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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Trip or Journey

「はっ! 全く似合わねぇな。あれだけ息巻いててそのざまかよ、クレイ」


「うるせぇなぁ。どう見てもアンタよりは似合ってるだろうが。視力が衰えてるんじゃないのか?」


 宣言通り、服屋に連れてきてもらい、試着をしている。せっかくだからとズートスーツに袖を通したわけだが、御覧の通りサーガからは不評だ。

 ただ、悔しくて俺も言い返してはいるが、正直着せられている感がぬぐえない。仕方ない、ズートスーツは諦めて普通にダブルのスーツにしておくか。


「あれにしとけ」


 俺のその心情を見抜いたかの如く、次に着てみようと思っていたそのスーツをサーガが指さす。


「言われなくても試すつもりだったんだよ」


「へいへい」


 試着室に入り、白のズートスーツからグレーのダブルスーツへ。


 思った通りだ。鏡に映る俺はなかなかの男前じゃないか。これならサーガの横にいても恥ずかしくないな。


「開けるぞ」


 カーテンが引かれ、サーガも俺の勇姿を確認する。息子のスーツデビューを応援する親父みたいだな。


「マシだな。それにしろ。色違いで三着買ってやる。それ以上は持つな」


「もう少し褒めてくれよ……まぁ、プレゼントには感謝するぜ」


 支払いはどうしようかと思っていたところなので助かる。貰うとは言いつつも、特に高級ブランド店でもないので家に戻ったら金を返すけどな。俺だってギャングのトップ、そこそこの金はあるんだ。


 現在のB.K.Bの資金源はクスリとみかじめ料だ。ただ、どちらも膨大に稼いでいるわけではない。そもそも、地元の店からそんなには取れない。


 小遣い程度を稼ぎ、代わりにトラブル解決をしたり、買い物もしている。

 なので、稼ぎというにはあまりにも少額だ。それでも、塵も積もれば山となるというわけだな。


 他のセットとぶつかったときには大きな稼ぎが出るが、損失も同時に出る。俺としてはあまり好きではない。

 武器や盗難車の販売もたまに行うが、大々的ではない。


 買った服を車のトランクへ。サーガが言っていた通り、自身の着替えは満載されている。羨ましい限りだが、貰った三着でも十分だろう。


「もうひとセット行くぞ。今日はそこまでだ」


「分かった。車内泊なんて言わないよな?」


「近くにモーテルがなきゃそうなるだろ。できる限りは探してやるが。まったく、近頃のガキは贅沢で敵わねぇな」


 ベッドで眠れるのなら、このくらいの小言は甘んじて受けてやるさ。

 その心の内を読んだのか、滔滔とサーガの説教は続く。


「よく考えてもみろ。地元を追われた時、俺たちは車中泊ですらなかった日もあったんだぞ。当然、野宿だ。それで掘っ立て小屋を見つけて、そこを拠点にして……まったく、よくもあんな原始人みたいな生活から復活できたもんだぜ」


「昔の人間はタフだったってのは認めるよ。食い物は蛇やカラスでも食ってたのかよ」


「んなもん食うか。土や石を食ってたんだよ」


「そうだったのか。そりゃとんだご苦労をされたようで」


「石なんか食うわけねぇだろ!」


 そんなわけあるかと言ってやっても良かったが、少しでも気持ち良くなってくれればそれでいいかと肯定するも、それはそれで気に食わなかったようだ。


……


 この日、最後の仕事。最後とは言っても二つ目のセットだが、そのテリトリーに到着した。どうやら今度はブラッズらしい。


 同じブラッズ同士でも別に無条件で味方になるわけではなく、折り合いが悪いセットも多数存在する。逆に色違いで同盟や友好関係、不可侵条約を結んでいるところだってあるからな。


 昼と同じく、テリトリー内に侵入してきた見慣れない黒塗りの車は、道端で酒盛りしていた赤い服の数人のギャングスタに止められる。


「よう、おっさん! いい車だな! ここに何の用だ?」


 いくらかフレンドリーな対応ではあるが、歓迎されていないことは明らかだ。


「あー、ちょっとここのギャングスタに古い知り合いがいてな。近くに寄ったんで挨拶をしに来たんだ」


「ほう? 誰の知り合いだ?」


「本名は知らねぇんだ。スクウィッドって呼ばれてたOGなんだが」


「イカ野郎の知り合いだって!? 残念だが今は豚箱の中だぜ!」


 捕まっていて娑婆には不在か。まぁ、そういうこともあるよな。


「そうか……それは残念だな。ムショに行ってもいいんだが、同じ年代のOGは誰かいるか?」


 ムショに行くってのはおそらく嘘だな。時間を食いすぎる。そもそも、中にいる奴と話したところで、外の連中に連絡がいかなければあまり意味がない。

 後半が本意だろう。


「いるにはいるが、アンタら誰だよ?」


「ブラッズではあるな」


「どこの?」


「イーストL.A.だ」


「そりゃまた遠いところから来なすったな。まぁいい、適当に誰か呼んでくる。古いメンバーなら分かんだろ」


 警戒心を捨てるわけではないが、かなり話がスムーズだ。

 応対してくれた一人が外している間、周りのギャングスタたちはこちらに目を配りながらも酒盛りを再開した。


「こことはどんな因縁が?」


「さてな。殴り合いしたくらいじゃねぇか。死人は出してねぇはずだ」


 喧嘩程度、当時ならちょっとしたトラブルってレベルか。であればスミスのところよりは楽な仕事だな。

 それよりも、よくその程度の相手をメモしていたものだ。


……


「あぁん? 誰だ、お前ら?」


 呼びに行った奴に連れられ、三人ほどのOGらしき男たちがやってきた。全員が赤ら顔だ。どうにも、このセットは酒飲みばかりらしいな。


「なんだ、酔っぱらいなんか連れて来て。まぁいい。スクウィッドの古い知り合いだ」


「イカ野郎の? 奴なら捕まってるが」


「らしいな。何をしたんだ?」


「あ? 強盗と傷害、ついでに強姦だったか。会いに行くなら電話してやるぞ」


 なんというか、イカ野郎はセオリー通りの小悪党だな。しかし強姦がついてるのは頂けない。性犯罪者はナメられ易いので、ムショの中でイジメにでもあってなけりゃ良いが。


「いや、大丈夫だ。俺らはB.K.Bってんだが、遥か昔にここのセットと喧嘩になってな。今更わだかまりなんかないだろうが、近くを通ったんでツラを見に来たって話だ」


「B.K.Bだと? ん-、名前くらいは頭の片隅にあるが、そんなことあったか? 俺らも覚えてねぇな」


 三人が見合って頷く。覚えてないなら最早どうでもいいな。


「小さい喧嘩だからな。俺の方も曖昧なくらいだ。スクウィッドに会えねぇのは残念だったが、話はそれだけだ」


「そうか。せっかく来たんだ。てめぇが誰なのかも分からねぇが、飲んでくか?」


「いや、遠慮しておく。他にも行くところが目白押しでよ」


 去ろうとする俺たちに酒を勧めるも、サーガは断った。もうここに用はない。


「他? どんなところに行くつもりだ?」


「多すぎていちいち答えてやれねぇよ。ブラッズもクリップスもチカーノもお構いなしだ」


「クリップス? 近くに誰彼構わず襲ってるセットがあるんだが、そこも目的地に入ってんのか。殺されちまっても知らねぇぞ」


「入ってるかもな。だが、行かないわけにもいかねぇ」


 マジかよ。このご時世になんでそんなセットが存在出来てるんだ。いきなり撃たれるなんてのは勘弁なんだが。

 周りのセットや警察は何をやってる。


「そこまで言うなら勝手にしろ。一応は警告したからな」


「そりゃどうも」


 適当に礼を言ってあしらい、サーガは車を進めた。だが、この日はもうどこかに赴くことはなく、近くのモーテルを探してそこに停泊する。


……


「どうするつもりだよ、サーガ」


「あぁ? 何の話だ?」


 思っていたよりは清潔で綺麗な二人部屋に入り、ベッドに腰かけるサーガに問いかける。当然、危険なセットへの来訪の話だ。


「いきなり殺されるかも知れねぇって話さ。何か考えがあるんじゃないのか?」


「そうだな。なんとなくそういうところは空気で分かる。話せそうかどうか、そのシマに入った時点、最初に見かけた奴で判断するさ」


 難しそうであれば即時撤退、という意味であれば良さそうだが。


「それができるって? 今は信じるが……その判断の前に襲われる可能性だって高いだろう?」


「その時は終わりだな。俺らに運がなかったってだけだ」


 そんな綱渡りな気持ちで赴くのかよ。イカレてやがる。俺はそんなのに付き合わされるのは御免だ。


「それだとトップ二人を失って、誰が今後のB.K.Bを見るんだよ。危険だと言われるセットをさっきの連中から全部聞き出して、避けるべきじゃないのか。わざわざ襲われに行く意味はない。そいつらもB.K.Bに恨みが残ってるんじゃなく、ただ目の前の餌に群がるだけなんだろうしよ」


「気合いが足りねぇな。そういうのを潜り抜けるからこそ、男を磨ける。ボスにふさわしい男にな」


「昔の人間が好きな感情論は良いっての! 死んだら仲間が困るだろ!」


「感情的になってんのはどっちだって話だな。少し落ち着け」


 言われてみれば確かにそうかもしれないが、ここでサーガの意見に流されるわけにはいかない。


「だったら俺の納得のいく手段を講じてくれよ。今やろうとしてるのは命を懸けたギャンブルじゃねぇか。それも、回避できるのにわざわざ突っ込んでいこうとしてる」


「なら、そういったセットの情報を貰うだけは貰っておく。そうすれば進入する時に多少の心構えは出来るだろ。それ以上は無理だな」


 これはかなり大きい。


「そういうセットでの最初に見かけた奴には最大限の警戒と、撃たれそうなら即引き返す、という条件もつけてくれよ」


「引き返す? 撃ち返すの間違いじゃないのか?」


「そうやって過去に出来たしがらみを消していく旅じゃないのかよ?」


「それはその通りだ。だが撃たれたら、殺してずらかる。ここは譲れねぇな」


「……まったく。できるだけそうはしないように頼む」


 サーガも譲ってくれた部分はある。こればかりは俺が飲んでやるか。

 俺は銃なんて撃つつもりはないので、すべてサーガの出方次第だ。


……


 次の日の朝。モーテルを出て、その位置から最も近いというブラッズのテリトリーにやってきた。ここはメモ書きの中にあった敵対セットではない。

 まずは俺との約束通り、現在、近付くのが危険なセットを教えてもらうために立ち寄ったというわけだ。


「あー、と、全部で五か所ってところか。思ったよりは少ないな」


 新たにメモ書きのリストの中に、危険性を表す赤丸を加えたものを見ながらサーガが言う。


「五か所くらいなら無視したってかまわないぜ」


「馬鹿言え、全部当たるぞ。無視した中にC.O.Cみたいな火種があるのを見逃したくない」


 それは分かる。とはいえ、そんな誰彼構わず襲ってる馬鹿どもが、わざわざB.K.Bとの過去の因縁を覚えていてイーストロサンゼルスまで攻め寄せてくるとは考えづらいがな。もちろんゼロとは言い切れないが。


「やれやれ。少しでも短縮できるとありがたいんだが」


「五か所くらいでビービー言うな」


「数じゃなく、危険なセットだから言ってんだっての!」


 どうせ長旅をするなら、ロサンゼルスをぶらつくよりも、世界一周旅行にでも出たかったものだ。

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