Justice! C.O.C
「ほう? 悪くない提案だが、おっさんはどういう立場の人間なんだ。サーガとか言われ……ん? あの、サーガか?」
「さすがによく調べてるじゃねぇか。そうだよ、サムの後にB.K.Bを束ねてたのは俺だ。今はもう違うが、当時のB.K.Bに恨みつらみがあるお前にとっては、これ以上ないくらいの手柄じゃねぇのか?」
待て。ダメだ。この話は進めちゃいけない。
「ちょ、まっ……」
「待った」
俺より先に、ジャスティンがそれを実行した。こんな時につくづく自分のノロマさを呪いたくなる。
「ジャスティン、てめぇに発言権なんてねぇぞ」
「そうだ、これは俺とサーガの話し合いだ。お前は完全に部外者。そっちの若いのもな。お飾りリーダーのクレイさんよ」
「あ……?」
「ジャスティンと同じようなことを言おうとしただろ。サーガも言ったように、てめぇらは黙ってろ」
クソ野郎が。サーガはともかく、こんな奴に……だが、その相反する二人の意見は一致している。完全に、現役世代のB.K.Bは蚊帳の外だ。
「ふざけるな。ここで黙っていられるはずがないだろう。サーガのタマなんか取らせてたまるか」
「ジャスティン、ようやく本音が聞けたな。やっぱりてめぇは裏切ってなんかなかったわけだ」
もはや、なりふりなど構ってられない。
「うるせぇぞ、リッキー。それとこれとは別だ。サーガはそもそもB.K.Bじゃねぇんだ。当時のメンバーだろうが何だろうが、首突っ込んでるのがおかしいのはサーガの方なんだよ!」
「なら、現役の連中の首を差し出すってか。そこのクレイと、他の奴らも全部。それくらいやって等価ってところか? だが、俺はそれよりもサーガの首の方が魅力的だな。首の数で言えば少なくて済むぞ?」
「俺を殺せ!」
「断る。いや、やってもいいが、結局サーガも道連れだ。お前はただの犬死。それでいいなら送ってやる」
ジャスティンが身体を張ってサーガの死を止めようとするも、リッキーの言う通り、それには何の意味もないだろう。仮に俺が名乗り出たとしても同じ結果だ。
ではどうする。サーガの死を連想して大きな動揺を招いていたが、ようやく思考がまともに回るようにはなってきた。
だが、肝心の解答は思い浮かばない。
「それは、サーガである必要は……ないんじゃないか?」
「あ? なんだ、お飾り。何か言ったか」
「クレイ、黙ってろといったはずだ」
「分かってる。だが、サーガよりももっと、リッキーは欲しい首があるんじゃねぇのか?」
リッキーの反応と、サーガの批判、両方を受け、俺は少しずつ頭の中で解答を導いていく。
「そう……だ、サムは? サムの死だ。それ以上の土産物はないだろう」
「クレイ!! てめぇ何を言ってんのか分かってんのか! サムはもう……!!」
サーガの拳が飛んでくるが、俺はそれをひらりと躱す。いや、躱したのではない。サーガが激しく取り乱して、狙いが定まらなかっただけだ。
そう、B.K.Bの先代プレジデント、サムは現在収容中の死刑囚だと聞いている。
既に死刑執行された後だという話も聞くが、俺はまだ生きているんじゃないかと思っている。
直接リッキーが彼に触れることは叶わないが、彼の刑がこの後に執行されたという話を聞かせれば、リッキーとしては喜ばしいことなんじゃないだろうか。
そして、どちらにせよ奪われる予定のサムの命ですべてが完結する。非常に残酷な考えだが、サムの最後の力に頼るしかない。
「サムのことは俺だって知ってるさ! まだ生きてるんじゃないのか!?」
「んなわけねぇだろうが!! サムはもういねぇんだよ!!! てめぇはアイツの魂を冒涜する気か!!!」
大声で暴れるサーガ。目の端には涙まで見える。ここまで彼が取り乱した姿を見るのは初めてだ。
「いいや! 生きてるさ! そしてリッキー! お前にとっては彼の死こそが一番の手土産になるだろ!?」
「……サム、か。死んでいるのか生きているのかハッキリしねぇ奴なんか、どうだっていい」
クソ、食いついてこないか。
「リッキー、勘違いするなよ。お前は不利な状況にいるのは変わりねぇんだ。そして、サーガのタマを取るなんて言ってる間は、ここから生きて帰さねぇからな」
「ならもう、仕切り直ししかねぇだろ。こっちも何も奪わねぇから、そっちも手ぇ退く。そしてまた喧嘩だ。今度は叩き潰す」
それしかないのだろうか。正直、俺はこんな奴らともう喧嘩なんてしたくないんだが……
しかしやはり、それを終わらせるにはリッキーを殺す以外に方法はない。かといって、今ここでやり合うか?
「これじゃ押し問答だな。一つ、面白い趣向を思いついたぞ。どうせなら華々しくやりたいだろ」
ジャスティンが勝手に立ち上がる。リッキーも銃は向けないので、奴の話が気になるようだ。
「代表戦だ。各陣営から五人ずつの代表者で、五回戦方式のタイマンの喧嘩を行う。もちろんステゴロでな。死者は出ねぇだろうが、かなり盛り上がるぞ。で、負けた方は勝った方の傘下に入る」
「ほう?」
何だそれは? スポーツみたいで俺としてはピンとこなかったが、リッキーは興味津々だ。
そんなんじゃB.K.Bは潰れねぇのに、傘下にできればそれでいいのかよ。さっきまで言ってたことと違うが。
「それにもう一声欲しいな。負けた奴は殺すってのはどうだ」
やはりそう来たか。
「それは承服できねぇよ。俺らはてめぇら側の首なんて欲しくもねぇんだ。強いて言えばリッキー、お前のタマくらいか? だがそれも不要だ」
「ビビってやがる。なら……代表者一名のタマだ。それが最大の譲歩だな。負けた側の大将首は落ちる」
それは自身の首を賭けるってことだが、どうしてそんなに自信があるのか。それを賭けてでもサーガの首が欲しいのか。
いや……それを現リーダーである俺の命にしてしまえばいい。それに、俺たちは負けはしない。大丈夫だ。
「代表者ってのは、俺の命でいいんだな」
「は? すっこんでろ、お飾り。俺の狙いは変わらずサーガのタマだ」
「サーガはもうギャングじゃねぇって言ってんだろうが」
「そっちこそ、暴れ回ってたB.K.Bのメンバーだった男が標的になり得ることをそろそろ理解しやがれ」
クソが。また堂々巡りだな。
「リッキー。お前が賭けるのは自分の首なんだよな。どうしてそんな平然としていられる? そこまでしてサーガを殺す価値はあるのか?」
まさか、実は三つ子だったり、他にそっくりさんを準備して替え玉にでもするつもりか?
それなら自身の命の軽さも理解できるが。そもそもコイツこそ、本物のリッキーなのか? それとも、コイツも偽物なのか? 聞いたって答えてくれるはずもないが。
「ある。B.K.Bを潰して終止符を打つ。サーガの方がお前よりも適任だ、クレイ」
サーガや俺が死んでもB.K.Bは潰れないし、まったくサーガへのこだわりは理解できないが、それがこの男の意地なんだろうな。
「サーガ?」
「俺に異論があるわけねぇだろ、クレイ。もともとくれてやるつもりだった首だ。五人ずつの喧嘩だったか? それで済むなら安いもんだ。それで、この阿呆が納得するんならな」
「納得しなくてもこの、リッキーは負けて死ぬことになる。それで終いだな」
俺、サーガ、ジャスティンがそれぞれ言った。
「二日後、この場所にまた来る。首を洗って待ってろ」
「ふん、それはこっちのセリフだ」
リッキーたちが引き上げていった。このまま帰すのは癪だが、二日後にすべて片付く。そう思って納得するしかない。
……
俺は残党狩りをしているメンバーにも中止の命令を出した。B.K.Bのハスラーのメンバーで、C.O.C側についていた奴らも面目躍如だ。
そしてサーガ、ジャスティンと共にアジトへと戻り、ビリーやメイソンさんたちとも合流する。
「んで? さっきの命令からして、全部終わったってか? ジャスティンもハスラー連中も戻って来てるしよ」
ビリーから俺に質問が飛ぶ。
「いいや、延長戦だ。ひとまずお互いに手を引いたが、再戦は二日後。五人ずつの選抜で代表戦ってルールでな」
あきれたような声がところどころから上がった。
「はぁ? 喧嘩を試合にするってか?」
「んだよそりゃ、俺らはC.O.Cを潰さねぇと安心できねぇぞ」
「そうだぜ。死んでいった奴らも納得しねぇだろ!」
言いたいことはもっともだ。俺だって彼らの考えの方が近い。
「分かってるさ。できれば俺も奴らのことは完全に潰したかった。だが決まったことは覆せねぇ。その喧嘩に勝てば相手方のリーダーだけは殺せるって取り決めも作った。それで納得してくれ。俺だって悔しいんだからよ」
残ったC.O.Cメンバーの処遇は今の今に決められる話ではない。
解散となってバラバラになるか、またリッキーのような奴が先導するか……ただ、後者はない気もする。
昔のB.K.Bの話をいつまでも根に持っている奴なんて、そんなにいないと思うんだがな。
そしてふと気づくが、そんな話を考えている時点でやはり俺やみんなの中でB.K.Bの勝利は確信出来ている。油断はできないが、この勢いは大事にしたい。
「で? 大事なのは戦う五人だろ。俺は入るんだろうな?」
ビリーが鼻息荒く訊いてくる。それに便乗する形でビッグ・カンも俺の肩をつかんだ。
「俺も出るぜ! 今更外様だなんて水くせぇ事言わねぇだろうな!?」
「もちろんだ。向こうさんもC.O.Cだけでなく、味方のセットの人間も使うだろうしな」
カンはギャングスタですらないのだが、別に誰も気にしないだろう。既に何度も同じ戦火を潜り抜けてきた同志だ。
「サーガはどうする? 相手さんが欲しがってるのはアンタのタマだが」
「出ねぇよ。お前らで勝手に選べ」
場がざわつく。俺ではなく、サーガの命が懸かることに驚いたからだ。
そんな中、メイソンさんが言った。
「ガイ。どういうことだい?」
「どうもこうもねぇ。C.O.Cはこの条件を飲む時に、俺を殺すって話をしてきた。クレイにゃ恨みはねぇんだとよ」
「となると、お相手の恨みってのはだいぶ根が深そうだねぇ。年季が入ってる。俺が君の代わりでもいいのかな?」
メイソンさんは、昔の話だということを瞬時に理解した。
「いや、それはない。俺がすでに死んでたらそれもあり得たかもしれないがな。見ての通り、生きながらえてる間はリーダー経験のある俺の首が最優先だろうさ」
「どう足掻いても首を縦には振れない案件だねぇ」
「そうは言っても代役なんざ立てられねぇ。俺自身も身代わりなんて欲しくねぇしな。納得できなくても飲め」
メイソンさんも十分にB.K.Bの大物だが、サーガの言う通り、リッキーはそれで良しとは絶対に言わない。俺の首ならなおさら、だ。
「もうそこは曲げられないってさ。まずは出場する五人を決めようじゃないか」
俺の言葉に、いくつもの手が上がった。皆やる気満々でありがたい限りだ。本来はすべてB.K.Bの人間で固めたいが、負けられない戦いである以上、ビッグ・カンなどは入れることになる。
「カンとビリーは確定だな。ジャスティン……? いや、すまんがお前は却下だ」
「んだよ、つれねぇな」
ジャスティンも敵さんに一発入れてやりたいと挙手するが、喧嘩自慢の人間ではないのでステゴロなら採用はできない。
さて、残りの三人はどうしたものか。