Team! B.K.B
「クレイはどうするんだ?」
他のメンバーから質問が飛んだ。
俺も出ないわけにはいかないだろうが、正直、ここまで立候補者が多いのならば退いても良いとは思っている。
「それも考え中だ。勝ちにこだわるなら俺よりもふさわしい奴はたくさんいる」
「サーガもクレイも出ないって? それじゃ面子が丸つぶれだよ。リッキーが出ないっていうなら話は別だけど」
確かにメイソンさんの言う通りだな。サーガか俺か、どちらかは出ないとB.K.Bとしての顔が立たない。
ただ、リッキーはそれを無視してくる可能性もある。
「となると、出るなら俺だな。サーガは足も悪いし、なによりおっさんだ」
「うるせぇ」
「いや、自分から出ねぇって言っただろうがよ……」
俺、ビリー、ビッグ・カンは決まりといったところか。
意外にも、マイルズは挙手していない。奴も強いが、今回は酒でも片手に特等席での観戦をご希望か。
「残り二人だな。候補者が多くて悩むところだが」
「俺も、おっさんだから出れないかい?」
「メイソンさんが? 心強いが、本当に出るのか?」
言うまでもなくメイソンさんもB.K.B最盛期時代の生き残りだ。サーガと変わらないくらい、頼りになる漢だと思っている。
だが……
「でも、首を賭けるのがサーガで、出場するのが俺で、そんなんじゃ自分たちのB.K.Bの責務はどこへやら、って思ってるのかな?」
「御名答だよ。誰から見てもおんぶにだっこじゃないか。それで勝ったと言えるのか疑問だ」
「言えるさ。誰かが手を貸したいって思える状況をつくっているのもまた、君たちの世代のB.K.Bが生み出した結果なんだからね」
「恩に着るよ。そしてやっぱりここは俺も出る。必ず勝つぞ」
「分かってないな。恩なんてものは不要だって事さ。勝つのは同意するけどね」
これで俺、ビリー、ビッグ・カン、メイソンさんの四人となった。ここまでお膳立てされて、リーダーは高みの見物だなんて話があるか。
仮にリッキーが試合の場に出てこないとしても、そんなのは関係ない。奴の肝っ玉では俺と同じ土俵に立てなかったというだけの話だ。誰からも笑いものにされて人心の掌握はできなくなるだろう。
「さぁ、最後の一人だ! 今、手を挙げている連中の中から選ぶぞ!」
とはいえ、まだ二十近い挙手がある。やはりウォーリアーの中から選ぶべきか?
「迷うくらいなら俺を選べよ。リッキーには銃突きつけられて、頭に来てんだからよ」
ジャスティンが再度の立候補。そこまで言うならスリー・ハンドラーズでいくとするか? どちらにせよ、他の面々からも選ぶのも難しい。
「……だそうだが、異議のあるやつはいるか?」
「ダメだダメだ! ジャスティンよりは俺にやらせろ!」
「俺が出る!」
二、三人のウォーリアーからそういった回答があった。
だが、これを一蹴するジャスティンへの助け舟が意外なところから出る。
「ジャスティンにやらせてやれ、クレイ」
サーガだ。自分の命が懸かる喧嘩に、ハスラーであるジャスティンを出していいとは如何なる理由か。
「そうしたっていいが、理由を聞いてもいいか?」
「ハスラーだって今回の件には大きく絡んでる。選抜メンバーがウォーリアー、ガーディアン、OG、それと他所のセットの奴ときたら、最後の一人くらいハスラー代表も入れておくのが筋だ」
なるほどな。ジャスティン個人というよりは、小分けしたチーム代表で見ていたわけか。それであれば確かにハスラー枠だけが空席となっている。
ウォーリアーからはビリー、ガーディアンからは俺、引退したOGはメイソンさん、外の味方はビッグ・カンだ。そこにハスラーのジャスティンを入れて完成する。
「それは分かりやすいな。お前ら、この意見を聞いてどう思う?」
反対していたウォーリアーたちに訊いた。
「その案で行くんなら、俺らはビリーと交代ってことになんのか?」
「よし、ビリーと力比べで代表を決めようじゃねぇか!」
ウォーリアー内で代表選抜の予選を行うか。止めはしないが、ビリーに勝てる奴はいないだろうな。
「俺のスパーリングに付き合ってくれるのか? リーダー思いの仲間たちじゃねぇか。泣けてくるぜ!」
そして本人もちょうどいい肩慣らしになるとノリノリである。
とはいえ、ジャスティンを出すことはほとんど確定だな。ビリーがウォーリアーのメンバーの誰かに負けたりしない限りは代表となる五人がこれで決定した。
「ウォーリアーの代表選抜はそっちに任せるが、残り四人は決まりだ! 俺とジャスティン、メイソンさん、そしてビッグ・カンがC.O.Cをぶちのめす!」
「最後の一人も俺で確定しといて構わねぇけどな、クレイ」
「余裕だな。他の連中の面子もあるから未定にしておくよ」
歓声と、怒号も混じった野次が飛んでくる。ビリーを倒すと息巻いているウォーリアー連中からだな。
……
アジトの外で予選を始めたウォーリアーとその取り巻きのハスラーやガーディアンたちを残し、試合に出る四人にサーガとマイルズを含む面々だけはアジト内へと入った。
「その試合ってのは勝ち抜き戦だよな! 俺が最初に出て全員ぶっ殺してやるよ!」
ビッグ・カンが大きな胸を叩きながら自信満々に言う。実際、そうであったら他の四人も楽だろうな。
カンに発案者のジャスティンが返す。
「残念だが、勝ち抜き戦じゃねぇよ。五回戦方式だから一人一試合ずつだ。先に三勝したらその時点で決着だな」
「んだよ! じゃあせめて一番強い奴とやらせろ!」
「相手方が何人目に強い奴を出すかわからねぇだろ」
「どうにか分かれよ! 電話して訊け!」
無茶を言うなとジャスティンが首を横に振る。
ただ、それはあちらも同じで、ビッグ・カンやビリーと当たるのは誰かわからない。メイソンさんと当たるやつも気の毒だな。これで三勝。絶対にB.K.B方の勝利で決着する算段だ。
スリーハンドラーズの俺とジャスティンが危ういのも情けねぇ話だが、勝目が高いのはその三人なのは事実だ。
「ならせめて、何戦目に出たいのかは決めていいぜ、カン。はずれを引いたら自分のせいだから、納得できるだろ?」
俺の提案にビッグ・カンが唸る。
「あー……、んー……、五戦目か、一戦目だな。喧嘩に花を添えるか、初戦で出鼻を挫く!」
「悪くないな。ただ、最終戦はジャスティンが言った通り、先に三勝しちまって行われない可能性がある。一戦目の方がいいんじゃねぇか?」
「ならそうしてくれ! 頼むぞ、敵さんよ。一戦目に強い奴を寄越してくれよな……!」
両手の指を組み、壇上の女神像に祈るビッグ・カン。初戦で彼を出せるのは俺としてもありがたい。
約束された一勝。これを初手でもぎ取れるのはその後の勢いにも関わってくるからだ。及び腰になったC.O.Cをそのまま三連勝でもして、一気に飲み込んでしまいたい。
「そしたら、次鋒は俺でもいいかな?」
「まさか、ダメなわけあるかよ。出番が来る可能性の薄い、最後を選ぶと思ってたぜ、メイソンさん」
これまた白星筆頭のメイソンの兄ちゃんが二番手か。必ず戦うことになる席次。意外にも喧嘩への出場に乗り気だ。いよいよ負ける気がしない。
「じゃあ、三戦目は俺が……」
「アホか。お前は最後だ」
俺の挙手をジャスティンが掴んで無理やり取り下げる。
「なんでだよ。ボスは俺だ。さすがに三番以内には出ておくべきだろうが。ストレート勝ちしちまったらどうする」
「なんだ、その心配は。心配するならお前の身を案じろ。ボスならボスらしく最後だろうよ。三番手は俺が出る」
「なんでそうなるんだよ!?」
だが、周りの面々も俺よりはジャスティンの意見に賛成のようで、誰一人加担してくれなかった。寂しいもんだぜ。
四番はウォーリアーから上がってくる誰か。十中八九ビリーだろうが、そこが四番手で、俺が五番手で決定となるか。リッキーに言われた、お飾りリーダーってのが本当になっちまったじゃねぇか。
「黙って従っときなよ、クレイ。みんなから大事にされてんのさ」
「まぁ、それでいいさ。反対ってわけじゃない」
メイソンさんに言われては引き下がるしかない。
「外様のビッグ・カンから、OGのメイソンさん、ハスラーの俺、ウォーリアーのビリー、リーダーのクレイ。ほら、ボスキャラとの連続戦闘だと考えたらB.K.Bの中心から見た立場的にも綺麗な並びだろ?」
「こっちが悪役の設定はやめろっての。その言い草だとC.O.Cが悪のボスに挑むヒーローじゃねぇか」
「その辺にしとけ、ほら、決定でいいんじゃねぇか」
サーガが口を開く。同時に、チャーチの入り口の扉が開いた。
ボロボロに破れたディッキーズを着たビリーが、口の端の血を拭いながら笑う。やはりお前が上がってきたか。
「よう、遅くなっちまったな。俺も混ぜてくれよ」
「んなセリフ吐いて……もう、お前がヒーローだよ」
「はぁ? 俺が主人公? そんなガラかよ?」
俺の言葉にビリーが困惑する。ヒーローっぽくないという自己認識らしい。
「ようやくこれで五人が決定だな。ビリー、お前は四番手の副将だ。拒否権はないから飲んでくれ」
「おう、四番な。了解だ、クレイ……って、あぁ!? 四番手!? 誰か一人くらい負けろよ!? じゃないと俺の出番が消えるじゃねぇか!」
「おい、ビリー。御名答だが、味方の負けを望むってのはどうなんだ?」
サーガが静かな叱責を挟み、ビリーが悪いと頭を掻く。
「あーあ、シュンとしちゃった。ビリーがいるから安心だねって考えようか。油断するわけじゃないけどさ。気は楽になるよ、ありがとな」
「あぁ! 任せてくれ!」
メイソンさんのフォローが入り、機嫌を直したビリーがサムズアップした。
「まずは俺で一勝だ! そっちのおっさんはどうだよ!? ブルドーザーは無しだぜ!!」
「心配無用さ。そっちこそ張り切りすぎて油断しないようにね」
ビッグ・カンがメイソンさんの実力を測りかねているようだが、彼も絶対に負けはしない。
口には出せないが、最初に黒星がつくならもともと戦闘員ではないジャスティンになるだろう。
「ルールの再確認だ。武器使用は禁止。相手からダウンを奪うか、ギブアップを言わせるか。これで勝負が決まる。不慮の事故で殺しても仕方ないとは思うが、出来れば殺すな。ダウンした時点でこちらからの追撃は禁止しておくぞ」
俺の言葉は暗に殺してしまえという匂わせでも何でもない。途中で誰かが死んだらその先の試合が見えなくなる。
たとえば乱闘騒ぎになったり、ギャラリーの誰かが仇討ちに銃を乱射し始めたりな。
「あん? まぁいいが、相手がひょろ過ぎて死んでも文句は言うなよ!」
「分かってる。だが、できれば殺るな。乱闘が始まって総力戦にでもなったら、こないだと同じような泥仕合になるぞ。せっかく白黒つけるチャンスなんだから、それは最大限利用したい」
「相手さんが負けたって同じようになるとは思うがな! 納得いかねぇって全員が突っ込んでくるぜ?」
それはそれでまったく意味が変わってくる。勝負がついた後の最後っ屁みたいなもんだ。その場合の乱闘はC.O.C側の完全敗北を裏付けるだけでしかない。
「それにはしっかり対応しよう。出場選手以外は全員、武器を携帯させておく。そっちの面倒見はサーガとマイルズに頼むよ」
「分かった」
「了解了解! 観戦用の酒も要るな!」
「なんであろうと二回喧嘩ができるなら大歓迎だぜ!」
歓迎するべきではないが、ビッグ・カンはこういう男だ。好きにさせておこう。