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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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1st Battle

「うぉぉぉぉっ!!!」


「おらぁぁぁっ!!!」


 二体の巨獣が突進、体当たり、そして両手の指をしっかりと合わせて力比べ。

 しかし互いに退かず、そのまま手ではなく体へと腕を回し、がっぷり四つの状態になった。

 レスリングか、相撲でも見ている感覚だ。


「何でどっちも殴らねぇんだよ?」


 そう思ったが、なるほど。二人とも純粋な力比べがしてぇのか。

 今まですべてをなぎ倒してきた怪物が、ついに力の均衡する好敵手を見つけたってところか?


「おおおっ! こりゃ一試合目から面白い展開だな!」


 マイルズが酒をあおりながら大はしゃぎしている。スポーツとして見るには最高なんだろうが、人の命が懸かってるんだぞ。

 俺としては楽しむのではなく、どうしても勝利が欲しい。


「おい、カン! さっさとほどいてぶっ飛ばせ!」


「いや、せっかく掴んでんだ! そのままぶん投げろ!」


 ビリーとジャスティンがそれぞれ違う指示を出す。意見は違えど、どちらも試合を楽しむのではなく、勝利を待ちわびているといった様子だ。


 他に、メイソンさんはにこにこと笑顔で楽しそうに試合運びを見ていて、サーガは仏頂面で片眼を閉じ、睨みつけるように黙って見守っている。ここのOG二人も対照的だな。


 相手のグリズリーが、ビッグ・カンの足を引っかけて転倒させた。力比べではどうにもならないとみて、技量で勝負を仕掛けてきた形だ。

 ドシン、と大きな音を立ててカンが地面に背中をつく。グリズリーは当然、それに馬乗りの状態だ。


 そこから絞め技ではなく、打撃戦となった。


 上から振り下ろされたグリズリーの拳が、ビッグ・カンの頬にヒット。下からだが、カンも反撃する。体勢を立て直そうとすらせず、寝たままでだ。

 やはり振り下ろされたグリズリーの攻撃に比べると、ビッグ・カンの攻撃力は乏しい。


「おい! 力比べだろうが、クマ野郎! 何やってんだ、てめぇ!」


「そうだぜ! 脚なんか引っかけやがってよ! 柔道の真似事かよ!」


 B.K.B側からヤジが飛ぶ。

 だが、グリズリーは気にする様子もなくビッグ・カンの顔を殴り続けた。何発もクリーンヒットを受け、カンは口や鼻から派手に出血している。


「カン! いつまでやられっぱなしでいやがる! やり返せ!」


 不利の態勢になっていて簡単に覆すのは難しい。だが俺は思わずそう叫んでいた。


 ニヤリ、とカンが笑ったように見えた。

 マジか、マゾっ気のある奴だったのかよ。なんて馬鹿なことを考えていると、カンはグリズリーのパンチを手で止めた。


「んだよ! どんなもんかと食らい続けてみりゃ、これなら本物のグリズリーとやり合ってる方が何倍も楽しいぜ!」


 ミシッ、という幻聴が聞こえた気がした。


「あぁぁぁぁっ!!! クソが! 放しやがれ!!!」


 カンに掴まれたのはグリズリーの右手だが、その拳が潰されているのか?


 一方的に攻撃していたはずのグリズリーが、必死で腕を振りほどこうと、カンの上から退こうとしている。

 だが、拳を潰すというのも周りからは見辛く、誰もが何が起きているのかを理解できない。


「なんだなんだ? グリズリーの手を折ったのか?」


「拳の骨を潰してんじゃね?」


 横にいるビリーと、マイルズがそんな会話をしている。


「いやいや、まさかそこまでの握力が? 拳を潰すって化け物だぜ!」


「見ての通り、あの豚野郎は化け物だからなぁ」


 マイルズがどさくさに紛れてビッグ・カンの悪口を滑り込ませているが、それよりも試合に集中だ。


 グリズリーが、空いている左手で無理やりビッグ・カンの手を引きはがし、距離を取ることに成功。

 右手は、ぱっと見ではなんの変化もないが、やはり潰されたのか、握り拳ではなく、だらんと開かれている。


「クソがよぉ! ぶっ殺してやる!」


「あぁ? 痛くてキレてんのか? 最初からそのつもりで来いよ!」


 カンもようやく立ち上がり、鼻と口の血を手の甲で拭いながらグリズリーを挑発した。


「クソがぁっ!!!」


 痛みで思考が停止しているのか、いとも簡単にグリズリーが頭に血を登らせる。

 使えなくなった右手は降ろしたまま、左手で握り拳が繰り出された。


「来い! てめぇの力を見せてみろよ!」


 ビッグ・カンは防ぎも避けもせず、あえて顔面でそれを受けた。さすがに馬乗りの時よりも加速している分の衝撃があったようで、カンは吹き飛ばされてたたらを踏んだ。


 鼻血がドバドバと零れ落ち、吐いた唾も真っ赤に染まっている。


「ってぇ……! おぉし! 中々いいのを貰ったぜ!」


 何をやってるんだか。あんまり遊んでると血を出しすぎてぶっ倒れちまうぞ。


 そこへ休ませまいとグリズリーからの次の攻撃。同じく左腕から繰り出されるストレートだ。


 さすがにそろそろ防いでもいいだろうに、カンはまたそれを正面から受ける。しかし今回はピクリとも動かず、グリズリーの拳がカンの頬に当たったままで静止した。


 カンがニヤリと笑う。これは誰の目にもはっきりと見えたはずだ。


「どうした? 勢いが弱くなっちゃいねぇか?」


 お返しだと言わんばかりにカンの大きな拳がグリズリーの顔を捉える。

 一度目にカンが吹き飛ばされたように、グリズリーは大きく後ろへと強制的にはじき出され、リングの外周を囲うロープに背中を支えられた。


「おぉぉぉぉっ!!! いいぞ、ビッグ・カン!」


「ついに形勢逆転か!? そのまま畳みかけちまえ!」


 B.K.Bサイドからは大きな歓声。俺もガッツポーズの拳を振り上げる。


「グリズリー! 何やってんだ! ダメージは相手の方が大きいぞ!」


「負けんな、グリズリー! とっととあの豚を黙らせろ!」


「てめぇ! 雑魚過ぎんだろ! やる気あんのかぁ!?」


 対照的に、C.O.Cサイドからはブーイングと、グリズリーに対する叱咤激励が飛ぶ。


 ロープのそばにいるギャラリーは、グリズリーの背中や肩をバシバシと乱暴に叩いている。選手に触れるというのはあまり褒められた行為ではないが、試合の妨害行為というほどでもないのでお咎めは無しだ。

 これがたとえば、ばれないように武器を渡したり、手当てをしてしまったりした場合はアウトだが、そういった様子は特にない。


 敵方も試合を本気で楽しんでくれているようなので、ルール違反が起きるのは考えづらい。

 もしそれが起きるなら、リッキーが何か悪知恵を働かせた場合や、三回目の負けが確定しそうな試合で悪あがきをする場合くらいか。


 体を叩かれて気合いが入ったのか、グリズリーが大きく息を吐く。


 そして、潰されていたはずの右手の拳を強く握りしめた。決して治ったわけではない。激痛をこらえ、意地を見せているだけだ。

 敵ながら中々熱い野郎じゃねぇか。


 そして、リングの中央で待つビッグ・カンのもとに戻ったグリズリーは、その握りしめた右手の拳でパンチを繰り出した。当たれば自分もダメージを負う、痛み覚悟の決死の一撃だ。

 そしてやはり、カンはそれをノーガードで正面から受けて立つ。


 バキッ!!!


 カンの頬か、グリズリーの拳か、果たしてどちらのものか、骨の鳴る激しい衝突音が響く。


「ぐぉっ!?」


 先ほどは左ストレートを耐え忍んだのに、カンの巨体が数歩下がった。まさか、利き手のせいで潰れていても威力が上だったのか。あっぱれだ。


 しかし、グリズリーもタダでは済まない。

 右手の激痛に歯をむき出しにして声にならない声を上げている。さすがにこれ以上は右手を動かすことはできないだろう。


 だが、カンを下がらせた、自身にとって押せ押せの状態をキープすべく、残った左手でラッシュを仕掛ける。


「叩き潰す!」


「いいねぇ! 相手になるぜ!」


 グリズリーの左手がビッグ・カンの鳩尾へ。

 そしてビッグ・カンの右手がグリズリーの胸へとヒットした。


 グリズリーはともかく、ビッグ・カンのダメージは急所のはず。しかし、分厚い脂肪のおかげで致命傷とはならなかったようだ。

 本人はピンピンしており、今度は切り替えた左手でグリズリーの頬をぶん殴る。

 両手が使える分、ビッグ・カンの優勢だな。


「おぉぉっ!!!」


「いけるぜ、カン! ぶっ殺せ!」


「グリズリー! 負けんなよ!」


 両陣営のギャラリーもヒートアップ。隣にいるマイルズは特に、手を叩いて大はしゃぎだ。

 グリズリーも善戦してはいるが、ここまでだろうと俺は踏んだ。


 その予想通り、そこからはビッグ・カンの強烈な連続攻撃を片手で防ぐのに精一杯で、手が出なくなってきている。

 もちろんその内の何発かはボディや顔に入り、正にフルボッコ状態だ。


 たまにグリズリーから出る反撃を、カンは甘んじて受け入れる。しかし、それには先ほどまでの力は籠っておらず、食らったところでほとんどノーダメージだ。


「おらぁ! どうした! そんなんじゃ蚊も殺せねぇぞ!」


「くッ……! 豚が吠えんな! 吠えていいのは熊と犬だけだ!」


「豚だろうが馬だろうが鳴き声は出んだよ! くだばれ、でくの坊!」


「ぐぁっ!」


 ビッグ・カンのアッパーがグリズリーの下顎にヒット。

 軽い脳震盪を引き起こし、グリズリーはフラフラと後退しながらリング端のロープにもたれかかった。


 歓声がより一層大きくなる。

 マイルズはビールとポップコーンを地面にぶちまけるほどの大騒ぎだ。

 コイツ、酒はともかく、いつの間にポップコーンを……完全に映画館の観客じゃねぇか。


「うん? カンの野郎、なぜ攻め切らねぇ?」


 これはジャスティンだ。その通りで、今は最大のチャンスのはず。しかしカンは首を傾けてボキボキと鳴らし、グリズリーの戦線復帰を待っている。


「まぁ、本人は楽しもうって趣向なんだろうね。好きにやらせていいんじゃない?」


 メイソンさんがそう返した。


「余裕ブッコいてんのはいいいが、負けたら洒落になんねぇぞ」


 それに対してビリーがそう言う。


「余裕というか、本心から楽しんでるだけだって。油断してるわけじゃない。攻撃を全部受けてたのも、楽しくて仕方ないだけなんだよ。俺にも理解はできないけどね」


 メイソンさんは極悪世代の生き残りだ。そういった変な野郎もごまんと見てきたんだろうな。


「グリズリー!!! 負けるつもりか、てめぇ!」


「金返せ! 俺の明日からの生活はどうなんだよ!」


 なんだ、あちらさんには金賭けてる奴がいるのかよ。味方に賭けてるだけ、まだマシ……なのか?


「あー、俺もこっちで胴元買って出れば良かったなぁ」


 マイルズが暢気なことを言っている。俺がそれを許す分けねぇだろ。真剣勝負だってのに。


「やめとけやめとけ。こっちばかりに金が集まって、オッズもクソもありゃしねぇ」


「そりゃそうだ!」


 意外にも、サーガがマイルズにそう言って窘めた。

 それは事実だろうし、俺もそう確信しているが、やはり先代のプレジデントである彼が言うと説得力があり、味方に期待、信頼していると感じて嬉しいもんだな。


 グリズリーがわずかに回復し、ビッグ・カンへとにじり寄る。

 手を潰され、気絶しそうなほどに絶体絶命でありながらまだ諦めないか。


 いよいよ第一試合は決着という名の佳境を迎える。

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