ち、くしょう……」


 教会の床に転がされていた俺は、気を失っていたことを瞬時に理解していた。気を失ってしまう前の肉体的にも精神的にも衝撃的な出来事はそう簡単に忘れられるはずがない。

 サーガの強さにも驚いたが、自分の心のどこかに「俺には何も危害を加える事なんかできないはず」という慢心があったのだろう。


 それがすべて否定される形となった。いいさ。アイツはギャングスタなんだ。こうなって当たり前だ。むしろ牙をむかれて嬉しいくらいだと自らに言い聞かせる。


 しかし痛ぇな。すぐには立ち上がれそうにない。


「ふぅ……ふぅ……!」


 もぞもぞと芋虫のように情けない動きで扉を目指す。よだれと血、吐しゃ物、そして涙で、さぞ汚い顔になってるんだろうな。鏡が無いのはありがたい事だ。


 微かに銃声とサイレンが聞こえている。チッ……警察が介入してるってことは既にケンカがお開きになりつつあるという事だ。完全に出遅れた。


「クソッ……」


 それでも、諦めるにはまだ早い。この際、クリップスの悪行でもいい。それをカメラに収めるまでは立ち止まってなどいられない。警察に向けて発砲しているシーンにでも出くわしたら最高だ。


 壁に寄りかかりながらよろよろと立ち上がる。腹や背中に激痛が走る。だが無傷の脚は動く。もう、膝はつかない。


 扉に手をかける。ひんやりとした夜風が頬を撫で……はしなかった。


 目の前で上がる真っ赤な炎。煽られた熱風が火の粉をまき散らし、夜は夕暮れにも近い明るさを得ている。

 教会こそ無事だが、近くの小屋のいくつかが燃え盛っていた。ガソリンでも撒いて火を点けたか。


 B.K.Bのメンバーらの姿は見えない。教会に見張りでもつけられているものだと思っていたが、ケンカの人手が足りないのだろうか。しかし誰も近くにいないのは好都合だ。


「……うっ」


 腹の中から異物が込み上げてくるのを感じ、俺は嘔吐した。まったく、内臓にまでダメージを与えるような蹴りを入れるんじゃねぇよ。

 しかし、いくらか気分がスッキリしてきた。これだけ明るい場所にいれば目も冴える。腹は痛いが、歩くくらいは出来そうだ。


 屈伸を二回。そして顔面を両手でパチンと挟んで気合を入れる。


「……行くか。奴らの悪行を晒す」


 ポケットの携帯電話は無事だ。この火事を撮るかとも考えたが、ギャングの姿が一緒に写っていなければ意味がないのでやめた。


 僅かに身体は回復はしたのかもしれないが、果たしてバイクを運転できるだろうかと考えたところで気づく。


 俺の……バイクは、どこだ。


「クソが。ねぇ……な」


 畜生、誰かが乗っていきやがったか。コソ泥が。倒して傷でもつけてみろ、絶対に許さねぇからな。

 他に自転車など、移動に使えそうなものはないかとも思ったが、ギャングの持ち物を使う気にもなれず、俺はふらふらと足を進めた。


 サイレンは唸っているが、銃声は止んだ。お縄についたか? さすがに派手にやりすぎて警察も渋々動いたものだと思われるが、B.K.Bと繋がってる奴が手びいて、大した罪にはならない可能性がある。

 俺が頼ろうとしているのは地元警察ではないのだ。期待などしていない。


 途中、逃げようとしている家族が通り過ぎていった。民家は燃えてなどいないようだが、巻き込まれるのを恐れたのだろう。

 その中に泣き叫ぶ赤ん坊を抱えた母親がいて、俺は強い怒りを覚えた。


 彼らがB.K.Bのメンバーの家族である可能性は高い。こんなテリトリーのど真ん中に住んでいるのだから当然だ。それでも、彼ら自体は何かをしたわけじゃない。巻き込まれて当然だ、なんて意見は馬鹿げてる。


 確かに家族がギャングであることに目を瞑っている部分はあるだろう。だが、彼ら自身はこの抗争とは何の関係もない。


「クレイ! てめぇ、何でここにいやがる!」


「あん?」


 いつの間にか、目の前にシザースがいた。拳銃を二丁。一つは腰にさしたままで、もう一つは右手に握っている。メンバーともなれば、ガキの身分だろうとこうして殺し合いに駆り出される。本当に、馬鹿げてる。


「てめぇを教会に押し込んでるから様子を見て来いって言われてんだよ! そしたらどうだ、てめぇは勝手に出てきてるじゃねぇか!」


「……教会は無事だが、周りが燃えてんだよ。普通は出てくるだろうが」


「あぁ!? マジかよ!」


 俺があの場から出たのは火事のせいではない。だが、こう言っておけば正当な理由に聞こえるだろう。特にコイツは阿呆だからな。

 珍しく、最初からシザースが喚き立てているから、今なら「うるせぇ」と言っても文句は言えねぇだろうな。そんな元気が俺に無いのが残念でならない。


「ん……?」


 シザースの左腕から血が垂れている。まさか、撃たれてるのか? それで俺を見て来いという指示で後方に下げられた?


「お前、怪我してるんじゃねぇのか……左腕から血が垂れてるぞ」


「へっ! 割れたガラスで切れただけだっての! お前も腹抑えてるが、腐った物でも食ったのか?」


「そんなもん食わねぇよ……それより、そんなに深く切ったんなら止血しろ。血が足りなくなってぶっ倒れるぞ」


 よくもそのままの状態で戻って来たものだ。浅ければ乾くが、シザースの傷はその類ではない。すっぱりと左の上肢を切ってしまったようだ。


「そうなのか? じゃあバンダナ使うか」


 ワークパンツから垂らしていたバンダナを引き抜き、腕に巻き付けるシザース。しかし、ほとんど肩に近い部分なので片手で結ばなければならず四苦八苦している。


「チッ、めんどくせぇな……ほら、やってやるよ」


「あぁ? そうか、んじゃ頼むぜ」


 急いでるはずなのに、俺はなにをやってるんだか。ギャングスタなんざ、ぶっ倒れてくれて良いってのに。

 それより、シザースがいては教会に戻されかねない。どうしたもんか。


「どうだ、止まったか?」


「あー、よくわかんねぇよ。別に痛くもねぇんだからよ」


「ふん、やせ我慢してんじゃねぇよ……」


 腕に巻いたバンダナは、見る見るうちに血を吸って赤黒く変色していった。あまり意味はなかったか? だが、そのままにしておくよりはマシだろう。


「で、いつまでここにいるんだよ。さっさと教会に戻れって」


「馬鹿言うな、近くで火事が起きてる場所になんか戻らねぇよ」


「あぁ? そんじゃどうすんだ? どこかに身を潜めねぇと。お前は部外者なんだからよ」


 よかった。教会でなくても良ければ第一段階はクリアだ。次はどうする。


「あー……離れようにも、俺のバイクが無くて困ってんだよ……誰が乗っていきやがった?」


「マジか! 俺より先に乗った奴がいるってのかよ!」


「お前にも乗らせねぇっての。とにかく……大事な愛車を盗まれて黙っちゃいられねぇだろ」


 シザースなら犯人を知っているかとも思ったが、見かけたわけではなさそうだ。ならば、これを口実に使うか。


「シザース、取引しねぇか?」


「あん?」


「俺はバイクを取り戻さなきゃならねぇ。そしてお前は俺を見てなきゃならねぇ。そうだよな」


 シザースが頷く。


「だったら、手ぇ貸せ。俺のバイクを手分けして探すんだ……もしお前が俺より先に見つけたら一日だけ貸してやる。どうだ?」


「三日なら手伝ってやる」


 この野郎……! だが、飲むしかねぇか。コイツを俺から引きはがせる。馬鹿め。バイクに目が眩んで、俺を見てるって仕事は頭の中から飛んでやがるな。

 その隙に俺はギャング共の悪事をバシバシ撮ってやる。


「チッ……分かったよ。でも忘れるなよ。お前が見つけたら、だからな」


 だが、シザースは既に駆け出していた。なんだ、アイツ……

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