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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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2nd Battle

 初手を避けたメイソンさんが、低い姿勢で突っ込む。

 そのままフックやアッパーでも突き出してくるかと思われる動きだが……


「おらっ! これでどうだ!」


「なっ!!!?」


 さらに姿勢を低く低く下げ、足払いのようなまさかの最下段での回し蹴りを放った。

 マイケルの方もそんな攻撃が返ってくるとは思っておらず、くるぶし辺りにヒット。そのまま足を取られて派手に転んだ。


「おぉ!!!」


「なんだありゃ! 格闘ゲームの試合でも見てるみたいだぜ!」


 わぁっと沸くB.K.B陣営。俺も同じだ。

 格闘の試合どころか、まるでビデオゲームを見せられているかのような鮮やかな攻撃だった。


「まだまだぁ!」


 本来であれば上に乗るなりしてマウントを取り、パンチでも浴びせそうな状況。


 しかし、メイソンさんはそうはせず、さらに腹や腕、脚や頭などにローキックを加える。

 あくまでも取っ組み合うような攻め方はしないらしい。力任せに掴まれて反撃にあわないよう、一定の位置からすぐにマイケルの反撃へ反応できるようにしているわけだ。


 じわじわと攻められているマイケル。このまま試合が終了してもおかしくなかったが、メイソンさんの蹴りを一つ、右腕ではじき返す。

 それに反応したメイソンさんが一歩下がると、その隙にサッと立ち上がった。


 今度はC.O.C陣営から喝采が上がる。


「ふん! 油断しただけだ! そんな非力な蹴りなんざ、何発食らっても屁でもねぇ!」


「そりゃよかった! 俺はこのままお前が死んじゃうんじゃないかと心配してたんだよ!」


 マイケルの言葉は嘘ではないだろう。だが、どれだけダメージが薄いと言っても全くの無傷とは違う。

 この初手の攻防が後々響いてくるはずだ。


 お次は鋭いマイケルのパンチが飛ぶ。が、距離が遠いのでメイソンさんはまた下がってそれをいとも簡単に躱す。


「なんだ? 下がってばかりでこっちの攻撃は受けもしねぇ! このままリング端まで追い詰めてやろうか!」


「嫌だよ! 避けれる距離でわざわざ受けるわけないだろ! ガードだってちょっと痛いんじゃんか!」


「腰抜けが!」


 ブンッ、ブンッ、と風を切る音が聞こえる素早いパンチが連続で繰り出される。そのどれをも、メイソンさんは後ろへ後ろへと避け続け、マイケルが言ったようにリングのロープ際まで追い詰められた。


「ほらほら! どうすんだ! もう後ろはねぇぞ!」


「マジだ! こーりゃ困った……なっ!」


「むっ!?」


 メイソンさんはあろうことか、ロープに手をついて素早くその上に乗ると、今度は足を踏ん張って、ロープの弾力を利用しながら大きく跳躍。一気にマイケルの背後へと回った。

 繰り返しになるが、まるでビデオゲームの一幕だ。あるいはプロレスのパフォーマンスか? ともかく、人ってのはあんなに高く飛べるものなんだな。


「ほらよっ!」


 がら空きになっていたマイケルの背中へ、メイソンさんの蹴りが入る。

 ただこれは、攻撃というよりは押したような形でしかなく、またもマイケルはバランスを崩されて転びそうになり、正面にあるロープにもたれかかった。


「また効きもしねぇ、ヘボい攻撃してきやがって! そんなんで俺をやれると思ってんのか!」


 振り返り、ロープを背にしたマイケルが吠える。


「そのヘボい攻撃に翻弄されてんのはどこの誰だい? 簡単に転ぶし、簡単に背中を取られるし、簡単にロープにしがみついてさ。体幹が弱すぎるんじゃない?」


「はっ! お前が奇をてらった技ばかり見せてくるから、それに面食らってるだけだ! お遊びに本気なんか出せやしねぇ!」


「んじゃあ、本気にならず、油断したまま死ねよ」


 メイソンさんがフッ、と姿勢を落として突進。跳躍したり屈んだり、上下の空間を大きく使った嫌らしい戦い方だ。


「甘い!」


 突き出された手刀を、マイケルは両手をクロスさせたガードで防ぐ。


 しかしさらに、メイソンさんはほとんど寝そべっているような、極限まで低い体勢へと変化させたスライディング。

 威力は高くないかもしれないが、突きからの素早い二段構えの攻撃だ。


 そして、両足をマイケルの左脚にかけて引き倒した。


「チィッ!!! またかよ!」


「お前の好きなお遊びだよ。またコケるのを楽しめて良かったな!」


 そして倒れたマイケルの腹や顔を蹴り、自身は先に立ち上がって距離を離す。なるほど、こうやって消耗を狙うか。

 後に控えるジャスティン辺りも使えそうな戦法だな。


「いつになったら正々堂々と……ぬっ?」


 片膝立ちで体を起こそうとしたマイケルが、一瞬だけグラつく。既にメイソンさんが加えた手数の攻撃が、毒のように回り始めているか?


「正々堂々だって? ナイフを持っていた奴の口から、そんな言葉が聞けるとは驚きだね」


「あれは護身用だ。使うつもりなんてハナからなかった。お前も分かっているはずだぜ。正面からやり合わないのは、それをやると勝てねぇと思ってるからだろ!」


「ご意見があればお好きにどうぞ。でも、俺は耳を貸さないよ。勝ち方に華々しさを求めるって話なら、全く興味はないんでね」


「だせぇ野郎だ! 死ね!」


 マイケルがさらに蹴りとパンチのラッシュ。グラついていたのが嘘かのように激しい攻撃だ。

 メイソンさんも下がるが、すべて避けるのは難しく、多少は腕で受けてしまう。


 直撃ではないが、この試合では初めて、メイソンさんがマイケルの攻撃に当たったことになる。

 そして、その威力は想像以上だったようで、防ぎながらもメイソンさんが歯を食いしばっていることから、かなりの衝撃を持っているらしい。


「ひゃー、あの攻撃を受けるか! 結構いたそーだな!」


 マイルズが代弁してくれた。酔っている割にはちゃんと試合を細かいところまで見ている。


「平気だろうぜ! 急所には当たってねぇ!」


 今や選手ではなく、うるさい客の一員となっているビッグ・カンが言った。

 あれはどう見ても平気ではない。自分だったらと置き換えて楽観視しすぎだ。猛者や強者のみが持つ、あるあるだな。


 かといって、メイソンさんは弱者か? 答えは否だ。

 確かに攻撃を受けたのは痛手。では、受けなければいいのだ。


「チッ! 痛いなぁ!」


 距離を取り続け、今度は反対側のロープ際まで追い詰められるメイソンさん。やはりそれに手をかけ、よじ登る仕草を見せた。

 またダイナミックなジャンプが見れるかと会場の期待が高まる。


「はっ! それを俺が許すと思うか!」


 ロープにかける足を取ろうとでも思ったのか、マイケルが攻撃をやめて突進してきた。

 メイソンさんは行動をキャンセルし、姿勢低くそれを迎え撃つ。


「なっ!」


 飛ぶものだと思っていたマイケルは腰上ばかりに気を取られていたのか、突如として視界の下へと消えたメイソンさんに一瞬だけ反応が遅れる。思い込みというのは怖いものだ。


 上から来ると考えていた敵が、下から来る。


 ゴッ!!


 低い姿勢から、カポエイラのように蹴り上げる攻撃。それがマイケルの横腹に刺さった。メイソンさんの攻撃の威力よりも、自身の突進の反動がダメージとして完全に裏目に出る。


「あっ……! がっ……!」


「予想外だったかい? そら、もういっちょ!」


 さらに逆の脚へと入れ替えるつま先蹴り。あくまでも接近は最小限に留めれるよう、攻撃には手よりは脚を使っている。

 とはいえ低くした自身の身体を支えているのは両手なので、この体勢からパンチというのも無理だが。


「ぐぉぉ……クソがぁ……!」


 そして、二度の攻撃を受けたマイケルは腹を押さえながら後ろへと、たたらを踏んだ。ダメージを受けたプロレスラー並みに良いリアクションだ。

 こればかりはチャンスと踏んだのか、メイソンさんは接近してさらに蹴りを放った。姿勢は低い状態から直立に戻し、中段への蹴りだ。


「まだまだいくぞ!!」


「ぐぅっ!」


 しかしこれは奇をてらった攻撃とはならず、マイケルは難なくガードする。そしてさらに、その脚を掴んだ。


「あ、しまった。やりすぎたか」


 メイソンさんの後悔の念が聞こえたが、マイケルは掴んだその脚を大きく振り、メイソンさんを投げ飛ばした。

 受け身も取れず、背中からメイソンさんが地面にたたきつけられる。


「ふぅ……! どんなもんだ!」


「大した、馬鹿力だね」


 背中の土を払いながら立ち上がり、構える。マイケルも少しずつ息が整い、それに相対する。互いの蓄積ダメージを除けば、戦いは振出しといったところか。


「ん-、あれはどっちが有利なんだ? おい、誰かわかる?」


「俺もわかんね!」


 ビリーが訊き、赤ら顔のマイルズが答える。


「どちらかといえばコリーが優勢ではあるな。油断はできねぇが」


 これはサーガの解答。ダウンを取った回数でいえばメイソンさんの勝ちだ。しかしそれも簡単にひっくり返る。


 余裕の勝利を確信していた俺にとっても、この試合展開は意外だった。

 マイケルとかいうおっさん。武器を持ち込んでズルしようとしてた割には、案外やる。


「追撃チャンスをものにできてないのは、マイケルが疲れてる証拠だ。もう少し遊んでやれば勝手に動けなくなる」


 サーガの解説に俺が質問を重ねる。


「メイソンさんのスタミナは? 疲れは見えないよな」


「あいつの場合はそれよりもダメージに気を払う必要があるな。これ以上攻撃を受けない方がいい」


 そうなのか。互いに気を配る部分が異なるわけだ。マイケルは疲れに。メイソンさんは怪我に。


「相手は疲れてるぞー! そのまま行けば勝てるぜ!」


 そのサーガの話が聞こえていたのかどうかはさておき、マイルズが中々に的確な声援を飛ばす。


 メイソンさん自身もそれは重々承知しているようで、軽く右手を挙げてそれに答えた。

 そしてやはり、C.O.Cの陣営からも声が出る。


「短期決戦で叩き潰しちまえ、マイケル! 相手はかなり食らってるぞ!」


「そうだ! 力でねじ伏せろ、おっさん!」


 マイケルもまた、それは理解しており、味方に向けて大きく頷いた。


 こうなれば次の展開は少しだけ読める。まずはマイケルが掴みかかるか殴るために突進、そしてそれをメイソンさんがひらりと受け流す映像だ。まさにその通りになった。


「うぉらぁぁぁぁっ!!!」


「わわっ! あっぶねぇ! スペインの闘牛士になった気分だよ!」


「おい! 避けてねぇでこのパンチを受けやがれ!!!」


「嫌だっての!」


 さらに突進。さらに回避。また突進。また回避。


 この調子ならメイソンさんに有利か? あの老いぼれた闘牛が先に疲れ果てそうな気がするが。

 熊に、牛にと、バラエティに富んだアニマル陣営だな、C.O.C側の選手は。


「はぁ! クソが! いつまでも遊んでやがるな!」


 少し息が切れてきたか。マイケルが突進をやめて静止する。


「真剣も真剣だよ。こう見えて俺だってお前を倒す算段をつけてるところなんだから」


「ふん! 仮に俺がばてたところで、てめぇの貧弱な攻撃じゃ倒れねぇがな」


「じゃあ、心置きなく疲れるまでやってみろよ。最後はデコピンで殺してやるからさ」


 止まっている間でさえ、永遠に舌戦での殴り合いか。血気盛んなおっさんたちだ。

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