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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Justice! C.O.C

「ほう? 悪くない提案だが、おっさんはどういう立場の人間なんだ。サーガとか言われ……ん? あの、サーガか?」


「さすがによく調べてるじゃねぇか。そうだよ、サムの後にB.K.Bを束ねてたのは俺だ。今はもう違うが、当時のB.K.Bに恨みつらみがあるお前にとっては、これ以上ないくらいの手柄じゃねぇのか?」


 待て。ダメだ。この話は進めちゃいけない。


「ちょ、まっ……」


「待った」


 俺より先に、ジャスティンがそれを実行した。こんな時につくづく自分のノロマさを呪いたくなる。


「ジャスティン、てめぇに発言権なんてねぇぞ」


「そうだ、これは俺とサーガの話し合いだ。お前は完全に部外者。そっちの若いのもな。お飾りリーダーのクレイさんよ」


「あ……?」


「ジャスティンと同じようなことを言おうとしただろ。サーガも言ったように、てめぇらは黙ってろ」


 クソ野郎が。サーガはともかく、こんな奴に……だが、その相反する二人の意見は一致している。完全に、現役世代のB.K.Bは蚊帳の外だ。


「ふざけるな。ここで黙っていられるはずがないだろう。サーガのタマなんか取らせてたまるか」


「ジャスティン、ようやく本音が聞けたな。やっぱりてめぇは裏切ってなんかなかったわけだ」


 もはや、なりふりなど構ってられない。


「うるせぇぞ、リッキー。それとこれとは別だ。サーガはそもそもB.K.Bじゃねぇんだ。当時のメンバーだろうが何だろうが、首突っ込んでるのがおかしいのはサーガの方なんだよ!」


「なら、現役の連中の首を差し出すってか。そこのクレイと、他の奴らも全部。それくらいやって等価ってところか? だが、俺はそれよりもサーガの首の方が魅力的だな。首の数で言えば少なくて済むぞ?」


「俺を殺せ!」


「断る。いや、やってもいいが、結局サーガも道連れだ。お前はただの犬死。それでいいなら送ってやる」


 ジャスティンが身体を張ってサーガの死を止めようとするも、リッキーの言う通り、それには何の意味もないだろう。仮に俺が名乗り出たとしても同じ結果だ。


 ではどうする。サーガの死を連想して大きな動揺を招いていたが、ようやく思考がまともに回るようにはなってきた。

 だが、肝心の解答は思い浮かばない。


「それは、サーガである必要は……ないんじゃないか?」


「あ? なんだ、お飾り。何か言ったか」


「クレイ、黙ってろといったはずだ」


「分かってる。だが、サーガよりももっと、リッキーは欲しい首があるんじゃねぇのか?」


 リッキーの反応と、サーガの批判、両方を受け、俺は少しずつ頭の中で解答を導いていく。


「そう……だ、サムは? サムの死だ。それ以上の土産物はないだろう」


「クレイ!! てめぇ何を言ってんのか分かってんのか! サムはもう……!!」


 サーガの拳が飛んでくるが、俺はそれをひらりと躱す。いや、躱したのではない。サーガが激しく取り乱して、狙いが定まらなかっただけだ。


 そう、B.K.Bの先代プレジデント、サムは現在収容中の死刑囚だと聞いている。

 既に死刑執行された後だという話も聞くが、俺はまだ生きているんじゃないかと思っている。


 直接リッキーが彼に触れることは叶わないが、彼の刑がこの後に執行されたという話を聞かせれば、リッキーとしては喜ばしいことなんじゃないだろうか。

 そして、どちらにせよ奪われる予定のサムの命ですべてが完結する。非常に残酷な考えだが、サムの最後の力に頼るしかない。


「サムのことは俺だって知ってるさ! まだ生きてるんじゃないのか!?」


「んなわけねぇだろうが!! サムはもういねぇんだよ!!! てめぇはアイツの魂を冒涜する気か!!!」


 大声で暴れるサーガ。目の端には涙まで見える。ここまで彼が取り乱した姿を見るのは初めてだ。


「いいや! 生きてるさ! そしてリッキー! お前にとっては彼の死こそが一番の手土産になるだろ!?」


「……サム、か。死んでいるのか生きているのかハッキリしねぇ奴なんか、どうだっていい」


 クソ、食いついてこないか。


「リッキー、勘違いするなよ。お前は不利な状況にいるのは変わりねぇんだ。そして、サーガのタマを取るなんて言ってる間は、ここから生きて帰さねぇからな」


「ならもう、仕切り直ししかねぇだろ。こっちも何も奪わねぇから、そっちも手ぇ退く。そしてまた喧嘩だ。今度は叩き潰す」


 それしかないのだろうか。正直、俺はこんな奴らともう喧嘩なんてしたくないんだが……

 しかしやはり、それを終わらせるにはリッキーを殺す以外に方法はない。かといって、今ここでやり合うか?


「これじゃ押し問答だな。一つ、面白い趣向を思いついたぞ。どうせなら華々しくやりたいだろ」


 ジャスティンが勝手に立ち上がる。リッキーも銃は向けないので、奴の話が気になるようだ。


「代表戦だ。各陣営から五人ずつの代表者で、五回戦方式のタイマンの喧嘩を行う。もちろんステゴロでな。死者は出ねぇだろうが、かなり盛り上がるぞ。で、負けた方は勝った方の傘下に入る」


「ほう?」


 何だそれは? スポーツみたいで俺としてはピンとこなかったが、リッキーは興味津々だ。

 そんなんじゃB.K.Bは潰れねぇのに、傘下にできればそれでいいのかよ。さっきまで言ってたことと違うが。


「それにもう一声欲しいな。負けた奴は殺すってのはどうだ」


 やはりそう来たか。


「それは承服できねぇよ。俺らはてめぇら側の首なんて欲しくもねぇんだ。強いて言えばリッキー、お前のタマくらいか? だがそれも不要だ」


「ビビってやがる。なら……代表者一名のタマだ。それが最大の譲歩だな。負けた側の大将首は落ちる」


 それは自身の首を賭けるってことだが、どうしてそんなに自信があるのか。それを賭けてでもサーガの首が欲しいのか。

 いや……それを現リーダーである俺の命にしてしまえばいい。それに、俺たちは負けはしない。大丈夫だ。


「代表者ってのは、俺の命でいいんだな」


「は? すっこんでろ、お飾り。俺の狙いは変わらずサーガのタマだ」


「サーガはもうギャングじゃねぇって言ってんだろうが」


「そっちこそ、暴れ回ってたB.K.Bのメンバーだった男が標的になり得ることをそろそろ理解しやがれ」


 クソが。また堂々巡りだな。


「リッキー。お前が賭けるのは自分の首なんだよな。どうしてそんな平然としていられる? そこまでしてサーガを殺す価値はあるのか?」


 まさか、実は三つ子だったり、他にそっくりさんを準備して替え玉にでもするつもりか?

 それなら自身の命の軽さも理解できるが。そもそもコイツこそ、本物のリッキーなのか? それとも、コイツも偽物なのか? 聞いたって答えてくれるはずもないが。


「ある。B.K.Bを潰して終止符を打つ。サーガの方がお前よりも適任だ、クレイ」


 サーガや俺が死んでもB.K.Bは潰れないし、まったくサーガへのこだわりは理解できないが、それがこの男の意地なんだろうな。


「サーガ?」


「俺に異論があるわけねぇだろ、クレイ。もともとくれてやるつもりだった首だ。五人ずつの喧嘩だったか? それで済むなら安いもんだ。それで、この阿呆が納得するんならな」


「納得しなくてもこの、リッキーは負けて死ぬことになる。それで終いだな」


 俺、サーガ、ジャスティンがそれぞれ言った。


「二日後、この場所にまた来る。首を洗って待ってろ」


「ふん、それはこっちのセリフだ」


 リッキーたちが引き上げていった。このまま帰すのは癪だが、二日後にすべて片付く。そう思って納得するしかない。


……


 俺は残党狩りをしているメンバーにも中止の命令を出した。B.K.Bのハスラーのメンバーで、C.O.C側についていた奴らも面目躍如だ。


 そしてサーガ、ジャスティンと共にアジトへと戻り、ビリーやメイソンさんたちとも合流する。


「んで? さっきの命令からして、全部終わったってか? ジャスティンもハスラー連中も戻って来てるしよ」


 ビリーから俺に質問が飛ぶ。


「いいや、延長戦だ。ひとまずお互いに手を引いたが、再戦は二日後。五人ずつの選抜で代表戦ってルールでな」


 あきれたような声がところどころから上がった。


「はぁ? 喧嘩を試合にするってか?」


「んだよそりゃ、俺らはC.O.Cを潰さねぇと安心できねぇぞ」


「そうだぜ。死んでいった奴らも納得しねぇだろ!」


 言いたいことはもっともだ。俺だって彼らの考えの方が近い。


「分かってるさ。できれば俺も奴らのことは完全に潰したかった。だが決まったことは覆せねぇ。その喧嘩に勝てば相手方のリーダーだけは殺せるって取り決めも作った。それで納得してくれ。俺だって悔しいんだからよ」


 残ったC.O.Cメンバーの処遇は今の今に決められる話ではない。


 解散となってバラバラになるか、またリッキーのような奴が先導するか……ただ、後者はない気もする。

 昔のB.K.Bの話をいつまでも根に持っている奴なんて、そんなにいないと思うんだがな。


 そしてふと気づくが、そんな話を考えている時点でやはり俺やみんなの中でB.K.Bの勝利は確信出来ている。油断はできないが、この勢いは大事にしたい。


「で? 大事なのは戦う五人だろ。俺は入るんだろうな?」


 ビリーが鼻息荒く訊いてくる。それに便乗する形でビッグ・カンも俺の肩をつかんだ。


「俺も出るぜ! 今更外様だなんて水くせぇ事言わねぇだろうな!?」


「もちろんだ。向こうさんもC.O.Cだけでなく、味方のセットの人間も使うだろうしな」


 カンはギャングスタですらないのだが、別に誰も気にしないだろう。既に何度も同じ戦火を潜り抜けてきた同志だ。


「サーガはどうする? 相手さんが欲しがってるのはアンタのタマだが」


「出ねぇよ。お前らで勝手に選べ」


 場がざわつく。俺ではなく、サーガの命が懸かることに驚いたからだ。

 そんな中、メイソンさんが言った。


「ガイ。どういうことだい?」


「どうもこうもねぇ。C.O.Cはこの条件を飲む時に、俺を殺すって話をしてきた。クレイにゃ恨みはねぇんだとよ」


「となると、お相手の恨みってのはだいぶ根が深そうだねぇ。年季が入ってる。俺が君の代わりでもいいのかな?」


 メイソンさんは、昔の話だということを瞬時に理解した。


「いや、それはない。俺がすでに死んでたらそれもあり得たかもしれないがな。見ての通り、生きながらえてる間はリーダー経験のある俺の首が最優先だろうさ」


「どう足掻いても首を縦には振れない案件だねぇ」


「そうは言っても代役なんざ立てられねぇ。俺自身も身代わりなんて欲しくねぇしな。納得できなくても飲め」


 メイソンさんも十分にB.K.Bの大物だが、サーガの言う通り、リッキーはそれで良しとは絶対に言わない。俺の首ならなおさら、だ。


「もうそこは曲げられないってさ。まずは出場する五人を決めようじゃないか」


 俺の言葉に、いくつもの手が上がった。皆やる気満々でありがたい限りだ。本来はすべてB.K.Bの人間で固めたいが、負けられない戦いである以上、ビッグ・カンなどは入れることになる。


「カンとビリーは確定だな。ジャスティン……? いや、すまんがお前は却下だ」


「んだよ、つれねぇな」


 ジャスティンも敵さんに一発入れてやりたいと挙手するが、喧嘩自慢の人間ではないのでステゴロなら採用はできない。

 さて、残りの三人はどうしたものか。

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