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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Fukk! Police

 ファック、ポリス! まったく忌々しい。


 ただ、今回はむしろ警察側がギャングに恨みを持ってるって話だ。俺が心の中で吠えたのも、面倒な調査をする羽目になったことへの当てつけだな。


 ただし、調査は相変わらず主にチカーノのガキ二人にやらせている。日も暮れてるってのに、サーガは人使いが荒い。奴らのママが心配している時間だと思うんだがな。


「アンタは困っている村人を勇者が助けるとか言ってたが、別に住民は困ってねぇんじゃねぇのか? ホームレスのじいさんは喜んでたぜ」


「あぁ? 困ってんだろ! 家族が捕まってんだぞ! いったいこの街で何人の女が涙を枕で濡らしてることか!」


「意味わかんねぇよ。今さら女にモテたいとでも思ってんのかね」


 当然、拳骨が飛んできた。


……


「分かったぜ。どうやら、ここのメンバーがサツの裏事情を抑えたらしい」


「ほう? そこはもう一度俺らも話を聞きに行こう。案内してくれ」


 何度目かの報告で、チカーノの二人からそんな情報が手に入る。確かにこれは深堀するしかないな。


 車を降り、徒歩で四人はその家へと向かう。

 道中で話したところによると、その情報をくれたのはセットのナンバーツーを張ってる奴の嫁さんだって話だ。


「なんだい、またぞろ来客とは。鬱陶しいったらありゃしないね」


「なるほど、こりゃ肝っ玉の据わった女だ」


「そっちのほうはいきなり失礼な男だね」


 庭先で幼い子供がボール遊びしているのを見守る女。サーガに対しても物怖じしない。これがお目当ての人物か。


「はははっ! そりゃ、ガキのお守り中に人が来りゃ鬱陶しいだろうな」


「分かってんなら帰んなよ。ボールの代わりにタマを蹴り上げられたくなければね」


「悪いがそうもいかねぇんだ。タダとは言わねぇから少し付き合えよ」


 ポケットから二十ドル札を数枚取り出し、女に手渡す。

 ここまで何も与えられずにこき使われているチカーノの二人は、いとも簡単に金を払ったサーガに不満そうだ。


「へぇ? あたしを口説こうってのかい。いいよ、家に上がんな。ほら、ケリー! もう暗いからおうちに入るよ!」


 ボール遊びは強制終了となり、子供は抱えられていった。

 要るのかわからないが、庭先に残されたボールは俺が拾い上げて持っていく。無くなるよりは玄関内に放っておいた方が良いだろう。


 家は今にも崩れそうなあばら家で、ギャングのナンバーツーと言えども裕福ではないようだ。ボールは玄関に入ってすぐのところに置いておく。


 サーガが金をダシにしたのも、彼女が簡単に折れたのも頷ける。それほどまでに生活が苦しいのだろう。

 そして、それを瞬時に判断したサーガの観察眼は流石だな。


 案内されたリビングで、破れた三人掛けのソファを勧められる。俺とサーガ、チカーノの一人は座れたが、最後の一人は余ってしまって立ちっぱなしだ。


 女は別の部屋から椅子を持ってきてそれに座り、子供は床に座り込んで、そばに落ちていた熊のぬいぐるみで遊び始めた。


「お、俺だけ立ちっぱなし……」


「あぁ? てめぇは床に座ってガキの様子でも見とけ」


 悲しむチカーノに、サーガがさらに残酷な指示を出している。


「それで、この美人の身体が欲しいんだっけ? 安くない金額を貰ったんだ、サービスしてやろうじゃないの」


「何をその気になってんだよ。まぁそれも悪くねぇが、ちょいと話を聞きたくてな。お前の旦那の話だ」


「はん! あんな甲斐性無しの男の話、何が面白いってのかね! 見てみなよ! あれがまともに働かないせいでアタシらの生活はこの有り様さ!」


 外見もひどい家だったが、室内もそれは同じだ。壁や扉はところどころ剥がれ、窓もひびが入っている。

 あまりいい教育環境とは言えない。仮に子供が暮らしていなくても、最低限の生活環境すら整っていないな。


「その上、捕まっちまってもっと金に困ってるってところか」


「あぁ! あの馬鹿ギャング共が警察を脅すような真似をするから、とばっちりさ!」


「ほう? 旦那がやったんじゃなく、他のメンバーがサツの弱みでも握って、それを口実に警官から金でも掠めようとしたんだな」


 てっきり身内の仕業だからこの女は詳しいのかと思っていたが、他のメンバーのやらかした事をたまたま知っていただけという事か。ただまぁ、情報さえ知ってれば別に間柄は何だっていい。


「大体そんなところさね。ギャング連中から金を受け取って、悪さを見過ごしてた部分もあったんだろうよ。それをネタに強請ろうとしたって話だよ」


 恩を仇で返すとはこのことだな。そのままいい関係を保ってればよかったものを、欲が出ちまったか。しかも、それで全員が的にかけられてるんだから世話ねぇな。

 今頃、元凶になった奴は塀の中で仲間からのリンチにでもあって殺されてることだろう。


「刑期は?」


「知るもんかい! さっさと出てこないと食うに困るんだけどね! こっちはフルで働けないんだからさぁ!」


 言い草から、全く働いていないというわけではなさそうだ。ただ、子供を見ながらのパートタイムだと生活は苦しいだろうな。祖父母でも同居してれば少しは楽なんだろうが、この家庭にその気配はない。


「しかし旦那はろくでなしだって話だったろ。それでもいねぇよりマシなのか?」


「居たら居たで腹は立つけどね! 小銭を家に入れるだけの価値はあるから置いてやってんのさ!」


「ははは! ひでぇ言い草だ! 奴には居場所がねぇな!」


 ナンバーツーなんて肩書がありながら、家では肩身を狭い思いをしていたのだろうか。この女が本人の居ないのを良いことに好き勝手言っているだけかもしれないが。


「で、肝心の内容なんだが、ギャング共はサツに金を握らせて何を見過ごしてもらってたんだ?」


 そこは知る必要があるのか? ただ、聞いても損ではないのでこのままサーガに任せておいていいな。

 というか、いつの間にかサーガが主導してくれてるじゃないか。この街での仕事は俺にやらせるって話だったはずだが、楽なので黙っておく。


「あたしもそんなには知らないよ。ただ、どこぞのギャングの大罪人と取引した過去がどうとか」


「……? ここのギャングセットじゃなく、よその話を握ったのか? しかもなんでそれを口実に強請るんだよ」


「だから知らないっての! ただ、それを知られてるのが重大な事だったんだろ!」


 どこぞの大罪人か。そんな言われ方をする事件と言えば、サウスセントラルの悪夢が思い浮かぶな。その関係者って事か?

 B.K.Bも関わっているが、それよりは当時の敵対セットの連中な気がする。


「そうか、どちらさんの話なのかまで知りたかったんだがな。自慢じゃねぇが、俺もちょっとした情報通でな。ギャング界隈のネタなら大抵のことは知ってるつもりだ」


 言いすぎだ。こんな離れた場所の事なんか知るわけないだろ。知ってたらよっぽどデカい話だけだ。

 ただ、サーガもサウスセントラルの悪夢の話をしているのだとしたら、当事者でもある分、知っていることは多い。


「どこの話かって? 何て言ったっけねぇ、なんとかブラッド……だったような気がするよ」


「もう少し詳しく教えてくれ」


「えぇ? えらく食いつくじゃないかい。そうさなぁ、ビッグ、なんとかブラッド……あぁっ! これ以上は思い出せないよ! とにかく、そこの大罪人が警察と何かあったんだろ!」


 マジかよ。本当にウチの話ってわけだ。


「……なるほどな。助かった。行くぞ、引き上げだ」


 静かにサーガが言う。頭の中でぐるぐると何かを考えているのが分かる。


……


 元の位置まで戻ってくると、早々にチカーノの二人を開放し、俺たちは車に乗り込む。


「サーガ」


「おう、言いたいことは分かってる。あれは昔のB.K.Bの話だ。それも、おそらくは俺の話だろうな。何でここの連中がそれを知ってるのかは知らねぇが」


 サーガがサツと何かあった、か。

 何も不思議には感じないな。この男であればサツと取引の一つや二つ、やっていただろう。むしろない方が心配になる。


「取引ってのは?」


「隠す必要もねぇ話だ。B.K.Bの仲間たちがパクられた時に、俺は釈放されて金を受け取ってた話だろうな」


 大昔にサーガの片足が動かなくなった頃の話だろうか。しかしそれは警察側の落ち度の対価だと聞いている。別に知られたからって後ろめたい話ではないはずだが。


「……が、本丸はそこじゃねぇ。その後ろにある、ロサンゼルスの警察全体の腐敗。当時のギャングスタクリップっていう連中の、元プレジデントとの癒着の話だろう。奴はサツを飼いならしてたからな」


「全体? 壮大な話だな」


「その通りだ。俺の話を知ってるってことは、そっちの話も知ってる可能性があると踏んで確保されたんだろうな。今頃は厳しく取り調べられてるかもしれん」


「それだとサーガやメイソンさんみたいな生き残りも等しく危ないんじゃ……」


 そんなに危険な情報なら、B.K.BのOGは全員捕まっていないとおかしい。


「バーカ。それをされない代わりに口をつぐむ取引をしてんだよ。ついでに、パクられた連中への配慮もするように頼んでな」


 な……に……?

 パクられた、連中への、配慮……? それは、つまり。


 ダメだ、頭が混乱する。サーガは何を隠している。いや違う、何を知っている。何を言っている。だが、俺の口からは声が出ない。かすれた息だけが漏れた。


「まぁ、これ以上はてめぇが気にすることじゃねぇ。忘れろ。とにかく、そんなヤバい情報をなんでここの連中が知ってるのか。それが問題だな。大して関わりもないセットのはずだが。俄然、俺は興味が沸いてきたぞ」


「……そう、だな」


 ようやくそれだけ返せた。


 サーガの新たな目標は、このセットがB.K.Bの話を知る理由。

 俺の新たな目標は、サーガも言えないというその内容だ。


「そんじゃ行くとするか」


「え」


 行く? どこへだ?


「なんだ、間抜けな声出しやがって。さすがにこの件は直接聞くしかねぇ。向かうのはムショか、警察署だな」


「いや、マジかよ! サーガ自身もヤバいって話だろ! それをわざわざサツに知らせるのか?」


「違う。サツから俺に、いろいろと知っていることを咎められる心配はねぇんだ。そのために金が動いたんだからな。逆に、なぜ情報が漏れているのかを把握して、口止めの材料にするって言えば協力的になる」


 口止め? このセットの人間を殺すって事か? 確かに逮捕は出来ても、死刑になんてできる権限は警察にない。

 その点、ギャングにギャングを始末させる方が楽だ。しかし、そんな簡単に協力してくれるとはとても思えない。


「このセットと協力関係を結ぶのを放棄する、って意味か?」


「それも違う。やるとして、何人殺さなきゃなんねぇんだよ。ただ、警察にはそう思わせるってだけの話だ。普通に気になるだろ、何で知られてんのかがよ。俺はそれが分かれば十分だ。だから別にここの連中と敵対はしない」


「それが知れてるならB.K.Bに良い印象は持ってなさそうだけどな」


「言うほど気にしてねぇと思うけどなぁ。飯のタネにしようとしただけだろ」


 何でそこは楽観的なんだか。勘ならついていけないし、理解しようとするのはやめておこう。


 そういうわけで、俺たちは近くの警察署へと赴くのであった。

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