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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Resurrect! K.B.K

「そっちに行ったぞ!」


「よっしゃ! 任せろぉぉぉぉっ!」


 リカルドのタックルがワンクスタに直撃する。だが、奴の小柄な体型ではひと回り大きなワンクスタの身体を捕らえることは出来ず、それを振り解いた敵が俺の方に向かってきた。


「クレイ!」


「何してんだ! ちゃんとやれよ、てめぇ!」


 仕方なく俺が逃げようとするワンクスタに襲いかかった。足をかけてよろめかせ、首元を掴んで地面にたたきつける。


「ぐおっ」


「もう逃げ場はねぇぞ! 観念しやがれ!」


 六人いたワンクスタ共は全てこちらの仲間に討ち取られ、地面に転がって呻いている。

 奴らは近くの酒屋の壁にタグを描いていたところをパトロール中の俺達K.B.Kに見つかり、今のこの状況に至っている。


「くっ……K.B.Kはいなくなったはずだろ……」


「あ? おい、お前。どこのどいつがそんな話を触れ回ってる」


 一人のワンクスタがこぼした一言に俺が詰め寄る。倒れているソイツの身体を無理やり地面から引きはがして膝立ちにさせた。


「誰って、みんな知ってる話だぜ。お前たちがしばらく大人しくしてたのは事実だろう」


 やはり感付かれていたのか。つまり、こういった奴らは他にもいるという事になる。こうして復活した俺達の存在を示せたのはよかった。仲間集めを提案してくれたグレッグのおかげだな。


「だったらK.B.Kはいなくなっちゃいないって広めとけ。つまらねぇ悪ガキは俺達が全員叩き潰す」


「チッ、ヒーローアニメの見過ぎなんだよ、てめぇらは……」


 ゴッ、とアディダス・スーパースターの爪先をソイツの腹に食らわせて黙らせると、呻いている残りのワンクスタ共に向けて放つ。


「おい、他にも貰いてぇ奴はいるかよ!? あぁ!?」


 聞こえているのかどうなのかは分からない。返事はなく、奴らはただ呻くばかりだ。


「クレイ、そのくらいにしておこう。意識が飛ぶくらい痛めつけたら、誰にやられたのかすらかも忘れてしまうかもしれないぞ」


 これはグレッグだ。よく言うぜ。お前のパンチだって中々に効いてるはずだってのに。いや、中々どころか全K.B.Kメンバーの中でもトップクラスの攻撃力だろう。


「なら最後にリカルドのショボい蹴りでも一発ずつ入れといてやれよ」


「何ぃ!? 誰がへなちょこだ、こらぁ!」


「何騒いでんだ、相棒。何か聞こえたんなら空耳だろうぜ」


 さらにギャアギャアと喚き立てるリカルドをグレッグがなだめ、俺達はその場を後にした。


……


……


 そして、ここからはK.B.Kの快進撃が始まる。

 予想通りに、こそこそと悪さを再開していたワンクスタ共を見つけ出しては粛清しまくった。以前より数も増え、喧嘩慣れしてきたこともあって俺達は連戦連勝だ。

 最近では顔を見るなり逃げ出してしまう連中もいて張り合いが無い。闇討ちや報復の警戒もしてはいたが、取り越し苦労だった。今ごろワンクスタ共は更生するか、布団に入って怯えているかの二つに一つだ。


 そんな中、俺個人はB.K.Bのアジトへの潜入を数回こなした。

 そのほとんどで大した結果は得られなかったが、ベルトに挿した銃の不法所持。路上で酒を飲んでいる姿など、地味ではあるが犯罪の証拠をカメラに収めている。


 そして、最初にヘマをして以来、俺がB.K.Bの連中に身柄を抑えられることはなかった。大した手柄が無いと言えばそうかもしれないが、順調そのものだ。

 あとはドンパチやってるドデカいケンカなり、薬の売買なり、誰が見ても凶悪犯罪だと分かるような写真が一枚でもあれば完璧だ。そうなれば俺のタレコミを誰も無視できなくなる。


 そこで俺に最大のチャンスが到来する。B.K.Bが近々、よそのギャングと大きなケンカをするという話だ。

 もともと、どこかと揉めているという情報は知っていた。B.K.Bがテリトリーを広げようとして攻めたのか、或いは余所者が入り込んできたのか、どちらが仕掛けたのかまでは知らないが、そんなことはどうだっていい。

 派手に暴れてくれればそれは大勢に認知されるし、その現場のリアルな写真が手に入れば、かなりの信憑性があるだろう。


……


 ファイブガイズで出くわした、ベンというギャングスタの男。ここしばらくは見ていなかったが、ある日、俺がバイクで走っていたところ、奴を見かけた。

 あまり乗り気ではなかったが、何か情報を持っているなら利用させてもらおうと声をかける。奴は自慢のドレッドヘアはそのまま、真っ赤なバンダナを右腰から垂らして堂々と道を歩いていた。


「よう。しばらくぶりだな」


「あん、誰だ?」


 俺がバイクを停め、ヘルメットを脱ぐと、ベンは警戒をいくらか解いた。


「あぁ、クレイか」


「……アンタも、俺の本名を知ってるんだな」


 ベンにはシザース同様にクリスという偽名を名乗ったはず。まぁ、B.K.Bメンバーにはもう知れていて当然か。


「さぁな。で、何の用だ? 気安く声かけて来てんじゃねーぞ、クソガキ」


「あぁ? 何をピリピリしてやがんだよ。知ってる顔が近所をぶらついてたら声かけるのが普通だろ」


「俺がこないだギャングスタに関わるようなことはやめとけって言ったのを、てめぇが完全に無視してるからだろうが。真面目に生きれる可能性がある奴がわざわざこっち側にちょっかい出してくるな」


 グイッと俺のTシャツの袖がベンに引かれる。

 そういえばそんな事言ってたような気がするな。俺がB.K.Bにちょっかい出してる事やワンクスタ相手にケンカを仕掛けてる事もコイツは分かってるんだろう。


「おい、放せよ。伸びるだろうが。お袋も死んじまって、天涯孤独な俺に新しい服買う余裕なんてねぇんだ」


「……なら尚更だ。B.K.Bには構うな」


 シャツから手が解かれる。


「どこまで俺の事を知ってるのか知らねぇが、それでも関わるなって言えるのか?」


「ふん。お前はお前だ。親父さんとは関係ねぇ」


 やはり……B.K.Bのジャックの息子だってのも承知していたか。


「俺が憂いてるのはこの街の事だ。死んだ親父の事なんかどうだっていい。聞くところによると、B.K.Bが何やらデカいケンカをするらしいじゃねぇか。家族はもういねぇが、大事な仲間が暮らしてる場所なんだ。荒らされてたまるかよ」


「荒らすのはB.K.Bじゃねぇ。余所者だ。それは分かるだろ」


「もしここでデカいケンカを起こしたら、住民にとっちゃ両方とも悪者だよ。どこかの野球場でも使ってろ。ていうかベースボールで勝負しろよ。せっかくお揃いの色のユニフォーム着てるんだしよ。それにお前らギャングスタはバットの使い方を間違ってる。人よりボールを叩け」


 一息に言い切ると、ベンが濃いロークを目からずらして遠くを見ていた。


「おい、聞いてんのかよ」


「ちょっと待て」


「あぁ!?」


 ベンの視線を追うために俺は振り返る。

 一台のポンコツな白いキャデラックが、奥に見えている道路を右から左へと走っていた。80年代型のフリートウッドのセダンだ。窓がわずかに開いているのか、シャカシャカとオーディオが出す何かの音楽が漏れ聞こえている。


 だが、問題は乗り込んでいる連中だ。四人。それぞれが口元をバンダナで覆って人相を隠している。淡い、スカイブルーのバンダナだった。


「マズいな。出張ってきやがった」


「そんな、ありゃクリップスか!?」


「言うまでもねぇ。俺はアジトに戻る。ちとこのバイク貸せよ、ボウズ」


「ふざけんな!」


 誰がギャングスタなんかに物を貸すかっての! シザースと言い、ベンと言い、こいつらは何でも自分の思い通りになるとつけあがってやがる。


「……ったく。もしもーし」


 バイクを貸してもらえないと分かると、ベンは携帯電話を取り出して誰かと連絡を取り始めた。なんだよ、ゲットー育ちを気取ってるくせに、下っ端でも普通にそんなもの持ってるのか。そういえばシザースだって車はあるんだもんな。いや、もしかしたら盗品なのか?


「Cだ。出やがったぞ」


 C? おそらくだがクリップスの頭文字で間違いない。通話の相手はB.K.Bのメンバーの誰かだな。


「あぁ、足が無くて後をつけれなかった。ただ、方角的にはそっちに向かってると思う。サーガにも伝えてくれ。俺も出来るだけ急いで戻る」


 ベンが携帯電話をポケットに押し込んで周りをキョロキョロと見渡した。車でも探してやがるな。


「盗みを働こうってか、おい」


「誰かがバイクを貸してくれれば、その犯罪は起きないのにな。残念でならないぜ」


 この、減らず口め……


「それに、これで分かっただろう?」


「あん?」


「野球場でベースボールでもやってろって言うお前の主張は飲めねぇってな。奴らは既にこうして攻め込んできた」


 両肩を掴まれた。ぶるぶると奴の手は震えている。これは……哀しみか。


「街を巻き込むなって? どうやって! お前ならそれが出来るのかよ!? おまわりに連絡するか、あぁ!? クリップスがうろついてます、ってよ! よそのギャングだろうと、道を通ってるだけじゃサツは何も出来ねぇだろうが! だから俺達B.K.Bがやるんだよ! たとえお前みたいな馬鹿に蔑まれようともな!」


「……」


 ベンの圧倒的な気迫に押されて俺は黙り込む。ベンも、シザースも、B.K.Bのギャングスタは感情的になった時にいちいち迫力がある。

 今は足を洗っているメイソンもそうだし、現役のプレジデントであるサーガに至っては、ただ佇んでいるだけでそれが漏れ出てしまっている。


「おっと、こんなことしてる場合じゃねぇ。早くアジトに合流してクリップスを追い返さねぇと」


「待てよ」


「あん? なんだよ、クソガキ」


「ケツに乗れ。連れてってやる」


 俺は何を言っているのか。自分でもよく分かっていなかった。

 確かに、ベンを送り届けることでギャング共の大喧嘩は撮影できるかもしれない。それを証拠としてタレ込む事も可能だろう。だが、そのためにコイツに手ぇ貸すってのか? 本末転倒だ。


 だが、理屈では言い表せない何かに後押しされ、気づくとアクセルを回していた。クソ、嫌な気分だぜ。

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