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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Justice! B.K.B

「で、ジャスティンから聞いた場所ってのはどこなんだ?」


 やはり気になるのは、敵の大将がどこに陣取っているのかだ。


「町はずれの河川敷、線路が走ってる高架下だ」


 なるほど。俺たちが外部の人間と接触するときにはよく使う場所だが、アジトや住宅街からは結構離れている位置。あのまま徒歩で探し当てるには骨が折れていたはずだ。


「どのくらいの人数がいるのか聞いてるか?」


「ジャスティンとリッキー、それと下っ端が二人だとよ。少しはビビる気も失せたか?」


 数的不利ではある。しかし意外と少ないな。今リッキーと名乗っている男はもっと慎重に、ガチガチに護衛に守られている印象があった。

 あの手この手でこっちを翻弄し続けてきた奴なんだからな。


「四対二か……ビビらない方が難しいんじゃないか?」


「は? 何言ってんだ、お前? そもそも殴り込みに行くってんじゃないって言ってるだろうが。それに、何でジャスティンを敵方にカウントしてるんだよ、阿呆か」


 言われて気付く。確かに何が数的不利だ。ジャスティンは味方なので三対三で同数じゃないか。計算を間違えたことより、味方を一瞬でも敵方にカウントしてしまったことが恥ずかしい。


「会ったところで、リッキーは本当にこっちと話はしてくれるのか?」


「何が話をしてくれる、だ。下手にでるんじゃねぇ。少数相手に惨敗してビビってる雑魚にナシつけるために、こっちがわざわざ行ってやるんだよ。奴のほうからむせび泣きながら許しを請う場面だろう」


 なるほどな。場を支配するとは、まさにこういう心構えの事を言うのか。


「気持ちで負けてたか、俺は。N.C.Pやカンたちの援軍がいて、やっとこれだもんな。B.K.B単体だったらと思うとゾッとしないぜ」


 ゴツン、と久しぶりの大きな拳骨が降ってくる。相変わらず途轍もなく痛い。力加減考えろよ。


「馬鹿野郎。ここまで教えてやってもまだウジウジしやがって。そんなヘタレがトップだから今のB.K.Bは勢いがないんじゃないのか。数的有利だの、援軍がいてやっとこさだの、お前は体裁にこだわりすぎだ」


「いてぇ……体裁って?」


「一般常識、世間体、見かけ、別に呼び方はどうでもいい。俺もどちらかというと頭でっかちな方だ。サムやマークなんかと比べるとな。だが、ギャング間のパワーバランスってのはそれだけじゃない。それを知ってる」


 勢いがあれば数的不利も覆せる、みたいな意味だろうか。


「分かってねぇってツラだな。結局はボスや、そのホーミーたち次第だ。昔、俺らが戦った奴らの中には、確かにこっちより何倍もデカいチームだっていた。何度も負けもした。でも最後に勝ったのは俺らだった」


「諦めない気持ちとか絆とか、誇りみたいなもんかよ?」


「当たらずとも遠からずだな。そもそも人の本当の強さってのは言葉にできないし、野暮だ。たとえば家族を、恋人を愛している。それはどれくらい愛してる? なんてのは表現のしようがないのと一緒だ。宇宙よりも大きく、海底よりも深く愛してるなんていわれたって、その広さや深さが愛とイコールにはなり得ない」


「それはまぁ、わかるさ。B.K.Bの強さに足りないのは、それが俺にないって話なのか? 当然、俺だって地元や仲間は大事だ。命を張る覚悟だってある」


 ははは、とサーガが短く、だが豪快に笑った。


「なんだ、ちっとは良いこと言うじゃねぇか。だったらなぜ、リッキーと会うくらいで殺されるかも、なんて気が起きるんだよ。殺されようが何しようが、地元にちょっかい掛けてきた敵だ。自分がどうなるかなんて保身は思いつきもしないのが普通だと思うがな」


「もし俺が死んだら、そのあとのこの町が……」


「ここはお前が死んだくらいで滅んじまう町かよ。お前が死んだくらいでやられちまう仲間しか揃ってねぇか」


「そんなことはない!!!」


「……そうか、なら心配はねぇな。俺も同じ気持ちだ、クレイ」


 今度は拳骨ではなく、大きな掌がポン、と頭の上に乗せられた。いつまで俺をガキ扱いするんだよ、このおっさんはよ。


……


 目標地点だった高架下が見えてくる。

 リンカーン・ナビゲーターの大径タイヤが、アスファルトから砂利道を踏みしめる音へと切り替わった。


 車が二台、止まっている。リッキーたちとジャスティンのものだろうか。

 他のハスラーたちはC.O.Cの兵隊たちと一緒の可能性が高い。ここにいるのは首脳陣だけということだ。


「あ……?」


 サーガが異変を察知した。俺もその視線の先を凝視する。

 なんと、ジャスティンが跪いて両手を上げ、その背には銃口が向けられているではないか。

 おそらく、その拳銃を手にしているのがリッキーか。


 俺たちの接近を察知し、ジャスティンがタレ込んだのが分かったらしい。

 それに対する報復、そして俺たちに向けた警告といったところか。


 ただ、すぐに発砲して射殺していないところを見るに、やはり自分たちが必ずしも有利な状況ではないということは理解しているようだ。

 ここでジャスティンを殺してしまっていたら、完全に退路は断たれ、リッキーの生きる道はなくなる。


 俺とサーガが車を停め、彼らの目の前に降り立った。


「……クレイ、サーガ」


「よう、ジャスティン。仲間割れか? 無様なもんだな」


 サーガの返答。あくまでもジャスティンが裏切り者であるという、偽りの状況を信じている演技を続けるらしい。

 多少はリッキーらしき人物のジャスティンへの怒りは静まるか?


「チッ……この場所を選んだ俺の落ち度だ。まさかお前らがここに来るなんてな」


「なんだ、来てほしいのかと思って来てやったってのによ。で? そちらさんが今回の絵を描いたご本人様で?」


 リッキーらしき奴がこちらを向き、俺とサーガはハッとした。


「お前、リッキー……なのか?」


 顔が瓜二つ。そいつは確かに殺したはずの、リッキーと全く同じ顔をしていた。


「ふん、驚いているようだな。そうだ、俺がリッキーで間違いないぞ。よかったな、大当たりだ」


 俺が漏らした質問に、リッキーと名乗る瓜二つの男は静かに返した。


「同じ面に同じ声。そうか、お前、双子か?」


「さぁな。なんだっていいだろう。貴様らが知るリッキーと同一人物の可能性だってあるぞ?」


 サーガの質問をはぐらかす。

 同一人物、つまり死者蘇生なんてのは絶対にありえない。あとは、整形でここまで似せれるものだろうか? やはり、双子の説が最もしっくりくるのは俺も同意見だ。


「で、だ。ジャスティンと仲違いしてるとこ悪いが、ナシつけに来たぜ。てめぇらが負けを認めて退く手助けだな。さっさと残党どもを帰らせろ。今もウチの面々が追い込み漁に躍起になってるところだ。これ以上、殺されたくなかったらな」


「随分と緩いことを言う。条件もなしに帰ると思うか?」


「何が条件だ。むしろ、何も支払わずに帰らせてもらえるだけありがたいと思え」


 サーガはこちらへの対価なしに無条件でこいつらを帰すつもりなのか? 俺としてはある程度のお灸を据えてやりたいが、それも今のダメージで十分と考えているのか。


「サーガ、俺も反対だ。条件はこいつらの武器、金、クスリなんかの商売道具。全部だろ」


「クレイ、てめぇは黙ってろ」


「チッ……」


 一応は俺がリーダーなんだがな。交渉もさせてもらえないとは。


「そっちの若いのは威勢がいいな。そうだとも。それくらい言ってくるべきだ。タダほど怖いもんはない。このまま俺たちを逃がして、その後どうするつもりだ? 何を企んでる?」


「企んでるとはご挨拶だな、小僧。むしろあの手この手でこねくり回して、俺らと遊んでたのはそっちじゃねぇのか。おつむで取れるほど、シマ争いってのは甘いもんじゃなかったろ?」


「シマなんか副産物だ。俺が欲しているのはB.K.Bの壊滅だからな。ここで逃がそうっていうお前らの腹が見えない」


 自分が心底納得できないと従えないタイプか。状況くらい考えた方がいいと思うが、俺としてはこいつのタマは取っておきたいので、逃げないのなら好都合だ。


「サーガは何も考えちゃいないさ。うぜぇから消えろ。勝てねぇんだからもう諦めろってだけの話だよ」


 これは、両手を挙げているジャスティンの言葉だ。

 リッキーが舌打ちする。


「お前が勝てるって踊らせたんだろうが、ジャスティン」


「本気でそう思ってたからな。事実、アジトは邪魔が入らなきゃ落とせてただろ。現場で何が起きたのかまでは知らねぇが、負けたのは予想外だった」


「妙な援軍が来たって話だったな。てめぇの差し金か」


「違う。そんな隙がなかったことくらい、お前が一番わかってるはずだ」


 俺がジャスティンからの連絡を受けたとき、すでに対戦は決していた。

 ただ、そのジャスティンの計略を打ち破ったのは俺やビリーではなく、サーガの采配とメイソンさんの機転の速さ、そしてあの重機のパワーだ。


 そこまで揃えばさすがにジャスティンでも太刀打ちできないな。


 そもそも、ハスラーの真骨頂は喧嘩じゃなくて金策だ。

 サーガが今言った通り、おつむじゃシマは取れない。かといって腕っぷしだけでも同じだ。文武の両輪が回ってこその戦争だろう。


「なぜ負ける……クソ! ここまで用意周到に事を運んでおきながら、なぜ負けるんだ!!」


「おい、なんだよ。冷静な戦略家かと思えば、急に癇癪持ちになりやがって。ヤクでも食ってんのか」


 サーガが意外にもここで煽る。これはどちらかと言うと、つい口から出てしまった感じに見えるな。


「お前……そうか、あの時代の。俺らの街を荒らした時代の生き残りか……」


 なるほど。少し見えたな。リッキーがB.K.Bに執拗に固執する理由が。

 奴は、ガキの頃にB.K.Bに街を侵略された過去を持つわけだ。転々としている男なのでどの町なのかまでは分からないが。


「あん? 俺らの現役時代を知ってるってか。俺らが宿無しだった頃の逆恨みってわけだ」


「貴様……」


 それ自体は不運だというしかないが、当時地元を追われていたB.K.Bにとっても他の街への攻撃は何かしらの理由があったように思う。


「言い訳はしねぇが、俺らが喧嘩してたのはあくまでもギャングスタとポリスだけのはずだ。それを恨んでるってことは、てめぇは関係者ってことになる。だったら腹括れ」


「それが免罪符のつもりか」


「そうだ。そしてお前はこうしてやり返した。夢は半分叶ったようなもんだろ。まだ不服か」


「当然だ!!! 俺は勝つまでやめない! それを帰れだと!? また同じ喧嘩が起きると分かっていて、何を考えてる!? もしくは、舐めてるとしか思えねぇだろうが!」


「どっちでもねぇよ。お前は同じ喧嘩をやろうとはならねぇし、舐めてもねぇ」


「はぁ?」


 熱くなっていたはずのリッキーが、急激な落差できょとんとする。


「負けてようが、勝ってようが、スッキリとしてないはずだ。たまたまお前は負けた。だが、勝ってても気持ちの良いもんではなかっただろうぜ。多くの人間が死に、新たな禍根を生む。それだけだ。今、俺らがやられていることを、今度はお前が受ける。それが望みなのかよ」


「それでも、やられっぱなしでいろってのがおかしいだろうが!」


「……わかった。だがお前には、今のB.K.Bに何かする権利はねぇよ。だったら、この喧嘩を終わらせるための手柄として、当時のB.K.Bの一員だった、俺の首を持っていけ。それで終いだ。それなら納得だろ?」


 ……は? サーガは、何を言っているんだ?

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