表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
159/164

Last Step

「ぐっ……」


 リッキーが横向きに倒れた。三人からの掃射だ。避けれるはずもない。

 そういえば、ビッグ・カンが撃つのも珍しいな。


「……」


 そんなどうでもいいことを考えながら、俺も前のめりに倒れる。

 たった一発だったが、最後に当ててきやがったか。まぁいい。サーガじゃなく、俺の命なんてのは安いもんだ。


「クレイ! また食らったのか! 今回はとんだ貧乏くじだな!」


 おいおい、マイルズ。撃たれた兄弟分にかける言葉がそれかよ。そりゃないぜ。


「よし、誰かクレイを病院に連れて行ってやれ! ここからはプレジデント不在でも問題ねぇだろ! あとはサーガやらジャスティンに任せておこうぜ!」


 ビッグ・カンも俺を心配する様子はない。死にかけてんのに病院だって? もう間に合わないだろ。


「いや……最後くらい仲間の近くにいさせてくれ」


「は? 最後? 何で最後なんだ?」


 俺の希望を伝えるも、心底意味が分からないという表情でビッグ・カンが訊き返した。


「そりゃ……死ぬかもしれねぇからだろ」


「死ぬ? ぶはははははっ! おい、兄弟! クレイは肩を掠めた弾丸で死ぬってよ!」


「えぇ!? それは雑魚過ぎるぜ! もうちょっと強く生きろ!」


 肩? マジかよ。

 脚に腕に尻にと、いろんなところを撃たれすぎて、最後のリッキーの一発がどこに当たったのかも頭が理解していなかった。

 ただ漠然と、撃たれたので倒れた。おそらく致命傷だろう。と脳みそが思い込んでいただけのようだ。


 だったら話は変わってくる。


「そうか……だが、病院はまだいい。決着がつくまでここにいる」


「リッキーがくたばったんだし、ほとんど決着みたいなもんだけどなぁ。まぁそう言うならいいさ! 車内に座ってな!」


「お、おい……! はぁ……本当にさっさと行っちまうんだよな。手くらい貸せっての」


 マイルズとビッグ・カンは俺を放って、C.O.Cの残党狩りへと加わりに行った。別に構わないんだが、寂しいもんだ。


 痛む身体を起こし、ピックアップトラックの運転席に戻る。


「……」


 しかし……そうか。リッキーは死んだか。本当に? いや、この手で殺した。すぐそこに転がってる。もしや今回も替え玉か? もうそんな手品みたいな現象は起きやしないさ。


 だが、他の連中でC.O.Cを乗っ取る気の奴もいた。そいつらが逃げ、力を蓄え、反旗を翻して……いや、だからそれを今、叩き潰してる最中だろうが。


 身体の痛みと、スッキリしない気持ちでどうにも弱気になる。勝った。俺たちは勝ったんだ。そうだよな。


 ドン。ドン。ドンドン。


「んあ……?」


 目を閉じ、俺はまどろんでいた。そこに扉を叩く音。そんな事せずとも鍵は開いてるぞ。

 目を開くと、運転席側の窓に張り付く、血みどろの顔のリッキーがいた。ドンドンと窓を叩く度、そこに掌の血がべっとりと付く。


「はぁ!? リッキー!?」


 ホラーすぎるだろうが! そんなゾンビみたいなツラして何で生きてやがんだ!

 俺はドアを蹴り開けるように乱暴に扱い、運転席側に張り付いているゾンビを引きはがした。


「てめぇ! 往生際の悪い野郎だ! ぶっ殺してやる!」


「ふ……はは。心配すん、な。虫の息だ」


 空を仰ぎながら、リッキーが血と言葉を無理やり吐き出す。


「替え玉といい、ゾンビといい、お前は何なんだよ」


「何って……B.K.Bに、底知れぬ恨みを持つ人間だ」


「いい加減終わりだ。認めろ」


 車を降り、銃口を向ける。リッキーの銃は……少し離れた場所に落ちてるな。他に隠していなければ反撃の心配はなさそうだ。


「そうか……O.G.Nの逆転は?」


「ない。第三のお前が出てくるなんて言うなよ」


 何で問答なんかしてるのか。さっさと殺せばいいのにとは自分でも思う。


「は……地元にはまだメンバーだっている。完全決着にはまだ早い」


「時間の問題だ。てめぇが死ねば、もう瓦解するしかねぇよ」


「それまでにサーガが死ねばいいのさ。何なら……お前が殺して乗っ取っちまえ」


 馬鹿なことを。そもそも、既に俺はプレジデントだ。


 だが、俺は敢えて頷いた。


「そうだな。そうさせてもらうかもしれねぇ。これで満足か、死に損ない」


「あぁ、地獄で待ってるぜ……やれ」


 結局、コイツはサーガ、あるいはメイソンさんでも良かったのかもしれないが、昔のB.K.Bを引っ張ってきた男たちに人生を狂わされた。

 その点においてはこっちが悪かったのかもしれないな。


 パァンッ!


……


「あらかた、全滅させた。十人ほど投降した奴がいるから、それはリング内に集めてる」


 ジャスティンからの簡易的な報告。そいつらの対処は任せ、俺は一足先に病院に運ばれることとなる。

 辺り一面、B.K.BとC.O.Cの亡骸だらけだ。双方合わせれば、百名近い男たちが死んだと思われる。怪我人はその倍だな。


 病院に向かう車の車内。付き添いで同乗してくれていたのはビリー、そして俺と同じく怪我の酷いメイソンさんだ。車のハンドルは最も軽傷のビリーが握っている。


「俺は見てねぇが、リッキーにトドメさしたのはお前なんだってな、クレイ?」


「あぁ。死んだと思ったら生き返って、恨み言を残していきやがった。どこまでも驚かせてくれる奴だったよ」


「恨み言?」


「サーガを殺れってさ」


 はは、と乾いた笑いが二人から返ってくる。


「もはや、なりふり構わずって様子だな。クレイにサーガの殺害依頼って、同士討ちしろって話じゃねぇか。そんなに恨まれるのも珍しい。当時のB.K.Bはそこまでに滅茶苦茶やってたのか?」


 ビリーが、当時を知るメイソンさんに訊く。


「そうだねぇ……敵が多かったのは事実だよ。あの時代は今より命が軽かった。どこかしこでいろんなセットと揉めて、そのたびに殺して。地元を追い出された俺たちは、行き場がなくて転々としてたしね。それに巻き込まれた連中が多いってことだね」


「その巻き込まれた過去から、B.K.Bに恨みがあるって話か。良くもそんな昔の事を今まで引きずってきたもんだな」


 何度も聞いた話ではあるが、やはり俺もビリーと同じ意見だな。逆の立場だったとしても、今は大人しくしているB.K.Bをわざわざつついて敵対しようなんて微塵も思わない。


「クレイ、お前が動けない間にC.O.Cの残党は潰しておく。何か指示があれば聞いておくぜ」


「そうだな……リッキーに取って代わろうとしてた奴は殺していいが、他の奴らは無害そうであればシカトしてやれ」


「甘い気もするが、お前がそう言うなら従うぜ」


 どうも、C.O.Cは結束力に欠けている印象がある。金欲しさ、力欲しさに集まった連中って感じだ。それが叶わなければ簡単に瓦解する。

 リッキーにカリスマ性がなかったのではない。仲間意識が育まれる仕組みができていなかった。


 そもそもが、復讐を理由に集まった連中だ。地元の仲間と幸せに暮らしていきたいと願うのとは180度異なる。

 味方同士でも仲間ではなく、敵ではないくらいの存在という認識だろうか。いや、それすらもさっきのリッキーの死を望んだ連中の存在から怪しいものだ。


「でも、そんなのどうやって見分けるんだい?」


「さぁ……? 現場の勘に任せるしかないな」


「なんだそりゃ。無責任だねぇ、クレイは。まぁいいさ。ガイがうまくやってくれるだろうよ」


 サーガが残党の処理をどう判断するのかは見ものだな。


……


 俺が病院にかかり、三日が経った。俺自身としては入院なんか必要ないと思っていたのだが、腰下あたりの銃創が割と大ごとだったらしい。

 俺の病室は個室で入院生活は穏やかで快適だ。ただし、日中は毎日毎日、入れ代わり立ち代わりでにぎやかな連中が尋ねてくるが。静かになる夜が待ち遠しいぜ。


 ベッドの目の前に据え付けられた椅子には腕を組むサーガが座っていた。さすがにこの時ばかりは全員が席を外してくれている。


「奴らの残党だが、意図的に殺さなかったのは百名ってところだ。こいつらは特にB.K.BにもC.O.Cにも思い入れがなさそうだったんでな」


「裏を返せば他は皆殺しか。かなりの人数だな」


「あんなの大した量じゃねぇ。これにて一件落着だな。それと、コイツは提案だが、過去にB.K.Bが……つまり俺たちの時代の連中が暴れてた場所にある、現在のギャングセットは回った方がいいかもな」


 菓子折りもって挨拶に伺う営業マンかよ。だが、それがいいだろうな。現状そこにいるセットと交流を持つことで、過去のしがらみを解いてやるわけだ。


 ただ、リッキーみたいに昔話を根に持って生きてるような、心底執念深い野郎はそうそういないと思うが。


「……わかったよ」


「俺か、コリーが付き添う。いや……俺で良いな。アイツはもう関係ない」


「アンタだって引退してるんだから厳密には関係ないがな。場所さえ書き記しておいてくれれば、俺とジャスティンあたりで回るぞ」


「遠慮するな。俺も自分たちの時代の尻ぬぐいがしたいだけだ。今回の件、一番関係ないのはお前たちなんだからな」


 それでも現役のB.K.Bなんだから俺らの問題だとは思うが。しかし、ここは先達の意見に譲ろう。


「了解した。病院から追い出されたらすぐに向かうさ。それまでに計画を頼むよ」


「全治一週間だったか。気にせずゆっくりしていろ」


「連日こうも大盛況じゃ、ゆっくりできないんだけどな。夜だけを楽しみに生きてる」


「はっ、閑古鳥が鳴いてるよりはマシだ。プレジデントの見舞いに誰も来ないんじゃ、この先立ち直れなくなるくらい寂しいだろうが」


 俺の小言に、仏頂面でマジな回答してくるなっての。

 あぁ、そうだよ。騒がしいのは嫌いだが、誰も来なけりゃ寂しいだろうさ……! だなんて、構ってほしいガキみたいで、口が裂けても言えないな。


「来るのは嬉しいさ。でも少しは静かにしてくれると助かるんだけどな」


「もっと騒ぐように言っておく。さっさと追い出されるようにな」


 さっきの気遣いはどこへやら。ひどい男だ。


……


 それからさらに数日が経った。追い出されるという表現が似つかわしくない程、丁重に退院を促される。

 なんなら、いたければいつまでもいて良いと言ったような対応だった。そんなに心配されるような怪我じゃないんだがな。


 ただ、これは医者が仕掛ける罠だ。結局は病院だって慈善団体じゃないんだからな。俺がギャングのトップだと知って受け入れているせいか、いくらでも稼げると踏んだのかもしれない。

 さすが、ゴロツキを受け入れる医者は気合いの入り方も違う。あくまで善意を装えば、どれだけ大金を受け取ってもこっちの恨みを買わないんだからな。


「ん?」


 病院を出ると、メンバーたちの大それた出迎えはなどなく、ポツンと一台のキャデラックが止まっていた。サーガだ。

 そうだった。早速仕事があるんだったな。


「服くらい選ばせてほしいもんだぜ。着の身着のままだぞ」


「あぁ? スーツでも来ていくつもりか。そのまま行くぞ。乗れ」


「あんたは着てるじゃねぇか」


「そりゃあ、俺は準備したからな」


 そういうサーガはしっかりとグレーのズートスーツにハット。さながら老舗マフィアのドン。俺の方は取り巻きのチンピラだぜ。一応、B.K.Bの現在のプレジデントは俺だよな?


 まったく、くたびれたシャツにワークパンツじゃビシッと出来ないんだがな。病院にいたせいでアイロンすらも当てれてない。とはいえ、それは許されないという事らしい。


 見せかけの善意だとしても、医者の優しさが早くも恋しくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ