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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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3rd Step

「調子に乗るなよ、B.K.B!」


「腰抜けはそっちの方だろうが! さっさと死ね!」


 ヒートアップするC.O.Cのギャラリーたち。そろそろ馬鹿がゴミでも投げ入れそうだが、まだ感情を抑えられてるか。


「楽勝だと思ったんだが、いよいよ見えなくなってきたな」


「そうでもない。俺は問題なくジャスティンが勝つと見てる。あと一手だな」


 俺の感想に、サーガが返した。

 この状況で問題ないとは、少々楽観的過ぎやしないか。特段有利でもない気がするが。


「どっちも頑張れ! 気合い見せろ!」


「おい、カン! だから、ジャスティンを応援しろって!」


「おう! 勝つのはジャスティンで良いけどよ! もっと盛り上げろって言ってんだよ!」


 その隣では言い争うビッグ・カンとビリー。


「来い! とどめを刺してやるぜ!」


 ジャスティンがここで詰めるのではなく、グレッグを待ち構える挑発を放った。これの狙いは何だろうか。


「クソが! くたばれ!」


 当然、グレッグは得意の中距離から長い手足でのラッシュを仕掛ける。しばらくはジャスティンは下がりながら捌くだろうが、それも端まで追い込まれれば打ち止めだ。


「何を狙ってやがる? わざわざ苦手な戦いをして負け札を引きてぇのか、ジャスティンは」


 こればかりはサーガも疑問に思ったようで、なぜ詰めて一気に終わらせないのかとヤキモキしている様子だ。


「そんなはずはない。アイツだって切れ者なんだ。何か考えがある」


「頭で戦ってるわけじゃねぇんだぞ。チャンスくらい全力で突っ込めばいいものを」


「それはそうだが……アンタが言うに、あと一手なんだろ? 必ずものにするさ、ジャスティンはな」


 サーガは確信していた勝ちを即座に取りにいかないジャスティンにご不満だ。

 しかし、やはりやってくれた。


 グレッグの伸びてきた腕を払い、さらに下段から振り抜かれてくる脚を踏みつけて止める。

 あえて得意な攻撃をさせておいて、なぜそれを見切れたのか。単純だ。


 既にさっき見ていたからである。そして何が飛んでくるのかが分かっていれば、いかにグレッグの得意技でも対応はできた。


「終わりにするぞ」


「ぐぁ!」


 そして、ジャスティンはグレッグの脚をさらに強く踏みつけて回避の反応を遅らせながら急接近。メインディッシュだ。

 また頭突きが来るという強い予感があってか、グレッグは顔を逸らしながらそこを守るために両手をクロスさせる。


 だが、ジャスティンは今まで擦りに擦ってきた頭突きはしなかった。ゼロ距離まで近付いたのは同じなのだが、そこで背を向けながらグレッグの片腕を取る。

 そして、片足を引っかけるように相手の股下に入れた。

 この動きは……?


「マジか。そう来たかよ」


 俺たちの一団の中で、ひときわ早くビリーがそう反応した。他の連中は俺も含めてジャスティンの真意が見えていない。


「あれは……?」


「背負い投げだろ。柔道だったか相撲だったか? 何であんな真似をしてんだか」


 俺の質問にビリーが答えた瞬間。


「おらぁぁぁっ!!!」


「なっ!? 投げだと!? ふざけ……がはっ!!!」


 リング上のジャスティンは一気に力を込め、グレッグを背負い、背中から地面に投げ落とした。


 これでもかと続けてきた頭突きは顔を背けてガードさせるためのブラフ。最後は投げで決めるつもりだったのだろうか。


「か……は……!」


「おらっ!」


 そして受け身など取れるはずもなく、背中を強打したグレッグの肺の中の息がすべて掻き出される。

 試合であればここから組み伏せたり、馬乗りで殴ったりするのかもしれないが、ジャスティンは容赦なくグレッグの鼻っ面を靴で踏みつけた。


 ダウン。


 がくりと全身の力が抜け、気絶したのは明らか。誰の目から見ても完全にグレッグはノックアウトである。

 反則を誘うなんて話もどこへやら。ジャスティンが本当にやりやがった。


「っしゃぁ! 一本取ったな! ジャスティン!」


 まずはビリーがそう声をかけ、徐々にB.K.Bサイドの連中に歓声が波及していった。


「ジャスティンの勝ち! B.K.Bの勝ちだ!!!」


 俺が宣言すると、ブーイングを添えて大量の空き缶などがC.O.Cサイドからリングに投げ入れられた。

 もう負けたのだから反則負けなど関係ないので、せめてもの嫌がらせか。

 そいつら全員つまみ出してもいいが、まぁいいだろう。


 そのゴミを両手を大きく広げて、まるで恵みの雨のようにジャスティンが満面の笑みでその身に受けている。


「ははは! なにやってんだ、あいつ!」


 ときどき、缶が頭に当たって痛そうだが動じない。気持ちの良い勝利を手に入れた彼は無敵状態だ。

 ただし、空き瓶が当たったら倒れてしまうはずなので、俺がリングインしてジャスティンを助け出す。


 ちなみに倒れているグレッグにも当たっている。なんでそっちへの配慮はしないんだよ、あいつらは? 倒れた味方は見捨てるってか。


「おい! お前ら、それを片付けろ! 次の試合が遅れるだけだぞ、リッキー!」


 俺はグレッグの救出と、リングの掃除をC.O.Cサイドに命じて、ジャスティンの身体の具合を見た。

 怪我はしているが問題なさそうだな。


「よくやってくれた、ジャスティン。次にビリーが勝って、この喧嘩は終いだぜ」


 これで二対一、あと一勝となる。


「へっへっへ。まさかビデオゲームの戦法が役立つとはな」


「トドメの投げか? 本当にまさかの攻撃だったが、ゲームのネタかよ」


 まったく、土壇場で使うにはふざけた元ネタだが、上手くいったので良しとしよう。


「ジャスティン、俺からも祝福を。いい試合だったぜ!」


「おう。ありがとな、ホーミー」


 次の選手、ビリーからジャスティンが抱擁を受ける。


……


 数分ほどあったが、リッキーの指示を受けてようやくC.O.Cたちのゴミ掃除が始まっているところだ。

 まだしばらく時間には余裕がありそうだな。


「ビリー、お前の試合で決めてくれ。俺のことは良いから、遠慮するなよ」


「はは、最初からそのつもりだぜ。確かにクレイの言う通り、最終戦までもつれ込ませるのが盛り上がるとは思うが、俺の試合で決着させてやる」


「そんなこと言ってないだろう。敗北するみたいなセリフ言いやがって」


 盛り上がるなんて馬鹿みたいな理由で、こっちにお鉢を回すのは勘弁してほしい。

 だが、俺の試合があろうがなかろうが、決着後はC.O.Cと乱戦になる準備は必要だ。特に反則負けなど、つまらない結末だった場合はその可能性も跳ね上がる。


「あちらさん、おそらく最終戦はリッキー本人のご登場だろ? 気にならないって言えば嘘になるぜ」


「気にするなそんなもん。前以って言ってるが、どうせ奴らは負けた瞬間に暴れ出す。リッキーだって黙って首を取らせちゃくれないはずだ。どっちにしろアイツは死ぬ気で抵抗してくるさ」


「文字通り、負ければ死ぬんだもんな。決死の覚悟で最後っ屁をひり出すか」


 ビリーのたとえは汚いが、正にその通りだ。奴の往生際が悪いのは目に見えている。最悪、味方には戦わせておいて自身だけはトンズラなんてのもあり得るかもしれない。

 そうなると、この試合は全くの無意味となる。本拠地に帰って全勢力を率いての戦争となってしまう。


「リッキーは絶対に逃がさない。奴が生きて帰れるのは俺らが負けた時だけだ」


「サーガを殺らせるわけにもいかねぇしな。ま、俺の試合で最後だからよ。全員に喧嘩の準備はやらせておいていいぜ」


「もちろんだ。頼りにしてる」


 そろそろリング内の掃除が終わるところだ。

 掃除といっても、指示を受けたC.O.Cのメンバーがふてくされたように空き缶やゴミ袋をリング外に蹴り出しているだけだが。

 缶や瓶からこぼれ出た水や酒が地面のところどころを濡らしているが、拭きとれるものでもない。しかし土が滑りやすくなっているかと言われればそうでもないので捨て置く。


「サーガ、いけそうだな」


「鼻から負ける気はしてねぇよ。ただ、どうせ大喧嘩になる。コリーは車にでも乗せておいた方がいいかもな」


 メイソンさんはまだ眠っている。確かに乱闘が起きればその身に危険が及ぶな。


 車にいても安全とは言えないが、俺は手の空いているメンバーに彼の移動を頼んだ。ビリーの試合が終わって乱闘になってからでは遅いので、サーガが先に言ってくれてよかった。

 自身の首の心配はそっちのけでよく味方の状況が見えているな。俺も彼には未だに見習うべき点ばかりで恥ずかしい限りだ。


「ビリーの相手はどんな奴かねぇ! お前だって腕自慢なんだろ! パワー系の奴が出てきてくれねぇかな! おっ、あいつなんか強そうだ!」


 ビッグ・カンが心底楽しそうにC.O.Cメンバーを見回しながら対戦相手を吟味している。


「へっ、誰が来たって結果は同じ。俺の圧勝よ。ぶっかけ合うシャンパンの準備は済ませておけよな」


「ビールならたくさんあるからかけてやる! な、マイルズ!」


「かけねぇ! 全部飲む!」


「んだよ、ノリ悪いな!」


 マイルズは酒好きなので、かけ合うよりも飲む方を選択したいようだ。


「どうせまたあちらさんは時間がかかるだろうしよぉ、前祝に一杯やっとくか。ビリーも一緒に」


「やめとけ。ビリーに酔拳でも使わせる気か。ほら、ジャスティン。お前なら飲んでもいいんじゃねぇか」


 マイルズがそのまま悪ノリでビリーにビール瓶を渡そうとするが、俺が制止して取り上げ、それをジャスティンに渡した。


「はぁ? 確かに俺の試合は終わったが、決着後の大喧嘩の話はどこへやら。ま、いただくけどさ」


「それを言うならマイルズはもう、手遅れなくらい出来上がってるからな。少しくらい楽しめ」


「余裕余裕! 出来上がってなんかないっての!」


 酔っぱらいは大抵そう言うんだよ。


……


 今回のC.O.Cサイドの選手の選定は、これまでで最も時間がかかっていた。

 こちらがまだビリーをリングに入れていないせいというよりも、負けにリーチが懸かっているので慎重にならざるを得ないというところか。

 期待していたはずのグレッグも倒されてしまい、強いだけでなく冷静に勝ちを求めに行ける奴を選びかねているに違いない。


 C.O.Cの面子を見るに、やはりチーム一丸というよりは自分の事だけを考えている奴が多い気がする。それが俺たちとの違いだろう。

 大事な喧嘩で賭けなんかもやってるしな。


「リッキーの周りに人だかりができてんな。あーでもない、こーでもないって揉めてるみたいだ」


 ビリーが言う。


「この試合が最も悩みどころだからな。いっそ、リッキー本人が出てくりゃいいのによ」


 そう返したのはジャスティンだ。


「どうだろうな」


「おい、クレイ。リッキーがここで出てくるかどうかは、自分の試合の相手に直結するだろうに」


「ビリーが勝つ。だから関係ねぇって話さ」


「聞こえは良いがよぉ」


 リッキーが出てくるかどうかは五分五分ってところだな。仮にこの試合であっちが勝っても、C.O.C目線では最終戦でまた勝たなければならない。

 リーダーが重い腰を上げるとしたらそっちの試合だろう。


 つまり、そうなった場合は俺がリッキーとやり合うわけだ。奴が強いかどうかはさておき、あんないけ好かない男が相手なのは憂鬱だぜ。

 ビリーよ、勝ってくれ。


 それとも、最終戦すらビビって手下の強い奴に任せるだろうか。それもそれで嫌だけどな。

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