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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Stop! K.B.K

 ジェイクがこの街を去ったのはそれから僅か二週間の後だった。完全に連絡は絶たれてしまい、俺達がその事実を知ったのはたまたま先生がその事実を知っていたからだ。ただしその話も事後報告なので、俺達がそれを耳にしたころには、ジェイクは既に近くにはいなかった。


 グレッグも自身が宣言していた通りの状況になった。奴は回復後にハイスクールへ戻ってきたが、親の送迎があるせいで寄り道などは一切できなくなった。学内では今までと変わりなく話すことが出来るものの、K.B.Kのメンバーとしては完全に蚊帳の外だ。一度、本人から「仲間から外してくれても構わない」という申し出があったが、これは他のメンバーの全会一致で否決された。

 一緒に行動が出来ないからと言ってすぐに仲間外れだなんて、そんなことが出来るはずも無い。


 だが、ジェイクやグレッグを抜きにした活動は思うようにはいかなかった。主力とも言ってよかった二人が抜けたのだ。ワンクスタと対峙しても逃走を許すことが増え、時には完全に叩きのめされて負け戦を経験することさえあった。


 こうなってしまうと、残ってくれたメンバーたちの士気も一気に急降下してしまう。何を隠そう、俺自身もそうだ。既にやる気が失せていたところにこの状況。俺の心を支えていた多少の使命感や仲間たちのやる気も完全に消えてしまい、K.B.Kは完全にその存在意義を無くしてしまった。


「リカルド。お袋が死んだときにお前が言ってたよな。何か打ち込めるものが必要だって。それも無くなっちまったみたいだ」


「……返す言葉もねぇよ」


 ファイブガイズの店内。今日はパトロールの予定だったはずだが、とうとうK.B.Kのメンバーたちは集まらなかった。無視されたわけではなく、他のみんなは嘘か本当か、何か用事があると返してきた。仲間との交友関係が悪化しているわけではないので、それだけでもマシだと思うほかない。

 確かに、お袋を亡くした直後の喪失感に比べればいくらか持ち直してはいる。それでも、これから先の事が一切思い描けないでいた。


「シザース……」


「あん?」


「……シザースがどうして、あのワンクスタを殺したのか、ちょいと調べてみねぇか?」


 突然の一言。臆病なリカルドの口から出た言葉とは思えない。


「危険だと分かってて言ってるよな?」


「そりゃあな。本音を言えばギャングスタに関わりたくなんてねぇさ。でも、何もできないままK.B.Kが終わっちまったら癪だろ」


 リカルドは隠している。これは俺のためだ。K.B.Kがどうなっても、コイツ自身は大したダメージを受けはしない。このままではなんとなく生きていくことになるであろう、俺を心配している。シザースがワンクスタを殺した理由を知ったところで何も意味はないだろう。だが、それを調べるという目標を与えようとしてくれているわけだ。馬鹿な奴め。

 だが、俺もそれを指摘するほど野暮ではなかった。


「……当てはあるのか?」


「ねぇよ」


「見切り発車かよ。シザースと話したいんなら俺に考えがある」


「考え?」


 奴が出入りしていて、俺も出入りしている場所が、一つだけある。


……


「それで、俺のところに来たってわけか」


 次の休日を利用して、俺とリカルドはメイソンの兄ちゃんが営む整備工場を訪れていた。ディッキーズのツナギ姿の彼は、作業の手を止めてまで対応してくれた。

 先日ここでシザースとばったり出くわしたことをリカルドに説明し、移動にはお袋のポンコツ車を使った。買い替えを期待していたこのポンコツも、今となってはお袋の大事な忘れ形見だ。


「シザースが撃ち殺したのは若いワンクスタだ。B.K.Bの縄張り付近でもないのに、そんな奴を狙うか?」


「B.K.Bのテリトリーは街全体だよ。離れれば離れるだけタグも減って影響力は弱まるから分かりづらいが、彼らの居住区域周辺だけだと思わないことだね。これはギャングスタ自身も下っ端だと理解してないことが多い。管理してんのはプレジデントと幹部連中だからな。間違いなくこの街の全てがB.K.Bの手中だ」


「……ふん。そんなことはどうでもいいいんだよ。シザースと話をさせて欲しい。連絡を取ってくれないか?」


「断る。それは俺の仕事と関係ない」


 ……まぁ、簡単には承諾してくれないとは思っていた。ギャングスタと一般人を繋ぐだなんて普通はしない。

 しかし、B.K.Bの縄張りはそんなに広かったのか? いや、口ではどうとでも言えるので、奴らも大きく吹聴しているのだろう。結局、大して影響力が及んでいないのであれば奴らがどう考えていようと関係ない。


「呼んでくれるまで帰らないからな。金がなかったとか、ムカついたとか、そんな下らない理由だったとしてもだ」


「そんな事で殺しはしないだろうけど、別に俺にもお前にも関係のないことだろ? 今度アイツが店に来た時にでも聞いといてあげるよ。だからこの話はここまでだ」


「おい……!」


「待てよ、クレイ。聞いといてくれるんならラッキーじゃん。実際、それはこの人の仕事じゃねぇし」


 リカルドが笑みを浮かべたが、俺はそれを睨みつけた。お前が言い出したくせに、簡単に引き下がろうとするなっての。結局は、シザースと会わずに済むのならそれでも良いのかよ。


「そんな顔すんなって。教えてくれないもんは仕方ねぇだろ……」


「そうだぞ。それよりお前ら、暇ならちょっと客の車の洗車を手伝ってくれよ。バイト代は昼飯と小遣いだ。やるだろ?」


「やらね……」


「やるやる! 金くれんのかよ! ひゃっほう!」


 だめだこりゃ。リカルドの奴め、完全にメイソンの甘言にコロッと騙されやがった。この兄ちゃんは人たらしなんだよ。そして貧乏人のリカルドは金に目がない。


「おい、勝手に決めんなよ! だったら金の代わりにシザースと連絡とってくれよ!」


「無理だってぇの。いい加減に諦めてくれよ。次にアイツが来たら聞いといてやるって言ってるんだから良いだろ?」


「クレイ、とりあえずやろうぜ。昼飯は当然、肉だよな!」


「……お前はどっちの味方だ」


 結局、メイソンとリカルドから二対一で攻められて俺が観念する形になってしまった。

 そして、仕方なく洗車をし始めたのは良かったのだが、問題なのはその台数だ。なんと六台もある……どれだけ客を待たせて迷惑をかけてるんだっての。


「おい、こんな量は聞いてねぇぞ。これ全部、俺達二人にやらせるつもりか? それも半日で?」


「そりゃそうだ。言ってないからな」


「ふざけんな……」


 しかも一台はスクールバスだ。他が小さな日本車ばかりなのは不幸中の幸いかもしれないが、金に飛びついたはずのリカルドも目を丸くしている。


「一台で一食。つまり六食分……あんたの驕りだよな?」


「ばーか。そんなはずないだろ」


「だそうだ、リカルド。やっぱりやめとこうぜ、他のバイトの方がよっぽど割に合う」


 リカルドは渋い顔をし、それでもやるべきだと首を振った。


「いや、帰っても他に当てはないんだろう? 確かにとんでもねぇ仕事量だし金にもならねぇが、お前は部屋で悶々とするだけになっちまうぞ」


「他にも奴と会った場所くらいあるさ。ダチとつるんでたろ」


 奴は俺達と揉めたワンクスタと繋がっていた。古いダチだとか言っていたはずだ。つまりあの辺りが奴のフッド、生まれ育ったシマという事になる。

 ちなみに奴が撃ち殺した男もワンクスタではあったが、旧友らとは全く無関係の人間だ。


「あー、あの辺で直接シザースの居場所を聞き出そうっての?」


「クレイ。やめろ。俺が聞いといてやるから」


 俺の返事の前にメイソンが釘をさす。ギャングスタと直接関わらせたくないのが明白だ。


「六食分は無理だが、二食分で手を打ってあげるよ。今日の昼飯と晩飯。それで我慢してくれ。いいな?」


「おっ! ちょっとは奮発する気になってくれたのかい!」


「じゃあ、俺は工場内に戻るからな。洗車道具と水道はそこにある。頼んだよ。二、三時間したら昼飯休憩だ」


 すかさずリカルドが乗っかると、メイソンは車がずらりと並んだ屋外のヤードに俺達を残して引っ込んでしまった。俺はまだやるとは言ってないってのに、まったく……


「まずは二人がかりでスクールバスをやっつけようぜ。最初に大ボスを倒せば楽になるだろ?」


「あぁ! 分かったよ、やるって!」


……


「ここでのバイト、前々から誘われてたんだろ? 実は俺、ちょっと思いついたんだけどよ」


 作業開始早々、不機嫌さ全開の俺に向かってリカルドが言った。


「しばらく働いてれば自動的にシザースにも会えるって事じゃねぇの?」


「馬鹿言え。他の手を探した方が近道だろ」


「まぁまぁ。ちょっとずつ活動資金を稼ぎつつシザースを待ち受けようって寸法だよ。そりゃ、近道だけ探すんならお前がさっき言ったようにしてもいいさ。でも俺は、どうせなら一石二鳥になるような手を取りたいね。多少の遠回りだとしてもだ」


「活動資金だ? K.B.Kにはそんなもの不要だろ」


 俺達には決まったユニフォームがあるわけでもないし、メンバーに対して賃金を支払うわけでもない。


「必要だって! それに、バイトの経験だって無駄にはならねぇだろ!」


 なるほど、分かったぞ。リカルドはさらに別のアプローチで俺が生きがいを見つけることを期待しているわけだ。こんなくだらない洗車作業なんかで人生が変わるとも思えないが、奴の思いを無駄には出来ない。納得したふりをして付き合ってやるか。


「そんなもんかね」


「あぁ! そんなもんだぜ!」


 ニカッと笑って親指を立てられた。馬鹿な野郎だと思うが……憎めない。

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