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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Know! E.T.

 その週末の朝。リカルドが俺の家まで迎えに来た。いよいよ走れるようになったハーレーダビッドソンのお目見えだ。ただ、俺やグレッグも手伝ったし、何だったら今日のツーリングに間に合わせるために無理を言ってメイソンすらも手伝わせた。


「よう、クレイ! いいだろ! 俺のハーレーは最高だよな!」


 どうだ、と言わんばかりに自慢されたところで「いつも見てる」としか言いようがない。しかも、あくまでもどうにか走れるようになっただけで見かけはボロボロのままだ。これから綺麗にしていくつもりだろうが、今のままでは最高とは程遠い。


「途中で止まらなきゃいいがな」


「大丈夫大丈夫! 昨日は遅くまでメンテナンスしてたんだしよ。そんじゃ、グレッグを迎えに行こうぜ」


「了解。グレッグは俺が後ろに乗せるぞ」


 お前のポンコツが止まっても二人で帰ってこれるようにな、と理由も言ってやろうかと思ったが、実際に止まった時にでも大笑いしてやることにしよう。


「なーに言ってんだ、クレイ。俺のハーレーはシングルシートだぜ。仲良く野郎同士でタンデムできるのはお前のバイクだけだよ」


「そうかよ、寂しいならそう言っても構わねぇんだぜ?」


「うるせーよ! ほら、さっさと行こうぜー」


 リカルドに急かされて俺はヘルメットを被り、WRに跨る。グレッグを迎えに行くのは良いが、アイツはヘルメットなんか持ってたか……?


「途中でメイソンの兄ちゃんの工場に寄ってくぞ」


「は? なんでだよ?」


「余ってるヘルメット借りねぇと、グレッグが積めねぇだろ」


「あー、それなら大丈夫だぜ。ヘルメットなら一個持ってるってさ」


 そうだったのか。それなら問題ないな。


……


 グレッグのピックアップはマーケットの駐車場だった。奴は今日、アルバイトがあると言って親から外出の了解を得ているため、家に行ってしまうとそれがバレてしまうからだ。


「え、あれ、グレッグじゃねーの?」


 リカルドの指す先に、長身の身体にヘルメットを被った男がポツンと立っている。別にそれはいいのだが、ヘルメットが明らかにアメフト用だ。


「なんでだよ……」


「ウケるな! 早く乗せてやれよ、ブラザー」


 ヘルメットは持ってるってのは……そりゃコイツほどのスポーツマンだったらフットボールの試合にだって呼ばれてたんだから、その類のヘルメットだったら持ってるだろうよ。


「よう、二人とも。待ってたぞ」


「グレッグ、お前は常識人だと思ってたんだがな……」


「そう言うなよ。これ隠し持って出てくるの苦労したんだぞ」


 確かに、アルバイトにアメリカンフットボール用のヘルメットを持っていく理由が見当たらない。もし見つかっていたら確実に怪しまれただろうから、どうにか隠し通せたという事だ。


「シャツの腹に入れて、妊婦のふりして出てきたのか?」


 リカルドがつまらない冗談を吐いている。


「そんなんじゃバレるだろ。夜のうちに部屋の窓から先にヘルメットだけ投げ下ろしといたんだよ。庭の茂みの中にな。それを今朝拾って持ってきた」


「はー、涙ぐましい努力だねー。帰りはどうすんだ?」


「……考えてなかったな。クレイの家にでも置いといてくれるか? フットボールの試合で使う予定も無いからさ」


「いいけど、バイク用のやつ買えよ。これ、普通にダメだろ」


 今日はもう乗せてやるしかないが、安全性に問題があるだろう。それに何より、これで乗車するとダサい。


「とりあえず行こうぜ! 走りたくてうずうずしてんだよ」


「ロングビーチまで競争するか?」


「しねーよ。白バイにでも追いかけられてみろ。俺のは年季が入ってんだから無理させらんねーっての」


 白バイに追いかけられなくとも、あまりにも飛ばしていたら直ぐにリカルドのバイクはお釈迦だろう。エンジンが火を噴くか、ブレーキやハンドリングが間に合わずに事故を起こすか、理由は分からないが無事では済むまい。


「乗るぞ、クレイ。安全運転で頼むよ。俺だって怪我したらもう外に出してもらえなくなるんだからな」


「分かってる分かってる。冗談だから安心してくれ」


 ジェイクの体重を積み、柔らかいオフロードバイクのサスペンションがこれでもかと沈み込む。コイツも自分が廃車になるまでに、男二人を乗せるなんて想定してなかっただろうな。


「おっ先ー!」


 ワンテンポ早く、リカルドのハーレーが発車した。俺とグレッグを乗せたWR250もそれに続く。

 ここからはハイウェイや幹線道路を使ってほとんどノンストップで走行する。バイク用のインカムなんて持ってないので、しばらく会話は無しだ。


 日が真上辺りに昇ってきた。天気も良く最高のツーリング日和だ。他にもバイカーやトライク乗り、ローライダー、オープンのスポーツカーなど、ドライブやツーリングを楽しんでいる連中が多く見受けられる。


 給油のために、目の前を走るリカルドがガソリンスタンドに立ち寄った。俺の相棒を腹を空かせているころだ。満タンにしてやるとしよう。


 かなり広いスタンドだ。トレーラーやタンクローリーが何台も隅に止まっていて、運転手らが休憩している。


 そして、敷地内のまた別の場所には大量のバイカー集団がいた。けたたましいエンジン音が鳴り響いているので、トラック野郎たちは眠るのに苦労しているのではなかろうか。

 駐車場内でウィリーをしたりバーンナウトでタイヤを鳴かせたりとやりたい放題だ。ギャングとはまた違うが、ああいう奴らも迷惑なものだな。


 奴らの愛車は日本製の600ccクラスの中くらいのスポーツバイクが多い。軽くてハイパワー、その上に頑丈とあって、バイクスタントやエクストリームには最適らしい。


 その運転技術は大したものだと思うが、何百台と同時に走るせいで道路は奴らが通過するまで一時的に封鎖してしまうし、とにかくうるさい。

 ハイウェイで危険なスタント走行をするので、たまに一台が転倒したりするとドミノ倒しのように次々と転倒が相次ぎ、その事故のせいでこれまた道路が封鎖されてしまう。


「すげーなー。あれだけ集まると圧巻だぜ」


「迷惑極まりないけどな。リカルド、グレッグ、上を見ろよ。市警のヘリが飛んでる」


「本当だな。奴らの動きをマークしてるわけか」


 俺達がそんな会話をしながら給油を済ませると、そのバイカー集団から一台のバイクがこちらに寄ってきた。ライムグリーンの古いカワサキ・ニンジャだ。


「よう! そう言えば、今日はお前達もツーリングだって言ってたね!」


「誰だ、お前?」


 話しかけられる理由が分からず、俺は警戒の色を強める。「あぁ、ごめんごめん」とフルフェイスのヘルメットを取ると、メイソンの顔があった。


「メイソンの兄ちゃん……アンタ、どこにでも出没するんだな……」


「おい、クレイ! 人をゴキブリみたいに言うなっての!」


「実際そうだろ。あんな知り合いもいるわけか。感心しないな」


 俺の文句にメイソンは深い溜息を吐いた。


「あのなぁ、大人には仕事上の付き合いってもんがあんの。俺だって好きで暴走族ごっこに加担してるわけじゃないんだよ?」


「どこが仕事だよ。警察にマークされる仕事が楽しいか?」


 上空のヘリを指差してやるが、メイソンは慣れっこなのか見向きもしない。


「あの中にお客さんが何人かいるんだよ。普段ウチに修理やらなんやらで持ち込んでくるのはバイクじゃなくて車だけどな」


「それで、ありがたいお誘いに御呼ばれしたってわけか」


「そういう事。お客さんの誘いを何度も断るわけにはいかないからね。名目上の参加は果たせたから、そろそろ言い訳を考えて抜けようと思ってたが……お前らが良ければ一緒に走らないか? 俺をあの人たちから引きはがせると思って協力してくれよ」


 俺がリカルドやグレッグにどうする、と視線だけで問いかける。

 二人ともやれやれ、と肩をすくめた。仕方ないから同道しようじゃないか、という意味だ。まったく、メイソンの言い訳に使われるのは癪だが、確かに長らくあの中で走りたくない気持ちもわかる。


「分かったよ。三人分の昼飯で手を打ってやる」


「現金だなぁ。もっと高校生らしい健全な精神は持てないもんかね」


 ブツブツと小言を垂れながらメイソンがバイカー集団のもとへ歩いて行った。知り合いがいたからここで抜けると伝えるのだろう。その後すぐに引き返してくる。


「オーケー。ファストフードでいいなら奢ってやるよ」


「ひゃっほう! こりゃ、飛んだ臨時報酬だぜ」


 飛び上がって喜んでいるのはもちろんリカルドだ。本当に分かりやすい。


……


……


 ロングビーチに到着し、ファイブガイズに入店する。何でわざわざファイブガイズを選ぶかって? 先頭をポンコツで走ってた阿呆に聞いてくれ。たまには違うチェーン店にして欲しいものだ。


「リカルド、ハーレーの調子はどうだい?」


「今のところ問題ないぜー。それに、なにかあったってアンタがいてくれるから心強いよ」


「俺だって工具が無いと何もできないぞ。あまり慢心して無理な走りしないようにね」


 確かにメイソンがいれば大抵の故障は即座に直してくれるだろうが、それも工場にいればという話だ。車載のレンチやスパナはあるものの、出来ることは限られる。


「えっ、大丈夫だろうと思って帰りはぶっ飛ばすつもりだったのに」


「安心しろよ。置いて帰ってやるから」


「ふざけんな、クレイ! まったく、血も涙もねーなー」


 顔を寄せるリカルドに中指だけ立てたやった。馬鹿が。浅はかな考え方してる方が悪いんだっての。


 店内の窓の外に俺達のバイクが見える。

 俺のWRは言うまでもなくピカピカだが、その横にある二台がよろしくない。リカルドのハーレーは見るからにボロボロだし、メイソンのニンジャも古い型だし、相当年季が入っているはずだ。


「あのライムグリーンのニンジャ、工場にあったっけ?」


「いや、あれはいつも自宅のガレージに置いてるから。初めて見ただろう」


「あぁ。何か意味があって家に置いてんのか?」


 メイソンは自分のニンジャ見て、少しだけ遠い目をした。


「まぁね。話すとお前の機嫌が悪くなるだけだから言わないよ。B.K.Bの話になっちゃうからね」


「何だ、昔話か! 俺は聞きたいぜー!」


「俺も少し興味がある……かな」


 リカルドとグレッグの二人は乗り気か。俺はメイソンが言う通り聞く気もないが、めんどくせぇな……

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