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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Live! K.B.K

 数週間が過ぎた。平日はK.B.Kの活動を行うわけでもなく、休日はリカルドと二人でメイソンの整備工場でバイトをする日々が続いている。

 洗車と、他に簡単な部品交換を教えてくれた。


 ここで働き始めて驚かされたのは、その顧客の多さだ。

 初日の洗車の時点で薄々は感じていたが、これでも人気の繁盛店なのだと改めて認識させられる。メイソンは確かに腕もいいし人当たりもいい。仕事が遅いのは本人のサボり癖もあるが、それよりも明らかに客数が多すぎるのだ。

 俺とリカルドが軽作業を手伝うだけでもそれなりに貢献できるのは簡単に理解できた。それで俺をバイトに誘っていたわけか。


 シザースはいまのところ姿を見せてはいない。平日、俺達が学校に行っている間にも来てはいないらしい。メイソンも意味のない嘘をつくはずがないので、これは信じていいと思う。

 他に、ギャングスタと思しき人物が現れないかとも思っていたが、これも空振りだ。客のほとんどが近所の年寄やファミリー層だった。

 あとは個人で事業をやっている人間の作業車や公共の車両が少し。初日に洗ったスクールバスもこの手の部類に入る。ポリスカーは見ていないが、タクシーの持ち込みは二台見た。いずれにせよ、今のところはシザースとの接点がない客ばかりだ。


「またぼーっとしてんのかよ、おい」


 リカルドがぞうきんを絞りながら俺に悪態をついた。意外にコイツが働き者で、よくサボっている俺に注意を飛ばしてくる。金が絡むとヤル気も十分というわけだ。


「あーあ。メイソンの兄ちゃんにチクって俺の給金上げてもらうかな。もちろんお前の分から差っ引いてもらってよ」


「ふざけんな。ちゃんとやるっての」


「ならラストのピックアップトラックはお前の作業な。それで許してやるよ」


 やれやれと首を左右に振る。自業自得だが。


「おーい、メイソンいるか」


 振り返ると、新たな来客がいた。どこにでもいるような中年の黒人の男。

 歩いて来たようなので、車の受け取りだろう。


「工場内にいるよ。呼んできてやろうか、おっちゃん」


 リカルドが応対してくれたので、俺はピックアップトラックの洗車に移った。シボレーの新型だ。誰のものか知らないが、よくこんなもんがこの貧困街に住んでて買えるな。


「君たち二人はバイトか何かか?学生に見えるが」


 チッ、知らんぷりして仕事を終わらせたかったが、話しかけてきやがった。


「あぁ、そうだよ」


「感心だよ。ウチにも同じくらいの息子がいるが、ギャングの真似事なんてやってるよ」


 ワンクスタか。どうせならギャングスタの父親でいてくれよ、と俺はひどく自己中心的な思いを抱いた。


「そう思うならやめさせてくれよ。ギャングなんざ、この街に湧いた蛆だ。いない方が良い。その真似事やってる馬鹿な連中も、傍から見れば同じだぜ」


「ひどい言い草だな。もっともな意見だが、この街にいる限りは結局どこかで繋がってしまっているものだよ。B.K.Bというギャング組織とね」


「馬鹿言うな、俺は関りなんか……」


 途中で言葉が止まった。関わりどころの騒ぎじゃない。血が繋がっている。俺はそのB.K.Bのギャングスタ、それもB.K.B設立当初のオリジナルメンバーだった、ジャックの息子じゃねぇか……

 だが、本当に関係ない人間も多いはずだ。K.B.Kのように積極的にワンクスタ退治をやってる俺達は別としても、一般人は違う。このおっさんは何を言ってるんだ?


「あー、お待たせしました」


 メイソンとリカルドが工場からヤードに出てきた。おしゃべりはここまでのようだ。

 応接室代わりのプレハブに彼らが向かうと、俺は再び目の前のピックアップトラックの洗車に集中した。リカルドだけは近くの廃タイヤの上に座ってスプライトを飲んでいる。メイソンにでも貰ったんだろう。


「クレイ」


「なんだよ。さぼってねぇぞ」


「バイトとは関係ないんだけど、工場内にあるバイク、直せるなら好きに乗っていいってよ。メイソンの兄ちゃんは特に使う予定はねぇんだと」


 バイクか。そういえば錆と埃まみれで動かなそうなハーレーやらニンジャが隅に置いてあるな。俺は興味はないが、リカルドは何かアシになるものが欲しいのだろう。まさか直して勝手に転売するほどのクズ野郎じゃないよな。


「いいんじゃねぇか。好きにしたら」


「なんだよ、つれねぇな。どうせなら一緒にレストアやろうぜ。自分たちでやれば、機械の勉強にもなるだろ?」


 なんでまた余計な仕事を増やさなくちゃならないんだっての。給金も出なけりゃ仕事ですらないじゃないか。


「あのなぁ。レストアするって言っても部品代はどうすんだ? 確かに勉強にはなるかもしれねぇが大赤字だぞ」


「そこもまた勉強だ。使えそうな部品くらい、ここにはたくさん転がってるじゃねぇか。宝探しをしながら修理だよ。金は出来る限りかけないのが俺の主義なのは知ってんだろ?」


 そうか……またか。次から次へと俺が持てる目標を立てようって腹だな。ついでに自分のアシを手に入れたいっていう裏もあるにはあるんだろうが。


「なら俺にも考えがあるぜ、リカルド」


「うん?」


「お前だけ良い思いしようってんのが納得いかねぇからな。レストアするのはバイク二台だ。俺もいただく」


「言うねぇ! 上等だぜ、やってやろうじゃねぇの!」


 洗車と拭き上げは完了したが、メイソンとさっきの客が戻ってくる様子はない。話している途中で仕事上がりを告げて日当を受け取るのも野暮だろうと、俺達は工場の隅にあるバイクを見物しに向かった。


 ハーレーのソフテイル、カワサキのニンジャ、珍しいところだとドゥカティのモンスターなど、ざっと七台だ。この中から未来の女房を選ぶわけだな。

 動かない車はいずれも外に置かれているが、動かないバイクはこうして屋根のある所にあるおかげで、外にある車よりはまだ手の施しようが有りそうだ。


「俺様は絶対ハーレーだね! なんたってアメリカ製だからな!」


「いいんじゃねぇか。俺は何だっていいが、壊れなくて頑丈な奴がいいな」


「なら、モタードか? この、オフロードバイクみたいなやつ」


 リカルドがハンドルに手を置いたのは、ヤマハのオフロードバイクだ。車体が小さく扱いやすそうだ。しかし、このバイクだけは新品同様にピカピカなので、メイソンが普段も使っているんじゃないだろうか。


「そいつはWR250だね。去年買ったばっかりだけど……まさか欲しいのかい、クレイ?」


 いつの間にか、メイソンがニヤニヤと笑いながら俺達の後ろに立っていた。


「欲しいと言ったら?」


「さすがにこれだけはタダじゃ無理だなぁ」


 何が嬉しいのか、メイソンはニヤついたままだ。まぁ、リカルドと一緒で俺が何かに興味を持つことを好ましく思ってるんだろう。心配しなくても、もう廃人に逆戻りなんてしないっての。


「なら他のスクラップでいいよ。バイクを買える金なんてねぇし」


「スクラップとは失敬な。どれもこれも思い入れのあるバイクなんだぞ。もちろん、外に置いてる車だってそうさ。時間さえあれば全部直して動かしてやりたいくらいだ」


 メイソンはWRに跨って「バルンバルン」と口でエンジン音を真似て口ずさんだ。これは……リカルドとは違うな。タダの乗り物バカだ。車やバイクの話が出来るのが楽しいと感じているだけなのだろう。


「他のならタダでいいのか?」


「タダ、タダって値段の話ばっかりするなって。気に入ったのを選ぶのが一番だぞ」


「ならWRをくれよ」


「……」


 メイソンのニヤけ面が渋い顔に変わる。そりゃ、こんな嫌がらせをすれば当然か。


「冗談だって。だったらメイソンの兄ちゃんが選んでくれよ。聞いてたかもしれないが、頑丈な奴が良い」


「頑丈って言ったらやっぱりオフロードバイクになってしまうなぁ。軽くて頑丈に出来てるからね。WRを譲ってもいいけど、何日間かタダ働きになるよ」


「何だ、そのくらいの金額でいいのか?」


 何千ドルかは請求されると思っていたので拍子抜けだ。しかし、それだとメイソンが大赤字を被ることになるが……まぁ、いいか。


「俺は半年以上使ってないし、誰かが動かしてやらないと可哀想だからなぁ。来月の週末のバイトは全部給料もメシも無し。それでどうだい」


「分かった」


「もちろんリカルドもだよ」


「は!? なんでそうなんだよ!?」

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